「採用しても介護職員がすぐ辞める」
「職員の定着率の低さに悩んでいる」
といった介護施設の役職者、採用担当者も多いのではないでしょうか。人材の確保や育成については、多くの業界で課題に挙げられているかと思います。
介護業界においても人手不足は大きな問題であり、国も介護職員の待遇の改善のために加算を設けたり、外国人の介護士の育成の促進など、様々な対策が取られてきました。
こうした対策の甲斐もあり、介護職員の離職率は少しづつ改善しています。しかし、依然として介護職員の人材確保は大きな課題の一つです。
最近は多くの介護事業者が、賃金の向上や休日の取得についての工夫、ICTツールの導入による職場環境の改善など、それぞれの対策を講じることで問題の解決に取り組んでいます。
しかし退職者が一定数いて減らない、といった悩みを抱える介護施設も多いでしょう。本記事では介護職員の離職についての問題点や、その対策について解説していきます。
すぐ辞めてしまう介護職員は多い?
介護職員の離職について、厚生労働省が発表している「介護労働の現状と介護雇用管理改善等計画について(P.11)」によれば、離職者の64%が3年以内に退職しており、その中でも約38%が1年未満で退職しているというデータが出ています。
介護職には「3年目の壁」と呼ばれるものがあり、厚生労働省のデータからもわかる通り、勤続3年がひとつの区切りとなっています。年次的に責任が重くなり始めることが多いわりに、給料が安いといったことが影響していると考えられます。
そのため介護業界全体の離職率は改善傾向にありますが、勤続年数は短い職員が多く、すぐ辞めてしまう職員が多いという状況だといえます。
介護職員の離職率
公益財団法人介護労働安定センターが発表している、令和5年度の「介護労働実態調査(P.5)」によると、介護職員の離職率は2019年の13.6%から減少傾向にあり、2023年には11.8%にまで低下しています。
しかし採用率も同様に2019年から低下しており、年度によっては多少の増減はあれど、相対的に大きな改善とは言えません。
入職して短期間で辞める介護職員は実際にいる
公益財団法人介護労働安定センターが発表している、令和5年度の「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書(P.44)」でのデータでは勤続年数として最も多いのは10~15年未満で17.8%、次いで7~10年未満が14.3%と、一定期間の勤続を継続している職員もいます。
しかし、1年以下で退職している職員も7.9%と全体の約1割近くを占めており、入職から短期間で退職する職員も一定数存在していることも事実です。
私自身、管理職としてこれまで勤務してきた介護現場で多くの職員を見てきましたが、1週間とたたずに退職した職員も数名いました。
介護職員が辞める主な理由
令和5年度の「介護労働実態調査(P.27)」のデータでも、介護職員の退職理由として、もっとも多いものとして「人間関係に問題があった」が挙げられています。次いで多い退職理由として、「法人や施設・事業所との理念の相違」が挙げられており、ここ数年の退職理由としても、どちらも常に上位の理由です。
他にも「他に良い職場があった」などの理由が挙げられている事から、多くの介護職員が精神的なストレスがなく働きやすい環境や、より好条件の待遇で働ける職場を求め、転職に積極的な姿勢を持っていることが分かります。その背景には、基本的には売り手市場であり、転職先が見つけやすい状況があると言えます。
以下、介護職員が辞める主な理由を見ていきましょう。
介護の仕事は誰でもできると転職してくる
新人の介護職員の中には、全くの未経験から介護業界に転職してくる方もいます。これは、多くの介護事業所が「未経験歓迎」として職員を募集していることが理由です。
未経験でもできる仕事として募集することは、介護職として働くことに対する敷居を低くし、新人の獲得に繋がりやすくなります。人手不足が深刻な状況もあり、未経験者の採用に積極的な介護施設も多いでしょう。
しかし、「未経験でもできる仕事=誰でもできる仕事」と考えて転職してくる人材も一定数おり、そうした人たちは短期間で辞めることも多いのが実情です。
人間関係に馴染めない
退職理由の上位に「人間関係の問題」が挙がるように、上司や同僚、利用者との人間関係がうまく構築できないことで退職してしまう介護職員も多いです。
先述した通り、介護業務に必要な知識や技術に関しては入職後からの習得も可能ですが、コミュニケーション能力に関しては一定の能力が必要です。スキルとして鍛えることも可能だとはいえますが、最初からやはりある程度のコミュニケーション能力があることは大切だと言えるでしょう。
介護の仕事においてはチームワークがとても重要です。施設勤務では他の職員と連携して業務を行うため、うまく人間関係を築けないと、自身の仕事だけでなく他の職員の仕事など、業務全体の流れにも影響を及ぼすことがあります。
一方、利用者の自宅で介護を行う訪問介護では、決められた時間内で自分のペースで仕事ができるため、他の職員を気にしながら仕事を行う事はありません。しかし、ホームヘルパーも利用者やその家族との信頼関係が大切なため、やはり一定のコミュニケーション能力が必要となります。
人間関係の構築はスムーズに介護業務を行うためにとても重要です。そのため、上手くコミュニケーションを取ることができず、職場や利用者と人間関係を築くことができない場合、退職につながってしまいます。
仕事の責任の重さが耐えられない
介護の仕事に対して、入職の前と後で大きくイメージが変わるものがあります。その一つが仕事の責任の重さです。
職員募集にも書かれている通り、介護職の主な業務内容は「高齢者の身の回りの介護」です。しかし実際の業務は、その一言だけで表せるほど軽くはありません。
業務を行う中で、ミスをしてしまう事もあるでしょう。しかし、そのミスの内容によっては、利用者のADLの低下や寝たきりに繋がってしまったり、場合によっては死亡事故になる可能性もあるなど、業務によっては非常に責任が重いものもあります。
そうした危険を自覚した時、自身の仕事の責任の重さに耐えられずに退職してしまう新人もいます。
体力的に厳しい、辛い
介護職の悩みとして多く挙げられる問題に、体力面の問題があります。介護業務には、排せつや入浴の介助など、体力の消耗が激しい業務も多くあります。
勤務に関しても、特に入居系の介護施設はシフト制で働くため、休みが不定期になりがちです。シフトも夜勤や早出などがあり一定ではありません。生活のリズムを保ちにくく、体調管理が難しいと感じる介護職も多いです。
個人差はあっても長く介護業務に従事し、自身も年齢を重ねていけば、体力の低下もあり得るでしょう。体力的な厳しさや辛さを感じてしまうことから、介護職を辞める方もいます。
業務の大変さに比べ給料が安い
介護職の日々の業務は、
・身体的な面での大変さ
・時には大きな責任が伴う精神的な大変さ
があります。しかし、残念ながら介護職員の給与は、全産業の平均的な給与と比較して低いものとなっており、業務の大変さと給与が見合っていないと感じる職員も存在しています。こうした理由が、新人介護職員の獲得の妨げや、職員の定着率が向上しない原因となっています。
そのため、国も深刻な介護職員不足を解消するために、待遇改善につながる新たな加算の創設や保険点数の増加など、様々な施策を行っています。それもあり、少しずつですが介護職員の給与は以前と比較して向上してきてはいます。
しかし、まだ全産業の平均年収よりも介護職の年収が低いのが現実です。業務の大変さと給料の安さから、退職につながるケースは少なくありません。
介護職員がすぐ辞める職場に共通してみられる問題点と対策
介護職員の定着率が低い職場には共通点があります。退職理由として最も多く挙げられているのが、人間関係に関する問題です。そこで人間関係に焦点を当てて、介護職員の退職につながりかねない問題点とその対策を、さらに詳しく考えてみましょう。
施設によって状況は異なると思いますが、もし以下のような状況が見受けられる場合には、職員の離職を防止するために、何らかの対策を早急に取る必要があるでしょう。
指導が厳しい、威圧的な介護職員がいる
介護職員の退職理由としてもっとも多く挙げられている「人間関係」の問題。その中には、
・先輩社員の指導が厳しすぎる
・他者に対して威圧的な社員が存在している
といった問題があり、それが退職につながっているケースがあります。
指導の厳しさが問題として取り上げられる背景に、人材不足が影響していることもあります。介護現場は人材不足を感じている施設が多く、新入職員を早く育成しようという気持ちから、指導が厳しくなってしまうことがあります。また、自分もそうされたから、といった理由から厳しい指導を行っているケースも見受けられます。
威圧的な社員がいるという問題に関しても、前者と同様に、人材不足が理由の場合があります。人材不足の介護現場では、一人の職員が多くの業務を抱えています。
介護業務では突発的に起こる様々な問題の対応も求められ、精神的にストレスを抱えることも多く、気持ちにゆとりがないことも多いです。そうした状況では、他者に対する配慮を欠いてしまうこともあるでしょう。時に威圧的な態度になることもあるかもしれません。
しかし、こうした対応をされた職員にとっては大きなストレスとなることがあり、退職の原因に繋がる可能性もあります。周囲のスタッフや上司は、職場の人間関係や言動に注意することが必要です。
特に介護リーダーや役職者が厳しい指導、威圧的な態度になっていると、部下は指摘をしにくいものです。職場全体で指導の仕方が適切なのか、職員のコミュニケーションは円滑なのかどうか、チェック体制を整えることが重要です。
先輩職員や上司に悩みを相談しにくい
介護職員が退職しやすい環境の一つとして、先輩職員や上司に悩みを相談しにくい、といったことも挙げられます。
介護の仕事は、たとえ他の施設でこれまで経験を積んでいたとしても、接する利用者が変われば、その利用者に合わせた対応が必要となります。利用者毎に個別の対応が求められる業務で、経験があったとしても利用者への接し方や、施設特有の仕事の進め方で悩むこともあるでしょう。
しかし、先輩や上司に相談しにくい環境であれば、今後の仕事にも支障をきたし、ストレスを抱えることになるでしょう。そうした状況から、職員の退職を防ぐために、面談の時間を確保したり、定期的に1on1を実施したりと、職員が相談しやすい環境を作ることが必要です。
オリエンテーション・研修期間が短い
オリエンテーションや研修期間が短いことも、新入職員にとっては不安材料の一つとなります。
通常であれば、プリセプターとして先輩職員が新入職員の教育担当として付き、段階的に仕事を教えることが一般的です。しかし職場によっては人手不足などを理由とし、こうした新人教育の期間を十分に確保せずに仕事を任せているケースもあります。
介護の仕事は業務内容によっては事故のリスクもあり、責任の大きさが職員のプレッシャーになることもあります。特に新人職員は不安を覚えることも多いでしょう。きちんと仕事を教えてくれないことへの不満、仕事へのプレッシャーや不安から退職につながることがあります。
十分な人材育成のためには、しっかりとオリエンテーションや研修期間を取ることが必要です。人材不足で難しい場合には、教育内容に応じて指導担当者を複数に分ける、といったような対応なども検討することが必要でしょう。
職員同士の人間関係が悪い
職員同士の人間関係が悪い職場は、業務上も様々な弊害が生じてしまい、職員の定着率も低くなる傾向があります。
入所者の生活を24時間体制で支える施設介護では、職員のチームワークが求められます。介護施設の勤務はシフト制であることが多く、自身の勤務時間が終われば、連絡事項や情報を他の職員に申し送りをして引き継ぎます。
この引継ぎがスムーズに行われなければ、当然その後の業務に大きな支障が出ます。しかし、人間関係が良好とは言えない職場では、こうした職員の連携がうまくいかない可能性があります。利用者の情報が正確に引き継がれない場合、必要な情報が抜け落ちている場合、事故のリスクを高めてしまう可能性があります。
日々こうしたストレスが発生する職場で、長く働きたいと思う職員は少ないでしょう。職員の定着率向上のためには、職員同士の人間関係に注意することが必要です。
人事評価があいまい
職員にとって、自身の働きが正当に評価されない、と感じることも不満の原因になります。介護職員の人事評価は、数字目標や期間内の仕事の完遂など、明確な達成目標の設定が難しいものです。そのため上司や周囲、自身の評価に差が生じやすく、曖昧な評価に不満を覚える職員もいます。
特にこうした評価は賞与などといった形に反映されるため、出来るだけ正確な評価が求められます。人事評価の基準があいまいな事業所においては、双方が納得できる形で評価をするため、様々なチェック項目を設けた上で、リーダーや主任といった役職者の意見と照らし合わせながら、評価に取り組むことが大切といえます。
施設が不衛生
施設が不衛生な場合、その理由として人手不足が大きく影響していることが多いです。清掃、整頓まで手が回らないのです。結果、不衛生な職場はモノが乱雑になりがちで、仕事がしづらく事故につながる可能性もあります。感染症対策としても問題でしょう。
人手不足により業務過多な状況に加え、不衛生な職場は職員にストレスを与え、離職率を高めてしまうでしょう。
新入職員も不衛生な介護現場への応募は避けたいと考えるでしょう。人手不足を解消するためにも、業務の優先順位を考慮しつつ、まずは不衛生な職場環境の対策をする、といったことが必要だといます。並行して人材募集などを行うことが必要です。
新入職員獲得のためと言うのも一つの理由ですが、施設の衛生状態を維持し、既存の職員も気持ちよく働ける環境作りを心がけましょう。
介護職員の定着率アップに取り組む施設は増えている
多くの介護施設では人手不足の状況に対し、介護職員の定着率アップのために様々な取り組みを進めています。こうした取り組みを通じ、既存の介護職員、新人介護職員、どちらの定着率も高めることが大切だといえるでしょう。
職員が離職すると、今は簡単に補充ができる状況ではなく、人手不足が長く続いてしまう可能性があります。そうすると、残る職員に業務のしわ寄せがいき、業務負担の多さや休みの取りにくさなどから大きなストレスを感じ、辞めたい職員が行列をなしてしまう・・・といった状況に陥る可能性もあります。
また新たに介護職員を採用できたとしても、戦力となるためには一定期間が必要になってきます。介護職員の定着率アップは、多くの介護施設にとって重要な課題となっています。
人手が十分間に合っている、人員配置に余裕がある、といった介護現場は少ないでしょう。多くの現場では、介護職員の業務負担を軽減するために取り組みを始めています。
ICTツールを導入し、日々の記録の簡略化や、医師や看護師、理学療法士(PT)・理学療法士(OT)といった多職種との連携がスムーズに行えるように環境を整えたり、センサーライトなどの介護ロボットを導入する事で、職員の負担軽減を図っています。
また、職員のストレスマネジメントのために、管理職に研修を行うなど、職員が快適に働ける環境整備に取り組んでいる施設は増えてきています。
職員も役職者も、業務負担を軽減することはとても重要な取り組みになっています。介護現場のICT活用については以下の記事で事例も紹介しながら、メリット・デメリットも解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
介護職員が辞める主な理由、そして介護職員がすぐ辞めてしまう職場に共通してみられる問題点として、退職理由に多く挙げられる「人間関係」を中心に課題を詳しく見てきました。
人手不足がさらに深刻になる介護業界、介護職員の定着率を高める取り組みはますます重要になってくるでしょう。
今いる職員には長く安心して働いてもらうことが重要です。そして新人介護職員を採用するには、魅力的な職場と感じてもらうことが必要です。
そのためには、職場環境を整えて、介護業界に見られがちである無駄な業務を削減していくことが欠かせません。
介護職員の退職理由は1つではなく、複数が絡み合っていることも少なくありませんが、1つ1つ対策をして、職員が働きやすい環境づくりをしていくことが大切だといえるでしょう。
介護職員の離職率低下のために、短期で対策が必要なものは迅速に、投資が必要な部分については長期的な視野で予算を組み、改善を進めていくことが、これからも生き残る介護施設作りには大切ではないでしょうか。
この記事の執筆者 | タツキ 保有資格:介護福祉士、社会福祉主事 専門学校卒業後から高齢者福祉の分野に従事。様々な現場での経験を経て、サ高住、有料老人ホームの施設長を務める。 現在は通所介護施設の管理者として尽力している。 |
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