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【教えて!】介護現場をペーパーレス化するメリット・デメリット、導入成功のポイントを解説!

介護現場 ペーパーレス化 メリット・デメリット

多くの介護現場における問題の一つが、記録や書類作成における事務作業の負担です。人手不足や現場の業務負担によって、本来行うべき介護業務と匹敵するほどの時間がかかり、介護職員の業務負担の増加やケアの質の低下に繋がっています。
 
また、紙ベースの記録・書類を活用することにより、印刷にかかる膨大なコストが発生しており、そうしたコスト削減の効果も含め、介護現場のペーパーレス化が注目されています。
 
この記事では介護現場をペーパーレス化するメリットとデメリットについて解説します。また、ペーパーレス化を成功させるポイントについてもご紹介します。
 
事務作業の負担軽減やペーパーレス化の導入にお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。

介護職員の大きな負担「書類作成・事務作業」

記録ファイル

介護職員にとって、書類作成・事務作業は大きな負担となっています。

ペーパーロジック株式会社の調査によると、

ペーパーレス化推進の重要性を感じる介護事業所が約8割あり、そのうちの7割が「スタッフの業務が多く、多忙だから」という理由でペーパーレス化の重要性を感じている

と示されています。

また、日本国内では生産年齢人口減少に伴い、介護人材の確保が困難となっており、慢性的な人手不足が続いている状況です。

人手不足が続く介護現場では、書類量の増加などにより、書類作成・事務作業の時間が本来の介護業務の時間を大きく圧迫しているといって良いでしょう。そのため、書類作成・事務作業の負担軽減を目的に介護現場のペーパーレス化が注目されています。

介護現場をペーパーレス化するメリット

介護記録アプリに利用者の様子を入力する介護職

人手不足や業務負担増加もあり、さらに書類作成・事務作業も多大な時間を要するため、介護職員の大きな業務負担となっています。そのため、介護現場のペーパーレス化が注目されていますが、どのようなメリットがあるでしょうか。

介護現場をペーパーレス化する主なメリットを解説します。

書類作成・事務作業の負担が軽減できる

介護現場のペーパーレス化によって、書類作成・事務作業の負担を軽減できます。多くの介護現場では、利用者のバイタルや支援内容を一時的にメモし、後でまとめて正式な記録用紙に転記する手間が発生しています。

業務の忙しさやイレギュラーな業務が発生してしまうと、書類や記録作成の時間がとれなくなってしまいます。そのため書類作成や介護記録のために職員が残業するケースもあり、介護職員にとって大きな負担となっています。

しかし、例えば介護ソフトを利用し、タブレットなど電子端末を活用すれば、その場で記録を入力し利用者の介護記録を作成することが可能です。転記の必要もありません。

そのため、ペーパーレス化を進めると、書類作成・事務作業の負担を軽減し、効率的に書類や記録作成をすることができます。この点はメリットと言えるでしょう。実際、ペーパーレス化を進めた結果、職員の残業時間を削減することに成功した事業所も見られます。

以下の記事では記録業務やシフト作成などをICT化することで、業務負担を軽減した事例をご紹介していますので、ぜひご覧ください。

本来の介護業務に使える時間が増える

介護施設の入居者と介護職

介護現場のペーパーレス化によって、本来の介護業務に使える時間が増えることもメリットの一つです。

介護現場では多くの記録や書類を作成する必要があり、忙しい業務の合間を縫いながら記録や書類作成を行っています。それらの事務作業が職員の業務時間を圧迫し、場合によっては本来の介護業務に使える時間が少なくなり、利用者が満足いくサービス提供ができないケースもあります。

そのため、例えば介護ソフトなどの活用により効率的に記録や書類作成できると、本来の介護業務に使える時間を確保しやすくなるでしょう。ペーパーレス化によって介護業務の時間を確保し、質の高いサービス提供や利用者の満足度向上に繋がる点もメリットと言えるでしょう。

用紙代・印刷代などコスト削減できる

介護現場で作成した書類や記録は紙ベースでの保管が通例だったため、印刷に多くのコストが発生していました。しかし、ペーパーレス化を進めると、印刷にかかるコストを削減できます。

介護現場では日々の記録から契約書や重要事項説明書など、数多くの書類を印刷して活用し保管することが通例です。そのため、紙や印刷機のインクなどの印刷にかかる多くのコストが発生します。

しかし、ペーパーレス化によって、業務に必要な書類・記録はデジタルデータとして取り扱うため、印刷は必要最低限で十分です。このように、用紙・印刷代などのコストを削減できる点はペーパーレス化のメリットと言えるでしょう。

保管場所が不要になる(社内スペースの有効活用)

介護現場で使われる紙ベースの各種記録や書類は毎日使われ、法律上5年間の保管義務があるために増え続けます。記録や書類の保管にはある程度のスペースが必要となるため、スペースが足りない事業所にとって、保管場所の確保は悩みの種でした。

しかし、ペーパーレス化によって、保管スペースが必要なくなり、利用者のレクリエーション活動や静養できるスペースなどに有効活用できます。また、すっきりとしたスペースを確保し移動しやすくなるため、職員・利用者の安全面に配慮した環境作りにも繋がります。

ペーパーレス化により社内スペースが有効活用しやすくなることで、利用者・職員が過ごしやすい環境づくりに繋がる点もメリットと言えるでしょう。

情報をリアルタイムに共有できる

ペーパーレス化によって、情報をリアルタイムに共有できることもメリットの一つです。

介護現場では利用者の状態変化を確認するため、過去の記録を参照する場合もありますが、紙で記録をしている場合には多くの記録や書類の中から時間をかけて探す必要がありました。

しかし、タブレットなどの端末と介護ソフトを活用すると、ソフト内に入力された利用者の過去のデータから必要な情報をリアルタイムですぐに取り出せます。さらに、Wi-Fiなどの通信設備が整っている場合、その場で同じ端末を持つ他の職員へデータを共有することも可能です。

迅速な情報共有は、利用者への質の高いサービス提供を行う点でも役立つため、ペーパーレス化によるメリットと言えるでしょう。

介護記録が正確になる

介護記録が正確になる点もペーパーレス化のメリットです。介護現場では利用者の日々の様子や介護職員が支援した内容を介護記録へ記入します。

しかし、業務が忙しくなると記録を記入する時間が無くなり、一時的にメモへ残し、後で転記する場合もあります。業務時間内に記入する時間が取れなければ、残業して記入といったことになってしまいます。実際、介護職員の大きな業務負担となっている施設も多いでしょう。

また手書きの場合、記入する介護職員の字のきれいさによっては、他の介護職員にとって読みづらいこともあります。そのため、必要な情報が得られにくい問題も発生するでしょう。

そこで、タブレットやパソコンなどの電子端末でその場で記録できるようになると、転記ミスなどを防ぎ、正確に記録を入力できます。さらに、記入した職員の字のきれいさに左右されることなく、スムーズな情報共有にもつながります。結果として、業務効率化にも役立つでしょう。

災害時のデータ保護・バックアップ

近年、大規模な災害が発生する頻度が高く、中には介護事業所が被災し、業務ができないケースが発生しています。災害発生後、速やかに業務を再開できるよう、さまざまな介護事業所では災害用BCPの計画・立案が義務付けられています。

しかし、多くの記録・書類を紙ベースで保管している場合、災害によって消失・破損のリスクが高く、安全な場所への持ち出しは困難でしょう。

ペーパーレス化に伴い記録・書類をデータ化し、クラウドストレージ上で保管すると消失の心配や持ち出す手間が必要ありません。施設内にデータを保管しておく場合と比較して、災害後の迅速な業務再開にも繋がるでしょう。

介護現場をペーパーレス化するデメリット

不満がある介護職

介護現場のペーパーレス化を進めると、職員の業務負担軽減や業務効率化などのメリットに繋がります。しかし、一方で介護現場のペーパーレス化によるデメリットも存在します。

介護現場をペーパーレス化するデメリットとしては、次のようなものがあげられます。

システム導入・維持のコストが発生する

ペーパーレス化を進めるためには新しいシステムの導入や、システムを維持するためのコストが発生します。ペーパーロジック株式会社の調査によると、ペーパーレス化が進まない理由として、「システム導入の予算がない」という理由も多いことが判明しています。

ペーパーレス化を進める際、パソコン・タブレットなどの電子端末や介護ソフトの導入が必要です。そのため、高額な導入コストと、システムの保守や維持にかかるコストが発生し、ペーパーレス化のハードルが高い点はデメリットと言えるでしょう。

費用面でハードルを感じる場合には、補助金の活用を検討してみてもよいでしょう。介護施設のDX化・ICT化に活用できる補助金については以下の記事を参考にしてみてください。

慣れるまで業務効率が低下する可能性がある

ペーパーレス化にはある程度の期間が必要となり、職員が使用する機器や業務フローに慣れるまでは、業務効率が低下する可能性があります。

ペーパーレス化にはパソコン・タブレットなどの電子端末や介護ソフトの導入が必要になります。そのため、操作に不慣れな職員が慣れるまでには、ある程度の期間が必要です。

さらに、ペーパーレス化をするためには、今までの業務フローの変更も発生するでしょう。そのため、運用する職員が慣れるまでは業務効率が低下し、介護職員にとって負担やストレスに繋がる可能性がある点もデメリットと言えるでしょう。

機器・システムのトラブルが発生する可能性がある

ペーパーレス化のために導入した機器・システムのトラブルが発生するリスクがあることもデメリットといえるでしょう。ペーパーレス化にはさまざまな機器・システムなどを導入するため、場合によっては停電や故障などによってトラブルが発生するリスクがあります。

具体的には、落雷によって電源がショートする場合や、コンピューターウィルスの感染によって操作ができないなどの被害を受けるケースが想定されます。こうしたトラブルによって機器・システムが使えないと、記録業務や情報共有などの業務に支障がでます。

そのため、日々のメンテナンスやバックアップを欠かさず行い、トラブル発生時の対応方法をあらかじめ定め、介護職員間でも共有しておくことが必要です。

介護現場でペーパーレス化を成功させるポイント

介護DX化

介護現場のペーパーレス化を進める際、具体的な成功させるポイントを知りたい方も多いでしょう。

介護現場でペーパーレス化を成功させるポイントとしては、次のようなものがあります。

ペーパーレス化の目的を明確にし、職員に共有する

介護現場のペーパーレス化を進める前に、目的を明確にし、職員に共有することから始めましょう。目的を共有しないままペーパーレス化を進めると現場が混乱し、業務効率が低下する原因となるからです。

ペーパーレス化を進めるためには実際に運用する介護職員の理解と協力が必要です。しかし、目的や運用方法について事前に説明がないと介護職員からの理解を得られず、前向きに取り組んでもらえないでしょう。

そのため、事前に目的と得られるメリットを明確にした上で、職員に共有し、ペーパーレス化の合意を得られるようにしましょう。そうすることで、積極的に機器やシステムの操作に習熟してくれる職員も現れやすくなります。

担当者を決め、導入チームを作る

職員とのペーパーレス化の目的の共有後は、担当者を決め、導入チームを作ると効果的に導入を推進していきやすいでしょう。介護施設の場合、介護職員だけではなく、看護師・生活相談員・ケアマネジャーなどの専門職が連携しながら利用者の支援を行っています。

こうした専門職の中から担当者を決めた上で導入チームを作り、協議を重ねることによって、お互いの立場からの意見を踏まえ、ペーパーレス化を進めることができます。

さらに、リーダーなど現場に近い役職者を含めることによって、現場レベルでの意見を得ることや他の職員へのスムーズな情報共有が可能です。そのため、ペーパーレス化を効率的に進めるためにはチームを作ることが効果的と言えるでしょう。

ペーパーレス化する業務範囲を検討する

導入チーム結成後はペーパーレス化する業務範囲を検討しましょう。いきなり全ての業務をペーパーレス化すると、業務に支障が出る可能性があるからです。

全ての業務を対象にペーパーレス化を進めると、膨大な業務量とコストが発生し、本来の介護業務が滞ることやケアの質が低下するリスクが発生します。そのため、まずは目的に沿いつつ、優先順位をつけながらペーパーレス化する業務範囲を検討しましょう。

その際、抽出された業務における紙や印刷にかかるコストを確認することによって、具体的にペーパーレス化が必要な業務範囲を決める事ができるでしょう。

システム・ツールを比較・検討する

ペーパーレス化する業務範囲が決定次第、ペーパーレス化に必要なシステム・ツールを比較・検討しましょう。目的や対象業務に合わないシステム・ツールを導入するとペーパーレス化に失敗する可能性があるからです。

目的や業務範囲に合わないシステム・ツールを導入すると、職員が運用しきれない可能性があり、かえって業務負担が増えてしまいます。その結果、職員からの反発が強まり、導入が進まなくなる・・・といった事態も考えられます。

そのため、目的や業務範囲に合うシステム・ツールを比較・検討しながら選定しましょう。しかし、システム・ツールの選定に自信がない場合もあるでしょう。その場合、メーカーやベンダーの担当者に相談しながら選定することもおすすめです。

運用方法を検討し、導入(試験運用)を行う

ペーパーレス化導入の際、新たな業務フローへの変更が必要です。介護現場の書類作成や事務作業の進め方は職員によって違いが生じていることが多いため、ペーパーレス化導入を機に書類作成・事務作業の標準化を目的に運用方法を検討し、試験運用も含めてペーパーレス化の導入を行いましょう。

また、職員へのシステム・ツールの操作方法の説明や新たな業務フローなど、導入に向けて余裕あるスケジュールを立てることも必要です。過密なスケジュールになると、職員が操作できないなどのアクシデントが発生した場合、スケジュールが乱れ、ペーパーレス化が滞るリスクも発生します。

そのため、余裕を持ったスケジュールで導入を進めることが大切です。

導入後の効果検証を行う

計画の時点では一定の効果を得ることができると想定していても、実際の結果を見ると、想定した効果が得られていないことや、業務に影響が出ている場合があります。また、計画段階では想定できなかった問題点に気付くこともあるため、導入後には定期的にペーパーレス化の効果検証を行いましょう。

具体的には、実際に運用する職員からのヒアリングや、導入前の数値などのデータを比較する方法を行うことがおすすめです。このように効果検証を行うことにより、効率的な効果を検証できると同時に、業務の改善点も確認できるようになります。

そのため、定期的に効果検証と改善を繰り返し、ペーパーレス化の効果を得ることができるようにしましょう。効果が見える化できると、現場の職員もより積極的に改善に取り組んでくれるでしょう。

経営層も含め組織全体で取り組む

ペーパーレス化を進めるには経営層も含め組織全体で取り組むことが重要です。書類作成・事務作業の業務改善は組織全体で取り組むべき課題であり、一部の職員や部署だけでペーパーレス化を進めることは難しいでしょう。

さらに、経営層を含めた職員からの理解を得られないと、ペーパーレス化の重要性を認識できず、前向きに進まない可能性もあります。まずは経営層も含めて組織全体で取り組むことができるよう、理解を得ることが必要です。

経営層の理解を得ることができると、ペーパーレス化に関する予算面などにおける配慮や職員の理解を得やすくなるでしょう。そうすることができれば、効率的に介護現場のペーパーレス化を進めることができます。

まとめ

今回は介護現場をペーパーレス化するメリット・デメリットや成功するためのポイントについて解説しました。介護現場をペーパーレス化することによって、業務負担軽減や効率化に繋がると同時に、費用面や時間などのコストを削減できるメリットなどがあります。

一方で、ペーパーレス化を進める上で新たなツール・システムの導入コストやトラブルのリスクが発生し、定着するまでに期間が必要というデメリットもあるため注意が必要です。

ペーパーレス化を成功させるためにはさまざまなポイントがありますが、最も重要なのは、経営層を含めた職員からの理解を得ることです。理解を得られないまま進めると、職員のモチベーション低下や業務に支障を来たす事態に発展し、ペーパーレス化が失敗する可能性も考えられます。

そのため、全ての職員から理解を得て、しっかりと土台を築きながら介護現場のペーパーレス化を進めましょう。業務効率を改善するメリットは多く、施設で取り組む価値は十分にあると言えるでしょう。

また、当サイト内には、他にも介護現場の業務改善に関連した記事を掲載しています。こちらも合わせてご覧ください。

 

この記事の執筆者Kawashow

所有資格:介護福祉士 介護支援専門員 福祉用具専門相談員 福祉住環境コーディネーター2級

介護職として介護付き有料老人ホーム・病院の現場で7年間勤務。
ケアマネ資格取得後、地域密着型特養のケアマネとして2年間勤務し、現在は居宅介護支援事業所のケアマネとして8年目を迎えます。

本業と並行し、介護・福祉系ライターとしても活動しています。

 

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