介護現場では人手不足が深刻な問題となっています。
今後さらに要介護者が増えること、人手を確保するのが難しくなることを考えて、経営者側はどのように施設を運営していくのがベストなのか悩んでいる方も多いでしょう。
しかし人手不足を解消したくても、介護保険法であらかじめサービス提供に対する介護報酬が決められているので、人材確保にも限界があります。
そうした状況もあり、サービスの質を維持するためには介護現場の無駄な業務を見直し、業務効率化を進めることが重要です。
この記事では、介護現場の業務効率化の方法を詳しく解説します。
目次
介護現場で無駄な業務を見直し、業務効率化を進める必要性・改善に取り組む目的
業務効率化には、さまざまな方法や手法がありますが、どのような場合においても、目的を明確にしておく必要があります。
なぜ介護現場の業務効率化を行うのか、どのような問題を抱えていて、どのように解決したいのか。
目的を明確にしましょう。
目的が曖昧だったり、誤った取り組み方法では問題の本質を見抜けず、業務効率化が不十分な状態で終わってしまいます。
介護現場の業務効率化に取り組む目的として、次のようなことを目的としていくと良いでしょう。
・人手不足やコストの削減
・社員満足度を向上させる
・生産性の向上
人手不足やコストの削減
作業フローを効率化させたり、ムリ、ムダ、ムラに繋がる業務の停止、重複している作業を改善していくことで、無駄な作業コストを削減することができます。
現場では、今までの業務が当たり前の作業(たとえ手間がかかっていても)となっており、もっと効率的になる状況をイメージできなかったり、非効率だと感じつつも、なかなか意見をいい出しにくい空気感の職場もあるでしょう。
そのような職場環境で働く人の中には、非効率な業務であっても目をつぶり、言われるがままに対応している方もいるかもしれません。
上記に加えて、日本では少子高齢化が進み、働き手がどんどん減少しています。
働き方改革が叫ばれる中、いかに優秀な人材を確保し、会社の発展に繋げていくかが、多くの企業で問われています。
どんなに優秀な人材を確保できても、社員が望まないような労働環境であれば、採用しても離職者が絶えない職場となってしまいます。
そのためにも、非効率な業務を見つけ改善することを続けていくことで、介護サービスの質を高めることに時間を使えるようになります。
また、効率化を進めることで、無駄な残業なども減り、コスト削減にも繋がります。
社員満足度を向上させる
前述の通り、業務効率化を繰り返していくことによって、介護現場での作業効率が向上します。
これにより、介護スタッフが空いた時間を別の業務に充てることができ、本来、力を入れるべき介護業務や営業活動等のサービス品質の向上や売上に直結する業務に時間をかけられるようになります。
また、無駄な作業を省くことで、労働時間も削減できます。
社員にとっても、意味のない残業から解放され、労働環境も改善されます。
これらが改善されることで、仕事への向き合い方も変わります。
社員一人一人のモチベーションも向上し、離職率の低下にも繋がるでしょう。
生産性の向上
ある一定の人に業務が偏っていたり、何らかの理由で作業や業務に停滞が起きてしまうと、サービスや商品の品質低下に繋がります。
品質の低下やムラが原因で利用者様に不信感を与えてしまうと、継続的な利用にも影響が出てしまいます。
これからの時代には大人数で対応する時代ではなく、少ない人数で最大の成果を上げていくことが、求められています。
会社として存続するためにも、生産性を向上させ、利益を生みだしていかなければなりません。
この努力を惜しまず、改善しつづけなければ、企業は生き残れないといっても過言ではないでしょう。
介護現場の無駄な業務を見直し、業務効率化を進める方法
業務効率化を行うことで職場の改善に繋がることが見えてきたと思います。この章では、介護現場での業務効率化を進めるためにやるべきことを解説します。
Step1 業務の内容の洗い出し
まずは介護現場の現状を把握するところから始めましょう。
業務効率化したい業務を一つひとつ棚卸して、確認していくのが分かりやすくおすすめです。
・担当者はだれか
・業務にかかる時間や時間帯、発生頻度
・必要となるスキル / 条件
介護現場の業務内容を洗い出す際にはリーダーだけでなく、スタッフにもヒアリングを行い、一つ一つの業務内容が適切な作業手順となっているかを確認していくことが大切です。
スタッフへのヒアリングをせずに現場の業務効率化を進めてしまうと、業務効率化に取り組んでみたものの、大きな効果を得ることができずに終わってしまいます。
問題だと思われる業務はないか、非効率で時間がかかっている業務はないか、重複して作業している業務はないかというように、さまざまな視点からヒアリングします。
Step2 課題の抽出
現状の把握ができたら、問題点を整理していきましょう。
問題点を整理する上では、次の項目を参考に考えていき、それらの問題点が発生する原因と、対応すべき優先順位も合わせて整理していくと良いでしょう。
・作業工程の中でムダな工程はないか
・同じ作業、似たような作業を繰り返していないか
・作業ムラに繋がっているものはないか
・マニュアルやフローは確立されているか
・属人的な業務となっていないか
非効率的になってしまっている作業には、マニュアルがわかりにくかったり、個人の判断に基づくフローだったりと、ミスが起こりやすい状態が残っている可能性があります。
このような点からも「なぜ」を追求し、根本となる問題点に辿り着けるようにしましょう。
Step3 タスクを作成する(計画を立案する)
課題の抽出が終われば、どのように進めるか、やるべきことは何かを軸として対応方法を設定していきます。
・2重業務を廃止していく
・対応者を変更する
・無駄な工程をなくす
・作業工程を見直す
・デジタルツールの活用
重複する作業をなくしていくだけでも、作業コストを削減できます。
また作業工程の順位を変えるだけでも、効率化できる場合もあります。
業務効率化に有効的な方法の一つとして、デジタルツールの活用が挙げられます。
主にICTソリューションを取り入れることによって業務の簡略化に繋がります。
不足している労働力を補えるだけでなく、既存の労働力を高められるメリットが魅力です。
ICTソリューションを活用したデジタルツールには以下のような方法があります。
・利用者様の記録をスムーズに記録できるソフトウェア
・スタッフ全員に情報共有できるタブレット
・勤務打刻やコミュニケーションツールとしてスマートフォンに連動できるシステム
・介護ロボットの導入
ICTソリューションの導入は、業務を効率化できるのはもちろん、施設サービスの質向上や、利用者様の満足度アップに繋がります。
更にスタッフは働きやすくなることで、仕事へのモチベーションも上がるでしょう。
その施設の理念に沿ったICTソリューションの選定と導入プロセスを検討してみてください。
Step4 実行する
業務効率化のタスクが作成できたら、計画に沿って実行に移しましょう。
定期的に状況を評価、改善していくことも必要です。
効率的に進めるためにも、手順に沿って進めるようにしましょう。
Step5 評価・定着・改善
各タスクを実行した後は、評価・定着・改善というように分析や振り返りを行いましょう。
業務効率は向上したのか、問題は解決したのか、それとも思わしくない結果だったのか、振り返ります。
振り返ることで、今後の方向性が見えてきます。
例えば、想像以上の結果を得られる評価であれば、今後は業務に定着させて実施していくべきか、というように分析できます。
もし、あまり効果を得られない結果であったのならば、更に改善を加えながら業務効率化のフローを回していきます。
このように業務効率化を実施した後は、どのような効果を得られたのか、数値化し、記録していくことも重要です。
具体例:介護事業所で効率化できそうな業務とは?
様々な介護事業所がありますが、介護事業によって効率化できる部分は異なります。
業務効率化を最大限引き出すためには、どんな業務にコストや時間をかけているかを見極めることがポイントになります。
今回は、デイサービスとヘルパーステーションを例に挙げていきます。
デイサービスの業務効率化
デイサービスは、利用者様が体を動かし、心身共に快適に過ごすことが目的となる場所です。
また来たいと思えるような「おもてなし」をすることが大切です。
そのためにデイサービスのパフォーマンスを最大限に活かすためには送迎、レクリエーション、リハビリの準備、記録業務、介護業務などといった、これらの業務を効率的にしていく必要があります。
送迎業務
利用者様に通ってもらうための送迎業務はかかせません。
その中でも重要視しているのが安全性です。
これらの安全性のために、
・自動運転によるドライバーの負担を軽減
・安全に運行するために配車管理表を作る業務
が挙げられます。
当日の最適な巡回ルートを提案してくれるようなことで、業務効率化に繋がります。
レクリエーション業務
レクリエーションは利用者様の心身活性化のために大切な業務です。
スタッフは利用者様が飽きないように、満足度を高められるレクリエーションを毎日考えています。
この部分をICTソリューション化することで、バリエーション豊かなレクリエーションを集められるため、スタッフの業務効率化に繋がるでしょう。
更に様々なレクリエーションを楽しめることで、利用者様の満足度が安定し、デイサービスの稼働率が上がります。
稼働率が上がると営業利益もアップするので、運営も安定するでしょう。
記録業務
デイサービスは元気な利用者様が多いので、目が離せないことも多いです。
また、体調変化にも気を遣わなければいけません。
そのために、利用者様のバイタル、入浴管理、機能訓練メニューといった業務記録を残すことが重要です。
シフト作り
デイサービスのシフト作りは、営業時間に合わせて早出と遅出の勤務にする場合もあります。
そのため、スタッフの人数や配置を考えなければいけないので時間と労力を費やします。
シフト作成ソフトを使用すれば、これまで作成に時間がかかっていたシフトをスムーズに作ることができ、またスタッフ同士の勤務にばらつきがなくなり運営が円滑に進みます。
様々な記録業務を紙からタブレットに変更することによって、業務日誌、介護記録、連絡帳、シフト作りにICTソリューションが連動すると業務効率化に繋がります。
シフト作りに関しては、効率化をするために役立つ自動シフト作成ソフトがあります。こうしたツールを利用する方法もおすすめです。
デイサービス以外の介護施設では、シフト作成に1日~数日など時間がかかっているというシフト管理者の方も少なくないでしょう。シフト作成の負担が減るのは大きな業務効率化といえるのではないでしょうか。
介護業界向け自動シフト作成ソフトについては、以下の記事にまとめていますので、ご参考にしてみてください。
介護現場(ヘルパーステーション)の業務効率化
ほとんどのヘルパーステーションでは、1度のケアにつき1枚の訪問介護記録をとっていることでしょう。
記録された訪問介護記録は自治体のルールに沿って保管しなければいけないので、記録のファイリングや保管方法に時間がとられてしまいます。
そのような業務に対して、ICTソリューションを導入することで大幅な業務効率化に繋がります。
記録業務
ヘルパーステーションの特徴として、1回のサービスについて金額が発生します。
ヘルパーは介護業務だけでなく、記録業務を行うため、残業が発生した場合は事業所の損失にも繋がります。
そのため、ICTソリューションを活用することで、事務的な作業を効率化し、スタッフの働きやすさ、人件費の削減、サービス回数の増加も見込めるでしょう。
また、紙業務からの転記時間やヘルパーから回収した記録用紙をファイリングして保管するという業務からも開放されて、業務効率化の促進を促します。
申し送り業務
ヘルパーステーションでは、登録ヘルパーが直行直帰で利用者様の自宅へ訪問する場合が多いです。
そのため、利用者様の状況などをサービス管理責任者が申し送りを行う必要があります。
連絡手段として、電話、メール、FAXなどを使用します。
この業務をICTソリューションを活用すると、利用者様の情報も集約され、スムーズな情報共有をすることが可能です。
シフト作り
ヘルパーステーションは、スケジュール変更が発生しやすいため、シフト作りは難しいです。
ヘルパーの都合や、利用者様の急な中止などがある場合もあります。
そのため、介護ソフトを導入するとリアルタイムでヘルパーとシフトを共有できるので、その場で急なシフト変更があった場合も安心です。
業務効率化を実現して働きやすさをアピールしましょう。
ヘルパーステーションは施設サービスとは異なり、一般的にヘルパーが利用者様の自宅で1対1で介護を行うサービスです。
そのため、他の事業所と差別化するものがあまりなく、事業所ごとの特色を見つけるのが難しいです。
ICTソリューションを活用することで、業務効率化が実現し、働きやすさをアピールできるので、人材確保に繋がるでしょう。
まとめ
介護現場の業務効率化を実践することで、施設全体のサービス向上や、スタッフの人材確保を見込めます。
ICTソリューションを活用することによって、業務効率化を促進し、介護現場で抱える様々な悩みも解決されるでしょう。
スタッフの業務負担が軽減されることで、利用者様も安心してサービスを受けられます。
スタッフの皆様が働きやすい職場を作るためにも、業務効率化を積極的に進めていきましょう。