介護事業所を管理・運営されている方や現場リーダー職の方は、業務を通じて、人口の高齢化を肌感覚で実感されていることと思います。
その中で今浮かび上がっているのが、「2040年問題」です。また、2年後に迫っている「2025年問題」も無視できません。
2040年問題と2025年問題には、共通点だけではなく、大きな違いもあるのです。
この記事では、2040年問題についての課題と対策を解説します。ぜひ参考になさってください。
目次
介護業界の2040年問題とは
介護業界における2040年問題とは、第2次ベビーブームの時代(1971〜1974年)に生まれた方が、全員65歳以上の高齢者になることです。その数は、約3,921万人と言われています。
総人口の35%が高齢者になり、75歳以上の後期高齢者が人口の約20%となり、高齢者数がピークに達する状況です。
高齢者数がピークに達することで、要介護者数もより多くなると考えられます。それに対して、介護人材は不足する状況にあり、2040年には約69万人不足すると想定されます。
間近に迫る介護業界の2025年問題
まず先にやってくるのが2025年問題です。
2025年問題とは、団塊の世代と呼ばれる1947〜1949年に生まれた方全員が、75歳以上の後期高齢者になることで起こる社会問題です。
2025年には、65歳以上の高齢者が3,677万人に達すると見込まれています。
下記記事でも、2025年問題について詳しく触れております。
上記の記事では、
・社会給付費増加
・認知症高齢者数の増加
・高齢者を支える体制の弱体化
・進む高齢化
・介護難民の増加
・送迎業務の負担
などが2025年問題の具体的な内容であることや、2025年問題の対策を紹介しております。
対策の1つとして、介護現場におけるAI導入について及び、実際の事例を紹介しておりますので、合わせてお読みください。
介護業界の2025年問題、2040年問題の違いとは
2025年問題と2040年問題の違いをひとことで表すなら、「事態の深刻さが違う」と言うことです。
まず、社会保障給付の増え方です。2025年は約140兆円と想定されていますが、2040年では約190兆円まで増えると想定されています。
続いて挙げられるのが、生産年齢人口の減少です。
厚生労働省 2040年を見据えた 社会保障・働き方改革によると、2015年には7,728万人だった生産年齢人口が、2025年には7,170万人、2040年には5,978万人にまで減少します。
高齢者人口が増える割合より、生産年齢人口が減る割合の方が大きい状況です。
生産年齢人口の減少に伴い、高齢者1人を支える現役世代も減少します。推計ですが、2025年には高齢者1人を1.9人で支えるのに対し、2040年には1.5人で支える必要があるのです。
インフラの老朽化も問題です。2022年版国土交通白書によると、2040年の時点で建設後50年以上経過する施設は、道路橋で約75%、トンネルで約53%を占めるようになるといわれています。
介護施設なども老朽化が増えると予想されますが、予算や人手不足などの問題があり、修繕が追いつかない状況になると考えられるでしょう。
今後も介護業界の人手不足解消は難しい
2025年問題、2040年問題ともに、介護業界の人手不足が課題になっています。具体的な数字を以下に示しました。
・2025年:約243万人必要 約32万人不足
・2040年:約280万人必要 約69万人不足
2040年には高齢者人口が増えることに加えて、生産年齢人口も急激に減るので、介護業界の人材確保はさらに難しくなると予想されます。
2040年問題に向け介護現場が取るべき対策とは
2040年問題に向けての対策は、基本的に2025年度問題と大きく変わりはありません。ここでは、5つの対策をご紹介します。
1.労働環境の改善
介護職員の離職率についてみていきましょう。公益財団法人介護労働安定センターによる調査、「令和4年度 介護労働実態調査結果について」では、介護職(訪問介護員・介護職員)の離職率14.4%でした。
例えば平成29年では16.2%、令和2年では14.9%でしたから、年々離職率は下がってきています。
また参考として、全産業の離職率の平均は15%です。
介護職員の離職理由としては、主に以下のようなものが挙げられます。
・職場の人間関係
・結婚・出産・育児
・事業所の理念や運営方法への不満
職場環境の問題が離職につながるケースが多い状況と言えるでしょう。
介護福祉士に特化して離職理由を見ると、主に以下のようなものが挙げられます。
・業務に関する心身の不調
・職場の人間関係
・理念や運営方法への不満
・給料が少ない
やはり、職場環境の問題が多い現状がうかがえます。
なお、賃⾦⽔準をみると、介護分野が含まれる「医療・福祉」は全産業平均を下回っている現状です。
介護職の労働環境改善としては、政府もさまざまな取り組みを行っております。
・介護職員の処遇改善加算
・キャリアアップ研修受講時の負担軽減
・研修受講時の代替職員の確保支援
こういった対策に加えて、後ほどご紹介するICTによる業務効率化も労働環境改善につながるでしょう。
2.ハラスメント対策
介護現場においては、2つのハラスメント行為があると考えられます。1つは、職員間でのハラスメント、もう1つは、サービス利用者からのハラスメントです。
職員間でのハラスメントでは、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどの行為、利用者からのハラスメントでは、身体的暴力やセクシュアルハラスメントなどがあげられます。
特に、サービス利用者及び家族からのハラスメント行為は、介護職員に、より大きな精神的苦痛を及ぼすことに加えて、利用者自身の円滑なサービス利用に支障をきたします。
令和3年度の介護報酬改定において、全ての介護事業者に、ハラスメント防止に必要な措置の実施が求められるようになりました。
また厚生労働省では、介護現場におけるハラスメント対策マニュアルを示しております。
ハラスメント対策の具体的な内容は主に以下のとおりです。
・マニュアル等作成
・相談しやすい職場づくり
・発生後の対応
・管理者向け研修
・行政機関等との連携
3.外国人雇用の拡大
厚生労働省は、介護人材不足を解消するための取り組みとして「外国人の受け入れ」を挙げています。
外国人を介護人材として受け入れる仕組みは、以下の4種類があります。
・EPA(経済連携協定)による介護福祉士候補者
・在留資格「介護」:介護福祉士養成校卒業生及び他の在留資格からの移行者
・技能実習:技能実習制度を活用した外国人
・特定技能:在留資格「特定技能1号」をもつ外国人
いずれのパターンにおいても、受け入れる事業所が増えている現状です。
今後も、外国人雇用を拡大していくためには、介護福祉士資格取得を目指す留学生への支援のほか、受入環境整備が求められます。
環境整備の具体的取り組みとは、主に以下のとおりです。
・介護技能向上のための集合研修
・介護の日本語学習支援
・介護業務等の相談支援・巡回訪問の実施
・生活環境支援
・外国人が地域社会になじむ支援
これらは今後も課題となるでしょう。
4.積極的な人材採用
生産年齢人口が減少している中、積極的な人材採用を行う手段として、まず挙げられるのは「離職した介護職員への復職支援」です。
福祉人材センターが離職者とつながりを持ち、本人の意向や生活状況を考慮した上で、研修案内や復職体験談などの情報提供、福祉に関するイベント案内などの働きかけを行います。
また、国が行う「再就職準備金貸付事業」も復職支援となります。
その他にも、元気な高齢者いわゆる、「アクティブシニア層」への働きかけも積極的な人材採用の一環です。
以前三重県で「元気高齢者介護助手」モデル事業を実施した際には、
・働くことの充実感を得られた
・感謝の言葉をいただけた
・利用者さんと話すのが楽しい
など、好意的な感想が比較的多い結果となりました。
課題も残るようですが、アクティブシニア層が介護助手を努めることで、介護職が本来業務に専念できることは大きなプラスと言えるでしょう。
また、今後生産年齢人口になる中高生に対して、介護事業所でのインターンシップや出前講座などを実施して、介護を魅力的に感じてもらえるようなアプローチも必要になってきます。
5.ICT化による業務効率化
ICT(情報通信技術)の導入も業務効率化という理由で、2040年問題対策につながります。
ICT導入により効率化される業務は、主に以下のとおりです。
・介護記録作成
・各種事務作業
・職員のシフト作成
・夜間の見守り
業務が効率化されることで、スタッフの負担軽減にもつながっていきます。このことで、労働環境改善も期待できるでしょう。
導入コストがかかるなどのデメリットもありますが、厚生労働省においてICT導入を推奨していることもあり、今後もICTツールを導入する事業所が増えると予想されます。
既にICTによる業務効率化をはかっている事業所については、こちらの記事で紹介しております。合わせてお読みください。
・【教えて!】介護現場のICT化事例5選
介護業界の人手不足はますます深刻になることが予想されます。そうした状況の中、業務効率化は待ったなしの課題となっています。この記事では、ICTとは何か・介護業界における実際の事例・メリットやデメリット・ICT導入支援事業などをご紹介しています。
まとめ
この記事では、介護業界における2040年問題について、具体的な内容と対策について解説しました。
2025年問題とも共通している部分も多い問題ですが、より深刻な状況になることが予想されます。
介護施設の運営や管理も、従来通りでは難しくなる可能性が高いでしょう。現在管理職をされている方や現場リーダー職の方は、このことを強く認識する必要があります。
すでに人手不足により閉鎖する特養や介護施設も現れてきています。
この記事を参考に、今自分たちにできることは何かを考え、1つずつでも実践されてみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者 | 古賀優美子 保有資格: 看護師 保健師 福祉住環境コーディネーター2級 薬機法管理者 保健師として約15年勤務。母子保健・高齢者福祉・特定健康診査・特定保健指導・介護保険などの業務を経験。 地域包括支援センター業務やケアマネージャー業務の経験もあり。 高齢者デイサービス介護員としても6年の勤務経験あり。 現在は知識と経験を生かして専業ライターとして活動中。 |
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