少子高齢化にともなう介護人材の不足・今後の介護需要の急増により、介護現場の業務効率化・生産性向上が求められています。
このような課題に対する取り組みとして、介護現場のICT化が注目されており、さまざまなICTツールが介護現場で活用されています。業務効率向上のために介護現場にICTツールの導入を検討している介護事業者も多いでしょう。
しかし導入にあたっては「具体的にどのようなICTツールがあるの?」「ICTツールの活用例やメリットを知りたい」と気になるのではないでしょうか。
この記事では、介護現場で活用されているICTの種類と活用例を中心に、介護現場のICT化の実情と進めるためのポイントをご紹介します。介護現場のICT化に興味がある方・これから介護現場のICT化を取り組まれる方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
介護現場のICT化とは
介護現場のICT化とは、情報通信技術(ICT)を介護現場に導入し、業務効率化・生産性向上を実現する取り組みです。詳しくは後述しますが、介護ソフトや見守りセンサーなどを活用し、業務効率の向上、介護の質向上を実現します。
介護現場のICT化を進めると、例えば以下のようなメリットがあります。
・業務負担を軽減できる
・情報共有や連携がスムーズになる
・介護業務の時間を確保できる
・介護サービスの質が上がる
・利用者の満足度が上がる
厚生労働省も介護現場のICT化を促進させるために「ICT導入支援事業」やICT化のノウハウに関する情報発信を行っており、介護業界全体で注目されています。
介護現場のICT化が注目される背景には、主に以下の2つの理由があります。
・少子高齢化による人材不足
・多様な介護需要の急増
引用:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
国内では、少子高齢化による生産年齢人口の低下に伴い、介護人材が不足しています。厚生労働省の推計では、2040年に約69万人の介護人材が必要と見込まれています。上記の図をご覧いただくとお分かりになるように、年を追うごとに介護人材の不足が顕著になっています。
現状においても介護事業者の多くが介護職員の採用に力を入れています。今後はさらに人手不足が深刻となり、ますます介護人材の確保がむずかしくなり、職員の負担増加・サービスの質の低下が予想されます。
しかし、今後も高齢者数の増加が見込まれており、多様な介護需要の急増への対応を考えなければなりません。このような背景により、介護現場のICT化による業務効率化・生産性向上が注目されており、ますますICT化の需要も高まるでしょう。
介護ICTの種類・活用例
介護現場のICT化を進める際、ICTの種類やどのような活用例があるのか知りたい方も多いでしょう。具体的なICTの種類は、以下のとおりです。
・介護ソフト
・勤怠管理・給与計算
・見守りシステム
・情報共有
・コミュニケーション(インカム)
・送迎システム
・シフト管理ソフト
1つずつ解説します。
介護ソフト
介護ソフトは介護施設・事業所における請求業務や事務作業をサポートするソフトウェアのことで、以下の機能が実装されています。
・請求機能:売上・入金管理、国保連への伝送など
・計画機能:ケアプラン・アセスメントの作成など
・記録機能:記録・報告書の作成と管理など
スマホ・タブレット端末に対応しており、持ち運びや入力がしやすいという特徴があります。
介護ソフトを活用すると、以下のメリットがあります。
・事務作業や請求業務の負担が少なくなる。
・紙・保管スペースなどのコストを削減できる
介護現場での記録・報告書などの事務作業は、手書きで行う場合が多いため、時間・手間を費やしていました。そのため、業務負担の増加や本来の介護業務に充てる時間が少なくなる問題がありました。
しかし、介護ソフトの記録機能を活用すると、簡単に文章を入力でき、一度入力した情報は他の記録・書式へ連動されるため、転記作業が少なくなります。さらに、過去の記録・利用者情報はデータで保管可能なので、紙・保管スペースにかかるコスト削減も可能です。
介護現場の請求・事務作業の効率化には介護ソフトの活用は効果的です。
勤怠管理・給与計算
勤怠管理・給与計算システムは、職員の勤怠管理・給与計算をサポートするものです。介護施設・事業所の特徴に合わせたものを選べるため、勤怠管理・給与計算に関する業務を効率良く行えるでしょう。
勤怠管理・給与計算システムを活用すると、以下のメリットがあります。
・勤怠管理・給与計算の業務負担を軽減できる
・計算の間違いがなくなる
・職員の業務負担を可視化できる
介護施設によっては、多様な雇用形態や複雑なシフト勤務により、毎月の勤怠管理・給与計算に時間・手間が発生するため、担当者にとって大きな負担となっています。さらに、勤怠管理や給与計算のミスが発生すると、現場で働く職員の給与に影響が出るため、ちょっとしたミスでも許されないプレッシャーもあります。
勤怠管理・給与計算システムの活用により、職員の勤怠管理や給与計算を自動的に行うため、計算ミスがなくなり、業務負担を軽減できます。また、職員の勤怠情報をシステムで管理し、業務負担を可視化できるため、業務改善や効率化につなぐことができます。
勤怠管理・給与計算業務の効率化や、働きやすい職場づくりを行うには、勤怠管理・給与計算システムの活用は効果的です。
見守りシステム
見守りシステムは、以下の種類のセンサー機器を用いて、利用者の様子や状態の変化を職員へ通知するシステムです。
・ベッドセンサー
・マットセンサー
・赤外線センサー
・バイタルセンサー
ナースコールや専用端末と連動することで、利用者の異変の際にアラームや通知によって職員へ知らせてくれます。見守りシステムを導入すると、以下のメリットがあります。
・利用者の異変やアクシデントにすぐ対応できる
・夜間の巡回業務の負担を軽減できる
・人手が足りない時でも安否確認ができる
利用者によって、転倒や徘徊などのリスクが高い人や、疾患により状態が急変するリスクが高いケースがあります。しかし、他の利用者の様子も確認する必要があるため、介護職員が頻繁な安否確認をすることが難しいのが現状です。
また、介護施設では夜間の巡回業務の負担も大きく、巡回中にナースコールが鳴り、利用者の対応も同時に行わないといけません。見守りシステムを活用することにより、転倒や徘徊などが発生した際、迅速な対応ができるため、利用者の安心・安全につながります。
見守りシステムの中には、利用者の状態・行動をモニタリングできる物もあり、安否確認・巡回業務の負担を軽減できます。利用者の安心安全や巡回・安否確認を効率よく行うには、見守りシステムの活用が効果的です。
情報共有
介護現場の職員同士の連携で欠かせないことは、スムーズな情報共有です。情報共有ができていないことにより生じるヒヤリハット、介護事故もあり得ます。介護現場においてスムーズな情報共有を行う方法として、スマホ・タブレットといったモバイル端末・チャットツールの活用が効果的です。
モバイル機器・チャットツールの活用により、以下のメリットがあります。
・必要な情報にすぐアクセスできる
・すぐに情報共有ができる
・写真・動画での情報共有ができる
これまでは、過去の利用者情報を確認する際、膨大な紙媒体の記録・書類の中から、必要な情報を探す作業が必要でした。さらには職員間で情報共有する際、PHSでの通話や他の職員がいる場所への行き来が必要だったため、職員には余計な時間・労力がかかっていました。
しかし、介護ソフトをインストールしたモバイル端末の活用により、検索機能で必要な情報にすぐアクセスできます。例えば、ChatWork・LINE WORKSなどのビジネス用チャットツールを活用すると、職員全員への周知・写真・動画での情報共有が行いやすくなります。
職員間でのスムーズな情報共有には、モバイル端末・チャットツールの活用が効果的です。
コミュニケーション(インカム)
職員同士のコミュニケーションを効率よく行うには、インカムの活用が効果的です。インカムはヘッドセット・マイクが一体化した通信機器で、頭や首に装着できるため、ハンズフリーで相手と通話できます。
インカムの活用により、以下のメリットがあります。
・リアルタイムで情報共有ができる
・全職員に呼びかけることができる
・他の業務を行いながら通話できる
これまで介護現場の職員の連絡ツールはPHSが主流でした。しかし、PHSは1対1の通話しかできないため、緊急を要する場合など全職員にヘルプを呼びかけるには時間がかかります。
相手がPHSをポケットにしまっていると、着信に気づかないことで連絡が遅くなる場合もあります。さらに、利用者の介助中に着信があっても、手が塞がっている状態では連絡がとれません。
インカムの活用により、緊急を要する場合や情報連携を行う場合、リアルタイムで一斉に全ての職員へ話しかけられるため、連絡の手間がかかりません。
インカムを装着しながらであればハンズフリーで様々な業務を行えるメリットもあります。また、通話にすぐ気づき、他の業務を行いながら通話が可能です。
職員間のコミュニケーションの効率化には、インカムの活用がおすすめです。
送迎システム
送迎システムは、デイサービスにおける送迎業務をサポートするシステムです。送迎システムを活用すると、以下のメリットがあります。
・かんたんに送迎表を作成できる
・送迎状況をリアルタイムで確認できる
・ドライバーを選ばず送迎業務ができる
デイサービスでは、安全かつスムーズな送迎業務を行うため、ルート・担当ドライバーなどをまとめた送迎表を作成しています。しかし、送迎表はさまざまな条件を考慮しながら作成するため、時間と手間がかかります。
またもし送迎中のアクシデントが発生した場合、緊急対応や連絡などに追われるため、送迎業務ができなくなります。運転に不慣れなドライバーにより、ルートの間違い・時間がかかることもあります。
送迎システムを活用すると、利用者の住所入力・条件設定を行うと、AIが最適なルートで送迎表を自動作成するため、送迎表作成の負担を軽減してくれます。また、送迎状況・送迎表の内容をリアルタイムで確認できるため、不測の事態になってもすぐ対応できることもメリットでしょう。
送迎業務の効率化や安全を守るためには、送迎システムの活用も効果的です。
シフト管理ソフト
シフト管理ソフトは介護現場のシフト表作成や管理をサポートするソフトウェアです。自動的にシフト表を作成する機能や、職員の労働時間を管理する機能があり、効率的にシフト作成ができるようになります。
シフト管理ソフトを活用すると、以下のメリットがあります。
・シフト表を自動で作成できる
・ルールや職員の事情に合わせたシフト表を作成できる
・シフト表の作成・管理のミスがなくなる
特に介護施設では、労働基準法や人員配置基準などのルールを守り、施設のシフト体制や職員の勤務形態・希望に配慮したシフト表を作成しなければなりません。シフト表の作成には、多くの時間・手間がかかり、公平性が求められるため、作成者である役職者の負担は非常に大きいといえます。
シフト管理ソフトを活用すると、職員の情報を入力し、シフトの時間設定することで、ルールに沿ったシフト表を自動作成できます。そのため、人為的なミスを無くし、負担軽減にもつながります。さらに、職員の勤務時間を管理できるため、常勤換算を把握する際に役立ちます。
シフト表の作成・管理を効率化したい場合、シフト管理ソフトの活用は効果的と言えるでしょう。
自動でシフト作成を行ってくれる介護業界向けのシフト作成ソフトも増えています。ぜひ参考にしてみてください。
厚生労働省によるICT利用促進
厚生労働省では介護現場のICT化を促進する取り組みとして、「ICT導入支援事業」を行っています。ICT導入支援事業は、現場での記録・情報共有・請求業務を1つにまとめて完結できるよう、介護ソフトやタブレット端末の導入を支援する事業です。
令和元年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | |
実施都道府県数 | 15 | 40 | 47 |
助成事業所数 | 195 | 2,560 | 5,371 |
ICT導入支援事業により、ICTツールを導入する介護施設・事業所が年々増えており、介護現場のICT化の促進に繋がっています。しかし、反対に介護現場のICT化を進めることが難しい介護施設・事業所もあります。
公益財団法人介護労働安定センターが令和4年度に行った調査によると、回答した事業所の19%以上がICTを導入していないことが分かりました。そのため、業界全体での介護現場のICT化は進んでいるものの、ICT導入を進めることが難しい介護施設・事業所も多くあるというのが実態です。
どうして介護現場でICT化が進まないのか
介護現場のICT化は業界全体で進んでいますが、ICT導入を進めることが難しい介護施設・事業所がまだ多くあります。どうして介護現場のICT化が進まないのでしょうか。
介護現場のICT化が進まない理由としては、以下のようなものがあります。
・コストが高い
・機械に対する苦手意識
・仕事のやり方を変えたくない
ICTツールは、業務効率化・生産性向上などの効果がある一方、導入時のコスト・導入後のランニングコストが高いという特徴があります。介護施設・事業所を運営する立場として、支払った分の費用対効果を考えると、ICT化に踏み出せない事情もあるでしょう。
また、介護現場で働く職員には、パソコンやタブレットなどのデジタル端末に触れることが苦手という人も数多くいます。そのため、ICTツールやデジタル端末が業務の中に組み込まれることで、普段行ってきた業務のハードルが高いと感じ、生産性が低下する原因につながります。
これまでの業務や仕事のやり方を変える、ということに抵抗を感じる職員もいます。これまでの業務の進め方でなんとか現場が回ってきた、という実情もあり、仕事のやり方を変えられない・ICT化の必要性を感じていないため、ICTツールの導入が進まないことにつながっています。
介護現場でICT化を進めるためのポイント
介護現場のICT化を進めるためにどのようなポイントを押さえるべきでしょうか。介護現場のICT化を進めるためのポイントとして重要と考えられる、以下の2つをご紹介します。
・介護施設・事業所が一丸となり取り組む
・職員へのフォローに取り組む
介護現場のICT化を進めるためには、職員・役職者・経営者が一丸となり、取り組めるようにしましょう。全員が一丸となることで、ICT化の理解を得ながら導入までスムーズに進めることができます。
特に経営層がICT化の必要性を理解し、導入が進み現場に根ざすまで諦めない、という姿勢を示すことは重要です。そうした姿勢があってこそ、役職者やICT担当者が現場へのICT導入を推進していくことができます。
ICTツールを導入する前に、使いこなせるか不安を感じる職員もいます。不安を感じる職員を放置すると、ICTツールを使いこなせないまま業務を行うため、プレッシャーとなりかえって生産性低下につながります。
そのため、使用方法や実際に使って使用感を確かめる研修の開催や、導入後のサポートを継続して行うなど、職員へのフォローをしっかり行うことも重要です。
介護現場のICT化を進めるためには、職員・役職者・経営者が一丸となり取り組みつつ、現場で働く職員へのフォローを忘れず取り組みましょう。
まとめ
今回は介護現場のICTの種類と活用例を中心にご紹介しました。さまざまな種類のICTツールが介護現場で活用され、効果を実感している介護施設・事業所が増えています。
その反面、高コスト・職員の意識により、ICT化に踏み出せない介護施設・事業所が多いことも事実です。しかし、今後も介護人材の不足・高齢者数の増加による介護需要の増加は続きます。
限られた資源の中で対応するには、業務効率化・生産性向上が必要不可欠となり、今後も介護現場のICT化の需要は高まるでしょう。
そのため、「ICT導入支援事業」などの補助を活用し、介護施設・事業所内で一丸となり、職員へのフォローを行いながら、介護現場のICT化に取り組みましょう。
この記事の執筆者 | Kawashow 所有資格:介護福祉士 介護支援専門員 福祉用具専門相談員 福祉住環境コーディネーター2級 介護職として介護付き有料老人ホーム・病院の現場で7年間勤務。 ケアマネ資格取得後、地域密着型特養のケアマネとして2年間勤務し、現在は居宅介護支援事業所のケアマネとして8年目を迎えます。 本業と並行し、介護・福祉系ライターとしても活動しています。 |
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