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【教えて!】介護・福祉現場のICT化 活用事例・導入事例5選

介護現場のICT化 事例

介護事業所管理者の方やリーダー的役割の方は、シフト作成や記録の管理など、直接の介護以外にもさまざまな業務を担っています。
今までは、シフト表や記録作成は手書きがメインでしたが、最近は介護ソフトやシフト作成ソフトを使うことが多くなっています。実はこれも、今回のタイトルである「介護現場のICT化」の1つです。
ICTと聞くと難しいイメージを持たれる方も多いでしょう。
しかし、介護業界の人手不足の解消が難しい中「本当に人が行うべき介護」に時間をかけられる組織を作るためにICT化は業務効率化に必要なものです。
この記事では、ICTとは何か・介護業界における実際の活用事例や導入事例、メリット・デメリット、ICT導入支援事業などをご紹介します。
これから介護現場の効率化・ICT化の取り組みをしていこう、という介護施設のご参考になれば嬉しいです。

ICTとは何か?ITとの違いは?

介護現場でタブレットを使って介護記録

まず最初に、ICTとは

「Information and CommunicationTechnology」

の略称で、日本語では「情報通信技術」という意味です。

似たような言葉として「IT」があります。

ITとICTの違いは何でしょうか。

ITとICTの違いとは

ITは「Information Technology」の略称で、日本語では「情報技術」という意味です。

ITが情報技術そのものであることに対し、ICTは情報や知識の共有といった、コミュニケーションを重視したものです。

ICT 機器には、パソコン・タブレット端末・デジタルカメラ・テレビ会議システムなどがあります。

介護・福祉の現場でICT導入が進む背景

介護現場でICT導入が進んでいる背景としてあげられるのが、人口の高齢化と介護人材の不足です。

下記の表は、総務省統計局のホームページを参考に、総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合を示したものです。

1975年 7.9%
1995年 14.6%
2015年 26.7%
2022年 29.1%

約50年で、総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合が4倍近く増えていることが分かります。

下記の表は、厚生労働省「介護保険制度をめぐる最近の動向についてから、要介護(要支援)認定者数の増加状況を抜粋して作成したものです。

2000年4月末 218万人
2021年3月末 682万人

約20年で3倍近くも増加しています。

また厚生労働省は、2021年7月9日に、第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づいて都道府県が推計した介護職員の必要数を公表しました。

それによると、

2023年度には約233万人(2019年度より約22万人増)
2025年度には約243万人(2019年度より約32万人増)
2040年度には約280万人(2019年度より約69万人増)

の介護職員を確保する必要があるとされています。

この数字から見ても、高齢化率や要介護者認定者数が増えている状況に反して、介護人材が不足していることが分かります。

介護人材の不足は、スタッフ1人あたりの負担を増やす原因です。

負担が増えることで、スタッフが疲弊し、離職率が増える危険性もあります。
その結果、人手不足に拍車がかかり、介護の質が低下するという悪循環につながりかねません。

介護の質を良くするため、スタッフ1人1人の負担軽減のため、介護現場でICT導入が求められているのです。

介護・福祉現場のICT化 活用事例・導入事例

ひとことで介護現場のICT化といっても、活用方法はさまざまです。
ここでは介護現場のICTについて、5つの活用事例・導入事例をご紹介します。

1.記録業務

青森県の高齢者施設・みちのく荘では、iPadなどのモバイル機器で記録を行っています。

利用者様の身の回りの行動記録や利用者様との対応内容を記録することで業務の軽減、情報共有の効率化が可能になります。

業務が効率化されることで、利用者様のケアに使える時間が増える可能性が高いです。

参考:未来プロジェクト | 法人情報 | 社会福祉法人 青森社会福祉振興団

2.シフト作成

北海道の介護・医療事業の白ゆりグループ㈱メディカルシャトーでは、勤務シフト自動作成システム「シンクロシフト」を導入しました。
これにより、シフト作成の時間短縮化・効率化が可能になったのです。

参考:「介護・医療事業の白ゆりグループ㈱メディカルシャトー」 – 特集・コラム/メディカルページ函館

3.見守り

山形県の社会福祉法人つるかめの特別養護老人ホーム・つるかめの縁では、入所者様の睡眠状態や状況の変化を感知できるシステム「まもる~の」を導入しました。

これにより、リアルタイムでの見守りが可能になっています。

「まもる~の」は、カメラではなくセンサー型なのでプライバシーも保たれるという利点も大きいといえるでしょう。

参考:活用事業所 株式会社つるかめ | 山形県

4.オンライン面会

茨城県の社会福祉法人やまびこの特別養護老人ホーム・談話館では、施設内全館に無線LANを導入しました。

無線LAN導入に加えて、入所者様とご家族がスマホやタブレットを用いてオンラインの面会をすすめていったのです。

コロナ禍で面会禁止を余儀なくされた高齢者施設では、同じような事例が多いと推測されます。

参考:社会福祉法人やまびこ(茨城県) | 福祉介護のICT導入事例 │中小企業応援サイト

5.トイレ誘導の効率化

鹿児島県の社会福祉法人聖寿会の特別養護老人ホーム・健生苑では、排泄予測機器「DFree」を導入しました。

「DFree」は、排尿の少し前にトイレ誘導のタイミングを通知する機械です。

介護スタッフが、「DFree」からの通知をもとに適切なタイミングで入所者様をトイレに誘導することで、失禁を減らすことにつながりました。

参考:DFeeの取り組み | 社会福祉法人 聖寿会

介護・福祉現場 ICT化のメリット3点

前項では、さまざまな事例を用いてICT化について紹介してきました。
ここでは、実際にICT化を進めることのメリットを3つご紹介します。

1.事務作業が効率化される

サービス内容の記録や会議録作成など、介護福祉現場でも数多くの事務作業があります。
今までは、手書きのメモをパソコンに転記して記録することが多い状況でした。
転記作業が2度手間となるため、職員の業務負担となっていました。

タブレット端末などを使って直接入力することが可能になれば、この「転記時間」を減らすことができます。

事務作業が効率化することで、本来業務である、利用者様や入所者様のケアにあてることが可能になるでしょう。

2.スタッフの業務負担が軽減される

記録や会議録作成などの事務作業が「手書き→パソコンに入力」という形から、直接入力することで事務作業が効率化されます。

事務作業はスタッフにとっても負担が大きいものですが、効率化されることで負担軽減が期待できます。

3.情報共有が便利になる

個人の情報を紙媒体で個別にファイリングしている事業所では、利用者様や入所者様の状況確認時は、その都度ファイルを見なくてはいけません。

事業所によっては、ファイルを見るときに上司の許可が必要なところもあるでしょう。

実際に利用者様を介助していて、今すぐに確認出来たら楽なのに・・・といったことは多いと思います。
そのたびにファイルがある事務所に戻る・・・といったことは時間がもったいないことです。

ICT化が進み、スマホやタブレットを1人1台持つことになれば、利用者様や入所者様の状態を知りたいとき、すぐに確認することが可能です。

介護・福祉現場 ICT化のデメリット3点

業務効率化や負担軽減などメリットが多いICT化ですが、デメリットもあります。
ここではICT化の主な3つのデメリットをご紹介します。

1.コストがかかる

インターネット環境の整備やスマホ・タブレットなどの機器の導入にコストがかかります。

コストがかかるのは、機器を導入するときだけではありません。
毎月の通信費や、機器のメンテナンス費用など定期的にかかるコストもあるのです。
導入後、継続してかかるコストも考慮する必要があります。

2.ICTに関する研修が必要になる

スタッフの中には、インターネットやパソコン・タブレットなどのデジタル機器に慣れている方もいれば、慣れていない方もいます。

全員が一定レベルの機器操作ができるようになるためには、研修が必要になってくるでしょう。

研修により、超過勤務が発生する可能性もゼロではありません。

3.情報漏洩のリスクがある

デジタル端末に個人情報を入力することは、紙媒体よりも情報漏洩のリスクが高くなります。

データ入力時の誤操作・サイバー攻撃・コンピューターウイルス感染などが主な理由です。

個人情報取り扱いのガイドラインをスタッフに徹底させるほか、セキュリティ対策に関する相談窓口を設置することなども必要になってきます。

ICT導入支援事業の紹介

厚生労働省は、介護ICT化の導入を推進しています。そこで始めたのがICT導入支援事業です。
都道府県が実施主体となっています。

詳しくは、下記をご覧ください。

各都道府県に設置される地域医療介護総合確保基金を活用し、介護現場のICT化に向けた導入支援を実施し、ICTを活用した介護サービス事業所の業務効率化を通じて、職員の負担軽減を図る

令和5年度予算案の主要事項より引用)

ICT導入支援事業の導入状況を見ると、令和元年度は15県のみでしたが、令和3年度は47都道府県で導入されています。

補助対象と補助要件については、以下のとおりです。

補助対象
介護ソフト・・・記録、情報共有、請求業務で転記が不要であるもの、ケアプラン連携標準仕様、を実装しているもの(標準仕様の対象サービス種別の場合。各仕様への対応に伴うアップデートも含む)
情報端末・・・タブレット端末、スマートフォン端末、インカム等
通信環境機器等・・・Wi-Fiルーター等
その他・・・運用経費(クラウド利用料、サポート費、研修費、他事業所からの照会対応経費、バックオフィスソフト(勤怠管理、シフト管理等)等)

補助要件

LIFEによる情報収集・フィードバックに協力
他事業所からの照会に対応
導入計画の作成、導入効果報告(2年間)
IPAが実施する「SECURITY ACTION」の「★一つ星」または「★★二つ星」のいずれかを宣言 等

介護分野におけるICTの活用についてより引用)

介護・福祉の現場をICT化することで介護の質向上も期待できる

笑顔の看護師

介護現場でICT化が進むと、事務作業が効率化され、スタッフが直接の介護業務に専念しやすい環境になります。

また、ICT化により利用者様・入所者様のデータがデジタル端末に蓄積されます。

1人1人のデータが蓄積されるので、その方の状況を客観的に把握することが可能になるのです。

介護の現場でICT化を進めることで、介護の質向上が大いに期待できるでしょう。

スタッフにとっても働きやすい環境が整備されていくことになりますので、労働環境の満足につながりやすいです。
特に若い世代は事業所がどれだけIT化、デジタル化を進めているかを気にするケースもあります。
今後はますます職場選びの重要な指標になりえると考えるべきでしょう。

まとめ

この記事では、介護現場のICT化について5つの事例を交えてご紹介しました。

今後導入を考えている介護事業所がありましたら、ICT導入支援事業を活用しつつ進めていくとよいでしょう。

メリットとデメリット両方が存在するICT化ですが、目的はあくまでも介護の質向上です。

ICTシステムを導入するだけで終わらせないようにしましょう。

システム導入後、利用者様や入所者様・スタッフの状況がどのように変化しているかを見ることが大切です。

また、近年ではLIFEへの対応も求められるようになってきており、情報の電子化は事業所の収益にも影響を及ぼしはじめています。

ICT化にはメリット・デメリットどちらもありますが、取り組める範囲で進めていくことが必要な時代になってきているといえるでしょう。

取り組めるところから、ぜひICT化を始めてみてはいかがでしょうか。

この記事の執筆者
古賀優美子

保有資格: 看護師 保健師 福祉住環境コーディネーター2級 薬機法管理者

保健師として約15年勤務。母子保健・高齢者福祉・特定健康診査・特定保健指導・介護保険などの業務を経験。
地域包括支援センター業務やケアマネージャー業務の経験もあり。
高齢者デイサービス介護員としても6年の勤務経験あり。

現在は知識と経験を生かして専業ライターとして活動中。

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