介護施設は行政から許可や認可を受けて、はじめて施設を運営することができます。
その許可を受けるためには、介護保険法などによって決められているルールを守る必要があります。
その中のひとつに、職員数や特定の資格を持った職員を配置するように決められた「人員配置基準」があります。
また人員配置基準の中に、どれくらいの人数が必要なのかを定めた「常勤換算」と呼ばれるものがあります。
この記事では、あまり聞き慣れない介護施設の常勤換算の計算方法や人員配置基準について解説します。
ぜひ参考にしてください。
目次
常勤換算とは?
介護施設で職員の人数を数える際に、「常勤換算」という言葉が出てきます。
常勤換算とは、文字通り「常勤に換算した場合の人数」という意味で、「常勤換算で2人」などの使い方をします。
なお、常勤ではない職員は「非常勤」職員と呼ばれます。
フルタイムの職員が常勤、短時間のパートやアルバイトは非常勤とイメージするとわかりやすいかもしれません。
・常勤職員 :フルタイムで働く職員
・非常勤職員:フルタイムで働く職員より勤務時間が短い職員
法人によっては年度更新の職員を非常勤職員と呼んだり、臨時職員などと呼んだりする場合もあります。
人員配置を計算する場合においては、その職員の働く時間で「常勤」と「非常勤」に分けられますので、雇用形態(正規雇用か非正規雇用か)は関係ありません。
常勤換算の計算方法
常勤換算の計算方法は、その事業所で定められている常勤の職員が働く勤務時間を1とした場合に、非常勤職員がどれくらいの勤務時間割合になるかによって求められます。
つまり、常勤の職員の1/2の時間だけ働く非常勤職員の場合には、「常勤換算で0.5人」となります。
職員の配置基準は、各サービスごとに決められていますので、職種ごとに職員数を合計して各々の職種で常勤換算の人数を満たす必要があります。
例えば、「常勤換算で2.5人以上」と定められている場合には、常勤職員が2人だけでは足りず、その他に常勤換算で0.5人以上の職員が必要になります。
なお、人員配置基準は最低限の人数を定めたものであるので、基準を上回っていれば、より多くいる分には問題ありません。
常勤換算の計算方法 例
実際の常勤換算の計算例を見ていきましょう。
一週間の所定労働時間が40時間の介護施設の場合、4週間働くと160時間働くことになりますので、これを常勤換算で1.0人と考えます。
・一週間の所定労働が40時間の常勤職員の場合
40時間×4週=160時間となり
160時間/160時間=常勤換算で1.0人
・一週間の所定労働が32時間の非常勤職員の場合
32時間×4週=128時間となり
128時間/160時間=常勤換算で0.8人
・一週間の所定労働が16時間の非常勤職員の場合
16時間×4週=64時間となり
64時間/160時間=常勤換算で0.4人
このような計算方法となります。
例えば「常勤換算で2.5人以上」が必要な場合、週に40時間働く常勤職員が1人(常勤職員1.0人)と週に32時間働く非常勤職員が1人(常勤換算0.8人)がいた場合には、その他に常勤換算0.7人(週に28時間)以上の配置が必要と言うことになります。
常勤換算の5つの注意点
常勤換算で職員数を計算する時には注意点がありますので見ていきましょう。
勤務時間の基準
勤務時間の基準ですが、もし施設の所定労働時間が32時間以下の場合は、32時間を基準とする必要があります。
労働基準法では、一週間の所定労働時間は40時間までと定められており、原則として40時間以上働かせることはできません。
しかし、40時間を下回ることは問題なく、もし32時間を下回る所定労働時間の介護施設の場合があったとしても、常勤換算の基準は32時間を基本とすることと定められています。
最近では、短時間正社員制度などがある介護施設も増えてきていますので、勤務時間に基準があるという点に注意しましょう。
有給休暇と出張
有給休暇は労働者にとっての権利であり、2019年からは取得の義務化が始まっています。
常勤換算の基準において、有給休暇の取得は常勤職員と非常勤職員で扱いが異なります。
・常勤職員の場合
暦月で一月を超えない場合は、有給休暇を取得しても勤務したものとして取り扱う
・非常勤職員の場合
有給休暇はサービス提供に従事する時間とはいえないのでのべ勤務時間には含めない
つまり、常勤職員の場合は一ヶ月連続で休む場合は勤務したことにはなりませんが、そうでなければ勤務したこととみなしてよいとされています。
一方で、非常勤職員の場合は実際に勤務した時間のみ勤務時間としてカウントしなくてはいけません。
例えば、退職時に有給休暇を取得して辞めるという場合にも、有給休暇が連続で一ヶ月を超えるものでなければ、人員配置基準に含めても差し支えないということになります。
なお、出張や研修などについても有給休暇と同様の扱いとなります。
産休・育児休暇
仕事と育児の両立は、社会問題となっています。
介護施設の基準では、産休や育児休暇を取得した場合、職員も施設も不利益とならないよう人員配置基準に配慮があります。
子育て中の職員が、育児の短時間勤務制度を利用する場合や、家族の介護が必要な職員が介護の短時間勤務制度を利用する場合、
「週に30時間以上勤務すれば常勤として扱ってよいこと」
と定められています。(通常は所定労働時間の勤務がなければ常勤とはならない)
また、介護サービスの基準の中には「常勤であること」が求められている場合があります。
しかし常勤職員が産休や育児休暇を取得した場合には、非常勤職員を常勤換算することで常勤職員の基準を満たすことが可能であると定められています。
例えば、特別養護老人ホームの生活相談員は入所者100名に対し、常勤1名が必要です。
もし生活相談員が産休や育児休暇を取得する場合は、非常勤の生活相談員であっても常勤換算で1名以上いれば、基準を満たすことになります。
(例)入所者100名の介護施設
・通常の場合
生活相談員は常勤職員1名
非常勤で常勤換算0.5人の生活相談員が2名いても基準は満たさない
・生活相談員が産休・育児休暇中の場合
非常勤で常勤換算0.5人の生活相談員が2名いれば基準を満たす
兼務
介護施設の人員配置基準では、勤務時間により常勤と非常勤に分けられます。
またその他に、どの職種として勤務するかによって「専従」と「兼務」に分けられます。
・専従
勤務時間を通じて、専らその職務に従事すること
・兼務
勤務時間の中で、勤務するサービス以外の業務につくこと
(特別養護老人ホームの介護職員が、ショートステイの介護業務につくことなど)
または同一のサービス内で、複数の職種に従事すること
(デイサービスの看護職員が、デイサービスの機能訓練指導員の業務を行うことなど)
それぞれのサービスにより、その職種が専従でなくてはいけないのか、兼務をしていてもよいのかなどが決められています。
例えばデイサービスの看護職員や機能訓練指導員は専従である必要がありませんので、看護職員と機能訓練指導員を兼務することができます。
専従を求められる職種の場合は、必ず誰か特定の人を置かないといけませんので職員配置を考える際には十分に注意しなくてはいけません。
時短勤務者
ここまで見てきたように、介護施設で勤務する職員は以下の4つのいずれかに区分することができます。
・常勤専従…フルタイムで、ひとつの職種に従事する職員
・常勤兼務…フルタイムで、複数の職種または複数の事業所に従事する職員
・非常勤専従…時短勤務者で、ひとつの職種に従事する職員
・非常勤兼務…時短勤務者で、複数の職種または複数の事業所に従事する職員
サービスごとに異なりますが、職種によっては必ずしも常勤である必要がない場合も多くあります。
以前より介護現場では職員不足が深刻なので、時短勤務者を効率的に配置して業務を回すことや忙しい時間帯に時短勤務者の力を借りることも考えていかなくてはいけません。
介護施設に人員配置基準がある理由
介護施設に限らず、医療機関や保育施設など許認可を受けて行う事業には人員配置基準があります。
それは、利用される方の安全性の確保や一定以上の質を保つために決められたものです。
少ない職員数で介護施設を運営すれば、施設の経営面ではよいかもしれませんが、利用される高齢者への介護サービスの質の低下や職員の負担が増してしまいます。
介護保険制度は、保険料のみならず公費も使われている公的なサービスなので、一定の水準を保つために人員配置基準が定められています。
一方で介護施設の人手不足は今に始まったことではなく、どこの施設でも職員の確保に苦労しています。
そのような理由から、これまで専従で配置しなくてはいけなかった職員が兼務可能となったり、以前と比較して高性能な介護ロボット、見守り機器の充実から人員配置基準が緩和されたりと、人員配置基準は変わることもありますので、常に最新の情報を確認しておく必要があります。
介護事業所における介護職員の人員配置基準
介護職員の人員配置基準は、提供するサービスによって異なります。
主なサービスについて見ていきましょう。
・特別養護老人ホーム
入所者3名に対して、看護職員または介護職員が1以上
・介護老人保健施設
入所者3名に対して、看護職員または介護職員が1以上
そのうち看護職員は2/7程度必要
・通所介護(デイサービス)
利用者15名までは介護職員1以上
利用者15名を超える場合、利用者1名に対し介護職員が0.2以上
・訪問介護(ホームヘルパー)
常勤換算で2.5以上(資格が必要)
・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
日中は利用者3名に対して、介護職員が1以上
・小規模多機能型居宅介護
日中は通いサービスの利用者3名に対して介護職員1以上、訪問サービスに1以上
このように見ると、概ね入所者/利用者3名に対して、介護職員1以上というサービスが多いことがわかります。
また、サービスによっては夜間の配置人数に気をつけなくてはいけなかったり、資格者を配置しなくてはいけなかったりする場合もあります。
人員配置基準を満たさなかった場合の減算
人員配置基準を満たさなかった場合、その日から介護保険の指定を受けられない訳ではありません。
例えば特別養護老人ホームの場合、入所者3名に対して介護・看護職員が1以上と定められていますが、職員が1割以上不足する場合は翌月から、1割を超えない範囲で不足する場合は翌々月から、所定単位数が70%に減算となります。
例えば、特別養護老人ホーム定員90名の場合、介護・看護職員は30名が必要です。
①5月に、1割以上(27名未満)不足する場合、6月から所定単位数が70%に減算
②5月に、1割を超えない範囲(27名以上、30名未満)で不足する場合、翌々月7月から所定単 位数が70%に減算、ただし6月に解消した場合は7月は減算されない
人員配置基準を満たさない場合、減算されて金銭で解決すればよいという訳ではなく、入所者/利用者の安全性や職員の負担軽減のためにも速やかに改善するように努めなくてはいけません。
・人員基準欠如減算とは?要件から対応策まで解説
人員基準欠如減算について対象となるサービス種別や具体的な要件、計算方法、さらには適用期間や対応策などについて解説。
介護施設が人員配置基準を違反した場合の罰則
介護施設は行政から許可を受けて事業を運営していることから、人員配置基準やその他の基準、記録、介護報酬請求など厳格な運営が求められます。
基準に違反することを事前に防ぐため、集団指導や運営指導・実地指導などが行われますが、不正が発覚した場合にはより強い措置として罰則があります。
罰則については、改善を求める改善勧告から、より悪質かつ緊急性が高い場合には指定取り消しまで複数の段階があります。
・改善勧告
期限を定めて基準を遵守するべく改善を促す行政指導
・改善命令
勧告に従わない場合に勧告に従うように命令する行政処分
・指定の効力の全部または一部停止、指定取り消し
不正な運営に対し、指定の全部または一部の効力を停止する行政処分
なお、実地指導は事前に予告が行われますが、より悪質な場合や不正が疑われる場合には当日に通知される「監査」が行われる場合もあります。
基準を分かっていて人員配置基準に違反することは論外ですが、勘違いであっても基準違反は認められるものではありません。
毎月、勤務実績を作成し常に基準漏れがないようにすることが大切です。
ポイントを押さえれば常勤換算の計算は簡単?
ここまで、常勤換算の考え方や計算方法、人員配置基準について見てきました。
わかりにくい点もありますが、毎月のチェックをしっかりしておき、いくつかのポイントを抑えておけば常勤換算の計算はそれほど難しいものではありません。
・最新の人員配置基準
・勤務の時間(フルタイムか時短勤務者か)
・与えられた職務(専従か兼務か)
・研修や有給休暇の取り扱い
・産休・育児休暇の場合の特例
人員配置基準の中には、「一日ごとの基準」と「月を通しての基準」があります。
例えば、デイサービスの生活相談員の人員配置基準は、サービス提供時間に応じて専従で1以上とされています。
1人の生活相談員が、風邪や事故で欠勤となった場合、人員配置基準を見ると基準を満たさなくなります。
生活相談員の人員配置基準を満たさない場合は、単位数の減算になる訳ではなく指定を受けることができません。
そのため、本来であればリスク管理のためにも複数の生活相談員を確保することや、資格者を確保して兼務させるなど事前に対策を取らなくてはいけません。
ひと月を通してみると、基準を満たしていても一日ごとで見ると基準を満たさないということもありますので予定と実績を両方チェックして基準を満たすようにしなくてはいけません。
ICT活用で人員配置基準が緩和される?
令和3年度の介護報酬改定において、ICTや見守り機器などを導入することでこれまでよりも施設における夜間帯の人員配置基準が緩和されました。
例えば特別養護老人ホームの場合、見守り機器を一定割合導入した場合には、夜間帯に手厚い人員配置をした場合に算定可能な夜勤職員配置加算の要件が緩和されたり、夜勤者数の基準を満たさない場合に減算となる要件が緩和されたりします。
実際に、ICTの活用やテクノロジーを導入することでどこまで危険性を減らすことができるかや、職員の負担軽減に繋がるかは未知数ではありますが、人手不足の中で新しい技術を導入するきっかけに繋がる施設もあると考えられます。
・介護・福祉現場のICT化 活用事例・導入事例5選
ICTとは何か・介護業界における実際の活用事例や導入事例、メリット・デメリット、ICT導入支援事業などをご紹介します。
・国の施策から考える介護におけるICT活用
介護現場において業務効率化を進めることは必須ともいえますが、ICTツールを導入する際は、ポイントを抑えて進めることが大切です。
導入時のポイントも合わせてご紹介しています。
まとめ
介護保険は公的なサービスなため、その運営には細かな基準が定められています。詳細な基準や運営の規則は介護保険法に示されていますが、とてもわかりにくく解釈が難しいものです。
そのため、様々な場所から解釈通知やサービスの手引きが発行されているので、そのようなものを活用し施設で運営するサービスの基準を守るようにしていきましょう。
人員配置基準は最低限の基準を定めたものです。
そのため、その人数が配置されていれば問題はないのですが、実際の介護施設では基準以上に職員を配置していることの方が多いのが実情です。
この記事を読んでいただき常勤換算の考え方や人員配置基準がある、ということを頭に入れて適切な施設運営に繋げてください。
また、将来管理職を目指している方や介護施設の人員配置に興味のある方も、ぜひ覚えておいていただけたらと思います。
この記事の執筆者 | 伊藤 所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士 20年以上、介護・医療系の事務に従事。 デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。 現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。 |