介護現場は、加齢に伴い精神的や身体的に衰えた高齢者の生活を支える役割を担っています。そのため24時間365日休みはなく、チームプレイを必要とします。
多忙なスケジュールや限られたマンパワーの中で、多くの高齢者をケアすることはとても難しいですが、情報共有を疎かにすると事故やトラブルにも繋がります。
介護は一人で行う仕事ではありません。そのため、情報共有の大切さをスタッフ全員が心がける必要があり、管理者は情報共有のためのツールやプロセスの導入、スタッフの意識向上、コミュニケーションスキルの向上などを検討しなければなりません。
ここでは、なぜ介護現場で情報共有が必要なのか、情報共有ができないとどうなるのかを見ていきたいと思います。ぜひ参考にしてみてください。
目次
介護現場での情報共有が大切な理由
介護現場では、利用者の安全の確保や事故防止、よりよいケアの提供のため情報共有が大切です。情報共有を行うことは、利用者を守るためだけではなく、職員自身や他のスタッフを守ることにも繋がります。
その理由も本記事では明らかにしています。
介護現場では、介護職員のみならず看護職員、リハビリ専門職、相談員、ケアマネジャーなど多くの職員が関わって高齢者のケアにあたります。そのため、各職種が専門知識を活かし、他のスタッフにわかりやすく情報を伝える必要があります。
また、介護施設の多くはシフト制で勤務を組むために、自分が働いている時間帯以外の情報は他のスタッフの情報からしか知ることができません。正確な情報は、質の高いケアに不可欠なので、全てのスタッフが情報の正確な発信と収集に責任を持ち、同じ意識を共有することが重要です。
職員が変わっても適切な介護サービスを提供するため
介護現場では、在宅介護も施設介護もケアプランに基づき介護サービスが提供されます。決められた計画に基づきサービスを提供することは、介護のプロであるスタッフの役割です。
すべての利用者の情報を詳細に覚えることは難しいかもしれませんが、利用者の疾患や状態など、最低限の知識は関わるスタッフが把握することが望ましいでしょう。
介護現場では、常に誰かが介護を担当する必要があるため、職員が変わっても適切なサービス提供が維持される必要があり、そのためにも情報共有は不可欠です。
介護現場では、若いスタッフから年配のスタッフ、男性もいれば女性もいて、最近では外国人のスタッフが働く職場も増えています。情報共有のやり方もそうですし、日々のスタッフ間のコミュニケーションも今まで以上に重要性を増しています。
トラブルや事故を防ぐため
情報共有をすることで、事故やミスの防止、トラブルを事前に防ぐことができます。介護をしているとどうしても事故は起こりえるものです。しかし、適切な情報を理解していれば、事故を完全になくすことは難しいかもしれませんが、減少させることは可能でしょう。
以前、訪問介護の利用者から「Aさんは、これをやってくれるのに、Bさんはやってくれない」という苦情を受けたことがありました。しかしよく聞いてみると、Aさんは、訪問介護で行うことは認められていないサービスを利用者のためにしていたことがわかりました。
Bさんは決められたルールを守って、出来ないことは「できません」と言っていました。もし事前に、「◯◯さんは、こういうことを要求するかもしれませんが、出来ないことはできないと伝えてください。」と情報が共有されていれば、利用者に不信感を抱かせずに済んだかもしれません。
介護サービスの質を向上させるため
介護サービスの質を向上させるために、情報共有の重要性は言うまでもありません。適切な情報共有は、利用者の生活の質(QOL)を向上させることにつながり、これにより介護サービス全体が向上します。
しかし、介護施設の運営は幅広い年齢層と知識の差があるスタッフが高齢者のケアにあたる複雑な環境です。経験、知識、モチベーション、価値観が異なるスタッフを統一することは、管理者にとって大きな課題となります。
以前は、スキルアップのために、労働時間外や業務外でも研修や自己研鑽に励む人が多かったですが、最近では働き方改革や価値観の多様化により、任意での研修に参加したがらない人も増えています。したがって、スキルアップの機会を労働時間内に確保することも大切になっています。
緊急時に適切な対応を行うため
介護現場では、いつ誰が体調不良や転倒、転落などの事故にあうかわかりません。その際に、利用者の情報が頭に入っていないと適切な対応を取ることができませんので、日々の情報共有は大切です。
10年ほど前に、長野県の特別養護老人ホームで入所者が誤嚥で亡くなり、准看護師が訴えられたというニュースを覚えている方も多くいるのではないでしょうか。結果的には無罪となりましたが、長い期間に渡って裁判が行われていました。
事件の詳細については触れませんが、その事件では、介護職員と看護職員の間で情報共有が適切に行われていなかったという点が事件の争点となっています。介護現場は、そのように情報共有が適切に行われてなかった場合に、誰もが加害者と言われる可能性があるという点も忘れないようにしなくてはいけません。
コンプライアンスのため
介護現場では、高齢者の安全と適切なケアのためにコンプライアンスが非常に重要で、高齢者や家族に対する誠実なケアは信頼を築くために欠かせない要素といえます。時として介護現場での不適切ケアが、大きなニュースになることがあります。
常に誰かに見られているという緊張感を持って、不適切な声掛けや介護方法は慎むべきです。特に経験や知識がないスタッフは、先輩スタッフの日々の言動を見て現場で学び成長していきます。
悪気なく不適切な声掛けやケアにならないよう定期的なチェックや面談などを行うことも管理者の責務です。法令や基準、価値観は時間の経過とともに変化していきます、常に新しい情報をキャッチアップしてスタッフ間で情報共有する必要があります。
介護現場で情報共有できないとどうなる?
介護現場では情報共有ができていないことによって、深刻な問題を引き起こす可能性があります。不適切なケアや事故が発生すれば、それが家族や他の介護施設などに広く評判となり、最終的には経営状態に悪影響を及ぼす場合もあるでしょう。
一度悪い評判が広まると、その信頼を取り戻すには築いてきた信用よりもはるかに多くの時間と労力が必要です。不適切な情報共有の結果として起こり得る問題は、利用者の安全やケアの質に大きな影響を及ぼします。
そのため、情報共有の重要性を強調し、介護現場において適切なコミュニケーションと情報共有を確保することは全ての介護現場で不可欠です。スタッフ間での連携や情報伝達のプロセスを改善し、透明性を高めることで、信頼性の高いケアを提供し、事故や問題のリスクを最小限に抑えることができます。
これは利用者の安全とケアの品質を維持し、信頼性のある介護サービスを提供するために不可欠なステップです。
職員間で情報共有する際、利用者のプライバシー保護にも配慮する必要があります。介護現場におけるプライバシー保護については下記の記事に詳しくまとめていますので、参考にしてみてください。
利用者に不適切なサービスを提供してしまう可能性
介護現場はチームで高齢者の生活を支えています。利用者の情報について適切な情報共有を行っていないと、命に関わる問題が起こることもあります。
例えば、ケガや体調が悪いことが共有されておらず、負担になるリハビリをしてしまったことで転倒してしまったり、薬が変わったことの情報が共有されておらず、飲み忘れてしまったりなど、場合によっては命に関わることも起こり得ます。
以前、糖尿病の持病がある利用者に、医師が誤った点滴薬を処方しそうになったことがありました。その際は、点滴をする前に気付いたことで大事には至らなかったのですが、もし誤って点滴をしていたら命に関わった可能性もあります。
医師にはなかなか指摘しにくいですが、しっかりと情報共有ができたことで事故を未然に防ぐことができた事例です。
・介護現場における報連相の重要性!なぜ大切?
「介護で報連相しないとどんなことが起こるの?」「介護における報連相のポイントを知りたい」といった方へ、介護現場における報連相が重要な理由から、大切なポイントまで分かりやすく解説しています。
トラブルやクレームが発生する可能性
介護施設で働いていると、利用者のみならずご家族とも接する機会が多くあり、利用者とのトラブルだけではなく、ご家族とのトラブルも出来る限り防ぎたいところです。特に大事にしたいのは家族との情報共有で、定期的な報告や相談は絶対に必要です。
例えば、夜間帯に転倒してしまった場合などで、ご家族に報告する必要があるかどうかなど、迷うこともあるでしょう。家族にしてみると、数日後に連絡がきて、実は骨折していましたと聞かされたらどうでしょうか。不信感やトラブルにも繋がる可能性があるかもしれません。
そのような場合は、いつもと違うことが起きたり少しの異常であっても報連相をすることはとても大事です。コロナ禍でご家族との関わりが希薄になっている介護施設も多くあります。不信感を招かないような情報共有は、スタッフ間だけではなく家族とも必要になっています。
働きにくさから離職に繋がる可能性
介護現場では情報共有が円滑にできないと、スタッフの働きにくさに繋がります。介護労働安定センターの調査では、職場での不満や悩みの上位に、
「業務の指示が不明確、不十分」
「ケアの方法等について意見交換が不十分」
「上司や同僚との仕事上の意思疎通がうまく行かない」
などが入っています。
これらは情報共有やコミュニケーションが円滑にできていないことから起こる問題で、こうした状況が続くと、スタッフのモチベーション低下や離職のリスクが高まります。また、職員同士の信頼感が損なわれ、職場全体の雰囲気が悪化する可能性もあるため、情報共有と円滑なコミュニケーションが、介護現場において極めて重要であることは明らかです。
最悪の場合、スタッフの離職につながってしまいます。
参考:令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書(P.62)
介護現場での情報共有の課題・問題とは
介護現場での情報共有には、介護業界特有のさまざまな課題や問題があります。これらの問題に対処するためには、様々なアプローチが必要です。以下に具体的な課題とそれに対処する方法について見てみましょう。
スタッフごとの知識や経験の差が大きい場合がある
介護現場では異なる経験とスキルを持つスタッフが多く、その差が情報共有を難しくする要因のひとつになります。解決策としては、スタッフのトレーニングに時間を使って、知識の共有を進めることです。
また、新人スタッフには経験豊富なスタッフの指導を受ける機会を提供するなどして、共有の文化を醸成するとよいでしょう。
多職種が関わることの難しさがある
介護現場は、介護職員だけではなく、看護師、リハビリテーション専門職、相談員など、多くの職種が関わります。各職種が異なる専門性を持っており、情報の齟齬が生じることがあります。
これを解決するためには、チーム間の協力やコミュニケーションが不可欠です。定期的なミーティングや情報共有の機会を設け、異なる職種の専門家同士が連携しやすくしましょう。
人手不足や時間の不足により余裕がない体制
多くの介護施設は人手不足に悩まされており、スタッフは非常に忙しい業務をこなしています。情報共有を怠ると、重大なミスや事故のリスクが高まります。
解決策は、スタッフの負担を軽減するための効率化の取り組みです。適切なシフト管理や業務の見直しにより、スタッフに余裕を持たせることが必要です。シフトの改善は第一手となります。
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シフト作成が管理者やリーダーの大きな負担になっている…といった介護施設も多いでしょう。シフト作成をもっと楽に、公平に作りたい、といった方はぜひご覧ください。
技術やツールの活用が遅れている
近年、情報技術は情報共有の手段として活用することができます。しかし、介護現場でのテクノロジー活用は遅れているのが実情です。
今後は、デジタルツールやコミュニケーションツールも積極的に導入し、スムーズな情報共有に繋げる必要があるでしょう。
プライバシーや倫理の課題がある
利用者のプライバシーや倫理的な配慮は常に意識しなくてはいけません。情報共有はこれらに配慮して注意深く行わなくてはいけません。スタッフに対してプライバシーと倫理に関する教育を行い、情報の取り扱いに慎重にならなくてはいけません。
課題や問題を解決しないと、不適切なケアや事故、利用者の不満にも繋がり、それらが積み重なるとスタッフの不満や離職にも繋がってしまいます。介護施設の管理者は、目の前の課題を解決すると同時に施設の将来についても考えていく必要があります。
介護現場で情報共有を行う際のポイント
介護現場で働くスタッフにとって、情報共有は不可欠です。ほとんどの従業員がその重要性を理解している一方で、実際には情報共有がスムーズに行われない介護施設も少なくありません。
ここでは、介護現場で効果的な情報共有を実現するためのポイントを考えてみましょう。
オープンで効果的なコミュニケーションを確保する
職種や経験に関わらず、定期的なミーティングや情報交換の機会を設け、コミュニケーションを活発にして、風通しの良い職場環境を築きましょう。
デジタルツールを活用する
最近では、介護現場にChatworkやSlack、LINEWORKSなどのコミュニケーションツールを導入する施設が増えています。特に若いスタッフは、手書きやパソコンよりスマホやタブレットなどのモバイル機器に慣れています。
無料または安価なアプリもたくさんあるので、有効的なツールは積極的に導入を検討したいものです。
教育とトレーニングの機会を持つ
情報共有では、明確でわかりやすい文章を書くことが大切です。
私が施設の管理者をしていた時に、毎日全ての記録に目を通していましたが、とても簡潔でわかりやすい文章を書くスタッフがいる一方、何が言いたいのかよくわからない文章を書くスタッフもいました。
スタッフに対して、相手に伝わるような文章を書くスキルを向上させるための繰り返しの教育やトレーニングを提供し、コミュニケーションスキルを向上させましょう。
情報共有が、介護現場の質の向上に寄与する重要な要素であることは間違いありません。スタッフや利用者への思いやりある情報共有は、よりよい施設運営に大きな影響を与えます。
介護現場の成功には、情報共有の改善が欠かせない一環であり、その取り組みは継続していく必要があります。
介護現場で情報共有がうまくいくことでチームワークも向上する
介護現場で情報共有を行うことは、チームワークの向上にとって欠かせない要素です。情報共有はチーム全体が協力して同じ目標に向かうための土台になるものです。
情報共有は、利用者に対するケアの質の向上につながり、スタッフの信頼関係を高め、介護現場全体の成功と発展に寄与します。このため、情報共有を促進し、その価値を最大限に引き出すことは、介護施設の運営において不可欠な要素です。
介護業界では、人間関係による離職が常に上位になってしまっています。ただでさえ人手不足な業界ですから、風通しのよい職場環境をつくることで人間関係をよくして、離職の防止や働きやすい職場環境をつくりたいものです。
まとめ
どのような仕事でもコミュニケーションは大切な要素ですが、特に介護現場においては、一緒に働く仲間や利用者、関係各所とのコミュニケーションが重要です。
それは、介護現場が、高齢者の方の生活や命を守る仕事として、高い倫理観や専門性、相手を思いやる気持ちを持つ必要があるからです。そのためには、常に情報共有を心がけて、よりよいサービスの提供や強いチームづくりを意識しなくてはいけません。
介護のプロフェッショナルとして、情報共有を重視して仕事をすれば質の高い介護サービスと強固なチームづくりに繋がることでしょう。
この記事の執筆者 | otoupapa 保有資格: 介護支援専門員、介護福祉士、介護予防運動指導員 等 訪問介護、デイサービス、有料老人ホーム、小規模多機能型居宅介護を経て今は居宅ケアマネジャーとして勤務。 介護職歴は約22年で、祖父母の在宅介護や福祉系のNPO法人運営を経験しました。 現在は介護・福祉系その他のライターをしながら、介護のお仕事と子育てを両立しています。 |
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