厚生労働省の研究班によると、日本において2040年に認知症の人は約584万人、MCI(軽度認知症)の方は約613万人になると報告されています。今や誰もが認知症やMCIになる可能性もあるため、認知症となったとしても暮らしやすい社会として共生社会に向けた取組の必要性も高まってきています。
そのような背景の中、令和6年度介護報酬改定において施設やグループホームなどにおける認知症ケアに関わる加算「認知症チームケア推進加算」が新設されました。本記事では「認知症チームケア推進加算」とはどのような加算なのか、算定要件などを解説します。
目次
認知症チームケア推進加算とは
厚生労働省では、認知症ケアについての目指すべき方向性として、高齢者施設の入所者の尊厳を保持した適切な介護を提供することを挙げています。
「認知症チームケア推進加算」は、
入所者へ日頃から適切な介護を提供されることにより、認知症の行動・心理症状と言われるBPSD(Behavioraland Psychological Symptoms of Dementia)の出現を予防し、出現時にも早期に対応し重症化を防ぐこと
を目的として、令和6年度介護報酬改定より新設されました。
認知症チームケア推進加算が新設された背景
日本において2040年に認知症の人は約584万人、MCI(軽度認知症)の方は約613万人※になると報告されています。
※参考:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ninchisho_kankeisha/dai2/siryou9.pdf
認知症に対する施策については、以前より求められており、介護報酬制度の中でも認知症状が強く出現した際の対応に関する加算「認知症行動・心理症状緊急対応加算」などは創設されていました。
一方で、認知症の方の尊厳を重視し、利用者本人主体の生活を支援するために、BPSDの出現を未然に防ぐことや、BPSDへの適切な対応が重要であることが挙げられているものの、BPSDの予防に対して平時からの取り組みを行うことや、体制を整備することに関して評価はされていませんでした。
介護報酬改定や同時報酬改定の意見交換会などで、認知症への対応力向上に向けた取り組みを進めていくために、
「行動・心理症状への対応や、中核症状を含めた評価の方策を検討していくべき」
「BPSDを未然に防ぐ適切なケア、あるいはBPSD出現時に早期に対応する適切なケア等、良質な認知症ケアをどのように医療・介護現場で普及・実践していくかが課題」
「認知症の方の尊厳を守る上でも、認知機能の残存能力を適切に測る指標が必要」
といった内容が言及されていました。
そこでBPSDを未然に防ぐ効果や、BPSD発生を軽減・再発を防ぐためのケアの実践に向けて、
・BPSDの客観的評価
・全人的アセスメント
・PDCAサイクルで繰り返すチームアプローチ
の3つの要素に準じたケアを行うことを推進するために「認知症チームケア推進加算」が新設されることになりました。
認知症チームケア推進加算の対象施設
認知症チームケア推進加算の対象施設は以下の通りです。
・認知症対応型共同生活介護
・介護老人福祉施設
・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
・介護老人保健施設
・介護医療院
認知症チームケア推進加算の単位数
認知症チームケア推進加算の単位数は以下の通りです。
認知症チームケア推進加算(Ⅰ):150単位/月
認知症チームケア推進加算(Ⅱ):120単位/月
※認知症専門ケア加算(Ⅰ)又は(Ⅱ)を算定している場合においては、算定不可となります。
認知症チームケア推進加算の算定要件
認知症チームケア推進加算の算定要件は以下の通りです。
認知症チームケア推進加算(Ⅰ)の算定要件
(1) 利用者の総数のうち、日常生活で周囲の注意を必要とする認知症の人、具体的には認知症高齢者の日常生活自立度判定基準における、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Mに該当する人の占める割合が2分の1以上であること
(2)「認知症介護実践者等養成事業の実施について」及び「認知症介護実践者等養成事業の円滑な運営について」に規定する「認知症介護指導者養成研修」を修了し、かつ、認知症チームケア推進研修を修了した者を1名以上配置し、複数人の介護職員から成る認知症の行動・心理症状に対応するチームを組んでいること。
※「認知症チームケア推進研修」について、詳細は以下の認知症チームケア推進研修についてをご参照ください。
(3) 対象者に対し、個別に認知症の行動・心理症状の評価を計画的に行い、その評価に基づく値を測定し、認知症の行動・心理症状の予防等に資するチームケアを実施していること。
※評価に関しては、認知症チームケア推進研修にて示された評価指標(BPSD25Q)を用いることとなっています。
(4) 認知症の行動・心理症状の予防等に資する認知症ケアについて、カンファレンスの開催、計画の作成、認知症 の行動・心理症状の有無及び程度についての定期的な評価、ケアの振り返り、計画の見直し等を行っていること。
入所者の状態の評価、ケアの方針、実施したケアの振り返りなどには別途様式の「認知症チームケア推進加算 ワークシート」や介護記録などに記録することが求められています。
下記参照URL内、(別紙様式)認知症チームケア推進加算ワークシートをご覧ください。
参照:令和6年度介護報酬改定について|厚生労働省
認知症チームケア推進加算(Ⅱ)の算定要件
・加算(Ⅰ)の要件(1)、(3)及び(4)を満たすこと。
・ 「認知症介護実践者等養成事業の実施について」及び「認知症介護実践者 等養成事業の円滑な運営について」に規定する「認知症介護実践リーダー研修」を修了し、かつ、認知症チームケア推進研修を修了した者を1名以上配置し、かつ、複数人の介護職員から成る認知症の行動・心理症状に対応するチームを組んでいること。
認知症チームケア推進研修について
認知症チームケア推進加算の算定要件の一つである、「認知症チームケア推進研修」については、以下の通りです。
認知症チームケア推進研修の目的
認知症チームケア推進研修は「BPSDを予防・軽減するケアの基本的考え方を理解し、チームで実践できる体制を構築する」ことを目的として実施される研修です。
認知症チームケア推進研修の研修内容
認知症チームケア推進研修の研修内容は、以下の構成となっています。
・BPSDのとらえかた
・重要なアセスメント項目
・評価尺度の理解と活用方法
・ケア計画の基本的考え方
・チームケアにおけるPDCAサイクルの重要性
・チームケアにおけるチームアプローチの重要性
認知症チームケア推進研修の受講方法
研修に関してはオンデマンドで約70分の動画を視聴することで受講できます。
参考:認知症チームケア推進研修
認知症チームケア推進加算についてのポイント
「認知症チームケア推進加算」は認知症のBPSDを予防・軽減を目的とするために新設された加算です。
認知症チームケア推進加算を算定していくためには、
・BPSDの客観的評価
・全人的アセスメント
・PDCAサイクルで繰り返すチームアプローチ
がポイントとなります。
令和4年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業に行われた「BPSDの予防・軽減を目的とした認知症ケアモデルの普及促進に関する調査研究」において、通常のケアに比べて上記の3要素に沿ったケアを行った場合ではBPSDを軽減させ、QOLを向上させることが明らかになりました。
参照:令和4年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業
「BPSDの予防・軽減を目的とした認知症ケアモデルの普及促進に関する調査研究」
また、介入後の介護職員への聴き取り調査において、BPSDの評価やPDCAサイクルによるチームアプローチが、日常のケアやBPSDの軽減・再発防止に役立つと思う割合は90%以上と、介護職員の実感としても効果は感じられています。
チームケアを推進していくためには、認知症ケアに対する知識や技術などの指導や、チームをマネジメントするリーダーが求められます。そのため、「認知症チームケア推進加算」の算定要件に、加算(Ⅰ)では「認知症介護指導者養成研修」、加算(Ⅱ)では「認知症介護実践リーダー研修」を修了していることが求められています。
いずれの研修も、即座に修了できる研修ではなく、実務経験を積み、「認知症介護実践者研修」を修了するなどの受講条件があり、また相応の時間の講義や演習を受講する必要があります。介護事業所では、計画的に認知症ケアに関わる研修の受講を推進していく必要があります。
まとめ
「認知症チームケア推進加算」は算定要件も多く、研修の修了など、多くの準備も必要となります。しかし、BPSDの評価やチームケアの推進などを実施していくことで、利用者のBPSDを軽減させ、QOLの向上にも繋がることが期待されます。また、評価によってケアの結果が見える化することで、職員のやりがいにも繋がるかもしれません。
高齢者にとって、今や誰もが認知症になり得る可能性があるからこそ、認知症やBPSDに対する理解やケアの方法などは、介護に携わる職員としては必須のスキルとなり得ることとなるでしょう。
介護事業所として、認知症やBPSDに対する職員のケアを習熟させていくために、「認知症チームケア推進加算」に取り組んでみるのはいかがでしょうか。
この記事の執筆者 | こまさん 所有資格:作業療法士 経歴:作業療法士として医療分野では病院でのリハビリテーション業務に従事、介護分野では訪問リハビリテーション事業所を経て、現在は特別養護老人ホームの機能訓練指導員として従事。 入居者へ多職種で行う機能訓練の提供や、介護士への介護技術指導、LIFEや介護報酬改定に関わる業務などを担っている。 |
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