「勤務間インターバル制度とはどのようなものか?」
「勤務間インターバル制度は義務化されるのか?」
「勤務間インターバルを導入するメリットとは?」
このように考えている、管理職や経営者の方も多いのではないでしょうか?
ひと言でいうと、勤務間インターバル制度は、労働者の健康やワークライフバランスを守るためのものです。
この記事では、勤務間インターバルとはどういったものか、義務化はいつからなのか、制度を取り入れる効果、および課題について解説します。
勤務間インターバル制度導入のための助成金制度についても紹介していますので、ぜひご参考にしてみてください。
目次
勤務間インターバル制度とは
勤務間インターバル制度とは、勤務終了時から次の勤務開始時までの間に、一定の休息(インターバル)時間を設ける制度です。
休息時間として国が推奨しているのは、9~11時間程度です。
インターバルを設ける方法としては、主に以下のようなものがあります。
・残業した場合、翌日の勤務開始時刻を繰り下げる
・一定時刻以降の残業を禁止する
・始業時間前の勤務を禁止する
なお、勤務時間の中に通勤時間は含まれません。この点を覚えておきましょう。
勤務間インターバル制度は、労働者が働くにあたって、一定の休息時間を確保することにより、労働者の健康やワークライフバランスを守るためのものです。
勤務間インターバル制度が導入された背景
勤務間インターバル制度が導入された背景としては、時間外労働や長時間労働による問題があります。
時間外労働は長時間労働につながるものであり、その結果として問題視されてきたものが、労働者の健康状態悪化や過労死です。
また、長時間労働による過労は、メンタル不調による休職や過労自殺にもつながります。
厚生労働省が2021年(令和3年)6月に発表した、令和2年度「過労死等の労災補償状況」によると、過労死等による労災請求件数は2,835件でした。
(脳・心臓疾患に関する事案が784件、精神障害に関する事案が2,051件)
このうち、実際に労災の支給が決定されたのは802件でした。
(脳・心臓疾患に関する事案が194件、精神障害に関する事案が608件)
詳しくは、下記の図をご覧ください。
特に精神障害に関する事案にて、労災申請や支給決定が多い状況です。長時間労働による健康被害や過労死等の問題が明らかになっていることから、2021年9月に過労死認定基準が約20年ぶりに見直されました。
この基準では「労働時間以外の負荷要因」として、勤務間インターバルが短い勤務や、休日のない連続勤務があげられています。このような状況が背景となり、勤務間インターバル制度が導入されました。
2019年度から勤務間インターバル制度が努力義務化
2019年4月から、勤務間インターバル制度が努力義務化されました。根拠となっているものは、「労働時間等設定改善法」(労働時間等の改善に関する特別措置法)の改正です。
なお、この制度は努力義務なので、制度を導入しなくても罰則はありません。
勤務間インターバル制度の導入により期待される効果
勤務間インターバル制度の導入により期待される効果として、以下の3つがあげられます。
・残業時間の削減
・生産性向上
・採用力の向上
それぞれ解説します。
残業時間の削減
勤務間インターバル制度導入により、1日の労働時間はおのずと決まってきます。インターバル時間を守ることは、結果として残業時間の削減、ひいては長時間労働の改善につながるでしょう。
残業時間の削減は次の勤務開始までのインターバルを確保することにつながり、従業員がしっかり休息を取れることで、健康維持に役立ちます。
生産性向上
勤務間インターバル制度導入により労働者が充分に休息をとることで、健康状態の維持・改善がはかられ、作業効率向上が期待できます。疲労が蓄積すると作業効率が落ち、ミスも生じやすくなってしまいます。
労働者一人ひとりの作業効率が上がることにより、企業全体の生産性向上も期待できるでしょう。
採用力の向上
厚生労働省が2023年に発表した、「令和5年就労条件総合調査の概況」(P10)によると、勤務間インターバル制度を導入している企業は全体の6%でした。
令和4年では5.8%、令和3年では4.6%であったため、少しずつ増えてきていますが、勤務間インターバル制度を導入している企業はまだまだ少数といえるでしょう。
そのため、現在導入中の企業および今後導入する企業は、他社よりも働きやすい環境であるというブランディングができます。
「勤務間インターバル制度が導入されており、働きやすい環境である」と認知されることで、企業の採用力向上につながるでしょう。
勤務間インターバル制度の課題
さまざまな効果が期待できる勤務間インターバルですが、実施にあたっては以下のような課題があります。
・インターバル時間確保のために人員増が必要になる可能性がある
・交代制勤務の職場は特にシフト調整が難しくなる
・システムの導入費用がかかる
・労働者の理解と協力が必要である
それぞれ解説します。
インターバル時間確保のために人員増が必要になる可能性がある
労働者一人ひとりあわせてインターバル時間を確保すると、特にシフト勤務の職場において、状況によっては業務時間内の従業員数が極端に減ってしまう可能性もあります。
業務時間内の空白を回避するためにも、人員増加が必要になる可能性も少なくありません。
人員の増加は、給与や福利厚生費などの追加による人件費増加にもつながります。結果として、企業の支出増になることも課題です。
交代制勤務の職場は特にシフト調整が難しくなる
交代制勤務の職場には、日勤や夜勤、早番、遅番といったシフトがあり、始業時間と終業時間が全員一律ではありません。そのため、毎月のシフト表が作成されています。
勤務間インターバルを導入すると、「夜勤のあとに日勤」、「日勤後の夜勤」といったシフトが困難になります。そのため、シフト調整が今まで以上に難しくなるでしょう。
システムの導入費用がかかる
勤務間インターバル制度を導入すると、従業員の出勤退勤時間、および休日管理が今までより複雑になる可能性が高まります。
そのため、従来使用していた勤怠管理システムではなく、より正確に管理できる新たなシステムを導入するケースもあるでしょう。新システム導入には、一定の費用がかかってしまうため、支出増は避けられません。
その際、システム導入費用の負担軽減の一助になるものが、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)です。助成金の支給対象は、一定の条件を満たした中小企業事業主です。
支給対象になる取り組み例を以下に示しました。
・労務管理用のソフトウェア導入および更新
・労務管理担当者への研修
・外部専門家によるコンサルティング
・人材確保に向けた取り組み
・就業規則および労使協定などの作成および変更
支給対象となる取り組みを行う際には、成果目標の達成を目指す必要があり、支給額も目標達成状況によって異なります。
詳しくは、働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース) |厚生労働省をご覧ください。
労働者の理解と協力が必要である
勤務間インターバル制度は、労働者の勤務時間に直結する制度です。
残業時間を減らせるというプラス面もありますが、「残業が減ったために仕事の進みが遅くなった」という不満の声が出る可能性もゼロではありません。
退勤時間によっては、急きょ翌日の勤務時間が変更されてしまい、仕事のスケジュール変更を余儀なくされる場合もあるでしょう。勤務時間が複雑になることに対して、不安や不満が続出するケースも予想されます。
勤務間インターバルは新しい制度であるため、定着するまで時間がかかる可能性が高く、従業員への理解や協力を求める必要もあるでしょう。従業員に対しても、充分に理解・協力してもらえるように、ていねいな周知およびサポートが必要です。
勤務間インターバル制度の義務化はいつから?
勤務間インターバル制度の義務化時期は、現段階では未定です。
「過労死等の防止のための対策に関する大綱」によると、以下のような数値目標が定められています。
令和7年(2025年)までに、勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満とする。
令和7年(2025年)年までに、勤務間インターバル制度を導入している企業割合を15%以上とする。
引用元:厚生労働省東京労働局|勤務間インターバル制度をご活用ください
この目標から、「2025年頃に義務化されるのでは?」ということも予想されます。
まとめ
この記事では、勤務間インターバル制度について解説しました。
勤務間インターバル制度は、過労死問題やワークライフバランスの確保などが背景となって生まれたものであり、介護業界を含むすべての企業に関係するものです。
導入効果が大きい制度ではありますが、課題もゼロではありません。しかし、勤務間インターバル制度は、働き方改革に関係して、国が導入に向けての支援を進めているものです。
法的な義務化については未定ですが、義務化の有無に関わらず導入の拡大が求められている制度といえるでしょう。
24時間シフト勤務で働く職場などでは、勤務間インターバル制度の導入にはハードルがあるといえますが、少しでも職員が働きやすい環境づくりの一環として、勤務間のインターバルが少しでも確保しやすくなるように正循環シフトの作成に取り組むなどは必要だといえるのではないでしょうか。
シフト作成が難しい場合には、シフト作成ソフトを利用する方法もおすすめです。介護業界向けのシフト作成ソフトは以下の記事でご紹介しています。合わせてご覧ください。
この記事の執筆者 | 古賀優美子 保有資格: 看護師 保健師 福祉住環境コーディネーター2級 薬機法管理者 保健師として約15年勤務。母子保健・高齢者福祉・特定健康診査・特定保健指導・介護保険などの業務を経験。 地域包括支援センター業務やケアマネージャー業務の経験もあり。 高齢者デイサービス介護員としても6年の勤務経験あり。 現在は知識と経験を生かして専業ライターとして活動中。 |