グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、認知症の方に日常生活の支援や身体介助、生活リハビリなどを提供する介護保険サービスのひとつです。
グループホームで働く介護職員には様々なストレスがかかりやすいと言われており、メンタルヘルスケアが重要です。入居者様への対応や夜勤を伴う労働環境などにより、様々な悩みやストレスを抱えている介護職員は少なくありません。
この記事では、グループホームの介護職員のメンタルヘルスケアについての悩みと対策について詳しく解説します。
グループホームで働くスタッフの方や、介護職のメンタルヘルスケアについて悩んでいる管理者やリーダーの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
グループホームで働く介護職員のメンタルヘルスケアの重要性
公益財団法人介護労働安定センターが行った「介護労働者のストレスに関する調査結果報告書」をみると、8割以上の介護職員が仕事への悩みやストレスがあると回答しています。
参照:公益財団法人介護労働安全センター「介護労働者のストレスに関する調査結果報告書」
これは、グループホーム以外の介護施設も含めた結果ですが、介護職員にとってストレスは身近な課題であることが分かります。
グループホームの仕事はやりがいがある一方で、認知症症状への対応、特に徘徊や物盗られ妄想、攻撃的な方への対応に疲れ切ってしまい、ストレスを抱えている方も多いでしょう。
ここでは、職員のメンタルヘルスケアをしないことで起こりうるリスクについてみていきましょう。
不適切なケアや虐待のリスク
介護職員の不安定なメンタルは、不適切なケアや虐待のリスクにつながります。
令和4年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果では、虐待の事実が認められた施設・事業所の種別は、以下のとおりです。
・特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)274 件(32.0%)
・有料老人ホーム221 件(25.8%)
・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」102件(11.9%)
・介護老人保健施設90 件(10.5%)
グループホームでは心理的虐待※が含まれる割合が高いと報告されています。
※心理的虐待の定義(以下引用)
脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせ等によって精神的、情緒的苦痛を与えること。
グループホームでの心理的虐待の例では、認知症の方に対して子供扱いや幼児言葉で接したり、きつい口調やイライラをぶつけてしまうなどです。
例えば、認知症の方が「帰りたい」「財布がなくなった」など繰り返し訴えをした際に「さっきも言いました」「何回言うんですか?」といった対応をしてしまうことが考えられます。
介護職員の疲労感が大きく、ストレスがかかっている状態ではイライラが募り、思いやりのあるケアができません。質の高い適切なケアを実施するには、介護職員の心が安定していることが重要です。
バーンアウト(燃え尽き症候群)やうつ病
グループホームでの業務に対して、ストレスや不安を抱えているスタッフも多いのではないでしょうか。
「もっと頑張らなくては」と、入居者様への対応に一生懸命なスタッフもいますが、頑張り過ぎることでバーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こす可能性があります。
これまで仕事を頑張っていた方が、糸が切れたようにやる気を失ってしまうこと
バーンアウトが進むと、業務への影響や人間関係の悪化を引き起こすだけでなく、自分自身のケアを行うことも難しくなってしまうでしょう。
バーンアウトやストレスを放置することでうつ病になる恐れもあり、一人ひとりによって症状は異なりますが、不眠や倦怠感、気分の落ち込み、憂鬱、人生を悲観的に感じてしまうこともあります。
うつ病につながるストレスや不安感を見逃さないためには、周囲のスタッフや管理者、リーダーがスタッフとの関わりから様子の変化に気づくことが重要です。
仕事に対するモチベーションの低下
介護職員のストレスや不安感が大きいと、仕事に対して取り組むモチベーションが低下します。
モチベーションの低下は、判断力や仕事を非効率にするため介護事故を引き起こす恐れや、職場に対する不満感が募り、退職につながることも。
職場環境や人間関係、待遇など、スタッフのストレスには様々な要因がありますが、管理者やリーダーは何が原因になっているのかを理解し、改善に向けて取り組むことが重要です。
グループホームは辞める介護職が多い?
グループホームは「離職率が高く、辞める介護職員が多い」というイメージがあります。ここでは、介護サービス全体の離職率からグループホームの離職率をみていきましょう。
介護労働安定センターが行った「令和4年度 事業所における介護労働実態調査結果報告書」から介護職の離職率をみると、介護保険サービスを提供する事業所で働く介護職員全体の離職率は、14.4%(前年度 14.3%)になっています。
参照:介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査結果の概要について」P.1
一方で、介護サービス別の離職率は以下のとおりです。
訪問介護 | 13.7% |
訪問入浴介護 | 12.6% |
訪問看護 | 17.1% |
通所介護 | 13.9% |
通所リハビリテーション | 12.3% |
短期入所生活介護 | 15.6% |
特定施設入居者生活介護 | 17.5% |
福祉用具貸与 | – |
地域密着型通所介護 | 21.5% |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 14.3% |
認知症対応型通所介護 | 11.4% |
小規模多機能型居宅介護 | 16.5% |
看護小規模多機能型居宅介護 | 13.6% |
認知症対応型共同生活介護 |
16.7% |
地域密着型特定施設入居者生活介護 | 16.4% |
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 | 16.2% |
居宅介護支援 | 9.2% |
介護老人福祉施設 | 13.0% |
介護老人保健施設 | 12.0% |
介護医療院(介護療養型医療施設) | 15.3% |
参照:介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書」資料編P.23表Ⅱ-1(1)③ 1年間の採用率・離職率(2職種合計・事業所状況別)
表からグループホームの離職率は介護サービス全体を比較して特別高いわけではない、ということが分かります。
ではなぜ、グループホームは辞める介護職が多いとされているのかというと、悩みや不安を抱えながら働いている介護職員の多さから離職率が高いとイメージされていると考えられるでしょう。
グループホームの介護職員に多い悩み
グループホームの介護職員は、待遇や働き方などの労働環境や人間関係など様々な悩みを抱えています。ここでは、特に多い6つの悩みをみていきましょう。
人手が足りない
グループホームの人手が足りないことで介護士一人にかかる負担が大きくなり、休憩が取れない、夜勤の回数が増える、労働時間が長くなるといった労働環境の悪化をもたらします。
心身ともに負担の大きい仕事でありながら、さらにストレスがかかることで、疲労やモチベーション低下につながるでしょう。
夜勤が辛い
グループホームは24時間365日運営しているため、介護職員の働き方は、早出・日勤・遅出・夜勤などのシフト制です。夜勤は、不規則なシフトによる生活リズムの乱れや体力的なしんどさから辛いと感じる方もいます。
人間関係が辛い
どんな仕事でも職場内の人間関係について悩むことはありますが、グループホームでは、入居者様やご家族との関係性に悩む介護職員が多い傾向です。
例えば以下のような事例があります。
・「財布がなくなった」という入居者様のご家族が鵜呑みにして、介護職員を責め立てる
・「なぜ今すぐ買い物に行けないの?費用を払っているでしょ」といわれる
・女性職員に対して「服を脱いで入浴介助しろ」といわれる
・入居者様のご家族から「自分たちの食事も作れ」と要求される
・外出する入居者様を見て「私も連れていけ」と要求する
入居者様の中には「私たちはお客様だから介護職員には何でも言っていい」と思い、理不尽な要求や威圧的な言動で介護職員を非難する方もいます。
このような入居者様に対して、スマートに対応できる介護職員もいる中で、特定の入居者様に苦手意識を持ってしまう方も少なくありません。
介護職員も人間ですので、理不尽な要求や人格を否定するような威圧的な言動は、仕事とはいえ耐え難いことであり、対応にストレスや不安を感じている介護職員も多いでしょう。
昼夜逆転が辛い
グループホームでは、夜間帯に認知症症状や不安感が強くなる入居者様も多く、声かけをして入眠を促すなどの対応を行います。しかし、将来や死への不安感から眠れなくなったり、怖い夢を現実と感じ興奮してしまうなどから昼夜逆転につながる方も多いです。
昼夜逆転の方には、落ち着いて入眠できるような環境整備や足浴などを行いますが、どれだけ対応をしても、他の入居者様の部屋に入ってしまう方や大声を出す方、「家に帰る」と不穏になる方、徘徊する方もいます。
中には数日間にわたって昼夜逆転する入居者様もいるため、他の入居者様への排泄介助や対応、翌日の準備、介護記録など夜勤中の仕事ができないことがあります。
落ち着かない入居者様の対応に追われ、朝食が作れない・作る時間なく提供時間がオーバーしてしまうといったことも、グループホーム職員の悩みのひとつです。
待遇(給料)が労働に見合っていない
グループホームの仕事は心身ともに負担が大きく、入居者様の突発的な行動に対して常に緊張感をもたなければいけない仕事です。
年々処遇の改善はすすめられていますが、労働量や責任に見合った待遇(給料)が得られないことがあり、仕事へのモチベーション低下や退職を考える要因にもつながっています。
コミュニケーションの難しさ
グループホームでは、帰宅願望や徘徊、BPSDによる暴言や暴力などの症状がある入居者様も入居しているため、介護職員は、認知症への正しい理解と認知症ケアの知識や実践力が求められます。
しかし、経験が浅い場合は「どうやってコミュニケーションをとればいいのか分からない」と悩む方もいるでしょう。意思疎通が難しいことで、適切な対応ができず、自分自身の未熟さや仕事への意欲喪失、諦めを感じてしまう方も少なくありません。
グループホームの介護職員のメンタルヘルスケア、悩みへの対策
ここでは、グループホームの介護職員のメンタルヘルスケア、悩みへの対策についてみていきましょう。
生活習慣を整える
不規則な生活リズムがストレスの要因になっている場合があります。シフト勤務を避けることはできませんが、できるだけ規則正しい生活習慣を心がけ、ゆっくり体を休めることが大切です。
夜勤明けや休みの前日などは、つい時間がもったいないと思い夜更かししがちですが、しっかり休養して日ごろの疲れをとりましょう。
認知症と入居者様に対する理解を深める
認知症の方とのコミュニケーションが難しいと感じている方は、認知症と入居者様への理解を深めることも重要です。
・なぜこの人はこのような行動を起こすのだろうか
・トラブルにつながる言動は、どんなタイミングで起こっているだろうか
・どう対応すれば落ち着いてもらえるだろうか
認知症の方の言動には、背景や要因が隠れていることが多いです。認知症の症状や強く出るタイミングを把握することで、適切な対応を見つけられる可能性があるでしょう。
周囲を巻き込んだケアをする
介護職員の中には、不安感やストレスを一人で抱えてしまっている方もいます。一人で対応できないことを恥ずかしく思ったり、仕事ができないと思ってしまう必要はありません。
介護の仕事はチームケアが基本ですので、対応に困ったときや悩みがある場合は、周囲を巻き込んだケアを意識してみてください。
先輩介護士や同僚に、入居者様との関わり方や認知症の症状への対応を相談することで、様々な対応方法や工夫を知ることができるでしょう。
入居者様との距離感を大事にする
グループホームはアットホームな環境がメリットですが、中には家族のような親しい間柄になることも珍しくありません。入居者様との距離や関係が近すぎる場合は、深入りや感情移入してしまうことも…
相手の感情や言葉に飲み込まれ、自分自身のメンタルまで不安定になる恐れがあります。
入居者様が強い混乱にある場合や攻撃的になっている場合は、少し距離を置き「関与ある観察」を意識して見守りをすることが重要です。介護職員としての役割を念頭に置いて、適切な距離感で対応しましょう。
管理者やリーダーはスタッフのストレスマネジメントをしよう
グループホームの管理者やリーダーは、ストレスマネジメントに取り組み、スタッフが不安や悩みがないか把握するようにしましょう。
介護職員のメンタルヘルスケアにとって重要なポイントは以下の5つです。
・日頃からスタッフとコミュニケーションをとる
・ストレスを感じていないか把握する
・気になるスタッフには積極的に話しかける
・適切な業務配分を行いスタッフの負担を軽減する
・入居者様とスタッフとの関わり方を把握する
介護職員の中には、仕事へのストレスを抱えていながらも自分自身で気づかない方や、相談できずにいる方もいます。
スタッフのマネジメントを行う管理者やリーダーは、日常的にスタッフの様子に配慮し、適切なメンタルヘルスケアを行うことが大切です。
スタッフがストレスを感じている様子やメンタルヘルスケアが必要と感じた場合は、話を聞き、必要であれば医療機関や専門医の受診をすすめましょう。
まとめ
グループホームで働く介護職員が抱える悩みは多岐に渡りますが、そのひとつは介護職ならではの不規則な働き方や認知症ケア、入居者様への対応です。
メンタルヘルスの不安定さは、不適切なケアや自分自身の健康にも影響します。
不安なく業務に取り組むためには、認知症に関する知識やスキルを身につけ、仕事とプライベートとのオンオフのメリハリをつけた生活を心がけることが大切です。
ご自身の心と身体を大切にしながら、グループホームでの仕事に取り組んでいきましょう。
この記事の執筆者 | 吉田あい 保有資格:社会福祉士・介護福祉士・メンタル心理カウンセラー・介護支援専門員 現場、相談現場など経験は10年超。 介護現場(特別養護老人ホーム・デイサービス・グループホーム・居宅介護支援事業所)、相談現場を経験。 現在はグループホームのケアマネジャーとして勤務。 |
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