2024年度の介護報酬改定では、グループホームに関する加算の新設や見直しが行われ、請求や施設の運営に大きく影響することが考えられます。4月からの施行開始に向けて「どんな加算が新設されたの?」「それぞれの種類や単位数は?」と気になる方も多いのではないでしょうか。
介護の請求業務に関わる方は、新設された加算の種類や単位数を理解し、過誤請求のないようにすることが大切です。
そこで今回は、グループホームに新設された加算の概要や算定要件、単位、注意点などを解説しますので、介護業界で請求や加算に関わる業務を持つ方は、ぜひ参考にしてください。
目次
グループホームに新設される加算の種類
2024年度の介護報酬改定では、グループホームにおける医療と介護の連携を強化した地域包括ケアの推進や自立支援、重度化防止、介護職員の処遇改善などを重視した加算が新設されます。
以下、7種類の加算が、グループホームに新設される加算です。
・協力医療機関連携加算
・退所時情報提供加算
・高齢者施設等感染対策向上加算
・新興感染症等施設療養費
・認知症チームケア推進加算
・介護職員等処遇改善加算
・生産性向上推進体制加算
それでは、新設された加算について詳しくみていきましょう。
協力医療機関連携加算
グループホームでは、利用者の体調不良や急変、入院治療に対応するための協力医療機関が定められていますが、電話相談や外来受診、往診など対応は様々です。
2024年の改正では、グループホームと在宅医療を担う協力医療機関との連携体制を強化する「協力医療機関連携加算」が創設されました。
協力医療機関連携加算の算定要件
協力医療機関連携加算(Ⅰ)(Ⅱ)が適用されるのは、以下の要件を満たしている場合です。
▼協力医療機関は、以下の要件を満たす医療機関を定めるように努める
・利用者の体調不良時や急変時等に、医師又は看護職員が相談対応する体制を常時確保されていること(夜間休日含む)
・施設からの求めに応じて、診療を行う体制を常時確保していること(夜間休日含む)
▼1年に1回以上、協力医療機関との間で、利用者の急変時の対応を確認し、当該協力医療機関の名称等について、指定を行った自治体に提出すること
▼協力医療機関への入院後に症状が軽快し、退院できるようになれば再入居できるように努めること
連携体制の強化を目的に、利用者の病歴や現状などについて定期的にカンファレンスを実施し、情報共有を行っていることが評価されます。
協力医療機関連携加算の単位
協力医療機関連携加算の単位数は以下のとおりです。
▼相談・診療を行う体制を常時確保している協力医療機関と連携している場合(100単位/月)
▼上記以外の協力医療機関と連携している場合(40単位/月)
認知症対応型共同生活介護費(Ⅰ)(Ⅱ)を算定する場合のみ算定できます。
参照:厚生労働省 高齢者施設等と医療機関の連携強化(改定の方向性)
参照:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定における改定事項についてP33.34
退所時情報提供加算
これまでグループホームの利用者が医療機関に入院した場合、日常生活やADL(日常生活動作)、認知症の状況や留意点など生活に配慮した情報の収集が不十分であることが多くみられました。
そこでグループホームから医療機関へ適切な情報提供を行い、質の高い療養を行うために設立されたのが「退所時情報提供加算」です。
退所時情報提供加算の算定要件
入院のために退所した利用者について、医療機関へ利用者の生活歴や心身の状況など生活に配慮した情報を提供した場合に算定することができます。
退所時情報提供加算の単位
退所時情報提供加算の単位数は以下のとおりです。
▼退所時情報提供加算(250単位/回)
認知症対応型共同生活介護費(Ⅰ)(Ⅱ)を算定する場合のみ、利用者1人につき1回限り算定できます
参照:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定における改定事項についてP35
高齢者施設等感染対策向上加算
コロナ禍をきっかけに感染症に対する意識や対応を見直し、通常から医療機関や感染症に関する専門人材との連携や感染症への対応力強化が必要であると見直されました。
前回の診療報酬改定では感染対策向上加算が新設され、今回の改定で医療機関と連携する介護施設も同様に評価されるべきとして創設されたのが「高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)(Ⅱ)」です。
高齢者施設等感染対策向上加算の算定要件
以下の要件を満たしている場合、高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)(Ⅱ)が適用されます。
▼高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)
・新興感染症の発生時に、第二種協定指定医療機関と連携体制を確保していること
・新興感染症以外の一般的な感染症の発生時の対応について、協力医療機関と対応方法を取り決め、連携し適切に対応していること
・感染対策向上加算や外来感染対策向上加算を満たす医療機関や地域の医師会が実施する感染対策の研修・訓練に1年に1回以上参加し、助言や指導を受けること
▼高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅱ)
・感染対策向上加算や外来感染対策向上加算を満たす医療機関から、感染者が発生した場合の感染対策について3年に1回以上の実地指導を受けていること
高齢者施設等感染対策向上加算の単位
高齢者施設等感染対策向上加算の単位数は以下のとおりです。
▼高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)(10単位/月)
▼高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅱ)(5単位/月)
参照:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定における改定事項についてP45
参照:感染症への対応力強化(改定の方向性)
新興感染症等施設療養費
「新興感染症等施設療養費」は、新興感染症のパンデミック時や施設内で感染が広がった場合の対応により算定されます。
感染対策や医療機関との連携体制を確保し、感染した利用者を施設内で療養することが評価される加算です。
新興感染症等施設療養費の算定要件
以下の要件を満たしている場合、新興感染症等施設療養費が適用されます。
▼利用者が、厚生労働大臣が定める感染症に感染した場合、相談対応や診療、入院調整等を行う医療機関を確保している
▼感染した利用者に対して適切な感染対策を行った上で、介護サービスを実施した場合
現時点では加算の対象となる感染症はなく、必要に応じて指定されます。
新興感染症等施設療養費の単位
新興感染症等施設療養費の単位数は以下のとおりです。
▼新興感染症等施設療養費(240単位/日)
1ヵ月に1回、連続する5日を限度として算定します。
参照:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定における改定事項についてP46
参照:感染症への対応力強化(改定の方向性)
認知症チームケア推進加算
「認知症チームケア推進加算(Ⅰ)(Ⅱ)」は、認知症の行動や心理症状(BPSD)防止や早期対応を目的に、認知症に対する取り組みを推進するために新たに設けられました。
認知症チームケア推進加算の算定要件
以下の要件を満たしている場合、認知症チームケア推進加算(Ⅰ)(Ⅱ)が適用されます。
認知症チームケア推進加算(Ⅰ)
▼利用者または入所者のうち、周囲の人々の日常生活での支援が必要な認知症の方の割合が全体の2分の1以上であること
▼認知症介護の行動や心理症状の予防や早期発見に資する認知症介護の指導に係る専門的な研修を修了している者、認知症介護の行動や心理症状の予防や早期発見について、認知症に係る専門的な研修を受けた者、認知症介護に係る専門的なケアプログラムを含む研修を受けた者1名以上配置されていること
かつ、複数の介護職員からなる認知症の行動・心理症状に対応するケアチームが組織されていること
▼対象者に対して個別に認知症の行動・心理症状の評価を行い、その評価に基づいたチームケアを実施していること
▼認知症ケアに関してカンファレンスの開催や計画の策定、認知症の行動・心理症状を定期的に評価、ケアの振り返りや計画の見直しを行っていること
認知症チームケア推進加算(Ⅱ)
▼(Ⅰ)の(1)、(3)及び(4)に掲げる基準に適合すること
▼認知症介護の行動や心理症状の予防や早期発見について、認知症に係る専門的な研修を受けた者を1名以上配置し、かつ、複数の介護職員からなる認知症の行動・心理症状に対応するケアチームが組織されていること
認知症チームケア推進加算の単位
認知症チームケア推進加算の単位数は以下のとおりです。
▼認知症チームケア推進加算(Ⅰ)(150単位/月)
▼認知症チームケア推進加算(Ⅱ)(120単位/月)
※認知症対応型共同生活介護費(Ⅰ)(Ⅱ)を算定する場合のみ算定でき、認知症専門ケア加算を算定している場合は、算定できません。
参照:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定における改定事項についてP57
介護職員等処遇改善加算
「介護職員等処遇改善加算」は、介護職員の確保や給料、働き方に関わる大事な加算のひとつです。
2024年度(令和6年度)に2.5%、2025年度(令和7年度)に2.0%のベースアップを目標とし、現行の加算や区分、要件に新たな加算率を合わせた4段階の「介護職員等処遇改善加算」に一本化されました。
介護職員等処遇改善加算の要件
介護職員等処遇改善加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅳ)が適用されるのは、以下の要件を満たしている場合です。
介護職員等処遇改善加算(Ⅰ)
▼新加算(Ⅱ)に加え、以下の要件を満たすこと
▼経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合以上配置している
介護職員等処遇改善加算(Ⅱ)
▼新加算(Ⅲ)に加え、以下の要件を満たすこと
▼改善後の賃金年額440万円以上が1人以上
▼職場環境の更なる改善、見える化
介護職員等処遇改善加算(Ⅲ)
▼新加算(Ⅳ)に加え、以下の要件を満たすこと
▼資格や勤続年数等に応じた昇給の仕組みの整備
介護職員等処遇改善加算(Ⅳ)
▼職場環境の改善(職場環境等要件)
▼賃金体系等の整備及び研修の実施等
職種に関する配分のルールなどは決まっておらず、事業所内で柔軟な配分が認められ、新加算Ⅳの加算額の2分の1以上を月額賃金の改善に充てることが要件とされています。
介護職員等処遇改善加算の単位(加算率)
介護職員等処遇改善加算の加算率は以下のとおりです。
・介護職員等処遇改善加算(Ⅰ)18.6%
・介護職員等処遇改善加算(Ⅱ)17.8%
・介護職員等処遇改善加算(Ⅲ)15.5%
・介護職員等処遇改善加算(Ⅳ)12.5%
介護職員等処遇改善加算の単位数は、1カ月あたりの総単位数(1月~12月までの介護報酬総単位数÷12)に上記の加算率をかけ算出します。
参照:厚生労働省 介護事業所の皆さまへ
参照:厚生労働省 処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)
参照:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定における改定事項についてP107.108
生産性向上推進体制加算
「生産性向上推進体制加算(Ⅰ)(Ⅱ)」は、介護ロボットや見守り機器、ICT等のテクノロジーを活用し、介護現場での生産性向上と介護サービスの質の向上を促進するための加算です。
生産性向上推進体制加算の要件
以下の要件を満たしている場合、生産性向上推進体制加算(Ⅰ)(Ⅱ)が適用されます。
生産性向上推進体制加算(Ⅰ)
▼(Ⅱ)の要件を満たし、(Ⅱ)のデータにより業務改善による成果(ケアの質が維持または向上され、職員の業務負担の軽減)が確認されていること
▼見守り機器などのテクノロジー※1を複数導入していること
▼介護助手の活用など、職員の適切な役割分担の取り組み等を行っていること
▼1年以内ごとに1回、業務改善の取り組みの効果を示すデータ※2をオンラインで提出すること
※見守り機器などのテクノロジーの要件は、以下のとおりです。
1.見守り機器
・すべての居室に設置
・事前に利用者の意向を確認し以降に応じて使用するが、意向により機器の使用をやめる運用は認められる
2.インカムなど職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器
・全ての介護職員が使用する
3.介護記録ソフトやスマートフォンなど、介護記録の作成の効率化に資するICT機器
・機器の複数連携することや、データの入力や記録、保存など一体的に支援するもの
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)
▼利用者の安全と介護サービスの質を確保、職員の負担を軽減するための委員会を開催し、安全対策を講じたうえで、改善への活動を継続して取り組んでいること
▼見守り機器などを1つ以上導入していること
▼1年以内ごとに1回、業務改善の取り組みの効果を示すデータ※2をオンラインで提出すること
※2業務改善の取り組みの効果を示すデータとは、以下のとおり定められています。
以下引用
利用者のQOL等の変化(WHO-5等)
総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の変化
年次有給休暇の取得状況の変化
心理的負担等の変化(SRS-18等)
機器の導入による業務時間(直接介護、間接業務、休憩等)の変化(タイムスタディ調査)
参照:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定における改定事項についてP112
生産性向上推進体制加算の単位
介護職員等処遇改善加算の単位は以下のとおりです。
▼生産性向上推進体制加算(Ⅰ)(100単位/月)
▼生産性向上推進体制加算(Ⅱ)(10単位/月)
参照:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定における改定事項についてP111
まとめ
2024年度介護報酬改定でグループホームに新設される加算の種類について解説しました。新たに創設された加算は、感染症対策や認知症ケアなどの多様な介護・医療ニーズへの対応と、介護職員の処遇改善が大きな要です。
算定の内容や介護請求の過誤は施設の運営にも大きく影響しますので、改定に向けて情報収集を行いましょう。
今回ご紹介した加算の内容を参考にしていただき、質の高いサービスの提供にお役立ていただければ幸いです。
この記事の執筆者 | 吉田あい 保有資格:社会福祉士・介護福祉士・メンタル心理カウンセラー・介護支援専門員 現場、相談現場など経験は10年超。 介護現場(特別養護老人ホーム・デイサービス・グループホーム・居宅介護支援事業所)、相談現場を経験。 現在はグループホームのケアマネジャーとして勤務。 |
当サイトでは介護報酬改定に関して、以下のような記事を掲載しています。
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