
介護の仕事は、やりがいがある一方で、肉体的・精神的なストレスがたまりやすい職種です。
日々のストレスに「どうやって対処すればいいの?」と悩んでいる介護士も多いでしょう。
介護する側がストレスによって健康ではない状態では、不適切なケアや自身のメンタルに不調をきたす可能性があります。
この先も介護職を続けていくためには、ストレスマネジメントの重要性を理解し、ストレスコントロールの方法を見つけることが大切です。
今回は、介護職が抱えるストレスの原因や対処法についてご紹介します。
職員がストレスを抱えていないか様子に気を配り、変化に気付くことも重要です。そのポイントもご紹介しています。
ストレスを感じている介護職の方や、職場のストレスマネジメントの重要性を感じている管理者、リーダーの方は、ぜひ参考にして下さい。
目次
ストレスマネジメントとは
「ストレスマネジメント」とは、ストレスに対して、どのように付き合っていくかを考え、適切な対処法をしていくことです。
そして、「介護職のストレスマネジメント」とは、介護職が日常業務や職場環境に伴うストレスに対して、原因を理解し、適切な対処法やケアを意識的に行うことをいいます。
介護職員のストレスマネジメントが重要な理由

介護職のストレスマネジメントは重要です。
詳しくは本文中でご紹介をしていきますが、介護職がストレスを抱え込むことで、様々な悪影響やリスクも抱えてしまうことになるからです。
少し前のデータになりますが、2018年に報告された公益財団法人介護労働安定センターの「介護労働者のストレスに関する調査結果報告書」を紹介します。
調査では、
「仕事や職業生活に関する強い不安・悩み・ストレスがある」
と答えた介護職の方は、85.8%という結果が報告されました。
参照:公益財団法人介護労働安全センター「介護労働者のストレスに関する調査結果報告書」
8割以上の介護職の方がストレスを抱えながら働いているという結果から、介護職にとってストレスは身近なものであることが分かります。
では、ストレスを溜めこむことで起こり得ることについてみていきましょう。
不適切なケアにつながる可能性
ストレスが蓄積されると、感情のコントロールが難しくなり、判断力や注意力が低下することがあります。
また、イライラや疲労感が増し、優しさや思いやりを持ったケアを提供できなくなる可能性もあり、不適切なケアや虐待行為を引き起こしてしまうかもしれません。
介護職の方々が心身の健康を保ち、ストレスケアを行うことで、思いやりのあるケアが実践できるでしょう。
介護事故につながる可能性
ストレスが蓄積すると、集中力や判断力が低下し、十分な見守りや適切なケアが行き届かないことがあります。
その結果、転倒や転落など大きな介護事故を引き起こしてしまう可能性も考えられるでしょう。
適切なストレスマネジメントは、集中力や判断力を維持し、介護事故のリスクを減らすことにつながります。
うつ病のリスクが高まる
ストレスの蓄積は、うつ病を引き起こしてしまう恐れがあります。
うつ病の症状は、個々によって異なりますが、以下のような精神的・身体的な症状が現れることです。
・気分の落ち込み
・憂うつ
・意欲低下
・不眠
・疲労感
・倦怠感
うつ病は、仕事へのパフォーマンスや職場の関係にも悪影響を与えます。
また、心身の不調が続くと日常生活や社会生活に支障をきたし、仕事を退職せざるを得ない状況に陥ることもあるでしょう。
うつ病の症状が出現した場合、早期に自覚し、適切な治療を受けることが大切です。
バーンアウトのリスクが高まる
バーンアウトは「燃え尽き症候群」ともいわれ、これまで意欲的に仕事に取り組んでいた方が、燃え尽きたかのように意欲をなくし、社会的に適応できなくなる状態のことです。
バーンアウトの症状は、以下のとおりです。
・朝起きられない
・職場に行きたくない
・アルコール摂取量の増加
・イライラが募る
・仕事に集中できない
・人との交流を避ける
・無気力になる
この状態に陥ってしまうと、自分自身の健康に対して無関心になったり、人間関係の悪化などを引き起こしてしまうかもしれません。
慢性的なストレスや負担によってバーンアウトが進行すると、疲弊感や絶望感が広がり、最悪の場合には人生に対して悲観的になることもあります。
自身の心の健康を守るためには、職場環境やサポート体制の整備とともに、早期に医療機関に相談し、適切な治療を受けることが大切です。
退職につながる可能性
介護職の方の中には、ストレスによって、仕事を続けることが難しいと感じている方も少なくありません。
特に、働き方や待遇、職場環境、人間関係などにストレスを感じている場合は、仕事や職場自体に対する不満が高まり、退職を選択する方もいます。
働きやすい職場環境整備はもちろんですが、介護職自身もストレスを適切にケアし、心の健康を維持することも重要です。
チームワークへの影響
ストレスは、職場内でのコミュニケーションや人間関係、チームのパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。
定期的なミーティングや、上司や同僚とのコミュニケーションを通じてストレスを共有することが大切です。
適切なサポートを受けたり、仲間とのつながりを大切にすることで、ストレスの軽減につながるでしょう。
介護職員のストレスの原因

介護職のストレスの原因は、以下のように様々です。
・仕事がしんどい
・給料が安い
・将来が不安
・人間関係
・介護業務のプレッシャー
ここでは、介護職のストレスの主な原因を6つ紹介します。
過重労働や労働時間など身体的な負担
介護職は、ベッドから車いすへの移乗や移動介助、体位変換など、日常的に身体介助を行うため、負担が大きい職業です。
慢性的な疲労によって、職業病といわれる腰痛に悩む介護士も少なくありません。
人手不足から介護士一人にかかる負担が大きいことや、労働時間、シフト制による不規則な生活リズムも、介護職のストレス要因につながります。
リスクや責任の重さによるプレッシャー
介護職は、利用者の健康や生命に直接関わるため、利用者が安全に生活できるように、細やかな配慮が必要です。
「命を預かる」という気持ちで仕事に向き合い、自分自身よりも利用者を大事に考える介護士も少なくありません。
しかし、リスクや責任の重さによるプレッシャーが、気づかない内にストレスとなっていることもあるでしょう。
経済的なストレス
介護の仕事は、待遇改善や働き方改革の推進によって、以前に比べると働きやすい環境になってきました。
しかし、給料が上がらないことや、業務と見合った給料を得られていないことに対して、将来を不安に感じている方も少なくありません。
このような経済的なストレスは、生活への不安や仕事へのやりがいの喪失にもつながります。
職場の人間関係やコミュニケーション
職場の人間関係やコミュニケーションは、介護職員の離職理由の上位に挙げられ、ストレスの原因のひとつです。
人手不足から生じる忙しさによって、様々な人間関係の問題が起こりえます。
介護士は、利用者のケアに向き合いながら、職場での人間関係やコミュニケーションに悩むことも多いでしょう。
職場の人間関係やコミュニケーションは大きなストレスになることがあります。
認知症の方への対応が難しい
認知症の方は自分の気持ちを上手く伝えられずモヤモヤしたり、できないことが増えていく葛藤の中でイライラしたりといった気持ちが、暴言や暴力といった行動で表されることがあります。
介護士の中には、認知症の利用者からの暴言や暴力を経験した方も多いのではないでしょうか。
認知症の方へのケアが難しいことに対する不安や葛藤により、ストレスを感じている介護士も少なくありません。
利用者や家族との関係やコミュニケーション
介護職は、利用者やその家族と密接な関係性を築きますが、利用者や家族の状態・心境によってスムーズにいかない場合もあります。
時には介護拒否やハラスメント、怒鳴られるといったことも起こり、仕事をすること自体が不安やストレスにつながってしまうのです。
さらに、理不尽なクレームや過度な要求をしてくる家族も存在します。
仕事だと割り切っていても、利用者や家族との関係やコミュニケーションによって気持ちが落ち込み、ストレスを感じることもあるでしょう。
介護職員のストレスマネジメント方法(ストレス解消法)

介護職がストレスを軽減させ、仕事と向き合うためには、適切にストレスを解消させることが重要です。
ここでは、介護職のストレスマネジメントの方法についてみていきましょう。
ストレスの自己覚知
まず、ストレスを自己覚知し、その原因を探ることが重要です。
以下の状態になったときのタイミングや、言動を書き出してみましょう。
・イライラしているとき
・落ち込むとき
・やる気がでないとき
・仕事が嫌になるとき
自分自身のストレスを客観的に見つめることで、ストレスの軽減や原因となっている要素を避けるなどの対応が可能になります。
生活習慣を整える
介護職はシフト勤務であり、生活習慣を整えることが難しいかもしれません。
不規則勤務によってホルモンバランスが乱れ、眠りたいのに眠れないと悩む方や、休み前に夜更かしをしてしまう方もいるでしょう。
しかし、眠れないときはベッドでリラックスするだけでも効果があります。
夜更かしをせずにしっかり休養をとるなど、健康的でバランスの取れた生活習慣を続けることが重要です。
趣味や気分転換をして楽しむ
休日を有意義に過ごすことで、疲れを癒し、ストレスの解消につながります。
例えば、友人とカラオケに行ったり、ショッピングを楽しんだり、自宅で映画を鑑賞してゆっくり過ごすだけでも気分転換になるでしょう。
仕事を憂鬱に感じていても、休日は気持ちを切り替えて楽しい時間を過ごしてください。
適度な運動をする
リラックスできる程度の運動は、気分を高める効果や睡眠不足の解消に役立ち、健康維持にも効果的です。
無理な運動は体に負担をかける可能性があるため、ストレッチやスイミング、ウォーキングなど、自分に合った運動を取り入れるようにしましょう。
避けた方が良いストレス解消法

ストレス解消法の中には、健康リスクを引き起こす可能性があるものも存在します。
そこで、どのようなストレス解消方法を避けるべきかご紹介します。
休日に寝だめをする
休日に寝だめをすると、一時的に体力が回復し、心地よく感じるかもしれません。
しかし、過度な寝だめは体内時計の乱れ、疲れの蓄積、パフォーマンス低下などを引き起こすとされているため、避けた方が良いでしょう。
適切な睡眠時間をとり、バランスの取れた生活を心掛けることが大切です。
暴飲暴食をする
ストレスがたまると、食べ過ぎや飲み過ぎをしてしまう方も多いのではないでしょうか。
過度な飲食は体重増加や消化不良など、体に負担をかける可能性があり、さらにストレスを増大させる可能性もあります。
バランスの取れた食事を心掛け、食事の時間をゆっくりと楽しむことで、リラックス効果も期待できるでしょう。
過度な買い物
買い物はストレス解消の方法としてよく取り上げられますが、買い物依存症や経済的な負担につながり、かえってストレスを引き起こしてしまうリスクもあります。
無駄遣いは避け、計画的な買い物を心掛けましょう。
介護職員が強いストレスを感じた時の対処法
ストレスによって、以下のような心身への影響を及ぼす可能性があります。
頭痛、不眠、消化不良、疲労などの身体的な症状
イライラ、不安、抑うつ、集中力の低下など、精神的な症状
介護職が強いストレスを感じた場合は、一人で抱え込んだり無理をしたりせずに、医療機関や専門医へ相談することが重要です。
具体的には、以下の医療機関や専門医を受診することをおすすめします。
・精神科
・神経内科
・心療内科
・心理カウンセラー
精神科医や心理カウンセラーなどの専門家は、ストレス管理や心理的なサポートにおいて客観的なアドバイスや適切なケアを行います。
専門家のサポートを受けることで、心の負担を軽減できるでしょう。
ストレスチェックをしてみよう
ストレスの感じ方は様々なので、「もう限界」と強いストレスを感じている方や、蓄積されているストレスに気付かない方もいらっしゃるかと思います。
そこで厚生労働省が提供している「ストレスチェック」を活用して、客観的にストレスを理解してみてはいかがでしょうか。
ストレスチェックは、以下の4つの項目からなる57問の質問に答えることで、ストレスの要因や環境因子、心身状態について客観的に評価・分析します。
・仕事について
・最近1カ月の状態について
・周りの方々について
・満足度について
ストレスチェックの回答結果に基づいて、ストレスケアのポイントやアドバイスも提供されますので、ストレスのセルフコントロールに役立つでしょう。
5分程度で簡単に行えますので、ぜひ活用してみてください。
厚生労働省 「5分でできる職場のストレスセルフチェック」
介護職員のためのメンタルヘルスケアも大切

介護職員のストレスは、利用者に対するケアの質に大きく影響します。
そのため、管理職やリーダーは介護職員のストレスに配慮し、サポートすることが大切です。
ここでは、管理職が取り組むべき介護職員へのメンタルヘルスケアについて紹介します。
適切な業務配分を行う
スタッフは一人ひとりのライフスタイルや家庭の事情が異なり、さらに仕事に関する身体的負担やスキル、ストレスの感じ方、耐性なども異なります。
管理者は以下のことに配慮し、スタッフに合った適切な業務配分を行うことが大切です。
・各スタッフの状況
・適切な休息時間や休暇の確保
・柔軟な勤務体制
・負担の少ないシフト
・業務負荷の分散
・職場内の環境整備
適切な業務配分は、スタッフが無理のないペースで働くことができ、ストレス軽減に効果的でしょう。
日頃から職員の様子に気を配り、変化に気付く
ストレスを抱えていても、自分ではストレスに気付かない方や、訴えることができない方もいます。
管理職やリーダーは、日頃から職員の様子に気を配り、以下のような変化に気付くことが必要です。
・業務量が増え、スタッフの負担になっている
・仕事への意欲が低下している
・業務上でのミスが増えた
・職場の人間関係が悪化している
・元気がない、顔色が悪いなど本人の状況変化
・遅刻や欠勤が増えた
これらの変化に早期に気付いて、適切なサポートを提供することが、職員のメンタルヘルスを守ることにつながります。
コミュニケーションを大切にし、スタッフがどんなことでも相談できる職場環境を整えていきましょう。
管理者やリーダーは日常的に気配りを行い、気になるスタッフがいたら「大丈夫?なにかあった?」と、積極的に言葉をかけることも大切です。
「勤務体制(シフト)が自分の希望通りにならない」ストレスを軽減する方法
本記事内でもご紹介した資料、
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/h28_t_chousa_sutoresuh28.pdf
P9に、
「事業所の回答では「定期的な健康診断の実施」「勤務体制(シフト)を決める際、職員の要望を聞く機会の設定」が9割を超えており、労働者の回答でもそれらは比較的高い回答割合であった」
という記載がありました。
しかし、労働者側の評価としては約6割であり、実際にはそこまで評価を得られていないといえます。
P10 図表9 介護労働者の職場や仕事のストレス分類(図表5右、再掲)
では、ストレスとして「勤務体制(シフト)が自分の希望通りにならない」も見受けられます。
そこからは、勤務体制(シフト)の要望を聞いてもらっても、
「自分の希望通りにはならない」
という不満を感じている、という状況が見えてきます。
管理者やリーダーが手作業でシフトを作る場合、
「私だけきついシフトになっている…」
「希望休が反映されない」
といった不満があるかもしれません。
全員が満足するシフトを作るのは難しく、シフト作成は介護業界における長年の課題といえるものです。
管理者やリーダーの負担を軽減し、公平なシフト作成を実現する方法としてシンクロシフトなど、自動シフト作成ソフトの利用をおすすめします。
まとめ
介護職にとって、ストレスは避けられないものかもしれませんが、過剰なストレスは健康に悪影響を及ぼすだけでなく、介護の質にも悪影響を与えます。
介護職には、
「利用者の笑顔や喜びがやりがい」
という方が多いですが、利用者の笑顔を引き出すためには、自分自身が笑顔であることが大切です。
自分自身を大切にし、頑張りすぎないことを考えながら、上手にストレスマネジメントを行い、充実した毎日を送りましょう!
今回紹介したストレス解消法は一例です。
他にもたくさんの方法がありますので、ご自身に合った方法を見つけて、日々の生活に取り入れてみてください。
グループホームで働く介護職員のメンタルヘルスケアに関しての記事も掲載しています。ご興味のある方はご覧ください。
・グループホームの介護職員のメンタルヘルスケアはどうする?多い悩みと対策について
グループホームの介護職員のメンタルヘルスケアについての悩みと対策について詳しく解説。グループホームで働くスタッフの方や、介護職のメンタルヘルスケアについて悩んでいる管理者やリーダーの方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の執筆者 | 吉田あい 保有資格:社会福祉士・介護福祉士・メンタル心理カウンセラー・介護支援専門員 現場、相談現場など経験は10年超。 介護現場(特別養護老人ホーム・デイサービス・グループホーム・居宅介護支援事業所)、相談現場を経験。 現在はグループホームのケアマネジャーとして勤務。 |
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