みなさんは「拘縮」という言葉を耳にしたことはありますか?
拘縮とは、関節が固く動きにくくなった状態のことで、体を動かす機会が少なくなると起こる症状です。
介護施設などでは、拘縮によって動きにくいことに悩む利用者に出会うことは少なくありません。
また、拘縮は利用者本人も体が動きにくく、しんどくなることはもちろん、介護を行う家族や介護職員も負担が大きくなります。
しかし、拘縮はポジショニングをはじめとするケアをしっかりと行うことで、予防を図ることもできます。
今回は、拘縮について説明するとともに、介護現場での予防やケアのポイントなどを解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。
目次
拘縮とは

拘縮の正式名称は「関節拘縮」といい、筋肉、皮膚、靭帯などの組織や関節そのものの問題で動かせる範囲が狭まる症状のことを言います。
拘縮が悪化すると、褥瘡、呼吸障害、誤嚥性肺炎など様々な疾患などのリスクが高まります。
拘縮の原因、発生しやすい状況
拘縮は、関節の動きが制限される状態のことを言います。
拘縮の原因は筋肉や腱、靭帯などの関節周囲の軟部組織が固くなったり、短縮したりすることで起こります。
寝たきりなど、体を動かすことが少なくなると、拘縮が起こりやすくなります。
拘縮の症状
拘縮は、関節可動域の減少や痛みを引き起こします。
その結果として、立ち上がり動作や歩行などの基本動作、衣服の着脱や入浴などの日常生活動作に支障をきたすこととなります。そのため、拘縮のケアや予防をすることが重要になります。
拘縮しやすい関節とは

関節拘縮は、ベッドで寝たままの臥床傾向の方にみられることが多いです。
そのため、仰向きで背中を伸ばして寝ることが多い方は脊柱は曲がりにくく、側臥位で横向きで寝ることが多い方は背中を伸ばしにくくなることが多いです。
また、下肢では股関節、膝関節、足関節といずれも関節拘縮を起こしやすい部位です。
下肢に比べると、上肢は臥床している時も動かしやすく、関節拘縮が起こりにくい傾向がみられます。
どういった姿勢で過ごすことが多いかによって、拘縮が起こる関節は変わってくるため、その方の日頃の過ごし方を確認することが重要です。
拘縮の種類
拘縮の種類は主に原因別に分類されます。ここでは、介護現場で重要な5つのタイプを中心に解説します。
筋性拘縮
筋肉の緊張や萎縮、長い期間の固定などによって、関節が引っ張られて起こる動かしにくくなることで起こる拘縮です。長期間の寝たきりによるものが代表的です。
皮膚性拘縮
やけどや手術の切開などで、皮膚の真皮(表面)が傷つき、皮膚の引きつれが起こることで、関節可動域の制限が起き、発生する拘縮です。
神経性拘縮
脳卒中などの脳神経系の病気や損傷などによって、神経が興奮し筋肉が緊張・麻痺して起こります。また、強い痛みからそれを避けるような姿勢が原因になる事もあります。
結合組織性拘縮
皮膚の下の軟部組織、腱、腱膜、靭帯などが収縮を起こし、癒着する事で発生します。
関節性拘縮
関節の滑膜、関節包、靭帯など関節を構成する組織が炎症を起こしたり傷ついたりする事で起こります。
拘縮が及ぼす影響とは

拘縮が及ぼす影響について解説します。利用者に拘縮がみられることで、利用者・介護者とそれぞれに影響が生じます。
利用者への影響
拘縮により、体の柔軟性が低下することで、関節が動かしにくくなります。
その結果、立ち上がり動作や歩行動作といった基本動作、更衣動作や入浴動作などのADL(日常生活動作)が利用者一人では行うことが難しくなり、介助が必要となります。
また、体のバランスが取りにくくなり、立ち上がりや歩行動作などで転倒するリスクが増加します。さらに、慢性的な痛みを引き起こすことにも繋がりかねません。
介護者への影響
拘縮によって、利用者の基本動作・ADLに介助が要することとなり、介護負担の増加がみられることとなります。
関節の動かしにくさが増すことで、特に衣服を脱ぐ・着るといった更衣動作は行いにくくなります。
また、拘縮によって臥床時や座位時に皮膚への圧迫を強める可能性も高くなることで痛みや褥瘡のリスクが高くなります。
褥瘡のケアは介護者の負担をさらに増加させることとなります。
それらの身体的な介護負担の増加に伴い、精神的な負担も感じやすくなることも懸念されます。
介護負担を軽減するために、ボディメカニクスなどを活用するとよいでしょう。特に、腰痛持ちの介護職の方は必須の知識・スキルと言えるかもしれません。
拘縮予防のポイント

拘縮予防のポイントを紹介します。
拘縮を未然に防ぐために、ポジショニング支援やストレッチなどが効果的です。
良肢位のポジショニング
拘縮予防には臥床時に、クッションなどを用いてポジショニング支援を行い良肢位を保つことが重要となります。
ポジショニング支援では、身体の支える面を増やし耐圧を分散させることで、筋肉の緊張を和らげることに繋がります。
拘縮を防ぐだけでなく、痛みや褥瘡の予防にも効果的です。
関節を動かす
関節拘縮を防ぐためにはストレッチなどで関節を動かすことが有効です。
なるべく同じ姿勢を取ることを少なくすることや、日頃の生活の中でも手足の関節を動かしてもらうよう意識してもらうことが大切となります。
効果持続には継続的な介入も重要です。
ポジショニングのポイント
ポジショニングのポイントとしては、なるべく身体とベッドとの隙間をなくすことが挙げられます。
身体とベッドとの間に隙間が生じてしまうと、身体を支える面が少なくなるため、痛みや筋肉の緊張が高まり拘縮に繋がりやすくなります。
クッションなどを用いて隙間を少なくすることで、体圧が分散され、関節をはじめ身体への負担を軽減することができます。
拘縮ケアの実践ポイント

拘縮を予防するためのケアの実践ポイントをご紹介します。
声掛けなどを行いながらゆっくり行う
拘縮予防に向けた、ポジショニング支援や関節を動かすストレッチなどは、利用者個人の状態に合わせて行う必要があります。
声掛けを行い、ケアの内容を理解してもらった上で、ゆっくりとケアを行っていくことが重要です。
同じ姿勢を続けない
長時間同じ姿勢を続けることで、拘縮のリスクが高まります。特に臥床時は、定期的な体位変換を行うことで、拘縮の予防を図ることができます。
リラックスできる姿勢を保つ
十分に体圧が分散できていない、痛みが生じるなど、力の入りやすい姿勢では拘縮に繋がる可能性が高いです。
リラックスできる姿勢をとってもらうことで、筋肉の緊張の和らぐことを促しましょう。
また、利用者がベッド柵を握っている…などがみられる際は、何かしらの不安の現れとして、力が入っている可能性が考えられます。
介護者は、利用者の力が抜けているか、リラックスしているかの確認が必要です。
部位別のケア方法
身体の関節のどの部位に拘縮が起こるかで、それに伴うリスクやケアの方法も変わります。
部位毎のケア方法を確認していきましょう。
首
首がのけぞるように伸展するよう拘縮が起こってしまうと、食事での誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。
ポジショニングの際は、首がのけぞっていないか、枕の高さを調整するなどの工夫が有効です。
また、首が曲がることでも、喉元の筋肉が働きにくく飲み込みがし辛くなります。痛みに注意しながら、喉元の筋肉を伸ばすよう顎を引き上げるストレッチを行うとよいでしょう。
肩・肘
肩関節や肘関節の拘縮がみられると、食事や更衣動作など上肢を用いたADLが困難となり、介助が必要となります。
拘縮の予防として、食事やADLの場面で介助が必要としても、可能な範囲で利用者自身で肩関節や肘関節を動かしてもらいましょう。
手指
手指の拘縮がみられると、食事で箸を使用することなど巧緻動作が困難となります。
指を動かしたり、手のひらを開閉する運動が効果的です。介助者が指の曲げ伸ばしを支援する際は、関節の一つ一つを動かすよう意識しましょう。
下肢(股・膝・足首)
下肢の拘縮がみられると、立ち上がり動作や歩行、下衣の更衣動作などが困難となります。
拘縮が進むと、移乗動作など介助の負担も大きくなることが懸念されます。
ポジショニング支援では、仰向きの時はなるべく下肢全体を伸ばす、側臥位の時は少し足を曲げるなど、なるべく同じ姿勢をとる時間を長くしない工夫が必要です。
また、仰向きの際には足底にクッションをあてて、足首を支えることで尖足(つま先が下を向く状態)拘縮を予防することもできます。
立ち上がることができる利用者は、しっかりと足に体重をかけることも有効です。
拘縮のケア事例
拘縮のケア方法について、事例を通して具体的なケアの方法をご紹介します。
事例「円背が進む利用者へのケア方法」
加齢によって少しずつ脊柱が曲がってきて、円背姿勢となるご利用者は少なくありません。
円背姿勢となる方はバランスを保つために、立位をとっていても股関節や膝関節は曲げたままでいることが多く、下肢の拘縮にも繋がってきます。
①ポジショニング
円背姿勢の方は、枕の高さが合わないなどの理由で臥床する際に横向きをとる方が多いです。
しかし側臥位の姿勢では、背中や股関節、膝関節を曲げる姿勢をとることになり、さらに円背姿勢や股関節・膝関節の拘縮の進行に繋がるおそれがあります。
枕の高さ調整やクッションを用いることで、仰向けをとるようにしていただく時間を多くすることで、臥床時に自然と体を伸ばす時間を確保でき、円背姿勢の進行の予防に繋がります。
よく側臥位をとっておられる方であれば、いきなり仰向けをとっていただくことは負担が大きいため、半側臥位などで少しずつ始めていくとよいでしょう。
②運動
円背姿勢の方には、肩や背中の筋肉を使っていただくことが有効となります。
バンザイするように両手を挙げながら背筋を伸ばす運動や、肘を曲げながら腕を横に開き肩甲骨を背骨の中心に寄せる運動などを行うとよいでしょう。
また、生活の中でレクリエーションなどでうまくいった時にハイタッチをするなど、手を挙げていただくような動きを自然と行っていただくことを心がけましょう。
まとめ

拘縮が進行すると、利用者の基本動作やADL(日常生活動作)が行いにくくなり、Quality of life(QOL:生活の質)の低下にも繋がります。
また、介護者にとってもケアを行うにあたり、身体的・精神的な負担の増加にも繋がりかねません。
拘縮のケアは、利用者に痛みや不快を与えないことがポイントとなります。
利用者が少しでも安全でリラックスした状態で過ごせるように、生活の中での運動の工夫や、臥床時のポジショニング支援を行うことなどで、利用者・介助者がともに過ごしやすい生活を送れるようにしていきましょう。
この記事の執筆者 | こまさん 所有資格:作業療法士 経歴:作業療法士として医療分野では病院でのリハビリテーション業務に従事、介護分野では訪問リハビリテーション事業所を経て、現在は特別養護老人ホームの機能訓練指導員として従事。 入居者へ多職種で行う機能訓練の提供や、介護士への介護技術指導、LIFEや介護報酬改定に関わる業務などを担っている。 |
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