「介護ロボットにはどのような種類があるのだろう?」
「介護ロボットを導入するメリットとは?」
介護現場のスタッフや、施設経営者の中には、このように考えている方もいらっしゃることでしょう。
この記事では、実際の商品を紹介しながら、介護ロボットの種類について解説します。
介護ロボット導入のメリットとデメリットについても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
介護ロボットとは
ここでは、厚生労働省が提唱している介護ロボットの定義を紹介します。
以下の図をご覧ください。
こちらは、ロボットの定義を踏まえて、介護ロボットについて定義しているものです。
具体的には、以下のようなものがあげられます。
・要介護者の移乗を支援するもの
・高齢者の自力移動を助けるもの
・認知症高齢者の見守りを支援するもの
詳しくは、「介護ロボットの種類」で解説しますので、あわせてご覧ください。
介護ロボットが注目されている背景
介護ロボットが注目されている背景としては、介護業界における深刻な人手不足があげられます。
大きな理由は、「人口の高齢化」です。
内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、令和5年(2023年)10月1日現在日本の総人口は1億2,435万人でした。そのうち65歳以上の人口は3,623万人であり、高齢化率は29.1%です。
令和4年(2022年)での高齢化率が29.0%、令和3年(2021年)高齢化率28.9%となっており、高齢化が進んでいる状況がうかがえます。
もう1つ考えられる人手不足の理由は、生産年齢人口(15歳以上64歳未満)の減少です。
内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、令和5年(2023年)10月1日現在、15歳以上64歳未満の人口は、7,395万人でした。
令和4年(2022年)では7,421万人、令和3年(2021年)では7,450万人です。
生産年齢人口の減少に伴い、介護業界においても人材不足が進んでいると考えられます。このため、介護ロボットは今後ますます注目されるといえるでしょう。
介護ロボットの種類
厚生労働省と経済産業省では、「ロボット技術の介護利用における重点分野」を6分野13項目としています。
6分野を以下に示しました。
・移乗介助
・移動支援
・排泄支援
・見守り・コミュニケーション
・入浴支援
・介護支援業務
実際の商品を紹介しながら、6分野13項目について、それぞれ解説します。
参考:「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂しました|厚生労働省
移乗介助
移乗介助に用いられる介護ロボットは、以下の2種類に分けられます。
・ロボット技術を用いて介助者のパワーアシストを行う装着型の機器
・ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行う非装着型の機器
それぞれ解説します。
■ロボット技術を用いて介助者のパワーアシストを行う装着型の機器
文字どおり、「介助者の身体に装着して使用するタイプ」の介護ロボットです。
一例として、株式会社菊池製作所の「介護用マッスルスーツ」を紹介します。
圧縮空気を用いた人工筋肉を採用しており、軽量でありながら高出力という点が特徴です。
要介護者をベッドから車いす、車いすからトイレなどに移乗させるときは、中腰の姿勢になりますが、このスーツは介護者の腰にかかる負担を軽減します。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
製品情報 – INNOPHYS – 株式会社イノフィス
■ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行う非装着型の機器
介助者の体に装着しないタイプの介護ロボットで、要介護者の身体を抱える動作を助けます。
一例として、株式会社FUJIの「移乗サポートロボット Hug T1」を紹介します。
要介護者の前傾姿勢を誘導して、自然な立ち上がりを補助するもので、トイレでも使えるコンパクトボディです。
「立つ」「座る」ボタンによる簡単操作が特徴になっています。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
Hug T1|株式会社FUJI
移動支援
移動支援に関する介護ロボットは、以下の3種類に分けられます。
・高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できる歩行支援機器
・高齢者等の屋内移動や立ち座りをサポートし、特にトイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援する歩行支援機器
・高齢者等の外出等をサポートし、転倒予防や歩行等を補助する装着型の移動支援機器
それぞれ解説します。
■高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できる歩行支援機器
この機器の主な特徴を以下に示しました。
・4つ以上の車輪を有する
・モーターにより、移動をアシストする
・マニュアルのブレーキが付いている
一例として、RT.ワークス株式会社の「ロボットアシストウォーカー」を紹介します。
上り坂では自動的にパワーアシストがはたらき、下り坂では動きにあわせて自動的に減速します。
また、速度超過時の自動ブレーキや、GPSによる位置確認機能、緊急通知機能つきです。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
ロボットアシストウォーカー RT.3|製品紹介|RTワークス
■高齢者等の屋内移動や立ち座りをサポートし、特にトイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援する歩行支援機器
このタイプの機器は、使用者が自らの足で歩くことを支援するもので、杖や歩行器といった歩行補助用具との併用も可能です。
一例として、サンヨーホームズ株式会社の「寄り添いロボット」を紹介します。
転倒を感知するとブレーキをかけて、ゆるやかに床に倒れさせるものです。
「ゆるやかな転倒」であるため、転倒時にかかる身体への衝撃が軽減されます。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
寄り添いロボット | サンヨーホームズ株式会社
■高齢者等の外出等をサポートし、転倒予防や歩行等を補助する装着型の移動支援機器
ひとりで歩ける方が対象の介護ロボットであり、身体に装着するタイプの機器です。
転倒につながる動作を感知して、使用者に知らせることにより転倒を予防します。
一例として、CYBERDYNE株式会社の「HAL®(※)腰タイプ介護・自立支援用」を紹介します。
人の動きを自動的にアシストするもので、重さは約3kgと軽量です。
要介護者の身体に装着して立ち座り動作を助けるほか、介護者の身体に装着して移乗や入浴の介助も行えます。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
HAL®腰タイプ介護・自立支援用 – CYBERDYNE
(※)HAL®:世界初の世界初の装着型サイボーグ。人が体を動かそうとするときに発生する微弱な「生体電位信号」を検出して、意思に沿った動きをアシストする。
出典:世界初の装着型サイボーグ「HAL®」 – CYBERDYNE
排泄介助
排泄介助に関する介護ロボットは、以下の3種類に分けられます。
・排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調整可能なトイレ
・ロボット技術を用いて排泄を予測し、的確なタイミングでトイレへ誘導する機器
・ロボット技術を用いてトイレ内での下衣の着脱等の排泄の一連の動作を支援する機器
それぞれ解説します。
■排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調整可能なトイレ
排泄物のにおいが室内に広がらないように、室外に流す、もしくは密閉して隔離する機能があるものです。
一例として、TOTO株式会社による「居室設置型移動式水洗便器(ベッドサイド水洗トイレ)」を紹介します。
汚物を粉砕して圧力で強制的に流す仕組みにより、細い配水管を実現させた、後付けできる水洗トイレです。
脱臭機能や、移動に便利なキャスターがついています。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
ベッドサイド水洗トイレ | 福祉機器 | 商品情報 | TOTO株式会社
■ロボット技術を用いて排泄を予測し、的確なタイミングでトイレへ誘導する機器
使用する方の身体に装着して、生体情報により排尿もしくは排便を予測する機器です。
容易に着脱可能であるものが対象になります。
一例として、DFree株式会社による「排泄予測デバイス『DFree』」を紹介します。
超音波センサーにより尿の溜まり具合を見える化して、トイレのタイミングを事前に通知してくれる機能つきです。
電源を入れて、使用者の下腹部に貼り付けるだけの簡単な仕様であり、防水機能がついています。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
在宅介護のトイレのお困りごとなら DFree HomeCare
■ロボット技術を用いてトイレ内での下衣の着脱等の排泄の一連の動作を支援する機器
衣服や下着の着脱や、トイレへの移動、姿勢保持などをサポートする介護ロボットになります。
一例として、株式会社がまかつによる「排泄支援機器『サットイレ』」を紹介します。
排泄時の立ち上がりや便器への着座などの動作を支援する機器で、排泄中の姿勢保持機能つきです。
これにより、最低2人の介助者が必要だったトイレ介助を、1人で行えます。また、排泄中の姿勢保持が可能であるため、使用者が1人で用を足せます。
排泄を人に見られる状況が減り、ストレスを軽減できるのも、嬉しい点でしょう。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
排泄動作支援機器「サットイレ」(SATOILET) | がまかつ介護
見守り・コミュニケーション
見守り・コミュニケーションに関する介護ロボットは、以下の3種類に分けられます。
・介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム
・在宅介護において使用する、転倒検知センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム
・高齢者等とのコミュニケーションにロボット技術を用いた生活支援機器
それぞれ解説します。
■介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム
文字どおり介護施設において使用するものであり、複数の要介護者を同時に見守れる機器です。
昼夜問わず使用可能であり、要介護者の情報を複数の介護者に提供できるものが対象になります。
一例として、ノーリツプレシジョン株式会社の「3次元電子マット式見守りシステム・ネオスケア」を紹介します。
介護ロボットと人の目による見守りを融合したシステムであり、昼夜の動きを問わず、要介護者の動きを見守れる赤外線センサー付きです。
介護者が離れた場所にいても、スマートフォンを用いて、要介護者の状況をリアルタイムで確認できます。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
Neos+Care(ネオスケア)ノーリツプレシジョン株式会社
■在宅介護において使用する、転倒検知センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム
在宅での介護に使用するための機器で、複数の部屋を同時に見守ることや、浴室の見守りが可能です。
一例として、株式会社CQ-Sネットの「レーダーライト」を紹介します。
LED照明と24GHzレーダー、無線ネットワークが一体化された見守りシステムです。
照明器具型であるため、要介護者に「見られている」という不快感を与えず、プライバシーを保護しながらの見守りが可能です。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
レーダーライト|株式会社CQ-Sネット
■高齢者等とのコミュニケーションにロボット技術を用いた生活支援機器
高齢者や要介護者の顔や言葉、存在を認識して得られた情報をもとに、やり取りができる介護ロボットです。
コミュニケーションにより、高齢者や要介護者の活動を促し、日常生活動作の向上につなげられます。
一例として、株式会社レイトロンの「Chapit(チャピット)」を紹介します。
高性能な音声認識エンジン『VoiceMagic』を搭載しており、離れたところでも人の言葉を聴き取ることが可能です。
レクリエーション機能や家電コントロール機能なども搭載されています。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
コミュニケーションロボット Chapit|株式会社レイトロン
コミュニケーションロボットについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
・介護 コミュニケーションロボットのメリット・デメリット
「高齢者の心の癒しや孤独感解消に役立つ」などの理由から注目されているコミュニケーションロボット。基本的な情報や、ロボット導入のメリットやデメリットについて解説。
入浴支援
ロボット技術を用いて、浴槽への出入りに関する一連の動作を支援するもので、少なくとも胸までつかれる点や、工事なしで設置できる点が特徴です。
一例として、株式会社ハイレックスコーポレーションの「バスアシスト」を紹介します。
浴槽を楽にまたげる回転座面や、入浴をサポートする手すりがついています。座るだけで自動的に機器が上下して、浴槽に入れるものです。
水道水で動く機能を備えており、家庭用浴槽に設置可能なコンパクト設計です。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
バスアシスト(産業機器分野 )- 株式会社ハイレックスコーポレーション
介護業務支援
ロボット技術により各種介護業務に伴う情報を収集・蓄積して、要介護者の支援に活用できる機器です。
ロボット介護機器によって得られた情報を共有して、介護記録やケアプラン作成のシステムなどに連携できることが望ましいとされています。
一例として、株式会社善光総合研究所の「SCOP Now」を紹介します。
見守りや睡眠センサーなどの介護ロボット機器の統合管理アプリで、さまざまな介護ロボットやICT機器からの情報を一元管理可能です。
詳しくは、以下の商品紹介ページをご覧ください。
株式会社善光総合研究所|業界初!無料で使える介護ICT「SCOP」
介護ロボットを導入するメリット
介護ロボットを導入するメリットとしてあげられるのは、主に以下の3つです。
・介護者の負担軽減
・介護作業の効率化
・要介護者の心的負担軽減
それぞれ解説します。
介護者の負担軽減
介護ロボット導入の大きなメリットの1つが、介護者の負担軽減です。
介護に関する動作は、要介護者を抱きかかえたり、ベッドから身体を起こしたりするなど、足腰に負担がかかるものが多くなっています。
介護職員の中には、腰や膝に慢性的な痛みを抱えて、常にサポーターを使用しながら介護業務にあたっている方も少なくありません。
また要介護者が転倒しないように、常に見守りを必要とする場面も多いため、介護者は緊張による精神的負担を強く感じています。
介護ロボット導入により、実際の介助だけではなく、見守りの支援も得られるため、介護者の負担を軽減できるでしょう。
介護作業の効率化
介護に関する作業の効率化もメリットの1つです。
介護ロボット導入により、今まで2人で行っていた業務を1人で行える場面も増えます。
また、介護業務の一部を介護ロボットが担うことで、人員に余裕ができて、要介護者とのコミュニケーションをはかりやすくなるでしょう。
要介護者の心的負担軽減
介護ロボット導入は、要介護者にとってもメリットをもたらします。
要介護者は、家族や介護職員に介護されることによる恥ずかしさや申し訳なさという気持ちを抱えている方が多いとされています。
「申し訳ありません」「ごめんなさい」など、介助を受けるたびに介護者に謝る方も少なくありません。
介護ロボットの活用により、要介護者の心理的な負担軽減が期待されます。
介護ロボットを導入するデメリット
介護ロボットを導入するデメリットとしてあげられるのは、主に以下の3つです。
・導入・維持コストの発生
・保管・設置スペースが必要
・操作習熟に時間が必要
それぞれ解説します。
導入・維持コストの発生
介護ロボットの導入や維持には、多額のコストが発生します。
公益財団法人介護労働安定センターの令和4年度介護労働実態調査・事業所における介護労働実態調査・結果報告書(58P) によると、「いずれの介護ロボットも導入していない」事業所は、78.3%でした。
最も多い理由は、「導入コストが高い」の47.1%です。介護ロボットは普及率が低く、そのため生産量も少ないため単価が高い状況です。
厚生労働省の資料「介護ロボット導入活用事例集 2020」によると、介護ロボット導入費用は、ほとんどが10万円以上であり、中には100万円以上のものもありました。
また、介護ロボットのコストは導入費用だけではなく、維持管理費用も含まれます。導入と維持管理、双方に高額な費用が発生する点は大きなデメリットといえるでしょう。
保管・設置スペースが必要
介護ロボットの中でも、特に移乗支援系のロボットは、大型のものが一般的です。そのため、設置、保管のためのスペースが必要になってきます。
公益財団法人介護労働安定センターの令和4年度介護労働実態調査・事業所における介護労働実態調査・結果報告書(62P)によると、介護ロボットの導入や課題として、「設置や保管等に場所をとられてしまう」をあげた事業所は32.3%をしめました。
操作習熟に時間が必要
介護ロボットを安全に使用するためには、正しい操作方法を習得する必要があります。
そのためには、マニュアルを読み込んだり、操作方法の説明や研修を受けたりする必要があるでしょう。
結果として、一時的に業務時間が増えてしまう点がデメリットといえます。
介護ロボット導入の課題
介護ロボット導入に関しては、開発者側と利用者側の両方に課題があります。
開発者の課題は、実際の介護現場のニーズにあった介護ロボットを開発することです。低コストで小型化されたものや、安全性が高いものなどが求められるでしょう。
利用者側の課題は、正しい知識と活用方法を理解することです。この中には、「ロボットによる介護」に対するネガティブイメージの払しょくも含まれます。
まとめ
この記事では、介護ロボットの種類や、導入するメリットとデメリットなどを解説してきました。
人口の高齢化や介護業界における人手不足が背景となり、介護ロボットの注目度は高まっていますが、普及率は低い状況です。コストや設置場所などのデメリットが、普及率の低さに影響していると考えられます。
介護ロボットの普及には、開発者側と利用者側、両方に課題があります。
介護職や経営者の方々の課題は、正しい知識や活用方法の理解です。この記事が、理解の助けになりましたら幸いです。
当サイト内には、他にも介護現場のICT化、業務効率化に関連した記事を掲載しています。こちらもぜひご覧ください。
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この記事の執筆者 | 古賀優美子 保有資格: 看護師 保健師 福祉住環境コーディネーター2級 薬機法管理者 保健師として約15年勤務。母子保健・高齢者福祉・特定健康診査・特定保健指導・介護保険などの業務を経験。 地域包括支援センター業務やケアマネージャー業務の経験もあり。 高齢者デイサービス介護員としても6年の勤務経験あり。 現在は知識と経験を生かして専業ライターとして活動中。 |
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