さまざまな人と関わりを持つ介護職は、人間関係の悩みを抱えやすい仕事です。この記事をご覧になっている方も、以下のようなお悩みを抱えていませんでしょうか。
「利用者や家族とうまく付き合う方法を知りたい」
「同僚や上司との人間関係を改善したい」
「人間関係が原因で、仕事のモチベーションが下がっている…」
人間関係の悩みを抱え続けるのはつらいことですよね。介護職を楽しみながら続けるためにも、自分にあった対処法を探してみましょう。職場の人間関係を改善したいとお考えの方もぜひご覧ください。
・人間関係に悩みを抱える介護職の統計
・介護職が抱えやすい人間関係の悩みと理由
・人間関係で悩みを抱えたときの対処法
・人間関係の悩みで疲れをためないポイント
入職して間もない新人介護職員の方はこちらの記事もおすすめです。
目次
介護職 職員同士の人間関係に悩みを抱える介護職は多い
「公益財団法人 介護労働安定センター」は、介護にかかわる人々の労働環境の改善などを目的として、平成14年度から「介護労働実態調査」を毎年実施しています。
令和4年度の調査では、介護関係の仕事についていた人に「退職理由」についてアンケート調査を行いました。調査結果の一部がこちらです。
<直前職(介護関係の仕事)をやめた理由>※複数回答
退職理由 | 回答の割合 |
職場の人間関係に問題があったため | 27.5% |
法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため | 22.8% |
他に良い仕事・職場があったため | 19.0% |
収入が少なかったため | 18.6% |
出典:公益財団法人 介護労働安定センター|令和4年度 介護労働実態調査|介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書
調査結果を確認すると、「職場の人間関係に問題があったため」という回答が、全項目の中で最も多いことがわかります。実際に人間関係に悩みを抱える介護職は多いのです。
【具体例】介護職が抱えやすい人間関係の悩みと理由
では、介護職が抱えやすい人間関係の悩みとはどのようなものでしょうか。以下の3つの人間関係を解説します。
・同僚との人間関係
・上司との人間関係
・利用者や家族との人間関係
同僚との人間関係
同僚とは、同じ職場で働く人や地位や役割が同じ人を指します。先輩や後輩も同僚に含まれます。介護職の場合、同じ部署に所属する介護職、看護職、リハビリ職の人が該当するでしょう。
こうした同僚との関係性に悩みを抱える介護職は少なくありません。悩みの具体例を挙げてみましょう。
・先輩介護職からの叱責が厳しい
・年が離れている同僚とのコミュニケーションがうまくいかない
・看護職やリハビリ職と意見が対立してしまう
・ベテラン職員の派閥があって働きにくい
・異業種から転職してきた人と価値観が合わない
介護職は、利用者に品質の高い介護サービスを提供するために、同僚と連携して介護業務にあたっています。連携とは、お互いのスキルや知識を生かして、同じ目標に向かって働きかけることと考えられます。
しかし、お互いの考え方や価値観、介護技術や年齢層などが異なっている場合、そうした連携をとることが困難になってしまうのです。結果的に、人間関係の悩みが生まれやすくなります。
上司との人間関係
上司とは、会社内の地位が自分より上の人を指します。年齢が下の人でも入社年数が自分より少ない人も、上司になり得ます。介護職の場合は、介護リーダーや介護主任といった人が該当するでしょう。
職場に苦手な上司がいると、上司との人間関係に悩みを抱えやすくなります。具体例を挙げてみましょう。
・上司の目が気になって仕事が手につかない
・きついシフトを任された
・注意や叱責が続いてつらい
・指示通りに行動するのがむずかしい
上司は、介護現場の管理を任されており、業務の指示を出したり部下を管理したりする立場です。そのため、部下は基本的に上司の指示に従って業務をこなすことになります。
そこで上司との人間関係がうまくいかないと、部下である介護職は上記のような悩みを抱えやすくなってしまうのです。
利用者や家族との人間関係
介護職は、利用者や家族のために介護サービスを提供しています。入居施設であれば入居者に向けて、通所施設であれば通ってくる人に向けて必要なサービスを提供しているのです。
もしも利用者の拒否にあったり家族からクレームを受けたりすることが続くと「自分のやり方に間違いがあるのかな」「どうして受け入れてもらえないのかわからない」と感じてしまうため、悩みを抱えやすくなります。
主な悩みの原因がこちらです。
・介助しようとしても拒否される
・自分にだけ態度が冷たい
・何度もクレームが入る
【場面別】介護職が人間関係の悩みを抱えたときの対処法11選
介護職が人間関係の悩みを抱えたときの対処法について、3つの場面別に解説します。
・同僚や職員同士の人間関係がうまくいかないとき
・上司との人間関係がうまくいかないとき
・利用者や家族との関係がうまくいかないとき
ご自身の状況と照らし合わせながら、取り組めそうな項目を探してみましょう。
介護現場で同僚や職員同士の人間関係がうまくいかないとき
同僚との人間関係がうまくいかないときの対処法がこちらです。
・挨拶や感謝の言葉を伝える
・仕事中は協力的な姿勢で接する
・相手の立場から考えてみる
・仕事と割り切って業務に意識を向ける
それぞれ具体的に解説します。
挨拶や感謝の言葉を伝える
挨拶や感謝の言葉を相手に伝えていくと、関係性の改善を期待できます。
感謝の言葉をかけられて、嫌な気持ちになる人はいません。仕事を手伝ってもらうことがあれば、「ありがとうございます」と積極的に感謝の言葉を伝えましょう。
可能であれば、笑顔も心がけてみてください。相手によい印象を持ってもらえるはずです。
仕事中は協力的な姿勢で接する
就業時間の間は、できるだけ協力的な姿勢で接するよう心がけましょう。相手が困っている様子のときは、「何か手伝いましょうか?」と声をかけてみてください。
この対処法には、同僚をサポートすることで全体の業務が早く終わるというメリットもあります。
自分の業務を後回しにして協力してしまうと、自分の負担が大きくなります。自分の持ち場を確認して、無理のない範囲で相手に協力しましょう。
相手の立場から接し方を考えてみる
相手の立場から接し方を考えてみると、相手を尊重した言動につながります。
例えば、忙しそうにしている同僚に話しかけるときは、「忙しいところすみませんが…」とクッション言葉を使ってから用件を話すだけで、相手の印象は大きく変わるでしょう。
また、同僚に何かを指摘するときでも、「〇〇さんの対応に間違いがあります」と、いきなり指摘すると角がたってしまいます。
そこで、クッション言葉を使ってから話を続けると、相手は話を聞く準備ができるため、人間関係の改善につながるのです。
「実は、A利用者の対応で気になる点があるのですが…」
「〇〇さんの対応についてお聞きしたいことがあるのですが…」
仕事と割り切って業務に意識を向ける
業務に意識を向ける方法には2つのメリットがあります。
・相手を気にする時間を減らして人間関係で頭がいっぱいにならずに済む
・目の前の仕事に集中して仕事のミスを予防できる
目の前の仕事に集中して取り組むことで、質の高い介護サービスを提供できるようになるでしょう。結果的に利用者に喜ばれることが増えるはずです。
具体的な取り組み方がこちらです。
・利用者が楽に動けるように、一つひとつの介助動作に意識を向ける
・室温や湿度など環境整備に意識を向ける
・目の前の利用者との会話に意識を向ける
・今、自分がやるべきことに意識を向ける
自分の考え方や行動を変えてみる
自分の考えや行動を変えてみる方法もおすすめの対処法です。
例えば、いつもより声を大きくして話してみたり積極的に話しかけてみたりと、自分の行動を変化させると、周りの印象が変化します。印象が変化すれば、関係性を改善するきっかけになります。
また、1日に取り組んだことや達成したことについて、小さなことからノートに書き出す方法も自己肯定感を高めてくれるでしょう。
自分にできることから少しずつ取り組んでみましょう。
上司との人間関係がうまくいかないとき
上司との人間関係がうまくいかないときは、同僚との関わりと異なる対処法が必要です。3つの対処法を解説します。
・自分の考えや思いを冷静に伝える
・介護職同士で悩みを打ち明ける
・過剰な叱責やハラスメントに注意する
自分の考えや思いを冷静に伝える
自分の考えや思いを上司に伝えることで、自分にあった指示や指導に切り替えてもらえる可能性が高まります。
「仕事で大切にしていること」「普段から心がけていること」「今後どのように働いていきたいか」といった項目を伝えて、上司が持っている自分に対する理解を深めてもらいましょう。
上司に話をするときのポイントは、冷静に伝えるよう心がけることです。感情的に話をすると、相手も冷静に話を聞けなくなります。事前に伝えたい内容をメモしておき、その場でメモを確認しながら話して構いません。
大切なことは、自分の思いや考えを相手に伝えることです。
同僚に悩みを打ち明ける
同僚に悩みを打ち明けると、上司との人間関係について相談できるようになります。
「上司の機嫌を悪くしないコツってある?」「上司とうまく付き合うコツは?」と質問すれば、客観的な立場からアドバイスをもらえるかもしれません。
同じような境遇の人に相談することで、1人で悩むときより心が大きく軽くなるのを実感できるはずです。
上司の悪口や愚痴は、本人の耳に入る可能性があります。口が硬そうな同僚、信頼できそうな同僚を選ぶように心がけましょう。
過剰な叱責やハラスメントに注意する
過剰な叱責やハラスメントは、体調を崩す原因になるため注意が必要です。ハラスメントには、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなどの種類があります。
万が一、直属の上司あるいは先輩職員からの過剰な叱責やハラスメントに悩んでいる場合は、その上の立場の人に相談したり外部の相談窓口に連絡したりして、自分自身を守る行動を選択しましょう。
利用者や家族との関係がうまくいかないとき
利用者やその家族との関係がうまくいかないときの対処法がこちらです。
・自分の言動を振り返る
・上司や同僚に相談する
・知識やスキルを身につけて対応する
自分の言動を振り返る
はじめに自分の言動や態度を振り返ってみましょう。なぜなら、自分の対応に問題がある場合、問題点を改善するだけで関係性を改善できるからです。振り返ってみて思い当たることがなければ、上司や同僚に相談して客観的なアドバイスを求めましょう。
上司や同僚に相談する
上司や同僚に相談すると、客観的なアドバイスを受けられます。自分では気づかない点を指摘してもらえたり解決のヒントを得られたりします。
また、相談することで「今こんなことで悩んでいるんだね」と周りに認知してもらえます。その後の利用者や家族との関わりの場面でも、上司や同僚のサポートを期待できます。
知識やスキルを身につけて対応する
介護の専門知識やスキルを身につけて、自分自身がレベルアップする対処法も有効です。
例えば、認知症の利用者さんの対応に困っている場合は、認知症の種類や種類別の対処法を学ぶことで、適切な対応をとれるようになるでしょう。身につけた知識やスキルは、介護職としてのステップアップにも役立ちます。
介護職が人間関係の悩みで疲れをためないポイント
人間関係の悩みが原因で、不安や緊張が続けば、誰でも疲れてしまいます。ここからは、人間関係の悩みで疲れをためないポイントをみていきましょう。
趣味や運動でストレス解消する機会を持つ
自分の趣味に没頭したり運動で汗を流したりすることで、ストレスを解消する機会を持ってみましょう。
好きなことに没頭すれば、人間関係の悩みから離れる時間を持てます。運動で汗を流せば、適度に体が疲れるため、睡眠がより良質なものになるでしょう。
仮に毎日10分だけ取り組んだとしても、1週間継続すれば70分、1ヶ月であれば約300分(5時間相当)になります。少しずつでもできることからはじめてみましょう。
愚痴や不満を誰かに話を聞いてもらう
人間関係で悩むケースでは、理不尽な思いをする場面もあるかもしれません。そんなときは、愚痴や不満をためずに誰かに聞いてもらいましょう。
抱えていた思いを吐き出せれば、スッキリした気分を味わえるはずです。仲のよい友人や知人、家族、恋人など話を聞いてくれる人に、「少しでもいいから時間をつくってほしい」と伝えてみましょう。
転職や異動願いの提出を検討する
今の会社や現場にとどまることが、自分にとって大きな負担になるケースもあります。そんなときは、転職や異動願いの提出を検討して、現在の環境から離れることを検討しましょう。
異動願いとは、同じ会社の中で違う部署への配置転換を希望することを指します。直属の上司や管理者へ事前に相談した上で、異動願いを提出する方法が一般的です。
部署異動の可否は、最終的に会社側が決定するため、必ず実現するわけではありません。しかし、異動願いが受理された場合、現在の環境から離れられます。
異動の理由については、「人間関係に問題がある」といった理由よりも、「介護職としてキャリアを積みたい」「別の現場で経験を積みたい」といった理由の方が受理されやすい。
介護職が人間関係の悩みを改善できた実例
ある介護職Aが、利用者Bさんとの人間関係の悩みを改善できた実例を紹介します。
性別:男性
年齢:25歳
勤め先:デイサービスセンター
利用者Bさん
年齢:80歳
性別:男性
性格:会社の経営者を務めていたため、年下の男性に厳しくあたる。難聴のため、話し声が大きくなりがち
専門学校卒業後、民家を改築した小規模のデイサービスセンターに勤めた介護職A。
入職した先で、利用者Bさんとの関係性に悩みを抱えていました。
介護職Aは、Bさんから「気遣いが足りない」「言葉遣いがなっていない」と接するたびに大きな声で叱責されていました。その結果、次第にBさんと接することが苦痛になり、出社前は憂うつな気持ちが続くことに。
そこで、介護職Aは以下の対処法を行いました。
・Bさんとの関係性や悩みについて同僚や上司に相談した
・同僚や上司からのアドバイスをノートにまとめて参考にした
・スポーツジムで筋トレや水泳を行い気分転換を図った
同僚や上司に悩みを打ち明けたことで、介護職AとBさんが接する場面では、上司や同僚がフォローしてくれるようになりました。
また、アドバイスをまとめたノートを活用したりイライラしたときは運動で汗を流したりして、落ち込まないための工夫も実施。
その後、Bさんとの関係性は少しずつ改善され「よく、頑張ってるな」と声をかけられるようになりました。
まとめ
介護施設では、職員同士あるいは職員と利用者の間で密なコミュニケーションを持つ機会が数多く存在します。
同じ介護職でも、年齢、性別、価値観、考え方などが異なるため、すべての介護職が円満な人間関係を築くことはむずかしいのかもしれません。
しかし、対処法を実践したり悩みに押しつぶされないように自分の行動に気をつけたりすることで、自分らしい介護職としての過ごし方を身につけることは可能です。
本記事が、人間関係に悩みを抱えた方にとって、無理のない自分らしい働き方の参考になれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事の執筆者 | 千葉拓未 所有資格:社会福祉士・介護福祉士・初任者研修(ホームヘルパー2級) 専門学校卒業後、「社会福祉士」資格を取得。 以後、高齢者デイサービスや特別養護老人ホームなどの介護施設を渡り歩き、約13年間介護畑に従事する。 生活相談員として5年間の勤務実績あり。 利用者とご家族の両方の課題解決に尽力。 現在は、介護現場で培った経験と知識を生かし、 Webライターとして活躍している。 |
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