介護施設では様々な職員が働いています。若い職員からベテランの職員、最近では外国人のスタッフを雇用する施設も増えてきました。また、大学で専門的に介護を学んだ職員もいれば、別の業界から介護業界に足を踏み入れた職員もいるでしょう。
このように、様々な職員が働いているからこそ、一定の基準の介護を提供するためにスキルや知識の向上のための研修は欠かせません。それぞれの施設で、忙しい中でも様々な研修を実施していると思います。
研修の中には、スキルアップや自己研鑽のための研修、法的に必須とされている研修に分かれます。今回は、護施設を運営するために、必ず行わなくてはいけない法定研修について、その概要や仕組みについて解説します。ぜひ参考にしてみてください。
介護施設の法定研修とは
介護施設の法定研修とは、介護サービスの質の向上と安全なサービス提供を目的として、法律や運営基準に基づき実施が義務付けられている研修です。
法定研修は、介護施設が適切な運営を行っていくために必ず実施しなければならない研修で、実施されていない場合、介護報酬の減算や返還、指定の取り消しなどになる場合もあるため、しっかりと内容を確認して実施しなくてはなりません。
また、定められた研修の内容は各サービスごとに異なりますので、運営の手引や厚生労働省が公表している「介護保険施設等運営指導マニュアル」などにおいて、運営しているサービスごとに必要な研修を把握しておくようにしましょう。
法定研修の未実施は減算対象になる可能性
介護施設に定められている法定研修を実施しない場合、介護報酬の返還や減算の対象になる可能性があります。
例えば、2024年の介護報酬改定において、全ての介護サービスで「高齢者虐待未実施減算」が創設されました。この減算は、虐待の発生や再発を防止するための措置として委員会の開催や研修の実施が定められています。(居宅療養管理指導、特定福祉用具販売を除く)
研修が実施されない場合には、要件を満たすことができないため、所定単位数の100分の1に相当する単位数が減算されます。
このように、以前と比べると介護施設の運営に求められるものも増えてきています。適切な運営を行うことも大切ですが、減算にならないためにも厳格な運営が求められます。
なお、2024年6月以降の体制届では、減算対象とならないことを届出の段階で示さないと減算対象となってしまうサービスもあるため、書類の体制届の提出の際には注意をする必要があります。
法定外研修との違い
介護施設で行われる研修には、様々な種類がありますが、法定研修は「必ず行われなくてはいけない研修」と位置づけられているものです。
例えば訪問介護の「特定事業所加算」では、算定要件として以下の基準が示されています。
・全ての訪問介護員に対し,訪問介護員等ごとに研修計画を作成し,当該計画に従い,研修(外部における研修を含む。)を実施又は実施を予定していること。
これは加算を取るための研修計画であり、加算を取得しない場合はあくまでも任意です。各施設において、スキルアップのための研修や資格取得のための研修など様々な法定外研修が行われていると思いますが、介護保険法で必須とされているか、任意であるかが一番の違いです。
介護事業所ごとの必須研修項目
法定研修は、提供する介護サービスごとに行わなくてはいけない項目が異なります。認知症ケアやプライバシー、災害対策、虐待防止など全ての介護サービスで共通して行わなくてはいけない項目がある一方で、特定のサービスにしか必須とされていないものもあります。
各介護サービスの手引や運営指導マニュアルを参考にして、漏れがないように行っていかなくてはいけません。提供されているサービスにおいて、どのような研修が必要かを確認するためには、介護サービス自己点検票などを参考にするとよいでしょう。
定期的に自分たちの提供するサービスの内容が正しく行えているかを点検し、実地指導や監査の際に慌てることがないようにしたいものです。また、令和6年度から全介護施設で高齢者虐待防止の推進が義務化されていますので注意が必要です。
(参考)
東京都福祉局 居宅サービス事業所等自己点検票(介護)
北海道ホームページ 介護保険施設等自己点検表
訪問介護 | 訪問入浴介護 | 訪問看護 | 訪問リハビリ | 通所介護 | 通所リハビリ | 居宅介護支援 | 福祉用具貸与 | |
認知症、認知症ケアに関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
プライバシー保護に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
接遇に関する研修 | 〇 | 〇 | ||||||
倫理・法令遵守に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
事故の発生、予防、再発防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
緊急時の対応に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
身体拘束の排除の取り組みに関する研修 | 〇 | 〇 | ||||||
非常災害時の対応に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
介護予防及び要介護の進行予防に関する研修 | ||||||||
医療に関する研修 | ||||||||
ターミナルケア(終末医療)に関する研修 | ||||||||
精神的ケアに関する研修 | ||||||||
高齢者虐待防止、関連法含む虐待防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
小規模多機能居宅介護支援 | 認知症対応型共同生活介護 | 特定施設入居者生活介護 | 介護老人福祉施設 | 介護老人保健施設 | 介護医療院 | |
認知症、認知症ケアに関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
プライバシー保護に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
接遇に関する研修 | ||||||
倫理・法令遵守に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
事故の発生、予防、再発防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
緊急時の対応に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
身体拘束の排除の取り組みに関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
非常災害時の対応に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
介護予防及び要介護の進行予防に関する研修 | 〇 | |||||
医療に関する研修 | 〇 | |||||
ターミナルケア(終末医療)に関する研修 | 〇 | 〇 | ||||
精神的ケアに関する研修 | 〇 | |||||
高齢者虐待防止、関連法含む虐待防止に関する研修 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
※上記表は記事作成時(2024年9月13日)のものです
法定研修の内容
介護施設の法定研修には、多くの項目が示されています。全ての研修を個別に行うことは、時間も準備も膨大になってしまいます。
例えば、身体拘束に関する研修と虐待防止に関する研修を同時に行ったり、プライバシー保護に関する研修と倫理・法令遵守に関する研修を同時に行ったり各介護施設で工夫をするとよいでしょう。
研修を行うことは準備を行う職員の学びにもなります。しかし、忙しい実務の中で研修を行ったり準備をするのはとても大変です。
最近では介護施設向けのオンライン研修動画やYoutubeで無料で見ることができる研修動画なども充実しています。それらを活用するのもよいのではないでしょうか。
認知症・認知症ケアに関する研修
2021年4月の介護報酬改定では、資格がない介護職員で認知症ケアに携わる場合は、介護職員の認知症介護基礎研修の受講が義務付けられました。(3年間は猶予期間)
2024年からは、猶予期間が終わり介護保険施設や介護事業所に従事する介護職員等に「認知症介護基礎研修」の受講が必須とされました。(医師、介護の保有資格により研修の義務が免除)
具体的な内容としては以下の内容で、認知症の利用者の行動やニーズを理解し、最適なサポートができることを目指すとされています。
①認知症についての学ぶことの必要性を理解する
②認知症の正しい知識をつけるためのきっかけづくり
③認知症の特性、定義や基本知識を身につける
プライバシー保護に関する研修
介護サービスを提供する事業者は、「個人情報取扱事業者」に該当します。介護現場では、家族の情報や保険証の情報、病気に関する情報など、個人情報を取り扱う機会がとても多くあります。この研修では、個人情報の管理や、情報漏洩の防止について学ぶことが必要になります。
①ご利用者様に触れたり、私生活の場面で関わっているため、ご利用者様のプライバシーに介入している自覚を持つこと
②プライバシーは主観的な物であるため、人それぞれ範囲が異なる。一人ひとりに合わせた配慮が必要であること
③「見られたくない」「恥ずかしい」という気持ちに配慮し、ご利用者様の尊厳を傷つけたり、精神的苦痛を与えないようにすること
具体的には上記のような内容を学びます。日々当たり前に行なっている業務であるため、時に無自覚に個人情報やプライバシーへの配慮が欠けてしまうことがあります。研修を通して、個人情報やプライバシーへの意識を高めることで、ご利用者様の尊厳を守ることに繋げていきたいものです。
接遇に関する研修
介護現場で必要な接遇マナーについて学びます。接遇マナーを学ぶことで、ご利用者様・ご家族様がより快適に過ごせる環境をつくることができます。具体的には、
①挨拶・声かけ
②身だしなみへの配慮
③表情や笑顔
④言葉遣い
⑤態度や聴く姿勢
などで、接遇をしっかり身につけることで、ご利用者・ご家族様・その他関係機関・地域住民からの信頼を得ることができ、質の高いサービスの提供に繋げることができます。接遇のよい施設は、見学に行っても見ていて気持ちがよいものです。
求職者にも「このような職場で働きたい」と思われることもあるので、よい雰囲気をつくることはとても大切です。
倫理・法令遵守に関する研修
介護職員としての倫理論や法令遵守の重要性を学び、専門性を持った人材の育成を行います。法人の考え方や理念などの意識統一や職員が施設のミッションに対し、共通の認識を持って仕事に取り組めるように全ての介護職員が学ぶ必要性があります。
具体的な内容としては以下です。
①倫理の基本やなぜ必要なのか?
②どういった時に乱れるのか?
③法令遵守(コンプライアンス)とは何か?
常に意識したり、理解を深めることで職員は適切な判断や行動ができるよう目指します。
事故の発生、予防、再発防止に関する研修
サービス提供時に、利用者が安心・安全に過ごせるように未然に起こりやすい事故を防ぐため・再発させないために、介護現場におけるリスクマネジメントがとても大切です。職員全員が学ぶことが職員・施設・利用者を守ることに繋がります。
具体的には、以下のようなことが想定されます。
①どのような事故が起こるか?過去に起こった事故(ヒヤリハットを使用)の振り返り
②実際に起こった事故はどのように対応するのか?(マニュアルの共有・見直し)
③ヒヤリハットの書き方
介護施設は、利用者の生活の場であるためリスクがつきものです。ご本人様の尊厳を守りながら、生活をしてもらうためには、回避できないリスクもたくさんあります。
その中でも、事故がひとつでも少なくなり、限りなく事故が起きるリスクを無くすことができるように職員全員が学ぶ必要があります。
緊急時の対応に関する研修
緊急時とは様々な場面が想定されます。大雨・地震・感染症など、自然災害などのようにいつどのように起きるかがわからないものや、ご利用者様が転倒や転落など日々、身近に起きるような介護事故など様々な状況に対応した対応が身につくように、施設内でのルールの確認や、シュミレーション(訓練)を行う必要があります。
具体的には以下のような内容が想定されます。
『災害編』
①施設の位置を考えたうえで、災害の種類を考え避難経路・避難場所を共有する。
②医療処置が必要なご利用者様の医療機器の動作確認の仕方や対応
③備蓄品の内容を確認・見直し
④業務継続計画(BCP)の共有・見直し
『日々の事故』
①事故が起きた時の対応方法(マニュアルの共有・見直し)
②意識レベルの確認方法、レベルに応じた対応方法は?
③救急車はいつ、誰が呼ぶか?
緊急時の対応を研修で学ぶことで、いざという時に冷静に判断し対応することができ、助かる命がひとつでも増やせるように学ぶ必要性があります。
介護施設では2024年4月までにBCP(業務継続計画)の策定が義務付けられています。今後は未作成の事業所は減算の対象にもなっています。
感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止に関する研修
高齢者施設は集団で生活する場であり、高齢や身体の障害により感染に対する抵抗力の弱い方が多く、感染が広がりやすい状況にあります。介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護医療院では、令和6年4月の改訂から年2回の研修を実施することが義務付けられました。
具体的な内容としては以下のような内容です。
①標準予防策(スタンダード・プリコーション)とは?標準予防策の徹底
②感染症の種類や症状、症状別の対策
③感染が起きた時の対応は?マニュアルの共有・見直し
感染が広がらないよう予防するために本研修を行い、ご利用者様が安心して過ごせる施設づくりにしていくことが必要です。
身体拘束の排除の取組に関する研修
介護施設では、年2回の研修および新規採用時に研修が義務付けられています。身体拘束は高齢者虐待の先駆けになってしまう可能性が高い行為であるため、しっかり理解を深める必要があります。
具体的な内容としては以下のような内容になります。
①身体拘束とは?身体拘束の種類は何があるのか?
②誰のために身体拘束があるのか?
③どういった時に身体拘束は起こりやすいのか?
④身体拘束を起こさないために対策や工夫(マニュアルを共有・見直し)
利用者の「尊厳に保持」「自立支援」のためにもしっかりスタッフ全員で学び、どうすれば廃止にできるのかを考えていきましょう。
非常災害時の対応に関する研修
地震や水害はいつ起きるかわかりません。施設内での火事や水害なども想定しておく必要があります。災害・火事が発生した際に少しでも被害が少なく、逃げ遅れやすい高齢者を安全に避難していただくためにも日々の準備が大切です。
研修を活用し、スタッフ全員で学んでいく必要があるでしょう。高齢者施設では、年2回(通所系では、年1回)義務付けられている研修でもあるため、やっていなかったとならないようにしっかり取り組んでいきましょう。
具体的には以下のような内容になります。
①災害の種類を考える
②避難の優先順位を考える
③避難経路・避難先を周知し見直しを行う
④施設の設備や備蓄品を考える
日頃からの防災に対する意識を高め、準備しておくことで被害を最小限に抑えることができます。
介護予防及び要介護の進行に関する研修
特定施設入居者生活介護サービスに従事しているスタッフに対して義務付けられている研修です。具体的な内容としては以下のような内容です。
①要介護状態とは?何によって起きるのか?
②要介護状態になるのを予防するために何が必要なのか?
③要介護状態の方の体験をしてみる。(実際に体験してみてご利用者様の気持ちを考えるきっかけづくり)
この取り組みを行い学ぶことで、ご利用者様が、できる限り要介護・要支援状態とならない・重症化しないよう目指していきましょう。地域によっては、役所や社会福祉協議会などで、高齢者の疑似体験のための用具を貸し出している場合もありますので、そのようなキットを活用するのもよいでしょう。
医療に関する研修
介護サービスを利用する高齢者は、何らかの疾患を抱えている場合が多くあります。何も知らずにケアを行い、重大な事故に繋がらないためにも、医療に関しての知識を学ぶことで安心してケアができるように医療に関する研修を行います。
①介護職員が行っていいケア・行ってはダメなケア(医療行為とは?)
②高齢者が抱える、代表的な病気(疾患)の理解を深める
③行っていいケア(処置)の正しいやり方を学ぶ
医療行為に関しては、原則として医療職がおこなうものですが、何が医療行為であるのかは不明確な場合もあります。しっかりと正しい知識を学ぶことで、利用者を守るとともに自分たちを守ることにも繋がります。
ターミナルケア(終末医療)に関する研修
人間は誰でも最期を迎えます。介護施設で働いているスタッフであれば、昨日までお元気だったご利用者様の死に直面する機会も少なくありません。利用者が最期まで、ご自身の気持ちを大事にしながら、穏やかに過ごせ、少しでも痛みや不安が軽減できるように正しいケアを考えてみましょう。
①ターミナルケア・看取り・緩和ケア・ホスピスケアの違いは?
②最後までその人らしく生きることを支えるために必要なケアとは?
③ご本人様・ご家族様を支えるために、関係機関との連携の仕方をどうするか?
ご利用者様が人生の最期を、穏やかに過ごし、ご家族に悔いが残らないようサポートできるように、ターミナルケアに必要な知識やケアを学んでいきましょう。
精神的ケアに関する研修
介護現場でも近年取り上げられている「高齢者虐待」がありますが、なぜそのような事故が起こるのか?その背景には、不適切なケアなど、様々な要因が隠れていたりします。その中の要因として、介護スタッフのストレスも大きな要因のひとつです。
ストレスマネジメントを適切に行うことで、利用者もスタッフも気持ちよく過ごせる施設づくりができると言えるでしょう。具体的な内容として以下のような研修が考えられます。
①職員のストレスマネジメントの必要性を考える。
②ストレスが起きる原因を考える。
③ハラスメントについて学ぶ。
④ストレス対策を組織・個人で考える。
他の職種に比べると、介護職は終わりの見えない仕事であり、常に人材不足と言われている職業でもあります。そのような中、経営者は安全な運営、働くスタッフは長く働ける環境をつくるためにも、精神的ケアは必要不可欠であるため、本研修もしっかり学んでいきましょう。
高齢者虐待防止関連法を含む虐待防止に関する研修
近年、虐待件数が増加傾向にあると言われています。高齢者の虐待はあってはなりません。このような、ショッキングな事故を無くすことができるようしっかり研修を通して学び、意識して行動することが予防の第一歩となるでしょう。
①高齢者虐待の種類を学ぶ
②どのような場面で虐待が起きやすいのか?原因は何か?
③虐待を発見した際どのような行動をとるべきか?その後の、記録方法など。
④虐待防止マニュアルの共有・見直し
虐待防止への取り組みは、全ての事業所で取り組まならない研修です。必ず研修を行い、働くスタッフ全員が虐待防止のための意識を高めてご利用者様が安心して過ごせる施設づくりを目指しましょう。
介護施設の年間研修計画 作成のポイント
介護施設では、求められている研修、行わなくてはいけない研修が多くあるため毎年、年度が変わる前に年間の研修計画を決めておくことが望ましいでしょう。それにより、研修実施の漏れや、その都度考える必要がなくなります。
例えば、年2回の研修が求められているものは、できる限り時期を離した方がよいでしょう。また、感染症研修などは、夏場で食中毒の危険性がある時期、冬場の感染症が蔓延する時期の前にやるなど工夫をすると、タイムリーな話題として自分ごととして捉えられるのではないでしょうか。
災害対応や避難訓練などは、冬場だと屋外に避難することが難しい時期でもあるので、冬場は避けるなども有効かもしれません。
私も以前、年2回行わなくてはいけない避難訓練を失念しており、年度内ギリギリになんとかおこなったことがありました。急な声掛けになってしまい、職員にも迷惑をかけてしまったので、事前に年間計画を立てておくことの重要性を身を持って学んだ機会でした。
例えば、以下のように年間の計画を、前年度中に立てておくなどすれば、漏れはなくすることができるでしょう。介護施設では研修だけではなく、各種の委員会や行事など行わなくてはいけないことも数多くあります。
特に必須とされている研修については、予め時期を抑えておくなどの準備がとても大切になります。
介護施設の年間研修計画 作成例
月 | 研修項目 | 参加者 |
随時 | 入職時研修 | 新入職員 |
4月 | 認知症ケア研修 | 全職員 |
5月 | 身体拘束、虐待防止研修 | 全職員 |
6月 | 災害時対応訓練、避難訓練 | 全職員 |
7月 | 感染症予防研修 | 全職員 |
8月 | 接遇研修 | 全職員 |
9月 | 事故防止研修 | 全職員 |
10月 | ターミナルケア研修 | 全職員 |
11月 | 災害時対応訓練、避難訓練 | 全職員 |
12月 | 感染症予防研修 | 全職員 |
1月 | 身体拘束、虐待防止研修 | 全職員 |
2月 | 次年度研修計画の策定 | 役職員 |
3月 | 倫理・法令遵守研修 | 全職員 |
まとめ
ここまで介護施設の法定研修について、その内容や年間計画作成のポイントをご紹介しました。介護施設に求められているもの、行わなくてはいけないものは、以前と比較して増加し続けています。
報酬改定の際には、自分たちが提供するサービスで何を行わなくてはいけないのか、何が追加になったのかをしっかりと見直す必要があります。それには、日々の情報収集が欠かせないのと、定期的に自分たちのサービスを振り返る機会が必要です。
今回の内容が、皆様の適切な介護施設運営のお役に立てるよう、役立てて頂けると嬉しいです。
この記事の執筆者 | 伊藤 所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士 20年以上、介護・医療系の事務に従事。 デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。 現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。 |