介護職員の皆さん、休日はいかがお過ごしでしょうか?休日の過ごし方は人それぞれでしょうが、心身ともにリフレッシュしてまた仕事に臨めるようにしたいものです。
ですが多忙な職場では、仕事を最優先にするあまり、有給休暇や休日をとることに抵抗を感じる方もいるのではないでしょうか。しかし、休みをとることは労働者の権利であり、健康維持や業務効率を高めるためにも重要なものです。
本記事では、有給休暇の基本的な知識から、付与日数や取得基準、そして介護職における有給取得の現実について詳しく解説します。さらに、有給休暇の義務化や介護現場で有給を取得しやすくするための対策についても考察します。
忙しい介護現場だからこそ、適切な休息を取る方法を一緒に学びましょう。
目次
年次有給休暇とは
有給休暇は正しくは年次有給休暇といい、「有給」「有休」などと略されることがあります。これは労働基準法に基づき、一定の条件を満たす労働者に対して与えられる有給の休暇のことを言います。
この制度の目的は、労働者が健康を維持し、仕事と生活のバランスを保つために設けられています。有給休暇は労働者が自由に取得でき、取得理由を問われることはありません。ただし、業務に支障が出る場合には、使用者が時季変更権を行使することができます。
年次有給休暇制度は、元々は欧米で過酷な労働条件に対し、抗議したのがきっかけでした。そこから労働条件が見直されていく中で、1936年には国際労働機関(ILO)によって定められました。
日本では1947年に労働基準法の制定とともに導入されました。以降、労働環境の変化に応じて制度の見直しが行われ、現在に至ります。
年次有給休暇は労働者の権利として確立され、職場の健康と効率を支える重要な制度です。
年次有給休暇の付与日数
有給付与日数は、労働者の勤務形態によって異なります。
ここでは、
・通常の労働者
・週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者
の2パターンについて解説します。
通常の労働者の付与日数
通常の労働者とは、
週所定労働日数が5日以上、もしくは週所定労働時間が30時間以上の労働者
を指します。
通常の労働者には、以下の表に示すように、勤続年数に応じた有給付与日数が与えられます。
参照:労働者の方へ | 年次有給休暇取得促進特設サイト | 働き方・休み方改善ポータルサイト
週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数
一方で、
週所定労働日数が4日以下、かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者
には、通常の労働者とは異なる有給付与日数が適用されます。
その場合、所定労働日数や週所定労働時間、または継続勤務年数により有給付与日数は変動します。具体的な日数については、以下の表をご参照ください。
参照:労働者の方へ | 年次有給休暇取得促進特設サイト | 働き方・休み方改善ポータルサイト
このように、勤務形態によって有給付与日数は異なります。自分の勤務状況に応じた有給付与日数を確認しましょう。
有給休暇の義務化について
2019年4月1日から施行された働き方改革関連法の一環として、年次有給休暇の取得が義務化されました。
この法改正により、企業は年次有給休暇を付与された労働者に対して、「毎年5日以上の有給休暇を取得させること」が義務付けられました。この義務を果たさない場合、企業には罰則が適用されることがあります。
その背景には、長時間労働の是正と労働者の健康維持、仕事と生活のバランスを促進する目的があります。
日本における年次有給休暇制度は、1947年に労働基準法の制定とともに導入されましたが、長時間労働が常態化している状況が続いていました。
1970年代から80年代にかけて、経済成長に伴い労働者の健康問題が顕在化し、そして2000年代に入ると、過労死や過労自殺といった社会問題にまで発展していきました。
そのため労働環境の改善が求められ、2019年より働き方改革関連法が導入され、その一環として年次有給休暇の取得義務化が実現しました。
この法改正は、労働者の心身の健康を守り、労働意欲を向上させるための重要な一歩となっています。
年次有給休暇の最大日数は何日?
年次有給休暇の最大日数について、これまで解説した内容と、労働基準法第39条をもとに解説します。
「年次有給休暇の付与日数」より、表を参照すると、有給付与日数は6年半勤務することで最大で年に20日付与されることがわかります(第2項)。
また、労働者が取得できなかった有給休暇は翌年に繰り越すことができ、最大で2年間保存することができますが、これ以上繰り越すことはできず、消化されない有給休暇は消滅します(第3項)。
そして最後に「有給休暇の義務化について」より、企業側には労働者に年5日分の有給を消化させる義務があります。(第7項)
以上の点をまとめると以下の通りです。
{20日(1年目の最大年次有給数)ー5日(5日間の取得義務)}+20日(2年目の最大年次有給数)=35日
よって獲得できる有給付与日数の最大は35日と言えるでしょう。
介護現場における有給取得の現実
さて、ここまでは年次有給休暇の基本的な知識について解説してきましたが、ここからは介護職における有給休暇の現状について解説していきます。
取得状況の現状を示す指標として、年次有給休暇の「付与日数」「取得日数」「取得率」が挙げられます。
具体的な内容は以下の通りです。
・付与日数:その年に付与された年次有給休暇の日数。(繰越分は含まない)
・取得日数:その年に実際に有給で休暇をとった日数。(繰越分含む)
・取得率 :(取得日数÷付与日数)×100(%)その性質上100%を超えることもある
以上を踏まえた上で、厚生労働省が行った「令和4年就労条件総合調査の概況」のP6の年次有給休暇の項目を見てみましょう。
ここには令和3年の1年間における年次有給休暇の統計が記されています。
各業種に分類されていますが、この中の「医療・福祉」の項目と全国平均を比較した表が以下の通りです。
医療・福祉 | 全国平均 | |
付与された有給の日数の平均 |
16.4日 | 17.6日 |
平均有給取得日数 | 9.9日 | 10.3日 |
平均有給取得率 | 60.3% | 58.3% |
「医療・福祉」の付与日数、取得日数が全国平均より少ないことから、以下のことが考えられます。
・短時間勤務の人が多い
・離職率が高い
・一つの企業に対する定着率が低い
・新規参入者が多い
一方で、「医療・福祉」の有給取得率は全国平均より高いことから、以下のことが考えられます。
・労働者の疲労回復の必要性
・労働者の意識の高さ
・職場のサポート体制、年次有給休暇取得の促進策
・職場による法的義務の遵守
「医療・福祉」の有給取得率が全国平均より高いことに、少し意外な結果だったと感じる方もいるのではないでしょうか?
介護職が有給を取得しづらい理由
前項で医療・福祉業界の有給休暇の現状がわかりました。思っていた以上に有給取得率が高い、と感じた方も多いかもしれません。しかし、そうはいっても働いている職場の状況を考えて、有給休暇を取得(申請)するのに抵抗がある方も多いと思います。
なぜ、介護職は有給を取得しづらいのでしょうか。その理由として考えられるものを以下に挙げていきたいと思います。
人手不足と代替要員の確保の難しさ
介護現場では、慢性的な人手不足が深刻な問題となっています。そのため一人の職員が休暇を取ると、その分の業務を他の職員がカバーしなければならず、結果として他の職員に大きな負担がかかります。
また介護職は専門性が高く、場合によっては経験や知識が求められるため、急な代替要員の確保が難しいことがあります。
職員の責任感や使命感
介護職員として働く人たちには、真面目であったり、優しい、といった傾向があります。そのため、休暇を取ることに抵抗を持つ人もいるでしょう。
この責任感や使命感は、職務に対する誇りでもありますが、同時に有給休暇の取得を妨げる要因になってしまいます。
まとまった休みの後の状況変化が心配
一つ例をあげます。
仮に3日ほど休暇を取得したとします。休暇前には元気だった方が、休暇明けに会った途端目の前で亡くなってしまった。
さて、そんな時どう思うでしょうか。
もちろんこれは極端な例ですが、長期休暇を取ると復帰後の状況変化についていけなくなるのでは、と不安を抱えることがあるのではないでしょうか。
ケアプランの変更や業務の流れが変わっている場合などは、適応するのに時間がかかることもあります。このため、まとまった休みを取りづらく感じることがあります。
自分が休むと仕事が回らなくなる
介護職に限った話ではありませんが、リーダーや管理職などの立場のある職員は、自分しかできない仕事や特定のスキルが必要な業務を担当していることが多いです。このため、休暇を取ると業務が回らなくなるという懸念があります。
特に、管理職は業務全体の調整や緊急対応などを担当するため、自分が休むことで職場全体に影響が及ぶことを恐れて、休暇を取得しづらい状況にあると言えるでしょう。
長期体調不良に備えて
体の弱っている高齢者を対象とする介護現場では、感染症のリスクが高く、職員自身が体調不良に陥ることもあります。
介護職員は、自身が体調を崩した際に備えて、有給休暇を確保しておきたいという考えを持つことが多いです。このため、普段から有給を取りづらい状況が生まれます。
職場の雰囲気
介護職に限らず、職場の雰囲気が有給休暇の取得に大きな影響を与えます。
上司や同僚が休暇を取ることに否定的であったり、職場全体で有給休暇を取りづらいという風潮があると、職員は休暇を取得することに罪悪感を感じることが多いです。
このような雰囲気は、有給休暇の取得率低下だけでなく職員の精神的な負担を増やす原因となります。
介護職が有給休暇を取得しやすくするには
介護職が有給休暇を取得しやすくするためには、職場全体の理解と協力が不可欠です。これまでに述べたような障害を乗り越えるためには、職場のシステム改善や風土の改革が必要です。
以下に、介護職員が有給休暇を取得しやすくするための具体的な対策を紹介します。会社レベルで取り組まなければならないものから、個人でできることまでありますのでぜひ参考にしてください。
人員の増強
介護現場で有給休暇を取得しやすくするためには、根本的に人員の増強が必要です。現場の人手不足を解消するために、パートタイムやアルバイトの職員を積極的に採用し、業務を補完する体制を整えましょう。
またしっかりとした指導を行い、新たに採用された職員が迅速に業務に適応できるようサポートすることも重要です。
一方で、離職を防ぐことも考えなければなりません。
単純に昇給することも考えられますが、その職場で働くことで感じる恩恵(仕事を通じての成長、やりがい、資格取得などの目標)を職員に与えることで離職を減らすこともできるでしょう。
代替要員が確保されれば、現職員が安心して休暇を取得することができ、業務の円滑な遂行が可能となります。
職場の雰囲気改善
有給休暇を取得しやすくするためには、職場全体の雰囲気を改善することが必要です。職場文化として、有給休暇取得を積極的に奨励し、有給取得に対する罪悪感をなくすことが重要です。
上司や管理職が率先して有給休暇を取得することで、部下にも休暇取得を促進する姿勢を示しましょう。また、休暇取得に関するポジティブな事例を共有し、休暇取得が職場に与える良い影響を広めることで、職場全体の意識改革を進めることができます。
職務内容の分散
介護に限らず、特定の職員に業務が集中しないように職務内容の分散を図ることが重要です。誰か一人にしかできない業務がある場合、その人が休暇を取ると業務が滞ることになります。
そのため、業務の標準化やマニュアルの整備を行い、他の職員がその業務を代行できるようにしましょう。また、定期的に業務の見直しを行い、複数の職員が対応できる体制を作ることで、休暇取得がスムーズに行えるようにします。
計画的な有給取得
有給休暇を取得しやすくするためには、計画を立てることが重要です。自分の年間のスケジュールを見直し、予め休暇を取得するタイミングを決めておくことで、突発的な休暇取得による業務への影響を最小限に抑えることができます。
もちろん、全て消化するのではなく、有事の際の備えを確保した上で計画を立てる方が良いでしょう。また、長期休暇を取得する際は、早めに上司に相談することで、業務の調整がしやすくなり、安心して休暇を取ることができます。
計画的な休暇取得は、職員のリフレッシュを促し、業務効率の向上にも繋がります。
まとめ
ここまで、年次有給休暇の基本的な知識から介護職における有給休暇の現状、そして有給休暇を取得しやすくするための対策について解説しました。
有給休暇の取得は、労働者の権利であり、健康維持や業務効率の向上に繋がる重要な要素です。そのため有給休暇取得の義務化がなされたといって良いでしょう。思うように有給が取得できない場合は、転職も視野に入れて良いかもしれません。
ただし、有給休暇を取得しづらいからといって、必ずしもその職場が悪いわけではありません。もし有給休暇を安心して使うことができる職場を良い職場とするなら、それを作り上げるためには一人一人が職場を良くしようと意識しながら働いていくことが何より重要です。
職員一人ひとりが意見を言いやすくする、そのためにも職場の心理的安全性も大切になりますね。
ミーティングなどで有給取得をテーマとして、取得率のデータなどを共有することから始める、といったことでも良いかもしれません。職員も管理職も含めて、有給取得に対しての考え方を形作っていくことがまずは必要といえるでしょう。
この記事の執筆者 | ソテツ 保有資格:実務者研修、ユニットリーダー研修修了 ショートステイに約8年勤務、デイサービスで約半年勤務、サ高住で約1年半勤務、と約10年ほど介護業界で仕事をしてきました。 ショートステイでは1年ほどユニットリーダーをさせて貰いました。 短い期間でしたがそのわずかな期間で、施設内での稼働率NO.1のユニットを作り上げることに成功してます。 現在は介護・福祉系ライターとしても活動中。 |