高齢者の中には、加齢や疾患、生活環境の変化により「低栄養状態」やそのリスクを抱える方が少なくありません。
特に高齢者の低栄養状態は、身体機能の低下、免疫力の低下、病気の重症化など、様々な健康リスクに直結する深刻な問題につながりかねません。
こうした課題に対応する仕組みが2006年度(平成18年度)に創設された「栄養改善加算」です。
本記事では、栄養改善加算の概要や算定要件、対象者、単位数などをわかりやすく解説します。
目次
栄養改善加算とは
栄養改善加算とは、通所介護などのサービスを利用する高齢者のうち、低栄養状態またはそのおそれがある利用者に対し、管理栄養士が中心となって個別の栄養ケア計画を作成・実施した場合に算定できる介護報酬上の加算です。
この加算制度は、高齢者の低栄養状態がフレイル(虚弱)の主要な原因となることを踏まえ、適切な栄養管理を通じて利用者の身体機能や生活の質の向上を目指すものです。
厚生労働省は、介護報酬改定を通じてこの栄養改善サービスの推進を継続的に図っています。
この加算は、2006年度(平成18年度)の介護報酬改定で新設され、以降、介護現場での栄養管理の質を高める手段として位置づけられてきました。
栄養改善加算の対象施設
栄養改善加算は、主に介護保険における「通所系サービス」を提供する施設が対象となります。具体的には、以下のサービスにおいて算定が可能です。
・通所介護(デイサービス)
・地域密着型通所介護
・認知症対応型通所介護
・通所リハビリテーション
・看護小規模多機能型居宅介護
栄養改善加算の算定要件
栄養改善加算を算定するためには、単に栄養指導を行うだけでは不十分であり、厚生労働省が定める複数の要件をすべて満たす必要があります。
事業所に関する要件
・事業所の従業者または外部との連携により、管理栄養士を1名以上配置していること。
・定員超過利用・人員基準欠如減算に該当していないこと。
利用者へのサービス提供に関する要件
・利用者の栄養状態を利用開始時に把握していること。
・栄養ケア計画に従い、必要に応じて利用者の居宅を訪問して、管理栄養士が栄養改善サービスを行っていること。
・利用者の栄養状態を定期的に記録していること。
・利用者ごとの栄養ケア計画の進捗状況を定期的に評価していること。
・おおむね3月ごとに体重を測定する等により栄養状態の評価を行い、その結果を当該利用者を担当する介護支援専門員や主治の医師に対して情報提供すること。
栄養改善加算の対象者
栄養改善加算の対象となるのは、栄養状態が悪化している、またはそのおそれがある利用者です。
厚生労働省が定める判断基準に基づき、以下のいずれかに該当する利用者が対象となります。
対象者の判断基準(いずれかに該当)
・BMI(体格指数)
18.5未満
・体重減少
過去1~6か月の間に体重が3%以上減少している
・食事摂取量
直近1週間の平均食事摂取量が75%以下
・血清アルブミン値
3.5g/dL以下
・基本チェックリスト(厚労省様式)
No.11(栄養項目)に該当する場合(1~6ヶ月間に3%以上の体重の減少が認められる又は6ヶ月間に2~3kgの体重減少がある)
・その他
医師または管理栄養士が低栄養状態またはそのリスクがあると判断した場合
栄養リスクの高い利用者と判断されやすくなるケース
また、以下のような状態の場合、栄養リスクの高い利用者として支援の必要性が高いと判断される可能性があります。
多職種で適切な判断を行うことが大切となります。
・咀嚼・嚥下機能の低下
・褥瘡(じょくそう)の発生や治癒の遅れ
・認知症による食行動の変化
・抑うつ状態などによる食欲不振
栄養改善加算の単位数
栄養改善加算の単位数は以下となります。令和3年度改定で150単位から200単位に引き上げとなっています。
1回あたりの加算単位数:200単位(改定前は150単位)
算定上限:原則として 3か月以内の期間において月2回まで
栄養改善加算 算定にあたっての留意点
栄養改善加算を算定するにあたり、以下の点などについても留意する必要があります。
・同一利用者に対して、3か月以上継続して算定することは原則認められていません。栄養状態が改善された場合は、計画を終了または見直す必要があります。ただし、低栄養状態が改善せず、栄養改善サービスを引き続き行うことが必要と認められる利用者については、引き続き算定することが可能です。
・他の加算(例:栄養アセスメント加算)との併算定には条件があります。重複算定の可否や優先順位については、介護給付費算定に関する通知を確認する必要があります。
栄養改善加算の取得率の現状と課題
栄養改善加算の全国における取得率は、非常に低い水準にとどまっているのが現状です。
【事業所ベースでの取得率】
・通所介護:0.6%
・地域密着型通所介護:0.2%
・認知症対応型通所介護:0.3%
・通所リハビリテーション:3.1%
【回数・日数ベースでの取得率】
・通所介護:0.0%
・地域密着型通所介護:0.0%
・認知症対応型通所介護:0.0%
この数値を見ると、通所リハビリテーションが3.1%と他のサービスと比較して高い取得率を示していますが、それでも全体的に非常に低い水準であることがわかります。
参考:栄養改善加算の取得率向上のための算定要件の見直しについて
栄養改善加算の取得率が低い背景には、複数の要因が複合的に影響していると考えられます。
管理栄養士の確保の困難さ、算定に高度な専門性が求められること、多職種連携による継続的な栄養管理の実施負担の大きさなどが算定率の低さに影響していると考えられます。
栄養改善加算を算定するための流れ
栄養改善加算を適切に算定するためには、利用者の状態把握から支援、記録・評価までの一連のプロセスを段階的に実施する必要があります。
以下は一般的な算定の流れです。
栄養改善加算の算定プロセス
1.対象者の選定
・初回アセスメントにより、低栄養状態またはそのおそれがある利用者を抽出(BMI、体重変化、アルブミン値などで判定)
2.管理栄養士による評価
・栄養状態の詳細な評価を行い、必要な支援の方向性を検討
・利用者の生活背景・嗜好なども考慮
3.栄養ケア計画の作成
・管理栄養士が中心となって個別の栄養ケア計画を策定
・介護職・看護職・ケアマネジャー等と連携して実現可能な内容を構成
4.栄養改善サービスの実施
・栄養ケア計画書をもとに、利用者ごとに設定したサービスを実施
・必要に応じて利用者の居宅を訪問し実施
5.モニタリングと記録
・支援の効果を定期的に確認し、体重・食事摂取量などの変化を記録
・計画通りの進行が困難な場合は、内容の修正も検討
まとめ
栄養改善加算は、通所介護などを利用する高齢者の栄養状態を改善・維持するために設けられた重要な加算制度です。
2006年度の創設以降、単位数の引き上げといった見直しが行われてきています。
この加算は、管理栄養士の専門的な関与のもと、利用者一人ひとりに合わせた栄養ケアを提供し、生活の質(QOL)の向上を目指す取り組みを評価するものです。
算定に当たり難しさはあるものの、利用者のQOL向上のために重要な算定であるといえるでしょう。
また、栄養改善に関連する加算、栄養アセスメント加算については以下の記事に詳しくまとめています。
この記事の執筆者![]() | シフトライフ編集部 主に介護業界で働く方向けに、少しでも日々の業務に役立つ情報を提供したい、と情報発信をしています。 |
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