介護施設で働くうえで、褥瘡(じょくそう)への対応は重要なケアのひとつです。
寝たきりの高齢者が多い現場では、長時間同じ姿勢でいることによって皮膚や筋肉が圧迫され、血流が悪くなることで褥瘡が生じやすくなります。
褥瘡は一度できてしまうと治癒に時間がかかり、利用者の生活の質(QOL)を大きく損ねてしまいます。こうした課題に対応するため、介護保険制度では「褥瘡マネジメント加算」という仕組みが設けられています。
このような背景から、国は褥瘡の発生予防に積極的に取り組む施設を評価するため、平成30年度の介護報酬改定において「褥瘡マネジメント加算」を創設しました。
令和6年度(2024年度)の介護報酬改定では、従来の発生予防に加えて既に発生していた褥瘡の治癒についてもアウトカム評価の対象となるなど、より実効性の高い制度へと見直されました。
本記事では、褥瘡マネジメント加算の概要から対象施設、算定要件、単位数、計画書の作成方法、LIFEへの提出頻度、取得のメリットなどを解説します。
目次
褥瘡マネジメント加算とは
介護現場での重要な課題のひとつである「褥瘡(じょくそう)」とは、長時間同じ姿勢でいることにより皮膚や組織が圧迫され、血流が滞ることで生じる傷のことです。
特に高齢者や寝たきりの利用者は、褥瘡のリスクが高く、適切な予防・早期発見・ケアが求められます。
こうした背景を受けて、介護保険制度では褥瘡対策を強化するための「褥瘡マネジメント加算」が設けられています。
褥瘡マネジメント加算とは、褥瘡に関するアセスメント・予防計画の策定・評価・記録などの一連のケアを実施し、さらにそのデータをLIFE(科学的介護情報システム)に提出することを要件として、介護報酬に上乗せされる加算のことです。
参考:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について
褥瘡マネジメント加算は、平成30年度(2018年)の介護報酬改定で新設され、科学的介護の推進とともに、褥瘡ケアの質を高めることを目的としています。
令和3年度にはLIFEの本格稼働により、データ提出が加算の算定要件として位置づけられるようになりました。
さらに令和6年度の改定では、評価の質やPDCAサイクルの実践などが重視されるようになり、褥瘡ケアの内容だけでなく、その運用方法にも留意して対応することが大切です。
褥瘡マネジメント加算の目的
・利用者の褥瘡リスクを早期に把握し、予防的なケアを提供する
・医師・看護師・介護職など多職種による連携を強化する
・PDCAに基づく継続的なケアの質改善を実施する
・データ提出により、全国的な介護の質向上に寄与する
褥瘡マネジメント加算の対象施設
褥瘡マネジメント加算の対象となるサービス事業所は以下の通りです。
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
・介護老人保健施設
・介護医療院(褥瘡対策指導管理として評価)
・看護小規模多機能型居宅介護
なお、看護小規模多機能型居宅介護については、令和3年度(2021年)改定から新たに対象に追加されました。
褥瘡マネジメント加算の算定要件
褥瘡マネジメント加算は(Ⅰ)と(Ⅱ)の2つの区分があり、それぞれ以下の要件を満たす必要があります。
褥瘡マネジメント加算(Ⅰ)の算定要件
1.リスク評価の実施
・入所者又は利用者ごとに、施設入所時又は利用開始時に褥瘡の有無を確認するとともに、褥瘡の発生と関連のあるリスクについても評価すること。
・少なくとも3か月に1回評価を実施すること。
・評価結果等を厚生労働省(LIFE)に提出し、褥瘡管理の実施に当たって当該情報等を活用して行うこと。
2.褥瘡ケア計画の作成
リスク評価の結果、褥瘡が発生するリスクがあるとされた入所者等ごとに、医師、看護師、管理栄養士、介護職員、介護支援専門員その他の職種の者が共同して褥瘡ケア計画を作成していること。
3.褥瘡管理の実施と記録
・入所者又は利用者ごとの褥瘡ケア計画に従い褥瘡管理を実施するとともに、管理の内容や入所者等ごとの状態について定期的に記録すること。
4.計画の見直し
・評価に基づき、少なくとも3か月に1回、入所者ごとに褥瘡ケア計画を見直すこと。
褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)の算定要件
褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)の算定要件は以下です。
褥瘡マネジメント加算(Ⅰ)の算定要件を満たしている施設等において、「施設入所時等の評価の結果、褥瘡が発生するリスクがあるとされた入所者または利用者について、褥瘡の発生がない、または入所時に既に存在した褥瘡が治癒した場合」
褥瘡マネジメント加算の単位数
・褥瘡マネジメント加算(Ⅰ):3単位/月
・褥瘡マネジメント加算(Ⅱ):13単位/月
算定の特徴としては以下があります。
・毎月算定可能:(Ⅰ)・(Ⅱ)ともに毎月の算定が可能です(介護医療院を除く)
・併算不可:(Ⅰ)と(Ⅱ)は併算できません
・対象者:(Ⅰ)は原則として入所者全員を対象として算定可能です
褥瘡マネジメント加算 計画書
褥瘡マネジメント加算の算定には、厚生労働省が定める様式に基づく計画書の作成が必要です。
使用する様式
褥瘡ケア計画は、厚生労働省が定める別紙様式5「褥瘡対策に関するスクリーニング・ケア計画書※」を使用します。
参照:令和6年度介護報酬改定について (別紙様式5)褥瘡対策に関するスクリーニング・ケア計画書
計画書の主な項目
1. 基本情報
・利用者氏名、生年月日、要介護度
・評価日、計画作成日
2. 褥瘡の有無
・褥瘡の発生状況の確認
3. 危険因子の評価
・褥瘡発生に関連するリスク要因の評価
・身体状況、栄養状態、活動性等
4. 褥瘡ケア計画
・留意する項目
・計画の内容
・体位変換の頻度
・関連職種が共同して取り組むべき事項
・評価を行う間隔
5. 褥瘡の状態評価(褥瘡がある場合)
・褥瘡の部位、大きさ、深さ等の詳細な評価
作成・見直し頻度
・初回作成:施設入所時または利用開始時
・定期見直し:少なくとも3か月に1回
・随時見直し:利用者の状態変化や計画に実施上の問題がある場合は随時
褥瘡マネジメント加算 LIFE 提出頻度
褥瘡マネジメント加算では、LIFEへの情報提出が必須要件となっています。提出頻度は以下の通りです。
提出期限
利用者等ごとに、以下に定める月の翌月10日までに提出すること。
1.既利用者等:当該算定を開始しようとする月
2.新規利用者等:当該サービスの利用を開始した日の属する月
3.評価実施月:褥瘡の発生と関係のあるリスクに係る評価を行った日の属する月(評価は少なくとも3か月に1回実施)
また、提出できない場合の取扱いは以下となります。
情報を提出すべき月について情報の提出を行えない事実が生じた場合、直ちに訪問通所サービス通知第一の5の届出を提出しなければならず、事実が生じた月のサービス提供分から情報の提出が行われた月の前月までの間について、利用者等全員について本加算を算定できない。
参照:介護保険最新情報 Vol.1216 令和6年3月15日
褥瘡マネジメント加算を取得するメリット
褥瘡マネジメント加算は、介護報酬の上乗せを受けられる制度であると同時に、施設運営加算を通じて得られる付加価値も含めたメリットとしては、以下のようなものがあげられます。
収益面でのメリット
褥瘡マネジメント加算の取得により、施設の収益向上が期待できます。褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)は13単位/月という単位数が設定されており、施設の収益向上に寄与するでしょう。
ケアの質向上
褥瘡マネジメント加算の取得過程で、以下のような効果が期待でき、結果としてケアの質向上につながるでしょう。職員のスキル向上にもつながります。
・多職種連携の強化:医師、看護師、介護職員等の連携によるチームケアの推進
・PDCAサイクルの確立:計画的な褥瘡管理の実施
・利用者の生活の質向上:褥瘡の発生予防による利用者の苦痛軽減
施設の信頼性向上
褥瘡マネジメント加算を取得している施設は、褥瘡予防に積極的に取り組んでいることを対外的に示すことができ、利用者や家族からの信頼獲得につながります。
褥瘡マネジメント加算についてのQ&A
問 104
褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)について、施設入所後に褥瘡が発生し、治癒後に再発がなければ、加算の算定は可能か。
(答)
褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)は、施設入所時に褥瘡の発生するリスクがあった入所者について、褥瘡の発生がない場合に算定可能である。施設入所時に褥瘡の発生するリスクがあった入所者について、入所後に褥瘡が発生した場合はその期間褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)を算定できず、褥瘡の治癒後に再発がない場合は褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)を算定できる。
引用:令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.3)(令和3年3月 26 日)問 104
まとめ
褥瘡マネジメント加算は、平成30年度に創設され、令和3年度の改定でより細分化された重要な加算制度です。
この加算は単なる収益向上の手段ではなく、利用者の生活の質向上と施設のケアの質向上を目的とした制度です。
また、加算の適正な運用には「記録の整備」「提出の確実な実施」「職種間の連携」が不可欠です。
褥瘡は利用者の生活の質に大きく関わる課題です。褥瘡マネジメント加算の算定に取り組むことで、ご利用者への安心・安全なケアの提供にもつなげていきましょう。
この記事の執筆者![]() | シフトライフ編集部 主に介護業界で働く方向けに、少しでも日々の業務に役立つ情報を提供したい、と情報発信をしています。 |
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