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【教えて!】傾眠傾向とは?症状や原因、対処法などについて解説

傾眠傾向とは

介護現場でよく聞かれる「傾眠傾向」という言葉をご存知でしょうか?この状態は高齢者によく見られる意識障害のひとつです。一見すると、ただ日中ウトウトしているようにも見えますが、認知症や他の重大な病気の兆候である場合もあります。
 
傾眠傾向を放っておくと、体力の低下や肺炎などの合併症を引き起こすこともあるため注意が必要です。高齢者介護に関わるのであれば「傾眠傾向」の正しい意味や使い方を理解しておくことが大切です。
 
今回は高齢者の傾眠傾向について、症状や原因、適切な対処法を解説していきます。

傾眠傾向とは、高齢者に多い意識障害のひとつ

傾眠傾向の高齢者

傾眠傾向とは、高齢者に多い意識障害のひとつで、眠い状態が一日中続いてしまうことを指します。

深く眠ってしまっているわけではなくウトウトした状態であることが特徴で、声をかけたり触れるなどのソフトな刺激で意識が戻る程度の状態です。ただし、一度起きたとしても、しばらくするとまたウトウトしてしまいます。

一見すると、ただの寝不足のように見えますが、傾眠状態は寝不足とはっきり違う点があります。それは起こされた際に、現在自分がどこにいるのか、何時なのか、起きる前に何をしていたのかの記憶がない場合があることです。
特に認知症のある方は、このような傾向が強く「注意力が欠けている」「無気力である」という印象を持たれがちになります。

傾眠傾向が進行するとどんな症状になる?

意識障害レベルには一般的に4段階あり、

意識清明(正常)

傾眠

昏迷

昏睡

の順で悪化していきます。傾眠傾向から進行すると、錯覚や妄想、せん妄などの症状が現れることもあり注意が必要です。

ウトウトしているだけだろうと放っておくと、原因によっては症状が悪化する可能性があります。それぞれの症状を説明します。

傾眠

ウトウトと浅く眠っている状態です。軽い刺激で目を覚ましますが、そのまましばらく放置しているとまた眠ってしまいます。

昏迷

大きい声での呼びかけや体を揺すったりなどの、強い刺激を与えないと反応しない状態です。手で払ったり、叫んだりなど、刺激による不快感を嫌がる行動を見せることがあります。

昏睡

外部から強い刺激を与えても覚醒せず、刺激に対する反応や不快感を避けようとする素振りすら見られない状態です。ただし脊髄反射と排泄行為はあるので、一切の反応が見られない「脳死」とは異なります。

傾眠傾向の原因

高齢者が傾眠傾向を引き起こしてしまう原因には、大きく分けて下記の7つが考えられます。

脱水症状

噛む力や飲み込む力が衰えると、十分な食事が摂れなくなり栄養不足や脱水のリスクが上がります。さらに高齢者は喉の渇きを感じにくく、体に必要な水分を貯めておく機能も低下しているため、より脱水になりやすいです。

体内の水分量が低下すると、体を巡る血液の量が減るため脳への血流も減少します。すると集中力が低下して傾眠傾向になることがあります。脱水状態は、傾眠につながるだけでなく、ひどいときは幻覚症状まで引き起こすことがあるため注意が必要です。

唇や舌が乾いていたり、手の甲をつまんでも皮膚がすぐに元に戻らないようなら脱水になっている可能性が高いです。こまめに水分補給をするようにしましょう。

薬の副作用

高齢者は複数の疾患を抱えていることも多く、たくさんの薬を飲んでいることもあるでしょう。それらの効果が重複するなどして傾眠傾向を引き起こす可能性があります。

また、加齢により肝臓の代謝が低下することで薬の分解が遅くなり、若い方よりも副作用が強く出やすいと言われています。

一般的に眠くなりやすい薬といえば、風邪薬や花粉症の薬があげられます。これらに含まれる「抗ヒスタミン薬」が眠気を催します。それ以外にも認知症の薬や抗てんかん薬など、副作用で軽い傾眠傾向を引き起こしやすいものがあります。

新しく薬を飲み始めた直後や薬を増やした後に症状が出たなら、薬の影響が疑われるため、かかりつけの医師や薬剤師に相談してみましょう。

加齢・体力の減少

加齢によって徐々に体力が低下していくと、疲れやだるさを感じやすく、無気力になりやすくなります。それにより生活に刺激がなくなり、神経伝達機能も徐々に低下することで傾眠が起こる場合もあります。

日中のウトウトぐらいは自然なことですが、急激に傾眠傾向が進んだときは、ほかの原因を疑ってみたほうがいいでしょう。重篤な病気の徴候である可能性があります。

慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫は、頭を強く打った後に脳とそれを覆う膜(硬膜)の間に血腫ができてしまう病気です。血腫が大きくなるにつれ傾眠傾向が見られるようになり、進行すると頭痛や片麻痺による歩行障害といった症状などが徐々に現れてきます。基本的に外科手術が必要になるため、早期発見がとても重要となります。

高齢者の場合、バランス機能や反射神経の低下から転倒して頭を打つことも少なくありません。また、加齢とともに血管が細くもろくなるため、軽く頭をぶつけた程度でも硬膜下血腫を起こしやすくなっています。

転倒時に「どこも打っていない」と本人の自覚がない場合もあるため、転倒後に傾眠傾向になったり認知症が悪化したと感じた際は、早めに受診すると良いでしょう。

内科的疾患

肝臓や腎臓などの代謝に関わる臓器に異常が出ると、細菌やウイルスによる発熱によって意識がぼんやりしてしまうことがあります。場合によっては傾眠傾向以外にも、自分が今いる場所や時間がわからなくなることもありますが、内臓の状態が正常に戻り、熱が下がれば改善します。

認知症

認知症になると脳の機能が低下し、無気力状態になりやすくなります。意欲を失って脳への刺激が減少し、傾眠傾向が強くなります。また、認知症になると睡眠のリズムが崩れやすく、昼夜逆転になりやすいです。夜に覚醒してしまうため寝不足を引き起こし、日中に傾眠してしまいます。

大切なことは、日中に太陽の光を浴びて意識的に活動すること。夜にしっかりとした睡眠を取れるように、生活リズムを崩さないようにしましょう。

食事性低血圧

食事を摂取した後、急激に血圧が下がることで傾眠になっている場合もあります。食事性低血圧は、パーキンソン病やアルツハイマー病、脳血管障害、高血圧、糖尿病、高齢などが原因で起こると言われており、降圧薬や利尿薬を服用している方に多く見られます。

血圧の低下が起こりやすい時間帯は、個人差はありますが食後30分~1時間程度で、その後は次第に通常の血圧に戻ります。急激な血圧低下を防ぐためにも、「一気に食べずゆっくり食事する」「炭水化物の量を減らす」など注意すると良いでしょう。

傾眠傾向で生じる問題

食事でむせる高齢者

傾眠傾向が進むと、高齢者はその状態から派生した様々なトラブルのリスクがあります。その後の生活を脅かすような問題を3つご紹介します。

食事中の誤嚥

高齢になると、食べ物を喉に送る舌の動きや、飲み込む力が徐々に衰えます。傾眠傾向により、食事中にもウトウトしてしまうようになれば誤嚥する可能性が高くなります。

食事中に誤嚥を繰り返すと、気管や肺へ細菌が入り込み誤嚥性肺炎を引き起こします。誤嚥しないように食事内容に配慮したり、食事に集中してもらえる環境作りをするように心がけましょう。

食欲の低下

傾眠傾向が続くと、徐々に食欲や食事摂取量が低下して、生活リズムも崩れていきます。食事が徐々に摂れなくなると、栄養不足になり生命の危機に直結してしまいます。

転落などの介護事故

傾眠傾向が進むと、活動量が低下して筋力が落ちることで、姿勢を自己にて保つことができず、転倒や転落などの事故が起きる可能性があります。ぼんやりとして体勢が崩れている場合は、声をかけて覚醒を促したり、体の向きを整えたりすることで、安全に過ごせるように周囲の人が配慮する必要があります。

傾眠傾向への対処法

特養で働く介護職員と入居者

日中眠っていて食事が摂れずに栄養不足に陥ったり、深刻な病気が疑われたり、傾眠傾向には大きなリスクがあります。正しい対処法を知ることで、傾眠傾向が見られる人へ適切に対応しましょう。

頻繁に話しかける

すぐにできる対処法として、話しかけて会話する機会を増やす方法があります。弱い刺激でも覚醒するようであれば、積極的に話しかけて眠る隙を与えないようにすることが効果的です。

積極的なコミュニケーションにより、脳の働きを活発にすることもできます。

こまめな水分補給

傾眠傾向の原因のひとつでもある脱水を防ぐためにも、こまめに水分補給をするようにします。傾眠の対策だけではなく、熱中症予防などにも効果的です。

特に午前中に意識的に水分を摂取できていると、日中に傾眠する回数が徐々に減ってくるでしょう。起床時、食事中、入浴前後など水分補給をするタイミングを決めることも有効です。

適切な時間の昼寝

日中の傾眠がひどい場合は、時間を決めて昼寝をしてしまうのが良いこともあります。昼寝の時間が長すぎると、夜が眠れなくなり逆効果なため30分程の短時間にします。

短い時間の昼寝は、日中の眠気を取って覚醒を促し、夜の睡眠にもそれほど影響がないと言われています。

薬の量や食事時間の見直し

認知症やてんかん、アレルギー薬といった薬が原因であると考えられる場合は、医師に相談して薬の量や内容を調整してもらいましょう。薬に含まれている成分や副作用について日頃から把握するようにし、注意して観察するようにします。

散歩など適度な運動(日中の活動量を増やす)

日中に外を散歩をすることで気分転換にもなります。また、適度な運動により血流が良くなり、脳の活性化や身体能力の向上にもつながります。日中に太陽の光を浴びることで、夜間ぐっすり眠れるようになります。

医師に相談する

傾眠傾向の原因として病気が考えられるようであれば、かかりつけの医師に相談するのがおすすめです。中には手術が必要な病気もあるため、早めに対応するようにしましょう。

たとえ病気が原因ではなかったとしても、傾眠によって陥る脱水症状や栄養不足が、さらに別の病気を招く可能性もあります。

まとめ

傾眠傾向は一見、ウトウトしているだけかもしれませんが、認知症などの大きな病気が隠れている可能性があります。日頃の丁寧な観察が必要であり、少しでもおかしいと感じたり、症状がひどい場合は医師に相談するようにしましょう。

傾眠傾向は、比較的軽度な意識障害であるため、周囲のサポートで改善できる場合も多いです。生活リズムを整えたりしっかり水分補給をして、体を動かすなどの支援をしてみましょう。

認知症の影響で意欲が低下している場合には、積極的な働きかけにより、生活にメリハリをつけて刺激を増やすことがポイントです。

また、傾眠傾向は誤嚥性肺炎を起こしたり、転落などの介護事故のリスクを高めます。「最近ウトウトしているな」と感じたときは、原因について考えたり、医師に相談して適切な対処をするように心がけましょう。

この記事の執筆者
槇野りっか

保有資格: 看護師

急性期病院で看護師として2年勤務、その後特養で介護士として半年、看護師として5年勤務、介護業界で仕事をしてきました。
現在は介護・福祉系ライターとしても活動中。

 

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