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【教えて!】介護事業所が指定取り消し処分を受けると職員はどうなる?過去の処分事例と事由

介護事業所 指定取り消し処分について

介護事業所にとって、指定取り消し処分は避けなくてはいけない悪夢のような出来事です。
 
指定取り消し処分を受けると、事業の継続ができなくなり、事業所のみならず利用者、職員にも大きな影響が及びます。
 
施設運営ができなくなってしまうと、ご利用者様にも迷惑をかけることになりますが、介護施設で働いている職員も守ることができなくなります。
 
本記事では、介護事業所の指定取り消し処分についての現状をご紹介しつつ、指定取り消しになった事由などを紹介します。是非、今後の介護事業所運営の参考にしてみてください。

介護事業所が受ける指導監督とは

介護事業所の運営は、都道府県知事等から指定を受けることで、介護保険法に基づいた介護事業を行うことができます。介護事業所は、指定の認可を受けることで初めて運営を行うことができ、定期的に行政からの指導監督を受けなくてはいけません。

指導監督体制には段階があり、全ての事業所が受けなくてはいけない集団指導から、不正が疑われる場合の監査まで、以下のようにいくつかの段階があります。

・集団指導
制度の説明や介護保険制度の理解の促進など、適正な運営ができるよう定期的に行われます。コロナ禍以降、オンラインで行われる自治体が増加しました。

・運営指導
適切な運営ができるよう定期的に書面やオンライン、現地調査にて運営の指導が行われます。一般的に、「監査が入った場合のために適正な運営を行う」と言われるものは、運営指導を示します。
令和4年までは、「実地指導」と呼ばれていましたが、必ずしも現地で行う調査ではなくオンライでも指導が可能なこととなったことで運営指導と名称を変更することになりました。

・監査
指定基準違反や不正請求などが疑われる場合に行われます。
実地指導より厳しい調査が行われます。

法律上、指定権者には立入権限がありますので、指導や監査を拒否することはできません。また、不正が疑われる事業所には予告なく監査が行われる場合もあります。

指定取り消し処分とは

監査により、不正や違反が認められた場合には、行政上の措置を受けることになります。その中でも指定取り消し処分は、最も重い処分となり、文字通り介護事業所の指定を取り消されてしまうことを指します。

行政上の措置にはいくつかの段階があります。

・勧告
勧告とは、指定権者が事業所等に対して、期限内に改善措置内容について報告を求めることができるというものであり、行政指導に該当します。 事業所が期限内に勧告に係る措置を取らなかった場合には、その旨を公表することができると定められています。

・命令
事業所が正当な理由なく勧告に係る措置を取らなかった時は、期限を定めて勧告に係る措置をとることを命令することができるとされています。命令を行った場合は公示しなくてはいけないと決められています。

・指定の効力の全部又は一部停止
事業所の効力の一部や全部を停止する命令を出すことができます。例えば、新規利用者の受け入れ停止や、介護報酬の削減など非常に厳しい行政処分です。

・指定の取り消し
介護保険の指定を取り消しする行政処分です。指定を取り消された場合は、介護保険の請求を行うことができないため、実質的に今後の運営はできないことになります。

処分の対象は、不正請求だけではなく、人員配置の不正申告などもあります。慢性的な人員不足の中、いつ介護職員が辞めてしまうか分からず、どのような事業所であろうと他人事ではありません。

もし指定を取り消されてしまったら、介護事業を実質運営できなくなる上に、罰則も命じられます。介護事業を運営するにあたり、日頃から適切な運営を心がけて行く必要があります。

参考:介護保険施設等に対する監査マニュアル

指定取り消し処分の現状について

介護事業所の指定取り消しは決して他人事ではなく、どこの施設・事業所でも起きる可能性があることです。厚生労働省の発表によると、指定取り消し・効力の停止処分を受けた事業所は、2017年(平成29年)に257事業所と最も多く、2019年(令和元年)は153件、2022年(令和4年)は86件と徐々に減少しています。

指定取消・効力の停止処分のあった介護保険施設・事業所等数内訳【年度別】(

参考:介護サービス事業所等に対する指導・監査結果の状況及び介護サービス事業者の業務管理体制の整備に関する届出・確認検査の状況

同資料によると、指定取消の事由で多いものは順に、

・不正請求
・虚偽答弁
・虚偽申請
・人員基準違反

となっています。

また、指定の効力停止の事由は多い順に、

・不正請求
・人格尊重義務違反
・虚偽申請
・運営基準違反

となっています。

法人種別ごとの状況としては、指定取消等の行政処分は営利法人が64で最も多く、次いで社会福祉法人が12と、この2種別で大半を占めているということです。

サービス種別ごとの状況で見ると、指定取消等の行政処分は、指定訪問介護事業所及び指定短期入所生活介護事業所がそれぞれ13件と最も多くなり、次に指定居宅介護支援事業所が12件、指定地域密着型通所介護事業所が8件等ということです。

これを見る限り、特に訪問介護事業者に指定取り消し処分が多かったことが分かります。訪問介護は、職員人数の制限があったり、利用者の自宅でサービスが行われることから他者の目が行き届かないなどの課題があり、違反が起こりやすい環境にあることも影響しているのかもしれません。

処分の対象となる事由とは

介護事業者の指定取り消し処分要件は、介護保険法77条1項の1号から13号に定められています。ここでは、具体的な指定取り消し処分事由についてご説明を行います。

人員基準および運営基準の違反

介護サービス事業所が都道府県で定められた必要な人員数を確保できない場合や、運営基準を満たさなくなった場合には、指定取り消し処分を受ける可能性があります。特に、人員不足が原因でシフト調整が困難になり、虚偽報告を行った場合、虚偽報告と併せて指定取り消しの対象となる可能性が増します。適切な人員配置が重要です。

利用者の尊厳侵害に関わる違反(虐待・身体拘束など)

利用者に対する虐待や身体拘束は、人格尊厳義務に反し、介護保険法第74条に基づく指定取り消しの理由となります。事業者は利用者の人格を尊重し、法令を遵守しながら職務を誠実に遂行することが求められます。虐待や身体拘束の問題は、事業者のマネジメント不足が原因であることが多く、悪質な場合には監査や指定取り消し処分に繋がります。

不正請求

介護保険料の不正請求は、指定取り消し処分の中で最も多い理由の一つです。不正が発覚すると、指定取り消しに加えて、不正に受け取った介護報酬の全額返還や加算金の徴収が課されます。大規模な不正が行われた場合、事業の継続は非常に困難となります。

その他の大規模な不祥事

介護事業所またはその関係者が禁錮刑以上の刑罰を受けた場合も、指定取り消しの対象となる可能性があります。また、不正な手段で指定を受けたことが判明した場合や、法令や命令に違反した場合も同様に処分が下されます。さらに、過去5年以内に事業所の管理者や役員が不正行為に関与していた場合にも、指定取り消し処分の対象となる可能性があります。

介護事業所の指定取り消し処分リスクを避けることが大切

行政処分により指定が取り消されると、事業の継続に重大な影響を及ぼします。潜在的な問題を早期に発見し、リスクを排除するためには、日頃から事業所運営に深い理解と適切な対策が必要です。

また、新しい介護事業所の場合、誤っていることに気付かずに不正をおこなってしまったり、指定を受けることを優先するあまり虚偽の申請をするような事例も見られます。

介護事業所は、「指定を受けて運営している」ということを忘れることなく日頃から正しい事業所運営を心がけたいものです。

介護事業所が指定取り消し処分を受けた場合、職員や利用者はどうなる?

介護事業所が指定取り消しや指定効力の停止処分を受けると、運営の継続が非常に厳しくなります。ここでは、その影響について説明します。

介護報酬の請求が不可能になる

指定取り消しを受けた事業所は、サービスを提供しても介護報酬を請求できなくなります。これにより、収入が途絶え、事業の継続が困難となります。

その結果、利用者は他の事業所を探す必要があるため迷惑を掛けてしまいます。また、収入がなくなるため、スタッフへの給与支払いも困難になり、スタッフの雇用にも影響が及びます。

仮に指定効力の停止期間が終了しても、すぐに利用者が戻るわけではなく、事業所の再建は容易ではありません。効力が完全に停止された場合、事業所の存続は非常に難しくなると言えるでしょう。

一部効力が停止された場合でも、新規の利用者の受け入れができず、経営は大きな打撃を受けますが、停止期間を乗り越えれば事業を継続できる可能性はあります。

5年間新たな指定が受けられない

指定取り消しを受けると、その事業所や関係者は5年間、新たな指定を受けることができません。この制限は、社員や取締役、実質的な共同経営者などにも適用されます。

以前は、事業所名を変更して再度指定を受けるケースがありましたが、現在ではそのような手法が通用しなくなっています。

指定の更新ができなくなる

介護事業所は定期的に指定の更新をしなくてはいけません。指定を取り消されると、当然ながら指定の更新もできなくなります。さらに、連座制が適用され、同じ法人内で他の事業所が指定を受けている場合、それらの事業所も更新ができなくなる可能性があります。

ひとつの事業所の不祥事が、多くの仲間に影響を及ぼすことを理解していなくてはいけません。

介護報酬の返還義務が発生する

不正請求が原因で指定取り消しとなった場合、過去に不正に請求した介護報酬を返還しなければなりません。不正請求の期間が長ければ、最大5年分の報酬を返還する必要があり、さらに加算金を請求されることもあります。

いずれも非常に厳しい処分であり、指定取り消しを受けた場合には公表されますので、外部のケアマネから新たな利用者の紹介がなかったり、新たな職員を採用することが難しくなったり、介護事業の運営は非常に厳しい状態になるでしょう。

介護事業所指定取り消し事例

ここでは、実際に過去に起きた指定取り消し事例について紹介します。

1. 訪問介護、通所介護

※参考:群馬県 https://www.pref.gunma.jp/site/houdou/193857.html

令和5年に起こった関東地方での取り消し事例を紹介します。

・訪問介護における不正請求

事業者が作成した訪問介護記録において、訪問介護サービス提供の時間と他の業務(担当者会議など)の実施時間が重複しているケースが多く見られました。
そのため、訪問介護の実施状況を確認せずに介護給付費を不正に請求し、受領していました。また、他事業所での業務中に訪問介護を提供したと虚偽の記録を作成するなどして、介護給付費をさらに不正請求しました。
この不正行為は令和2年4月から令和4年5月までの間に行われ、約2,035,580円(780回分、34人の利用者が対象)が不正に請求されました。

・デイサービスにおける不正請求

介護事業所の管理者が、個別機能訓練加算の算定要件を理解していながら、要件を満たしていないにもかかわらず、不正に加算を請求し受領していました。この不正請求は令和2年1月から令和4年5月までの期間にわたり、合計5,433,230円が不正に請求されました。対象となったのは、1,302回分のサービスで、101人の利用者が影響を受けています。

2. 訪問看護

※参考:姫路市 https://www.city.himeji.lg.jp/shisei/0000028254.html

令和6年に起こった関西地方での取り消し事例を紹介します。

・訪問看護における不正請求

対象事業所では、勤務していない従業者が訪問看護サービスを提供したと偽り、サービス提供記録を作成し、令和4年7月および8月に介護給付費を不正に請求しました。
また、同じ従業者が同一時間帯に複数の利用者にサービスを提供したと虚偽の記録を作成し、令和4年3月から令和5年2月にかけても不正請求を行いました。さらに、異なる居宅間で訪問看護サービスを提供する際、移動時間を考慮せず、連続してサービスを提供したように見せかけ、不正請求を令和4年1月から令和5年3月まで行っていました。

対象事業所に対しては、不正に請求された介護給付費に対し、介護保険法第22条第3項に規定される加算金(40%)が適用され、最終的に徴収される金額は3,142,410円となります。これにより、事業所は不正請求額に加えた加算金を支払う義務が生じ、介護保険制度の不正利用に対する厳格な措置が取られています。

3.参考:障がい者グループホーム

令和6年に報道でも大きく報じられた、中部地方の障がい者グループの事例を紹介します。

・障がい者グループ等による不正請求

障害者グループホーム(GH)を運営する株式会社は、入居者から実際の食材費より約3億円多く徴収する「経済的虐待」を行ったとして、県などから一部グループホームの指定を取り消されました。また、連座制が適用されることで同社が運営する他のグループホームにおいても指定更新ができなくなるため、12都県、約100ヶ所のグループホームは順次、閉鎖や事業譲渡されると報道されました。

介護事業所における「連座制」とは、不正や重大な違反行為を行った事業所に対して、関連する他の事業所や同一法人が運営する複数の事業所にも影響を与える形で、行政処分が下される制度です。この制度は、不正行為を行った事業所だけでなく、同一法人内での他の事業所にも責任を課し、不正を根本から防ぐために適用される厳しい措置です。

まとめ

介護事業者は社会的に非常に重要な役割を果たしており、その運営は法令遵守とコンプライアンスを徹底することが求められます。適切な運営を行い、サービスの質を高めるためには、日々の努力が不可欠です。

不正行為があれば、経営者側に責任があると言わざるを得ませんが、役員や従業員の意図的な不正、または気付かぬままの不適切な行為が原因で、指定取り消しに至ることもあります。

指定取り消しは事業継続を脅かす大きな問題であり、行政の指導が入る前に、不正や問題の芽を早めに発見し対処することが重要です。そのため、定期的な研修やチェック体制の整備が必要です。

介護施設の利用者や働く職員を守るためにも、健全な介護事業経営に取り組んでいくことが求められています。

介護施設運営で生じる可能性があることとして、人員不足により人員基準を満たせなくなることも挙げられると思います。もし、人員配置基準を満たせていない場合には、人員基準欠如減算をする必要があります。また早急に対策を立てることも必要でしょう。

人員基準欠如減算については下記の記事に詳しくまとめていますので、参考にしてみてください。単位数や計算方法、人員基準欠如減算への対応策などについて記載しています。

 

この記事の執筆者伊藤

所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士

20年以上、介護・医療系の事務に従事。
デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。
現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。

 

またサイト内には人員基準関連の記事を以下のように掲載していますので、こちらも参考にしてみてください。

 

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