「介護の仕事は楽しいけれど、ストレスが溜まる…」と感じていませんか?
仕事のやりがいはある反面、心身のストレスがたまりやすい職業である介護職は、日々のストレスに対して適切に対応する必要があります。
そこで注目されているのが「ストレスコーピング」です。介護職のメンタルヘルスケアとしてぜひ活用してみていただきたい手法です。ストレスコーピングを実践することで、心と体の健康を守りながら、仕事としっかり向き合えるでしょう。
今回は、介護職のメンタルヘルスケアにも役立つストレスコーピングについて詳しくご紹介します。
日々の介護業務でストレスを大きく感じている介護職の方や、スタッフのストレスマネジメントを行う介護リーダーや管理者の方はぜひ参考にしてください。
目次
ストレスが多い介護職、メンタルヘルスケアの重要性
介護職の仕事は、介護が必要な利用者の生活を支える意義のある仕事ですが、「命を守る」重責や身体的な負担の大きさから、慢性的なストレスがつきものです。
ストレスを抱えたまま仕事をしていると、以下のようなリスクを生じる可能性があります。
・不適切なケアや虐待
・燃え尽き症候群やうつ病
・モチベーションダウン
ストレスが蓄積されたままでの介護は、介護職の心身だけでなく利用者にも影響を及ぼします。適切なメンタルヘルスケアを行うことで、利用者へ質の高いケアを提供することができるでしょう。
介護スタッフのストレスマネジメントを行うリーダーや管理者は、日常的にスタッフの様子や関わり方、業務配分などをチェックすることが大切です。ストレスを抱えているスタッフがいる場合は、コミュニケーションを取りストレスの原因を探り出したり、業務負担の軽減などメンタルヘルスケアを行いましょう。
また、スタッフの心身の状況を見極めて、必要に応じて医療機関や専門医の受診をすすめることも重要です。
・介護職のストレスマネジメントの重要性
介護の仕事は、やりがいがある一方で、肉体的・精神的なストレスがたまりやすい職種です。だからこそ、ストレスマネジメントの重要性を理解し、ストレスコントロールの方法を見つけることが大切です。
介護職に多いストレスとは
介護職は、慢性的な人手不足や待遇、人間関係などのストレスを抱えています。これらのストレスが蓄積されていくことで、場合によっては退職につながることもあります。
ここでは、介護職に多い主なストレス4つについて詳しくみていきましょう。
人手不足
介護業界全体が人手不足であり、ギリギリの人員で稼働している施設も少なくない現状です。介護職が少ない中、急な欠勤や利用者の体調不良や急変などが起これば、途端に人数は足りなくなります。
慢性的な人手不足は介護職一人にかかる負担が大きく、労働時間が長くなったり、夜勤が増えたりなど疲労が蓄積される原因です。心身の負担が大きい仕事にも関わらず、さらにストレスが蓄積されモチベーションの低下にもつながるでしょう。
給料が低い
「給料が低い」といわれていた介護職ですが、近年では働き方改革や処遇改善によって、ずいぶん働きやすい環境になりました。
厚生労働省の「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」(P.122)によると、介護職員の平均月収は、
常勤 :31万7,540円
非常勤:20万9,540円
となっています。平均年収でいうと、
常勤 :381万480円
非常勤:251万4,480円
となります。
しかし、勤務先の介護施設や勤務年数などによって大きな給与差もあるのが実際のところですし、業務に見合った給料ではなかったり、大幅な昇給が望めなかったりなど、給料への不満を抱えている方が多いのも事実です。
金銭面でのストレスは、生活や将来への不安につながります。安心して仕事ができないと、仕事へのやりがいも失われてしまうでしょう。
人間関係
介護職の離職理由の上位になっているほど、職場の人間関係に悩み、ストレスを抱えている方は多いものです。その理由として、関わる人の多さも理由として挙げられます。
介護の仕事は、医師や看護師、ケアマネジャー、リハビリ職など多くの職種がチームを組んで仕事を行いますが、関わる職種が多いからこそ人間関係でのストレスがあります。円滑なチームケアを実践するためには、密なコミュニケーションをとり、多職種間での連携や尊重が必要です。
しかし、それぞれの職種がもつ理念や、利用者に対するケアの方向性が異なった場合、摩擦や意見の食い違いが起こり、介護職のストレスにつながるでしょう。
身体的に負担が大きい
介護職は移乗や移動介助、体位変換など身体介助が主な仕事です。寝たきりの方の介助や無理な態勢での介助動作など、日常的に体力を使う仕事が多く、足腰に負担を感じている方も多くいます。
日勤や夜勤の不規則なシフト勤務や労働時間の長さも、ストレスを感じる要因のひとつです。仕事にやりがいをもってずっと介護の仕事を続けたいと思っても、身体的な負担が大きいと、長く働ける仕事ではないと不安に感じるでしょう。
ストレスコーピングが介護職のメンタルヘルスケアにも役立つ理由
先述したように、介護職とストレスは切っても切り離せない関係であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。過度なストレスは不適切なケアや燃え尽き症候群、うつ病など心身に悪影響を及ぼす恐れがあります。
介護職がリラックスした状態で業務にあたらなければ、適切なケアを提供することができませんし、利用者も安心して介助を受けることができません。
ストレスは、介護の仕事へのパフォーマンスに影響することから、介護職のメンタルヘルスケアの方法の一つとして「ストレスコーピング」が注目されているのです。
介護の仕事はストレスが溜まりやすい仕事です。そのため、ストレスに対して適切に向き合い、心身共に穏やかに働き、質の高いケアを実践していく必要があります。
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ストレスコーピングとは
ストレスコーピングとは、アメリカの心理学者リチャード・S・ラザルス(Richard S. Lazarus)が提唱した理論です。ストレスが生じる要因を見つけ、ストレスを乗り越えるための方法や負担を軽減することをいい、ストレス対策として用いられています。
ここでは、ストレスを構成する3つの要素やストレス解消との違いから、ストレスコーピングについて掘り下げていきましょう。
ストレスってなに?構成する3つの要素
ストレスは、ストレッサー(ストレスの原因)・ストレスの認知・ストレス反応の3つで構成されています。
・ストレッサー
ストレスの原因となる多岐に渡る刺激のこと
身体的な負担や環境の変化、人間関係、メンタルヘルスに及ぼす問題など
・ストレスの認知
ストレスのとらえ方
・ストレス反応
ストレスを認知したあとに及ぼす行動や症状
体調不良や集中力の低下、燃え尽き症候群、うつ症状など
ストレスは、人によってとらえ方や感じ方(認知)、ストレスを受けた時に起こる反応が異なります。ストレスコーピングは、ストレスの3つの構成を理解した上で、対処するための方法を知り、ストレス軽減につなげる手段です。
ストレス解消とストレスコーピングの違い
ストレス解消とストレスコーピングは、ストレスを軽減させる目的があるため、同じイメージを持つ方も多いですが、両者には以下のような違いがあります。
・ストレス解消
ストレスが起こったあとの対処方法
・ストレスコーピング
ストレスが起こる原因の排除や視点の変化など過程を含めた多面的な手法や行動
コーピング(coping)は英語の「cope」が語源で、「対処する・乗り越える」という意味をもちます。
ストレス解消は、ストレッサーを軽減することに着目した手段ですが、ストレスコーピングは、ストレスが起こった原因やどのように向き合うかといったプロセスまで掘り下げたアプローチです。
ストレスコーピングの種類
ストレスコーピングは、以下のとおり大きく5つの種類に分けられます。
・問題焦点(解決型)コーピング
・情動焦点コーピング
・認知的再評価型コーピング
・社会的支援探索型コーピング
・気晴らし型コーピング
それぞれの特徴とコーピングの例についてみていきましょう。
問題焦点(解決型)コーピング
問題焦点(解決型)コーピングは、ストレスの原因を明確にして、ストレスを取り除いたり、変化を促したり、視点の変化など、ストレスに直接働きかけて問題解決を図るアプローチです。
以下が問題焦点(解決型)コーピングの例です。
・ストレスのもとである人間関係や事柄から離れる
・他者にストレスについて相談する
・ストレスを解決する方法を自分で調べる
ストレスの原因の対処法が分かり、解決できる場合は効果的ですが、解決方法が実行できない場合はかえってストレスが悪化する恐れがあります。
また、周囲への働きかけを行うため、巻き込んでしまった場合に人間関係のトラブルを起こすリスクもあることを理解しておきましょう。
情動焦点コーピング
情動焦点コーピングは、ストレッサーから生じる、寂しい・悲しい・辛いなどの感情をコントロールしてストレスを和らげるアプローチです。
以下が情動焦点コーピングの例です。
・友達に辛い気持ちを聞いてもらって共感してもらう
・マッサージやアロマを活用してリラックスする
・スポーツをして気分転をする
・怒られたことをポジティブに捉える
ストレスと向き合いながら感情をコントロールする方法なので、ストレスが原因となる感情の変化に効果的ですが、ストレスへの根本的な解決は期待できません。
ストレスを解決する方法がない場合や対応が難しい場合は、自分の気持ちをコントロールして落としどころを見つける情動焦点コーピングが適当な場合があるでしょう。
認知的再評価型コーピング
認知的再評価型コーピングは、ストレスの原因に目を向け、視点や捉え方を変化させてポジティブに考えるアプローチです。前向きな考え方、ポジティブシンキングなどがあります。
以下が認知的再評価型コーピングの例です。
・仕事で目標が達成できなかったが、友人に「この経験は次のステップアップにつながるよ」と声をかけてもらえたから前向きになれた
・上司に注意されたが、同僚から「期待されているから厳しくしているんだよ」といわれ、ポジティブに捉えることができた
ネガティブな要素をポジティブに捉えることで、ストレスを軽減させることが可能です。相手の悪い部分ばかりに目を向けるのではなく、良い部分を見つけることにもつながります。
普段から消極的な考え方をする方やネガティブな方は、前向きな見方ができるきっかけのひとつになるでしょう。
社会的支援探索型コーピング
社会的支援探索型コーピングは、ストレッサーに対して一人で抱え込まず、周囲に助けやアドバイスを求めるアプローチです。トラブルが起きた場合の対処法や、相談できる環境を整備しておくことも含まれます。
以下が社会的支援探索型コーピングの例です。
・友人に悩みを聞いてもらい、アドバイスしてもらう
・仕事でトラブルが起きたときのマニュアルを作成する
共感を得られやすいため、精神的なストレスの緩和につながることが特徴です。トラブルが生じやすい環境であれば環境の改善・整備や、セーフティネットの構築など、ストレスが悪化するような事態を防ぐことを目指すことが大切です。
気晴らし型コーピング
気晴らし型コーピングは、ストレス解消型コーピングともいわれ、ストレスを感じた後に行うストレス解消法です。
以下が気晴らし型コーピングの例です。
・カラオケで歌ってストレスを発散させる
・ジムで体を動かして気分転換する
・趣味を楽しむ
ストレスから離れた視点をもち、考え方や行動を変化することで、ストレスを軽減させる効果が期待できるでしょう。
ストレスコーピングの実践方法
ストレスコーピングは、正しく実践することでストレス軽減への効果が期待できます。手順は以下のとおりです。
1.コーピングリストを作成する
2.ストレスを感じた時の気持ちをモニタリングする
3.コーピングリストを試し、結果を分析する
では、それぞれ詳しくみていきましょう。
コーピングリストを作成する
まずはコーピングリストの作成を行います。コーピングリストとは、ストレスコーピングの情報をリスト化したもので、以下の内容を書き出します。
・ストレス反応
ストレスを受けたときに生じる反応
・ストレッサー
ストレスの原因となる環境や人間関係、感情など
・対策や解消方法
ストレスを感じたときの対策方法
相談できる人や気分転換の方法など
ストレスは、その場の状況や事柄によって内容が異なり、感じ方も様々ですが、リストを作成することでストレスを客観的な評価が可能です。自分がどんなときにストレスを感じているのか、ストレスの原因や種類は何かを書き出し、ストレスの対策として前向きな行動も書き出します。
ストレスを感じた時に、ストレスの内容やコーピングリストに沿って行動することで、適切なストレスへの対策が実践できるでしょう。また、コーピングリストは「どんな行動がより効果があったのか」と更新していくことで、より効果的な対処法を生み出すことができます。
ストレスを感じた時の気持ちをモニタリングする
ストレスを受けた時、自分がどんな風に感じたのか・どんな反応があったのかをモニタリング(観察)します。
気持ちのモニタリングは、以下のように身体的反応と精神的反応に分けて書き出し、どれくらいのレベルで生じたかを客観的に把握しましょう。
・身体的反応
涙が出る・手が冷たくなる・お腹が痛くなるなど
・精神的反応
悲しい・辛い・悔しいなど
「ストレスを受けてイライラして終わった」だけでは、また同じストレスを受けたときに対処することができず、イライラを繰り返すばかりです。
自分がどんなストレスをどの程度感じているのかを把握できていれば、次にストレスが起こったときの対策として活かすことができます。また、対処すべきストレスに優先順位をつけて実践するなど、ストレスコーピングのスキルアップにもつながるでしょう。
コーピングリストを試し、結果を分析する
コーピングリストの作成と気持ちのモニタリングができたら、対処法を実践してストレスがどう変化したか(結果)を分析します。対処法を実践してみて、ストレスが軽減された・解消された場合は、効果があったということです。
反対に、対処法を実践してもストレスに変化がなかった場合や悪化した場合は、もう少し時間をかけて続けてみたり、別の方法を講じる必要があります。
ストレスコーピングの流れは以下のとおりです。
1.ストレスを受けたときの対処法を考える
2.対処法を実践する
3.ストレスの変化を評価する
これを意識的に繰り返していき、自主的に解消するスキルを身につけたり、ストレスを未然に防ぐといった効果があるスキルです。ストレスコーピングを介護の現場に導入することで、ストレスを溜め込まない環境作りやスタッフ間のコミュニケーションの活発化につながるでしょう。
日々の仕事でストレスを感じている自覚がある方、また介護現場の雰囲気で気になることがあるリーダーや管理者の方は、ストレスコーピングを取り入れてみてはいかがでしょうか。
まとめ
今回は、介護職のメンタルヘルスケアにも役立つストレスコーピングについて詳しくご紹介しました。対人援助を行う介護職は、仕事だけでなく人との関わりからストレスを抱えがちです。
「仕事はしんどいけれど、やりがいがある」という方は、日々のストレスに対して、気分転換をしてやり過ごしている方も多いものです。しかし、カラオケやスポーツなどの気分転換は、一時的なストレス解消にしかなりません。
ストレスには様々な原因があり、捉え方も様々であるため、一人ひとりが自分の抱えているストレスと向き合い正しく把握することが大切です。そして、ストレスをセルフコントロールできるようにストレスコーピングの正しい実践を進めていく必要があります。
質の高いケアを行うために、業務を担う介護職本人はもちろん、介護リーダーや管理者の方は、ストレスコーピングでスタッフのストレスマネジメントを行っていきましょう。
この記事の執筆者 | 吉田あい 保有資格:社会福祉士・介護福祉士・メンタル心理カウンセラー・介護支援専門員 現場、相談現場など経験は10年超。 介護現場(特別養護老人ホーム・デイサービス・グループホーム・居宅介護支援事業所)、相談現場を経験。 現在はグループホームのケアマネジャーとして勤務。 |
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