介護付き有料老人ホームには「人員配置基準」があります。
なぜこのような人員配置基準があるかというと、「入居者の方に安定した介護・看護サービスが提供出来るように」「職員が心身に過剰な負担を強いられないように」という理由からです。
介護付き有料老人ホームの人員基準を満たさない場合、介護サービスの質を確保できないだけでなく「行政処分(指導、勧告、命令、差し止め、業務停止、営業停止など)」を受けることもあります。
健全な施設運営のために、人員基準について知っておきましょう。
介護付き有料老人ホームとは
テレビや広告などでよく見る「介護付き有料老人ホーム」とは実際どんなものなのか、改めて確認していきしょう。
運営主体
「特定施設入居者生活介護(※1)」として、都道府県の指定(認可)を受けた民間企業、社会福祉法人、医療法人などが介護付き有料老人ホームを運営しています。
(※1 特定施設入居者生活介護は「特定施設に入居している要介護者に対して、日常生活上のお世話や機能訓練、療養上のケアをおこなうサービスです)
入居条件
介護付き有料老人ホームは一般的に「日常的に介護が必要な65歳以上の要支援1~要介護5の介護認定を受けた方」が対象となりますが、施設により入居条件が違います。
「介護認定自立」の方でも入居出来る、「要介護1以上」の方でないと入居出来ない、など施設独自のルールがある場合や、以下の内容も入居条件に含まれます。
・認知症や精神疾患その他の理由により、他入居者との対人トラブルがないこと
・入居者に対しての医療行為が、施設看護師が日常的に出来る範囲内であること
・入居一時金や月額費用の支払いが出来ること
・保証人、身元引受人がいること など
サービス内容
介護付き有料老人ホームでは介護職員が24時間常駐しており「食事、入浴、排泄、その他の身の回りのお世話(掃除、洗濯など)」についての介助、レクリエーションやイベント、個別的な趣味活動へのサポートなどが受けられます。
また、協力指定医療機関の往診医や施設看護師による医療サービスや緊急対応、機能訓練指導員によるリハビリテーションといったサービスが提供されます。
介護付き有料老人ホームでは施設と契約をすれば上記のサービスが受けられますが、似た施設形態である「住宅型有料老人ホーム」では、施設とは別に各介護・医療サービス事業者と個別に契約しなければなりません。
費用
介護付き有料老人ホームに入居する際にかかる費用については、一般的には以下のようなものがあります。
【入居一時金】
0円~数千万円
【月額費用】
居住費、食費、医療費(往診、薬代など)、その他費用(オムツ代、理美容代、日用品費、管理費など)
費用目安: 15万円~35万円
【介護サービス費】
介護度により定額設定されています(図1を参照)。
「介護サービス費」は介護保険を利用するため、入居者の所得に応じて1割~3割の自己負担が生じます。
また、施設によっては生活保護受給者の方を受け入れている場合もあります。
介護度別の自己負担金額目安
介護度 | 1日あたりの自己負担額 | 30日あたりの自己負担額 |
要介護1 | 538円 | 16,140円 |
要介護2 | 604円 | 18,120円 |
要介護3 | 674円 | 20,220円 |
要介護4 | 738円 | 22,140円 |
要介護5 | 807円 | 24,210円 |
※介護保険1割負担の場合
施設により費用は大きく異なる
入居一時金や月額費用については施設により様々なプランが用意されています。
一時金が「0円」という施設もありますが、その場合は月額費用が高くなりますし、オムツ代など日用品のランニングコストや医療費(往診費、お薬代など)が意外とかさんでくるので、実際の費用面は契約時に確認すると良いでしょう。
また、施設側としても入居者の方が受けるであろうサービス内容に応じて、出来るだけ現実的な出費シュミレーションを契約時に提示しておくことで、入居者本人や家族に安心感を与えられます。
入居者や家族の方にとって大きなネックとなりかねないのが「費用面」で、入居一時金は高いところでは数千万円~1億円を超える施設もあります。
それだけに、介護・看護サービスにかけられる期待も大きくなるため「施設独自の良さ」をどう出していくかが大切になってくるでしょう。
その他
介護付き有料老人ホームと混同されやすいのが下記の2種類の施設です。違いを簡単にご紹介します。
住宅型有料老人ホーム
介護認定自立から要介護の方まで幅広く受け入れています。生活(食事、掃除、洗濯など)のサポートをメインとして受けられ、レクリエーションに参加することも出来ます。
比較的、自立度が高い方が入居するイメージです。介護サービスが必要な場合、外部の事業者と契約を交わします。
健康型有料老人ホーム
施設職員による見守りや生活のサポートが受けられ、設備やアクティビティが充実している施設が多いです。基本的に自立~軽度の要介護の方が入居していて、重度の要介護状態になると退去しなければなりません。
介護付き有料老人ホームの人員配置基準
介護・看護サービスの質を確保するため、介護付き有料老人ホームでは人員配置基準が定められています。
人員配置基準の内訳と、それぞれの職種における役割・業務内容を見ていきましょう。
人員配置基準内訳
管理者(施設長) | 1人(専従) |
介護職員 | 要介護者3人に対して1人以上。要支援者10人に対して1人以上 |
看護職員 | 入居者30人までは1人以上。入居者が50人増えるごとにプラス1人 |
生活相談員 | 1人以上 |
機能訓練指導員 | 1人以上 |
ケアマネージャー | 1人以上 |
施設長(管理者)
施設に必ず1人配置。施設運営・マネジメント(職員採用、教育、勤怠管理、請求業務、苦情相談対応、行政や地域との連携や対応、設備管理など)を担います。
施設長になるために資格は必要ありませんが、一般的には高齢者介護についての知識や経験がある人が望ましいとされています。
介護職員
入居者の要介護者3人に対して1人以上、要支援者10人に対して1人以上を配置(介護または看護職員)。
入居者に対して、入浴、食事、排泄、更衣などの身体介護や生活上のサポート(居室の掃除や環境整備、心理面のケアなど)、レクリエーションやイベントなどをおこないます。
看護職員
入居者が30人までの場合、日中は1人以上を配置し、入居者が50人増えるごとにプラス1人を配置。
入居者の健康管理や医療行為(胃ろう、在宅酸素、人工呼吸器、インスリン注射、吸引、傷の処置など)、往診医や外部医師との連携、急変時の対応、施設の感染予防対策などをおこないます。
看護職員については日中のみ配置されている施設と24時間常駐している施設があり、看護職員がどのくらいの時間いるかによって「対応出来る医療行為」が変わります。
24時間看護師が常駐している施設では、さらに手厚い看護サービスが受けられるので、安心感も増すでしょう。
生活相談員
常勤で1人以上を配置。入居者の面談、アセスメント、契約、入居者や家族・行政や地域との相談窓口になります。
施設によっては現場(介助、受診付き添い、レクリエーションやイベントなど)に入りながら生活相談員の業務をしている職員もいます。
施設に入居する要介護者が100人以上の場合には、生活相談員は入居者100人に対して1人以上配置することとされています。
機能訓練指導員
常勤で1人以上を配置。ケアプランに沿った「機能訓練計画書」を作成し、入居者の身体機能や健康の維持・向上にむけたリハビリ指導・評価、福祉用具の選定・評価、生活上の動きの評価、転倒などのリスク回避へのアドバイスなどをおこないます。
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、看護師、准看護師、鍼灸師の資格保持者が担当します。
介護支援専門員(ケアマネジャー)
常勤で1人以上を配置(小規模の施設では、管理者や介護職員と兼務していることもあり)。入居者のアセスメント、担当者会議の開催、ケアプラン作成、モニタリング、介護保険の給付管理(請求業務)を担います。
入居者や家族の心配ごとや困りごとに対してのサービス内容を調整、修正していきます。
介護付き有料老人ホームの夜勤職員の人員基準
夜間の人員については「介護または看護職員が1人以上いれば良い」とされています。一般的には介護職員が夜勤をし、何かあれば往診医や看護師にオンコールする場合が多いです。
また、医療行為(人工呼吸器の管理、インスリン注射、頻繁な吸引など)が常時必要な入居者がいる施設では、看護師が常駐でないと対応が出来ません。
入居者の状態や人数によって必要な人員が変わるので、安全な運営が出来るような人員配置をしましょう。
介護付き有料老人ホームの人員基準の注意点
介護付き有料老人ホームには人員配置基準が定められていますが、1日24時間をすべて常勤の職員で充足させる義務があるわけではありません。
大切なのは「基本的な人員配置は守りながら、入居者にとって不足のないサービス提供をする、職員にとって過剰な負担を強いないような配置をする」ことです。
介護職員は常勤でなくても良い
介護職員は必ずしも常勤でなくても良いとされています。時間帯により忙しさが変わるので、パートやアルバイト職員の組み合わせでシフトを充足させることが可能です。
入居や食事介助、イベントの時など忙しい時に増員し、それほど忙しくない時間帯には必要最低限の人員を配置するなどコントロールできます。
基準の「3:1」を超えない時間帯があっても良い
介護付き有料老人ホームの基本的な人員配置基準は入居者3人に対して(介護または看護)職員が1人以上の「3:1」の比率です。
ただ、この比率は「常勤換算法」をもとに計算するので「その場に実際にいる職員数」とは違います。
入居者の活動や対応が多い日中に人員を手厚くし、夜間に少人数の配置をするなど調整をおこなうので「3:1」を超えない時間帯も発生します。
入居者や家族の方などには「常に手厚い人員配置なのですよね?」と誤解されやすい部分でもあります。
見学や契約時には、自施設の「常勤換算」の数字と「実際の人員数」の違いについて充分に説明することで、人員配置についての認識のズレが解消できます。
・常勤換算とは?計算方法と介護施設の人員配置基準について解説!
人員配置基準の中に、どれくらいの人数が必要なのかを定めた「常勤換算」と呼ばれるものがあります。この記事では介護施設の常勤換算や人員配置基準について解説します。
まとめ
介護付き有料老人ホームには人員配置基準があり、その目的は「入居者の方へ安定した質の介護サービスを提供するため」です。
また「職員の心身に過剰な負担をかけないための基準」という視点も大切です。
「3:1」などの人員配置比率はあくまで基準であり、1日24時間その人員を確保しなければならないのではありません。
常勤換算法などで計算をしながら人員配置基準を満たし、時間帯や入居者の方へのケアの内容・頻度によって、人員の増減をコントロールしていきましょう。
介護付き有料老人ホームは特に出費が高額であるため、入居者や家族からの期待も大きいものです。
人員配置だけでなく「介護サービスの質」という部分を「対価に見合っている」と感じていただけるようなケアを目指していきたいですね。
この記事の執筆者 | otoupapa 保有資格: 介護支援専門員、介護福祉士、介護予防運動指導員 等 訪問介護、デイサービス、有料老人ホーム、小規模多機能型居宅介護を経て今は居宅ケアマネジャーとして勤務。 介護職歴は約22年で、祖父母の在宅介護や福祉系のNPO法人運営を経験しました。 現在は介護・福祉系その他のライターをしながら、介護のお仕事と子育てを両立しています。 |
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