介護の現場では人材不足に悩む施設も多く、職員の定着や育成、そもそもの人材確保など多くの問題点があります。離職率の高さに悩む介護施設も多いのではないでしょうか。
特に職員の突然の退職には、職員の配置やシフトなど様々な調整が必要だったり、他の職員への業務の負担の増加に繋がり、さらに職員が退職する可能性もあります。
ではどういった職場なら職員の突然の退職を防止し、安心して働き続けてもらう事が出来るのでしょうか?
今回は職員の退職の原因や、その対処法など、介護職員が辞めないための職場作りのポイントを解説していきます。
目次
人手不足が深刻な介護業界
介護業界は多くの事業所が人材不足という課題を抱えています。令和4年度の「事業所における介護労働実態調査」の従業員の過不足状況についての項目でも、施設職員の約7割が不足感を感じていることが分かります。
その他、訪問介護や看護職員、ケアマネージャーなど、介護業界の多くが一定数の人手不足を感じており、全体の割合としても約7割が人手が足りないと感じています。
原因として挙げられる大きな理由は職員の離職率の高さです。介護職員の退職の理由は、賃金の低さや人間関係など様々ですが、入職しても短期間での退職も多く、職員がなかなか定着しないことが人手不足の解消に繋がらない大きな理由です。
勤続3年以内に介護事業所を辞める職員の割合
介護職には『3年目の壁』と言われるものがあり、入職から3年以内の退職者が多い傾向にあります。
令和4年度の「事業所における介護労働実態調査」において、3年未満での介護職員の退職の割合は、退職者の6割程度となっており、入職者の約半数が3年以内に退職していることになります。
新人の頃は、覚える事も多く、仕事に対しても目標やモチベーションを保って臨む事が出来ますが、段々と仕事に慣れてくると、当初の目標を見失ったり、モチベーションが低下してきてしまいます。
そういったことから介護職の『3年目の壁』は、仕事における一つの転換点と言われています。
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介護職が職場を辞める主な理由
令和4年度の「介護実態労働調査の概要」によると、退職理由でもっとも多いのが『職場の人間関係に問題があったため』でした。
次いで多かったのが、『法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため』『他に良い仕事・職場があったため』となっています。
これら上位の退職の理由以外にも、ライフステージの変化や賃金、仕事の向き不向きなど、退職の理由は実に様々です。しかし、退職理由の上位である「人間関係の問題」は働く上での大きなストレスとなり、職員の定着の大きな妨げとなる問題です。
職員の定着率の低い施設は、まず職員の人間関係や日々のコミュニケーションへの注目が重要な場合が多いです。問題があれば解決することで定着率や離職率を改善できる可能性があるでしょう。
結婚や妊娠、出産などライフイベントの為
令和4年度の「介護実態労働調査の概要」の中では上位の理由でこそありませんでしたが、結婚や妊娠、出産といった人生の大きなライフステージが変化すると、それに合わせて退職や転職をする事もあります。
結婚による引っ越しで転職をする、妊娠をしたため夜勤が出来なくなり転職したなど、こうしたライフイベントは働く環境に大きな影響を与えます。
私自身、結婚や出産により、生活環境が変化するタイミングに合わせて転職したことがあります。雇用側からは対応が難しい場合もありますが、時短勤務やシフトの調整など、可能であれば相談し検討する事も必要でしょう。
職場の人間関係に問題があった
介護職員の退職理由について最も多かったのが、この職場の人間関係の問題です。一言で人間関係と言っても、その悩みは色々あります。
先輩や後輩とうまく信頼関係を築けなかったりなどの自身が関わる問題もあれば、他の職員間の仲が悪く、職場の空気が悪いといった、自身の関わらないところでの問題も、人間関係についての悩みと言えます。
ただどちらも共通して、精神的に大きなストレスがかかる事で、仕事をしていても必要以上に疲れてしまうため、職員の離職に繋がりやすい問題と言えるでしょう。
ただこうした人間関係の問題は、施設側の働きかけによって解決できる可能性もあるため、職員の人間関係には注意が必要です。
法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があった
人によっては理念や運営方針の違いも、退職する理由になり得る事もあります。施設の理念や経営といった規模の大きな話は、一見すると一般の介護職にはあまり関わりがなく、管理職以上の立場の職員だけに影響のある話と思うかもしれません。
しかし、理念や運営方針の話は、一般の介護職員に十分に影響のある話です。仮に、経営者が職員の負担を考えず、利益最優先の運営を行うようなところならどうでしょうか?人件費や経費を抑え運営し、劣悪な職場環境であった場合、当然職員は定着しないでしょう。
こういった例は、小規模な施設になるほど職員への影響は大きくなります。大げさに思うかもしれませんが、現実としてこういった施設も存在しています。
介護職が辞めない職場づくりのポイント
介護職員が辞めにくい職場というのは、会社の福利厚生の充実も大切ですが、『職員がどれだけストレスなく働けるか』がポイントになってきます。
職員が離職する原因として最も多い「人間関係に関する問題」を解決するには、コミュニケーションをしっかり取ることが大切です。職員同士が安心して意見や考えを言い合える環境を作り、心理的安全性を確保することで職員のストレスを軽減することが出来ます。
問題点があっても、それについて話が出来ない、改善できない状況は職員にとって大きなストレスになり、更に人間関係を悪化させる可能性があります。
そうならないよう、日々のコミュニケーションを大切にし、問題があれば互いに意見を出し合い解決していける環境を作ることができれば、職員の離職率を下げることが出来るでしょう。
コミュニケーションを取る
職員間のコミュニケーションを図ることは、よりよい職場環境を作る上でとても大切です。しかし、実際にコミュニケーションをとると言っても、具体的には何をすれば良いでしょう?
まずは管理職が中心となり、改善すべき点を見つけ、問題提起しましょう。職員間で申し送り用のノートを作ったり、最近ではアプリなどを使って職員間で連絡をとるようにしている施設もあります。
始めは職員からの積極的な回答や提案は少ないかもしれません。活発に意見を交換するためには、まずは管理職が進んで発言や問題の解決案を提示し、それに対し意見を求めていくのが良いでしょう。
そうして意見交換の場を活性化させ、職員同士がコミュニケーションをとりやすい場を整えていきましょう。
心理的安全性を高める取り組みを行う
「心理的安全性」とは組織の中において、自分の意見や考えを誰に対しても安心して発言できる状態のことです。
この心理的安全性を高めることによって、対人関係においてリスクのある発言をしても安全であると思える状態、つまり遠慮のない意見交換を行いやすい状態を作るという事です。
こうした状態を維持出来る組織は、活発な意見交換により、業務の問題点の改善に対して高い効果を示し、組織の業務の生産性の向上が期待できます。そして生産性の高い組織は、職員の仕事に対する満足度も高く、『ここで働きたい』と思えることで離職率の低下にも繋がります。
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業務負担の軽減を実現する
職員の離職率を下げる方法の一つとして、日々の業務の負担を軽減するという方法もあります。施設形態によって多少差はありますが、送迎などでの車の運転、施設内の設備の清掃やリネンの交換、備品の補充、施設によっては調理を行う場合もあります。
こうした、必ずしも介護職員でなくても行える業務に対して、その業務専門の職員を雇用する事で、介護職員の業務の負担を軽減する事ができます。
介護の現場では、多くの施設で人手絵不足が問題となっており、新規に職員を採用しても3年以内に退職してしまう職員が多数います。そうした理由から、残業して業務にあたる施設も多く、職員の負担が増える事で、離職率が改善されない悪循環に陥るケースもあります。
毎日の介護以外の業務を、専門の職員を雇用して負担を軽減するのも、離職率低下の一つの手段と言えるでしょう。
介護現場のICT化を進める
日々の業務の負担軽減策として、介護現場のICT化があります。その一つが介護ソフトの導入です。
介護の現場では、毎日の介護記録を手書きで行っている事業所が多くあります。他にも様々な報告書や計画書など、書類の作成も多く、勤務時間内は介護業務に追われ、こうした事務作業に時間を費やすことが出来ない事業所もあります。
その場合、職員は残業をして業務にあたるしかなく、勤務時間が増える事は職員の負担増加に繋がります。これらの業務をICTを導入し電子化する事で、介護業務の合間の短い時間でも、日々の記録や書類作成が可能となり、事務作業にかかる時間を短縮する事が出来ます。
また、ICTの導入は職員間の情報共有を容易にし、生産性の向上に繋がるといったメリットもあります。
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教育体制や評価制度の整備
職員の離職率低下のために、職員に対する研修を行いましょう。技術や知識など段階に分けて実施する事で、個人のスキルのレベルアップを図ります。
また、研修を行うことで身に着けた、技術や知識の習熟の状態を確認するための試験などを行うことで、キャリアアップや昇給の目安とする事業所もあります。こうした教育制度と、それを評価しキャリアアップに繋がる制度を整える事で、職員のモチベーションの維持、向上に繋がります。
個人の目標や成長を感じられ、キャリアアップの仕組みを明確にすることで、職員が働きたいと思える職場を作ることが出来るでしょう。
シフトの見直し
職員の離職率低下のために、シフトの見直しも行いましょう。変形労働時間制の職場では、早出、日勤、遅出、夜勤など、様々なシフトが存在します。
割り当てられるシフトによって、その日の業務の内容が異なり、負担も違います。シフトを作成した際に、特定の職員にシフトが偏ると、その職員の負担が大きくなるだけでなく、不公平感などの不満を募らせ、ストレスを感じさせる可能性があります。
こうした事態の防止のために、公休などの勤務の希望を聞き、シフトに反映させるようにしましょう。とはいえ、全ての職員の勤務希望に応えることは、現実的に難しいでしょう。
公平に希望を反映しつつ、希望が重なってしまった場合は、職員とのコミュニケーションをはかり、相談する事も大切です。
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まとめ
職員の離職を防ぐポイントは、職員にとってどれだけ魅力的な職場か、どれだけ働きやすい環境を整えられるかがポイントです。職員の離職率を改善することは、サービスの質や定着率の向上に繋がり、事業所全体のレベルアップにも繋がります。
ICTの導入による業務負担の軽減や、日々のコミュニケーションによる問題点の改善や信頼関係の構築などを図り、よりよい職場環境を作っていきましょう。
この記事の執筆者 | タツキ 保有資格:介護福祉士、社会福祉主事 専門学校卒業後から高齢者福祉の分野に従事。様々な現場での経験を経て、サ高住、有料老人ホームの施設長を務める。 現在は通所介護施設の管理者として尽力している。 |
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