介護現場で多くの時間がかかり、管理も大変な業務が記録業務です。数多くの書類を記録する現場の負担、保管・管理をする事務作業の負担などがかかります。
その負担を軽減する一助となるのが、介護記録の電子化です。介護記録の電子化を行うことで、介護職員の日々の記録をより簡潔に、保管や処分といった事務作業もより効率的に行うことができます。
この記事では、介護記録を電子化するメリット・デメリット、さらに導入のポイントについて解説します。ぜひご参考にしてみてください。
介護記録の電子化とは?
介護の現場業務の中で、特に時間を有する業務は記録業務です。記録業務はコンプライアンスの面、ケアの質向上の面で必要不可欠な業務である一方、日々の中でかなりの時間・手間・管理など様々なコストがかかっています。
そこで、介護記録の電子化は様々な負担を減らせるツールとして注目されています。介護職員の業務負担軽減のみならず、記録に割いていた時間を減らし、その分ご利用者とかかわる時間を増やすことを目的としているのです。
介護記録の種類と目的をおさらい
まず、介護記録の種類とその目的についておさらいをしておきましょう。介護記録の種類は大きく分けて、以下のような種類があります。
・ケア記録・ケース記録
・業務日誌
・デイサービスなどにおける連絡帳
・ヒヤリハット・事故報告書
・その他(請求関連書類や勤怠管理など)
これら介護記録は、
・コンプライアンス遵守
・職員間の情報共有
・ケアプラン見直しにおける判断材料
・事故や訴訟などが発生した場合の証拠
という目的を担っています。
つまり、介護記録は事業所運営における法令遵守の目的だけでなく、ご利用者の状況を把握し課題やニーズを発見、さらにチームとしてケアを共有・統一するために必要なツールとして重要な業務なのです。
なぜ介護記録の電子化が重要なのか?
事業所の運営や日々のケア方針の確立・共有するツールとして重要な介護記録。この介護記録業務をより効率化できるよう電子化が進められてきています。
その理由は、介護職員の人手不足が深刻となってきているからです。
2022年(令和3年)に厚生労働省が発表した介護保険事業計画では、2025年(令和7年)度では約32万人、さらに2040年(令和22年)度には約69万人の介護職員が不足すると推測されています。
出典:厚生労働省 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
多くの介護職員が不足すると見込まれる中、
・介護職員の処遇改善
・多様な人材の確保・育成
・離職防止・定着促進・生産性向上
・介護職の魅力向上
・外国人材の受入環境整備
などの総合的な介護人材確保対策が取り組まれています。その中で、生産性向上や外国人材の受入環境整備の側面から、介護記録の電子化が重要な役割を担っているのです。
国における電子化への推進
2024年(令和6年)の介護報酬改定において、以下の概要が発表されました。
出典:厚生労働省 老健局 令和6年度介護報酬改定の主な事項について
その中でも生産性向上、効率的なサービス提供の推進が明記されていると共に、2021年(令和3年)度から運用が開始されたLIFEの活用、地域包括ケアシステムにおける多職種連携の深化が盛り込まれました。
介護記録の視点においては、効率的な記録整備、さらにはデータ活用や介護職以外との情報共有の面で介護記録の電子化が推進されてきているのです。
2024年(令和6年)度の介護報酬改定については、以下の記事をご参照ください。
LIFE加算については次の記事を参考にしてください。
書類作成業務は介護現場の大きな負担
書類作成業務は重要な役割を担う一方、介護現場において大きな負担となっています。現場でよくある介護記録の種類は、
・食事記録
・水分記録
・排泄記録
・口腔ケア記録
・入浴記録
・ヒヤリハット、事故報告
・その他清掃や物品管理に関する書類
など、介護記録だけではなく事業所運営や環境整備にかかわる書類が数多く存在するのが現状です。それぞれの記録や書類は、いつ・どこにあって・誰が・どう書くのか、事業所によってルールが様々であり、特に新人職員にとって混乱を招く一因となっています。
記録業務は介護業務の中でも時間がかかる
介護記録業務は、介護職員が行うべき業務の中でも多くの時間を要する業務です。例えば、デイサービス事業所におけるバイタル測定から記録までの動線は、紙媒体での記録を行っていた場合、以下のような流れです。
手順 | 紙媒体での記録業務の動き |
1 | ペンやメモ、バイタルセットの準備 |
2 | 体温や血圧などの測定 |
3 | バイタル一覧表にメモ |
2~3を人数分繰り返す | |
4 | 記録机や記録のある場所へ向かう |
5 | 連絡帳に転記する |
6 | 事業所によっては個人ごとに月間でのバイタル表にも転記する |
5~6を人数分繰り返す また、ご利用者の見守りを行いながら記録をする |
この一連の動きはバイタル測定だけではありません。排泄介助や食事量の記録、レクリエーションの記録など、1つ1つのケアごとに記録をしなければならないのです。
介助が終わったりご利用者が落ち着いてから記録業務に入るため、勤務時間が終わってから記録を書くなど、時間外労働やサービス残業につながり、介護職員はより疲弊してしまいます。
管理者としても残業や時間外を減らす取り組みをしなければなりません。
記録の質は職員の力量に左右される
介護記録は5W1H(いつ・だれが・どこで・なにを・どういう理由で、どのように)を客観的に書くことが求められます。客観的な事実やご利用者の様子を記録に残しておくことで、今後のケア方針やサービス内容に反映させることができるのです。
ですが、記録の記入方法は新人職員や外国人など日本語に慣れていない職員にとって難易度が高く、ポイントを押さえて記録を書くことに時間がかかってしまう可能性があります。
さらに、達筆すぎるベテラン職員の記録は、そもそも何と書いているのかがわからず解読したり直接本人に聞くということも。手書きでの介護記録業務は、書く側や記録をチェックする側、どちらにとっても時間がかかる業務です。
紙媒体で記録書類を保管することは大変
また、記録した書類は複数年保管しなければなりません。自治体によって保管する年数は違いますが、おおよそ2年~5年と定められています。
そのため、記録した書類はひとつひとつファイリングし、書庫や倉庫へ保管する必要があります。
紙媒体では、紙の購入費だけではなく、書類を保管する場所の確保、ファイリングする職員の人件費、さらには保管年数経過後の処分費など、さまざまなコストがかかってくるのです。
介護記録を電子化するメリット
紙媒体で介護記録業務を行うと、介護職員個々人の業務的負担だけではなく、事業所や施設にとっても費用面などの負担がかかります。そういった負担を減らすツールとして活躍するのが記録ソフトです。
介護記録を電子化することで、
・介護記録・事務作業の負担軽減、管理がしやすい
・介護記録の質が向上、一定になる
・データを有効活用しやすい
・写真や動画をすぐに共有できる
というメリットが挙げられます。ひとつひとつのメリットについて解説します。
メリット1:事務作業の負担軽減・管理がしやすい
1つ目のメリットは、記録業務の負担が軽減されることです。先程のデイサービス事業所におけるバイタル測定から記録までの動線の例で、電子化後の動きを比較してみましょう。
手順 | 紙媒体での記録業務の動き | 電子化での記録業務の動き |
1 | ペンやメモ、バイタルセットの準備 | タブレットかスマホ、バイタルセットの準備 |
2 | 体温や血圧などの測定 | 体温や血圧の測定 |
3 | バイタル一覧表にメモ | 直接ソフトやアプリに打込み (Bluetoothで自動的に入力できるソフトもある) |
2~3を人数分繰り返す | ||
4 | 記録机や記録のある場所へ向かう | 連絡帳や個人記録に自動転記される |
5 | 連絡帳に転記する | |
6 | 事業所によっては個人ごとに月間でのバイタル表にも転記する 色の指定や間違えた場合訂正印が必要 |
|
5~6を人数分繰り返す また、ご利用者の見守りを行いながら記録をする |
書類はご利用者ごとに一括出力 |
電子化を行うことで、手順が約半分となり負担軽減につながります。さらに、電子化におけるもう一つ注目すべきことは、一括記録が可能であることです。
例えば、食事やレクリエーションなど多くのご利用者が同じ時間に行うケアについて、紙媒体では一人一人記録をしなければなりませんでしたが、電子化することで一気に実施記録を入力できます。
一括入力後、食事量やレクリエーションに特記事項があれば、対象のご利用者だけ抽出して入力することもできるのです。
また、データだと紙媒体で必要だった保管場所の確保は不要です。社内USBでの保管だけでなく、サーバー上に記録を保管することができ、必要な時に必要な分だけ取り出すことも可能です。
事業所更新時における運営指導でも記録物のデータ提出が認められており、大量の書類を準備する手間も省けるでしょう。紙媒体で必要だった保管書類の処分もパソコン上で行えるため、紙の処分コストもかかりません。
メリット2:介護記録の質が向上・一定になる
自動的に打込む内容が決められているため、アイコンやボタンを押したり少ない文字数を入力したりするだけで記録でき、質の向上・一定になりえるのも大きなメリットです。
言葉に迷ってしまっても、状況をアイコン選択するだけで記録が入力できます。これは、記録に慣れない新人職員や外国人にとってとても有用です。
ソフトによっては英語や中国語、東南アジア圏の言語で表示される機能もあります。言葉の壁により手書きで記録できなかった外国人でも記録業務が行えるのです。
メリット3:データを有効活用しやすい
3つ目のメリットは、データを有効活用しやすいことです。紙媒体の記録では、ご利用者の名前からケア実施時間、内容を手作業で探さなければなりませんでした。
電子化された記録では検索機能を使い、知りたいケア内容をすぐに抽出することができます。ケアプラン作成時や見直しを行う時、課題やニーズを抽出できるため、効率良くケアプランに反映できるのです。
メリット4:写真や動画をすぐに共有できる
4つ目のメリットは、写真や動画をすぐに共有できることです。例えば、自事業所内で転倒事故が発生したケースで比較してみましょう。
紙媒体の場合、転倒した時の様子やご本人の体勢・転倒場所について、文字だけではわかりづらい情報もあります。電子化されることで、その時の状況や外傷・転倒場所の状況を撮影し、情報をすぐに上長や医療職へ共有可能です。
写真や動画だと情報を瞬時に多く伝えることができるだけでなく、事件や事故があった時の証拠としても十分だといえます。
介護記録を電子化するデメリット
書類作成や介護記録入力の負担軽減、記録データをより活用・管理しやすくなる介護記録の電子化。一方で、介護記録電子化のデメリットもあります。
・導入コスト・維持コストが発生する
・職員が慣れるまでに時間がかかる
・導入に反対する職員がいる
デメリットもしっかりと把握し、導入や維持に向けて準備しておきましょう。
デメリット1:導入コスト・維持コストが発生する
紙媒体から電子化するにあたり、導入コストや維持コストが発生します。介護記録導入において、使用するソフトやソフトのタイプにより、数万円~数百万円の導入費用がかかります。
初期費用だけではなく、月額利用料や保守費もかかる場合も。さらには、ソフト導入においてパソコンの導入、社内用タブレットやスマホ、Wi-Fiなどの通信環境の整備も必要です。
ソフト単体だけではなく、周辺機器や環境の整備まで費用を把握しておかなければなりません。
デメリット2:導入に反対する職員がいる
いざ、導入しようとしても、職員の中には導入に反対する人もいます。現場職員で特にタブレットやスマホなど使い慣れていない職員や、新しい機器の導入に不安を感じて反対する職員など、一定数の反対意見が想定されます。
反対意見を無視して導入もできますが、介護ソフトを使用するのは反対派の方々を含めた介護職員であり、現場全体が納得しなければ混乱を招く危険性も。
反対派の意見について、なぜ反対しているのかを把握し適切に対応しなければなりません。
デメリット3:職員が慣れるまで時間がかかる
導入だけではなく、介護記録ソフトを適切に運用しなければなりません。導入後、問題なく運用できるまでには約半年~1年程かかると想定したほうがよいでしょう。
事務職員やパソコンやスマホを使い慣れている方だったらそこまでかかりませんが、介護職員は現場業務も行いながら、新しい記録方法を覚えていかなければなりません。職員全員が日常の機能を使えるようになるためには、それなりの期間が必要なのです。
介護記録などのICT導入のポイント
介護記録などさまざまなICT機器を活用するうえで、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
・アナログ視点での記録業務見直し
・施設の実情や課題にあったシステム選定
・電子化・ICT化の目的を明確にし共有
・導入研修や導入後フォローを充実させる
・ご利用者・ご家族への説明も行う
こちらのポイントについて介護記録ソフト導入の視点で解説します。導入を考えている方は、ぜひ以下の点を押さえて導入や運用のご参考にしてください。
ポイント1:まずはアナログ視点で記録業務を見直す
介護記録ソフトの導入の前に、特筆すべきポイントはまずアナログな視点で介護業務を見直すことです。
なぜなら、介護記録ソフト導入を行ったとしても、記録の種類や配置場所、何をいつどうやって記録するかが複雑な場合、ツールが電子機器に変わっただけでは介護記録の負担軽減にはつながらないからです。
・本当にこの記録は重要なのか?
・記録方法をもう少し簡略化できないか?
・記録業務を行う時、今の動線で問題ないか?
など、電子化する前に一度現場が慣れている紙媒体の状態で記録業務を見直します。介護記録ソフトの導入はあくまで負担軽減のためのツールであり、目的ではありません。
スムーズに、そして最大限効果を出すためには、まずは記録業務そのものの見直しが重要です。
ポイント2:介護記録を電子化する目的を明確にし職員に共有する
介護記録ソフトの目的を明確にし、その目的を現場職員や実際にソフトを使用する方々へ共有することが必要です。この介護記録ソフトは「誰のために」導入・運用するのでしょうか?
・ご利用者のため?
・ご家族のため?
・働く職員のため?
もちろん、現場で働き記録業務を実際に行っている職員の負担軽減でもあります。ですが、その負担を軽減することで、職員がご利用者のケアやかかわる時間が増え、結果的にご利用者の安心・安全へと繋がります。
つまり、電子化で間接的に介護の質向上に還元されている、という目的の軸を持っておくことが重要です。
ポイント3:施設に合った介護記録システムを選ぶ
次に、施設や事業所に合った介護記録システムを探します。導入・維持のコストがかかり、簡単に他システムの変更ができないことから、事業所形態や入力方法などを比較検討することが重要です。
ソフトのシステムには以下の2種類があります。
種類 | 特徴 | 主なメリット・デメリット |
オンプレミス型 | 自社内にサーバーを構築し、ソフトをインストールし記録する方法 | ・情報漏洩リスクが少ない ・導入に時間がかかる ・初期費用が高い |
クラウド型 | インターネット上にサーバーを構築し、サーバーにアクセスして記録する方法 | ・低コストで導入できる ・どこでも閲覧・入力できる ・情報漏洩リスクがある |
さらに、ソフトの内容について、以下の事ができるのかをチェックしなければなりません。
・写真や動画のアップロード
・入力方法(キーボード必須なのか、ボタンを押すだけでいいのか)
・他ICT機器との連携
・請求や勤怠管理
施設や事業所の課題や目的を把握したうえで、それらを解決するための機能が備わっているかを重視しましょう。
ポイント4:導入研修や導入後フォローをしっかり行う
介護記録ソフト導入の目的やソフトの種類が決まったら、使用する職員への導入研修をしっかりと行います。導入研修は、改めて目的を共有することと、日常の記録方法を実際に一緒に体験しながら研修を進めていくことが望まれます。
導入研修では、以下の項目を職員に説明します。
1.介護記録ソフトの導入目的
2.基本操作の説明
・ログイン、起動方法
・基本動作(排泄・食事・入浴などの日常業務で記録する方法)
・申し送りなどのルール
3.特変や優先度の低い業務の記録方法
4.記録の閲覧や出力など、ご利用者の個人情報にかかわるルールの共有
5.今後のフォロー体制・担当者の紹介
現場で記録する上で、わからない事やトラブルがあったときにすぐ状況確認ができる担当者を複数人選定しておきましょう。
例えば、事業所内であなたしか導入や運用についてわかる人がいなかった場合、休みの日でも職員から記録の打ち方がわからないなど、連絡が来るかもしれません。
ご利用者の個人情報についても、データを無断で持ち出さない、外部の人に写真を見せないなどのルールを説明しておきます。
また、導入後もしっかりとフォローします、わからないことがあったらすぐに担当者へ聞いてください、と運用開始後についても方針を説明しておきましょう。
新しい機器の導入や業務の変更は職員の負担・不安につながります。管理・運用する側も、現場職員からの質問等で新たな課題に気づく場面もあるかもしれません。
導入前・後でしっかりと現場全体のフォローを行うことで、職員も安心して業務に取り組めるでしょう。
ポイント5:ご利用者やご家族にも説明を行う
介護記録ソフトを運用するにあたり、ご利用者やご家族にも必要に応じて説明を行います。ソフトによってはご家族や外部の方へ入力した情報を共有できる機能もあります。
ご利用者・ご家族におけるメリットや、情報漏洩に関してのリスクマネジメントについて説明を行うことで、利用されているご家族も安心できます。
まとめ
これまで複雑・煩雑であった記録業務の負担を軽減するために、ぜひ活用したい介護記録ソフト。この記事をご覧いただき、介護記録電子化のメリット・デメリットを理解し導入することで、ぜひ事業所運営の一助になれば幸いです。
介護記録電子化の目的は、現場で働く介護職員の負担を減らし、ひいてはご利用者への介護の質向上です。導入することが目的ではなく、あくまで手段として活用しなければなりません。
今後、高齢者の増加・人手不足などから、介護記録電子化を含む介護業界のICT化はさらに進んでいくでしょう。
介護記録システムについては、以下の記事も掲載しています。導入のメリット、注意点を解説しています。
これから導入を検討している施設の方はぜひ参考にしてみてください。
また、シフトライフでは介護業界におけるICT化について、以下の関連記事を掲載しています。
ぜひ合わせてご覧ください。
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この記事の執筆者 | しょーそん 保有資格:介護福祉士 認知症実践者研修 修了 認知症管理者研修 修了 認知症実践リーダー研修 修了 グループホームに11年勤務し、リーダーや管理者を経験。 現場業務をしながら職員教育・請求業務、現場の記録システム管理などを行う。 現在は介護事務の仕事をしながら介護・福祉系ライターとしても活動中。 |