介護の現場では、利用者との信頼関係を築き、安心してもらうためのコミュニケーションがとても大切です。
中でも、言葉だけに頼らず、表情や声のトーン、姿勢などで気持ちを伝える「非言語コミュニケーション」は、日々のケアを支える重要な要素です。
利用者の中には、言葉の理解や発話が難しい方もいらっしゃるでしょう。そうした方々と関わる際には、非言語コミュニケーションを用いた細やかな配慮はとても大切です。
また、職員同士の連携やチームワークを支えるうえでも、非言語コミュニケーションは欠かせません。
この記事では、介護現場でも重要性が高い、非言語コミュニケーションの重要性や具体的な種類、活用例を分かりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
非言語コミュニケーションとは
非言語コミュニケーションとは、言葉を使わずに気持ちや意思を伝える手段を指します。
ノンバーバルコミュニケーションとも呼ばれ、視覚や聴覚、触覚など、五感を通じて行われるコミュニケーションです。
具体的には以下のようなものです。
・表情
・視線
・身ぶり手ぶり
・声のトーン
・身だしなみ
などが含まれ、私たちは日常の中で無意識にこれらを使って、言葉以上に多くの情報を相手に伝えています。
介護現場では、利用者の状態や認知機能に応じて、言語だけでは意思疎通が難しい場面も少なくありません。
そうしたときにこそ、この非言語コミュニケーションが信頼関係や安心感を築くために役立ちます。
言語コミュニケーションとの違い
言語コミュニケーション(バーバルコミュニケーション)は、「言葉そのもの」の意味で情報を伝える方法です。
一方、非言語コミュニケーション(ノンバーバルコミュニケーション)は、「言葉以外」の要素で感情やニュアンスを伝えます。
心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」によると、人がコミュニケーションで受け取る情報のうち、言語情報はわずか7%に過ぎないといいます。
残りの93%は、聴覚情報(声のトーンや話し方)が38%、視覚情報(表情や身振り)が55%を占めています。
これは、「言葉と表情・声が一致しない場合」に、どの要素を重視するかを調べたもので、すべてのコミュニケーションがこの割合になるわけではありません。ただ、参考にすることはできるでしょう。
コミュニケーションを円滑に取るためには、言葉以外の要素がとても重要だということが分かります。
特に介護の現場では、利用者の認知機能に合わせたコミュニケーションが必要です。
たとえば、言葉では「大丈夫です」と言っていても、表情や声のトーンから不安を感じ取ることができることもあるでしょう。
非言語には本音や感情が表れやすいものです。
介護現場では、こうした特性を理解し、意識的に非言語コミュニケーションを活用することで、より良いケアにつなげることができるでしょう。
介護現場における非言語コミュニケーションの重要性
介護の現場では、なぜ言葉以外のコミュニケーションが特に重要なのでしょうか。
例えば、次のようなことが挙げられます。
・信頼関係の構築
・高齢者の聴力・認知機能低下への対応
・言語の補完
・利用者の状態変化の早期発見
これらについて、具体的に見ていきましょう。
信頼関係の構築
穏やかな表情や優しい眼差し、笑顔は、利用者に「受け入れられている」という安心感を与えるでしょう。
言葉だけでなく、態度や表情で寄り添う姿勢を示すことで、利用者は心を開きやすくなり、信頼関係の土台を築くことにつながります。
特に初対面の利用者や、人見知りをする方に対しては、温かい笑顔や優しい声のトーンが警戒心を和らげる効果があります。
介護現場では、この最初の印象が、その後のケア全体の質を左右することも少なくありません。
高齢者の聴力・認知機能低下への対応
加齢に伴う聴力の低下や、認知症によって言語理解の困難さがある利用者もいらっしゃるでしょう。
その場合、言葉だけの説明は伝わりにくい場合があります。
このような状況では、身振り手振りや表情、実物を見せるなどの非言語コミュニケーションが、意思疎通を助ける有効な手段となります。
例えば、「お薬を飲みましょう」と言葉で伝えるだけでなく、薬を手に持って見せながら、飲む動作をジェスチャーで示すことで、より確実に意図が伝わります。
言語の補完
非言語コミュニケーションは、言葉に感情や温かみを添え、伝えたい意図をより正確に、豊かに表現する役割を果たします。
例えば、同じ「ありがとう」という言葉でも、笑顔で言うのと無表情で言うのでは、相手に与える印象は全く違ってきますよね。
介護現場では、利用者に感謝を伝える場面や励ましの言葉をかける場面が多くあります。
そのような時に、表情や声のトーンを意識して伝えることで、相手により深く気持ちが伝わるでしょう。
利用者の状態変化の早期発見
言葉に表れない体調不良や心理的な不調は、表情の曇り、目の動き、姿勢の変化といった非言語のサインに現れることがあります。
例えば、表情が険しい、ため息が多い、いつもと姿勢が違う、といったことは「痛い」「苦しい」と言葉で訴えることが難しい利用者の小さな変化かもしれません。
こうしたサインに気づける力は、体調不良や精神的な不安の早期発見・対応につながります。
介護現場で重要な非言語コミュニケーションの種類
非言語コミュニケーションにはさまざまな種類があります。
介護現場で特に意識したい非言語コミュニケーションを
「視覚」
「聴覚」
「触覚」
の3つに分けて、それぞれ具体的な要素を解説します。
視覚的コミュニケーション
前述した「メラビアンの法則」によると、人がコミュニケーションで受け取る情報の55%を占めるのが視覚情報です。
ここでは、視覚的コミュニケーションについて、詳しく見ていきましょう。
表情
穏やかな笑顔は、安心感や親しみを与える最も基本的な非言語表現です。
逆に、不機嫌な顔や無表情は、相手を不安にさせてしまいます。
ただし、状況に応じて相手の感情に合わせた共感的な表情も大切です。
利用者が悲しんでいる時に無理に笑顔を作るのではなく、その気持ちに寄り添う優しい表情を心がけるようにしましょう。
視線・アイコンタクト
相手の目を見ることは、「あなたの話をちゃんと聞いています」というメッセージになります。
介護現場においては、利用者との目線の高さを合わせることも大切ですね。
ただし、じっと見つめすぎると威圧感を与えてしまいかねません。適度に視線を外しながら、自然なアイコンタクトを心がけましょう。
身だしなみ・外見
介護職員の清潔感ある服装や髪型、爪の手入れなどは、無意識のうちに相手に安心感や信頼感を与えます。
身だしなみや外見も、「非言語メッセージのひとつ」として意識することが大切です。
姿勢・ボディランゲージ
次のように、利用者に対して共感や受容を示す姿勢が重要です。
・少し前傾姿勢で話を聞く(傾聴の姿勢)
・腕組みや足組みをしない(受容の姿勢)
・頷きながら聞く(共感の姿勢)
逆に腕を組んだり、背中を向けるといった動きは、拒否や閉鎖的な印象を与えてしまいますので、注意が必要です。
聴覚的コミュニケーション
聴覚的なコミュニケーションも重要です。
コミュニケーションを取る際には、声のトーンや大きさ、話すスピードなどに気を付けながら、利用者お一人おひとりの状態に合わせることが大切です。
声のトーン・音量
高すぎず、低すぎない、落ち着いた優しいトーンを意識しましょう。
耳が遠い方には、大きな声ではなく、少し低めの声で、はっきりと話すことが効果的です。
ただし、全員が耳が遠いわけではありません。
利用者お一人おひとりの聴力の状況を把握し、相手の状態に応じた調整が必要です。
話すスピード
利用者が理解しやすいように、ゆっくりとしたペースで話すことが大切です。
特に認知症の方や聴力に問題がある方には、一つひとつの言葉を区切って、丁寧に話すようにしましょう。
早口にならず、ゆっくりとしたペースで話すことで、相手の理解を助けるとともに、落ち着いた雰囲気を作ることができます。
触覚的コミュニケーション
適度なスキンシップは安心感を持っていただくことにもつながり、大切なコミュニケーションとなります。
意識してコミュニケーションを取ることで、利用者との信頼関係構築にも役立つことでしょう。
適切なスキンシップ
不安を和らげるために優しく背中をさする、手を添える、励ます際に肩にそっと触れるなど、適切なスキンシップは心の距離を縮める効果があります。
ただし、相手が不快に感じていないかどうか、常に配慮が必要です。
距離感の調整
相手との物理的な距離も非言語メッセージになります。
近すぎると威圧的になり、遠すぎるとよそよそしい印象を与える傾向があります。
距離感には個人差がありますから、相手の反応を見ながら適切な距離を把握するように心がけましょう。
【状況別】介護現場における非言語コミュニケーションの具体例
実際の介護シーンを想定し、対象者や状況に応じた具体的なコミュニケーション方法を解説します。
認知症の方とのコミュニケーション例
認知症の方とのコミュニケーションでは、以下のポイントを意識するとよいでしょう。
・正面から近づき、相手の視界に入ってから話しかける
・同じ目線の高さになるように、膝をかがめて話す
・穏やかな表情と優しい声のトーンを常に心がける
・動作を一つひとつゆっくりと見せながら介助する(例:歯ブラシを見せてから歯磨きをする)
・手を握る、肩に触れるなどの優しいスキンシップで安心感を与える
認知症の方は、言葉の意味は理解できなくても、相手の感情や雰囲気は敏感に感じ取ります。
そのため、焦らず、穏やかな気持ちで接することが何より大切です。
聴覚に障がいのある方とのコミュニケーション例
聴覚に障がいのある方とのコミュニケーションでは、視覚的な情報が特に重要になります。
・口の動きが読み取れるように、はっきりと、少し大きめに口を開けて話す
・身振り手振りやジェスチャーを積極的に使う
・筆談やコミュニケーションボードを活用する
・表情を豊かにして、感情を伝えやすくする
・相手の正面に立ち、顔がよく見える位置で話す
また、簡単なジェスチャーや指差しなどを組み合わせることも、意思疎通に有効です。
感情的になっている方への対応例
利用者が興奮状態にある時や感情的になっている時は、以下のような対応を心がけましょう。
・まずは相手の話を遮らずに、頷きながら最後まで聞く(傾聴)
・相手の正面に立つのではなく、少し斜めに座ることで威圧感を和らげる
・落ち着いた声で、「そうだったのですね」と共感の姿勢を示す
・適切な距離を保ちながら、安心できる環境を作る
感情的になっている方に対しては、こちらも感情的にならないことが大切です。
冷静で穏やかな態度を保つようにしましょう。
非言語コミュニケーションは介護職員同士でも重要
非言語コミュニケーションは、利用者との関係だけでなく、介護職員同士の円滑な連携やチームワークを築くうえでも重要な役割を果たします。
現場は常に多忙といえますが、そうした中でも笑顔での挨拶やアイコンタクト、頷きなどを職員同士が実践することで、職場の良好な雰囲気につながります。
チームワークも向上し、円滑な情報共有もしやすくなるでしょう。結果として提供するサービスの質向上につながります。
意識せずに実践されている介護職員の方も多いと思いますが、非言語的コミュニケーションを意識してみることで、より円滑なコミュニケーションが取れるようになるでしょう。
介護職員の離職理由として「職場の人間関係」が多くを占めます。
過剰に意識するのはよくありませんが、非言語的コミュニケーションも含めて、職員同士が円滑なコミュニケーションが取れる雰囲気を作ることは、定着率向上のためにも重要なことだといえます。
最新の動向としては、ICTや福祉機器を活用したコミュニケーションを取り入れる介護施設も増えつつあります。
コミュニケーションツールとして取り入れるケースもありますが、業務改善を行い、時間を創出する効果が得られる現場も増えています。
以下の記事で介護・福祉現場のICT化の活用事例をまとめていますので、ご覧になってみてください。
まとめ
介護現場において、非言語コミュニケーションは言葉以上に利用者の心に寄り添い、信頼関係を築くための重要なスキルです。
表情、視線、声のトーン、適切なスキンシップなど、意識できることからぜひ始めてみてください。
メラビアンの法則が示すように、私たちが相手に与える印象の大部分は、言葉以外の要素によって決まります。
特性を理解し、意識的に非言語コミュニケーションを活用することで、利用者との関係性をより深いものにすることができるはずです。また、介護職員同士の連携や職場環境の改善にもつながるでしょう。
非言語コミュニケーションを意識し、実践することは、結果として介護の質を高め、介護職としてのやりがいにもつながっていくはずです。
ぜひ今回ご紹介した非言語コミュニケーションを実践してみてください。
この記事の執筆者![]() | シフトライフ編集部 主に介護業界で働く方向けに、少しでも日々の業務に役立つ情報を提供したい、と情報発信をしています。 |
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