介護報酬改定は3年に一度、診療報酬の改定は2年に一度と決められており、6年に一度、介護報酬と診療報酬が同時に改定されます。特に同時改定では、介護報酬の仕組みや制度も大きく変更となります。
令和6年の報酬改定は、社会保障制度や経済状況が変わったことで大きな改定となります。そこで、介護報酬改定のためにできる準備やどのようなスケジュールで準備を進めていけばよいか、わかりやすく解説します。
これからも定期的に報酬改定は行われますので、ぎりぎりになって慌てることがないように、介護報酬改定の準備と備えについてぜひ参考にしてみてください。
目次
介護報酬改定とは
介護事業所は、介護保険制度に沿って運営されており、その収入は、介護報酬で決められています。3年ごとに介護保険制度が見直されるタイミングで、介護報酬の単位数(金額)が改定されることを介護報酬改定と言います。
事業所にとっての収入、利用者にとっての利用料は要介護度や提供されたサービス内容によって細かく決められています。提供されるサービスについても「職員配置」や「施設の体制」、「サービスの内容」などが詳細に定められています。それらは、社会情勢や介護事業所全体の経営状況、人件費など様々な要因によって3年ごとに見直されることとされています。
事業所にとっては、介護報酬改定はとても手間や時間、労力がかかることですが介護保険制度が持続可能な制度となるように対応していかなくてはいけません。
2024年度 介護報酬改定の事前準備
介護報酬改定は定期的に行われます。備えあれば憂いなしというように、自分たちが提供しているサービスが、どのように変わっていくのか常にアンテナを張っておきたいものです。
また、介護報酬の改定は、国の意向や社会の情勢によりかなり内容が変わっていきます。
例えば、以前と比較して施設系の基本報酬は緩やかに下げられています。これは、「施設から在宅」に力を入れていきたいという国の意向が反映されていますし、基本報酬が下げられて目的が決められている「処遇改善加算」の単価がどんどん上がっています。これは、介護職員の待遇改善を進めていきたいという考えが如実に現れています。
このように、報酬改定を見ていくと将来的に、法人内で別の事業所を検討している時などにも計画が立てやすくなると言えます。
2024年度の介護報酬改定は、2024年(令和6年)4月に施行となりますが、今回の報酬改定は少し変則的なスケジュールとなっています。
今回は、診療報酬と介護報酬が同時に改定されるダブル改定となっており、診療報酬改定に合わせて訪問看護や通所リハ、訪問リハ、居宅介護療養管理指導については、施行開始が2024年6月となります。
事前の情報収集
介護報酬改定は3年ごとに行われ、社会情勢や事業所への調査の結果から決められると言われています。
事業所を運営していると、厚労省や都道府県などから様々な調査がくるのではないでしょうか。それらの調査から、事業所の経営状態やサービスごとの課題などを抽出し、報酬改定の参考にされています。
各種の調査やアンケートのほとんどは任意ではありますが、できる限り適切な情報を集められるよう調査に協力することも大切です。
そして、報酬改定の前になると厚労省で様々な会議が行われ介護報酬改定の準備が進められていきます。それらの情報は厚労省のホームページに随時アップされるので、気が向いたときにはチェックしてみるとよいでしょう。
具体的には、「社会保障審議会介護給付費分科会」で検索してみると、厚生労働省で行われる会議の最新の情報が掲載されています。
その他にも、特別養護老人ホームなどが加盟する公益法人全国老人福祉施設協議会(老施協)や介護老人保健施設を統括する団体、公益社団法人 全国老人保健施設協会(老健協会)にも最新の情報が掲載されますので定期的に見てみることをおすすめします。
BCP(事業継続計画)の策定が義務化
2021年(令和3年)は、コロナ禍の介護報酬改定でした。そのため、介護事業所の感染症対策や災害対策、そして2025年問題と言われる団塊の世代が後期高齢者となる時期に向けた事業継続が争点となりました。
その中でも、全ての介護事業所にBCP(事業継続計画)の策定が義務化されたのは記憶に新しいところです。特に、度重なる自然災害や未知なる感染症が発生した時に、どのように利用者や職員、そして事業を守るのかという点は全ての事業所が考えておかなくてはいけない点です。
BCP(事業継続計画)の策定は、2021年の介護報酬改定で3年間の猶予が設けられました。そのため2024年の3月までには全ての介護事業所が、策定しなくてはいけないため準備ができていない事業所においては早急に準備を進めることをおすすめします。
なお、厚生労働省のホームページ「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」には、介護事業所向けのBCP作成の説明や雛形が掲載されています。
事業所内での役割の調整
介護報酬改定は、全ての職員と利用者に影響があります。そのため、管理者のみならず全ての職員に最新の情報を共有し、事前に準備をしておくことが大切です。
具体的には、介護報酬の増減に関すること以外にも加算が変わったり、解釈が変わったりすることで様式の見直しなどを行う必要も出てきます。
介護報酬改定は、改定年の4月から行われますが解釈が出揃うのは3月後半、場合によっては4月以降にならないと加算の解釈などがわからないケースも多くあります。できる限り慌てることがないように、事業所内で役割を調整しておくとよいでしょう。
なお、令和6年の報酬改定はイレギュラーな開始となり、医療系サービス(訪問看護や訪問リハ、通所リハ、居宅療養管理指導)については診療報酬と合わせて6月の施行開始となります。
相談員/ケアマネ
相談員やケアマネジャーは、外部のケアマネジャーやご家族などに向けた準備を進めるのがよいでしょう。
在宅サービスの場合、各利用者は決められた限度額の中でしか介護保険のサービスを受けることができません。そのため、各事業所がどのような加算や体制を取るかによって、他のサービスを削減したりしなくてはいけないケースもあります。
事業所で今後、どのような体制や加算を取るかが決まったら、できる限り給付管理をするケアマネジャーに報告することが望ましいでしょう。
また、ご利用者様にとっても、今までと同じサービスを受けても利用料金が増減する場合があります。なぜ、利用料金が変わるのか、施設としてどのようなサービスを提供するのかをできる限り丁寧に説明することが望ましいでしょう。
なお、介護報酬改定による利用料の変更については、保険者によって若干の解釈が違いますが、原則として同意は不要と言われます。しかしできる限り、署名を頂くなどしておくことでトラブルを防ぐことができるでしょう。
事務員
介護報酬改定では全ての職員が自分の責任として準備を進めていかなければなりません。事務員は、役所への届出書類の準備が必要になるでしょう。
具体的には、介護報酬算定のための体制届や必要に応じて運営規定の変更など速やかに届出を行わなくてはいけないものが多くあります。他には、料金表の改定や掲示物、ホームページの更新などの準備も必要になるでしょう。
また、ほとんどの介護施設、事業所で介護ソフトを活用していると思いますが、それらのバージョンアップなどについてもソフト会社と調整をして準備をしなくてはいけません。
毎回、報酬改定は4月以降になってようやくわかってくることも多いですが、ソフトの設定は4月利用分の請求月である5月までに行わなくてはいけません。
介護職、看護職、その他の専門職
介護報酬が改定され、加算の解釈が変わることで現場で働く職員も準備を進めなくてはいけません。例えば、加算算定のための様式の改定であったり、各種委員会や研修体制、勉強会を行う必要があるなど様々な準備があります。
加算を算定するためには、根拠となる記録や様式が不可欠です。加算変更のタイミングなどは記録が漏れやすくなってしまうこともあるので、どのような加算を算定するかが決まったら速やかに準備をした方がよいでしょう。
管理者
管理者は常に介護報酬改定の最新情報に気を配り、情報収集をして各職種に指示を出す必要があります。厚生労働省のホームページや都道府県、市区町村のホームページも適宜確認をして情報収集に努めていきましょう。
そして、介護報酬改定の影響が事業所や施設運営にどのような影響があるか、収入のシミュレーションを行うことも必要です。そして長期的な視点では、今後、介護保険がどのように変わっていくのかを考え、施設運営や経営について考えていくことは管理者の大切な役割ではないでしょうか。
例えば処遇改善加算では、賃金改善に関する計画を、「全ての介護職員に周知すること」が必要です。また、就業規則や賃金規定の変更も必要な場合もあります。そのような労務管理も管理者の大切な役割になります。
2024年度介護報酬改定、決定後のスケジュール
介護報酬改定は、毎回新年度ぎりぎりにしか詳細がわかりません。
そのため、2024年4月からのサービス提供について、細かな情報が出揃う前に実際にサービス提供をするということもあります。できる限り事前に、「こうなるのではないか」と推測しながら、準備を進める必要があります。
4月には新しい報酬体系で動き出しているので、遅くとも4月中には各種書類の準備、提出書類、体外的な案内を終えてしまいたいものです。
書類の整備や届出書類
加算を取得するための書類の整備については、加算の解釈についてわかったら速やかに作成するようにしましょう。全ての加算は、算定するための根拠がないと後日、指摘や返還となる可能性があります。
実地指導や書面加算などがあった場合に提出できるよう、加算を算定し始める前から整備をしておくようにしましょう。
また、重要事項説明書や体制届などについては、指定権者に決められた期限を守って提出しましょう。特に重要事項説明書は利用者にも提示するものであり、利用料金が変わったことを示すためにも大切なものになります。
外部に向けた案内の準備
在宅サービスの場合、利用者と事業所だけではなく外部のケアマネジャーにも報酬改定の報告が必要になります。
特に、在宅サービスの場合は区分支給限度額がぎりぎりの場合に、自費請求とならないように調整しながらサービスを使う方も多くいるため、自分たちの事業所でどのような加算を取るのか、利用料金が変わるのかは利用者だけではなく、ケアマネジャーにも報告が必要です。
また、料金表の改定なども必要となりますので、ホームページや掲示物にも掲載しているようであれば合わせて修正が必要となるでしょう。
介護報酬改定の理解のために
介護事業所を運営していく上で、介護報酬改定は避けて通れない定期的なことです。介護報酬改定がある度に、経営状況がよくなったり悪くなったりすることもあるのは他の業界ではあまりないことかもしれませんが、介護保険という公的保険で運営しているため避けては通れない事項です。
時々、管理者の方と話をしていると「この加算が取れるかもしれませんが、後から指摘されると困るので、私たちの施設では算定していません。」と仰る方がいます。
加算の算定が誤っていないか心配なのであれば、保険者に問い合わせをするなども可能です。
令和6年の介護保険改定では、いわゆる「ローカルルール」について以下のように示されました。今後は、ローカルルールについても明文化が進むものと思われます。
都道府県及び市町村に対して、人員配置基準に係るいわゆるローカルルールについて、あくまでも厚生労働省令に従う範囲内で地域の実情に応じた内容とする必要があること、事業者から説明を求められた場合には当該地域における当該ルールの必要性を説明できるようにすること等を求める。
介護報酬改定やその他、介護保険の最新情報についてWAM NET(独立行政法人 福祉医療機構)などで「介護保険最新情報」を常にチェックしておくとよいでしょう。
介護報酬改定への対応は準備が大切
介護報酬改定の理解のためには、経験をしてみることが一番の早道です。
長く運営している施設では、前回、前々回の介護報酬改定の際に届け出を出した書類が出ているかもしれません。それらを確認し、どのような書類提出が必要か、どのような案内をする必要があるかなどを見ておくとよいでしょう。
私は以前の介護報酬改定に対応した際に、ファイルを作成して厚労省から発出される資料やQ&Aを回覧したり、誰に対してどのような案内を出したかを綴っておいたり、体制届や変更届を提出した記録を残しておいたりしました。
介護報酬改定は3年に一度しか経験することがありませんので、2024年度の介護報酬改定の記録を残しておくと、次回2027年度の介護報酬改定にはきっと役に立つと思います。
まとめ
ここまで、介護報酬改定に向けた準備と、実際に介護報酬改定が行われてからどのようなスケジュールで対応すればよいかを見てきました。
介護事業所を運営していく上で、介護報酬改定は避けて通ることはできません。報酬改定によって、今まで取ることが出来なかった加算を取ることができるようになったり、事業所運営を見直してよりよい事業所にしていく機会にもなります。
介護報酬改定は3年ごとにしか行われないため、初めて介護報酬改定に対応しなくてはいけない管理者もいるかもしれません。本記事の内容が、少しでも介護報酬改定に備えるための参考になれば幸いです。
この記事の執筆者 | 伊藤 所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士 20年以上、介護・医療系の事務に従事。 デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。 現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。 |
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