介護現場において、職員のモチベーションを上げる方法に悩んでいる管理者、リーダーの方は多いのではないでしょうか?訪問系、施設系サービスに限らず、職員がやる気をなくすと以下のようなことが起きかねません。
・職場の雰囲気が悪くなる
・サービスの質が低くなる
・会社の業績が下がる
・職員が辞めていく
「やる気のある優秀な人ほど辞めていき、やる気のない人が残る」という現象は介護現場では珍しくありません。ケースバイケースですが、職員のモチベーションを上げる方法を知っていれば状況は好転するかも知れません。
優秀な職員が育ち、長期的に働けて、職場の雰囲気やサービスの質も良くなる。そのために有効な手法が「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」です。
本記事では「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」について詳しく解説します。ただ、間違えた外発的動機付けをしてしまうと、かえって職員のモチベーションが下がってしまう可能性がありますので注意が必要です。
ぜひ本記事を参考に、職場のモチベーションアップに取り組んでみてください。
目次
外発的動機づけと内発的動機づけの違いとは?
「動機づけ」とは「モチベーションを上げるため、ある行動に目的や意味を与える」ことです。この記事では、介護現場で管理者、リーダーが介護職員に対して動機づけをするためにどうしたら良いか、という状況を想定しています。
外発的動機づけ・・報酬、評価、懲罰など「外的要因」で動機づけすること
内発的動機づけ・・職員自身の興味、関心、やりがいなど「内的要因」に動機づけすること
状況や相手(職員)によって、どちらのアプローチをするかは変わってきます。「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」について、それぞれの特徴、メリットやデメリットについてみていきましょう。
外発的動機づけとは
報酬、懲罰など「外的要因」によって動機づけをするのが「外発的動機づけ」ですが、具体的には以下の方法があります。
・金銭
上司などから示されたノルマ、仕事の評価による給与アップ、昇格
あまりに仕事の質が低いときの賞与の減額 など
・物質
福利厚生、特別な休暇、品物による表彰 など
・感情
目的達成により「認められたい」、もし未達成なら「怒られたくない」 など
このように「誰かから与えられたゴールによって動機づけをする」ということなので、この方法を使う場合は「目指すゴールをはっきり示し、賞罰の内容も具体的にする」ことが大切です。
外発的動機づけは、特に「仕事に興味をあまり持っていない」職員に対して効果的です。自分の行動が分かりやすく「損得」に結びついているため、「動く(仕事をする)理由」がハッキリするからです。
メリット
外発的動機づけのメリットは主に3つあります。
・短時間で効果があらわれる
「誰かから言われた何か」という、職員にとってシンプルな指標となるため動きやすく、短期間で効果があらわれます。
たとえば「3か月以内でここまでやると、こんな報酬(またはペナルティ)があります」と示すことで「ゴールが見えると人は頑張れる」という心理が働きます。
・職員の行動を変えやすい
報酬や懲罰など強制力が働くので、職員自身も「どう行動し、どこに向かえば良いのか」が分かりやすく、結果的に「定められたゴール」に向かって行動していきます。
・職場の生産性が上がる
介護現場においての生産性は「業務効率良く」「ご利用者に質の高い介護サービスを提供する」ことです。
そのために必要なアクションをしている職員に対して、給与や賞与を上げる・昇格を促すなども有効な動機づけとなります。
デメリット
「外的要因」だけで動機づけをした場合、いくつかのデメリットも生じます。
・効果が長続きしない
短期間で効果があらわれる反面、職員が報酬などに慣れてしまったときは注意が必要です。
最初は「待遇が良くなった、嬉しい」と喜んでいても、それが当たり前になってしまうとモチベーションが下がることがあります。
・コストがかかる
給与を上げる、福利厚生や職場環境を充実させるなど「外的要因」をつくるにもコスト(お金、時間、労力など)がかかります。
そのほかにも、期待以上の結果を求めづらかったり、不当と思える降格や不公平感を職員が感じた場合も、やる気を失ってしまいます。
外発的動機づけをする場合は「ゴール、そこに至る方法、報酬や懲罰」をどの職員にも公平に示し、評価をおこなっていくことが前提となります。
外発的動機づけの具体例
外発的動機づけがうまくいった事例をご紹介します。
介護職経験3年目の現場職員Aさんは、デイサービスの仕事にも慣れ、人間関係も悪くない状況でした。ただ何となくそれ以上を目指さず、成長が頭打ちになっているようでした。
そこで管理者は、今までなかった「主任」という役職をつくり、Aさんに提案します。これは、デイサービスの日替わりリーダーをさらにまとめ上げる、現場の統括者という役割でした。
外的要因として「給与、賞与を上げる」「役職手当をつける」「6か月で、いま現場で課題となっていることの半分を改善する」という条件をつけました。
今より少しだけ背伸びした目標と、それに見合う待遇を示されたAさんは、実際には3か月後に現場課題の半分を改善しました。
内発的動機づけとは
職員自身の興味、関心、好奇心など「内的要因」によって動機づけをするのが「内発的動機づけ」です。具体的には、職員に以下の機会を与える・促すことが有効です。
・自己分析
・意思決定
・ゴール(目標)に対する強い意識
今の仕事に対して職員自身が「こうしたい」と強く思えることがモチベーションの源泉となるので、外発的動機づけより主体的な動機づけとなります。
メリット
内発的動機づけのメリットは以下のとおりです。
・創造性や質の高い仕事ができるようになる
「人に言われてやる」より「自分が思い描く」方が創造性や質の高い仕事ができます。
掲げたゴール(目標)に対してどう行動するか、その次はどんなゴール設定をするかなど、自分で考えたり調べたりしているうちにさらにやる気が出る、という良い循環が生まれます。
・問題解決能力が上がる
仕事に対して積極的な姿勢であれば、現場で起こる色々なことを「自分ごと」として受け止めるので「どう解決しようか」と行動します。
それを繰り返していくうちに、問題解決する能力値も上がっていきます。
・職場全体の雰囲気が良くなる
誰かが主体的、積極的に仕事をしているのを見ると、周りも感化されることが多いです。
「仕事が好き」「誰かのせいじゃなく、自分がやりがいを持って取り組んでいる」という姿勢は目に見えないものですが、明らかに周囲にも伝染していきます。
デメリット
内発的動機づけにはデメリットもあります。
・効果が出るまでに時間がかかることが多い
職員自身が主体的に行動するということは、裏を返せば「やる気にならないと効果があらわれない」となりかねません。
指示的にする外発的動機づけにくらべ、内発的動機づけは「職員が自分で気づき、やる気を出し、行動する」という方法なので、効果が出るまでに時間がかかることがあります。
・マニュアル化しづらい
報酬や評価をほぼ一律に設定することでモチベーションアップを促す外発的動機づけはマニュアルにしやすいのですが、内発的動機づけの難しいところは「相手(職員)によって、何に興味、関心を持っているのかが違うために、動機づけの方法も千差万別」という部分です。
見極めが難しいだけに動機づけの方法を間違ってしまうと、逆に職員のやる気をなくしてしまうことがあります。
内発的動機づけの具体例
内発的動機づけがうまくいった事例をご紹介します。
有料老人ホームに務めている介護職員Bさんは、仕事に対する意欲もあり、成長欲もあります。ただ、何となく行き詰っている・目標を見失っているところがあり、管理者に「どう成長すれば良いか分からない」と相談しました。
管理者は十分に話を聴いたあと、Bさんにたずねました。
「いまの業務にどんな意味があると思うか」「それは誰のためのものか」「Bさんは何をしたいか」。
まず現時点の仕事が、何の・誰のためになっているのかを再認識し、そこに意味があることを一緒に確認しました。
次にBさん自身が何を目指しているのか(役職、資格、その他のキャリアなど)を自分で考えてもらい、ゴールを明確化しました。
目標がハッキリし、Bさんのモチベーションは前よりもさらに上がりました。
内発的動機づけが介護業界に重要な理由
多くの職業において有効な「内発的動機づけ」ですが、特に介護業界に必要な理由があります。
・主体的、創造的な人材をつくる
介護現場は教科書通りにいかないことの連続です。1日の業務スケジュールは決まっているものの、イレギュラーな事態は突然やってきます。
また、ルーチン業務に慣れてきた頃に介護事故が発生したり、「会社にやらされている感」があると職場全体の雰囲気が落ち込みます。
そこで、教科書にないことでも柔軟に対応でき、自分で考え行動できる、ゴール設定もできる、結果的に質の高い介護サービスを提供し、職場のモチベーションも上げられる人材が必要となります。
・長期的に働ける職場づくり
慢性的な人材不足である介護業界では、働く場所という意味では選択肢が多いです。職員にとっては、待遇が良い職場に行くこと(転職)がしやすい業界でもあります。
ずっと良い待遇を用意できる会社であれば良いのですが、外的要因だけで人材をつなぎとめるのには限界があるでしょう。
「職員自身にやりがいを持たせてくれる」「適切にフィードバックし、成長を促してくれる」職場であれば、優秀な人材が長期的に勤めてくれる大きな要因になるのではないでしょうか。
外発的動機づけから内発的動機づけへ繋げるには
外発的動機づけだけでは「報酬などの外的要因に慣れてしまうとモチベーションが下がる」ことがあります。それを突破するには、最初はある意味強制的に与えられた仕事でも、それに取り組んでいるうちに「もっと工夫してみよう」と職員自身が思えることが必要です。
これが「外発的動機づけから内発的動機づけに変わっていく」ということですが、自然発生的にそうなるのを待っていても起こるとは限りません。そこで再現性のあるテクニックを挙げてみます。
「1 on 1」で課題を見つける
まず、面談で職員が「モチベーションを下げていないか。もしモチベーションが下がっている場合、何が原因か」の課題を見つけます。管理者、リーダーは「聴くを8、話すを2」くらいの割合で、あくまで職員が話をすることに重点をおきます。
くれぐれも圧迫面談になったり、管理者側が熱くなって意見を言いすぎないようにしましょう。職員は、思った以上に正直な気持ちを言いづらいものです。
日頃から気持ちを言いやすい関係性を築くことが理想ですが、そうでない場合でも「職員に寄り添う・気持ちを知る」気持ちが大切です。
行動のきっかけをつくり、過程と行動にアプローチする
面談で分かった課題をもとに、まずは外発的動機づけで目標を設定します。職員が抱えている課題にもよりますが、「いつまでにこれを達成すれば、報酬、役職、その他の待遇をこのくらい上げていく」ことを示します。
大切なのはここからで、目標に対してスモールステップで達成させていくことを繰り返します。職員が頑張れば手の届きそうなことを次々に達成していくこと、そこを褒める・激励する・的確にフィードバックすることで、職員自身の「仕事に対する興味、関心、好奇心」が育まれます。
褒めることは心理学で「エンハンシング効果」とも呼ばれ、学習や仕事の効果を高めます。管理者やリーダーが、職員を賞賛・感謝し、ときには表彰する、介護現場での知識・技術向上をサポートすることで、職員の承認欲求や成長欲求が満たされていきます。
ポイントとしては「過程を褒める」ことです。結果的に、最初は疑問や不満を持ちながら取り組んだ仕事でも、のちに職員が自分でゴールを設定し、行動していく動機づけとなるでしょう。
内発的動機づけに取り組む際の注意点
効果的な手法である内発的動機づけですが、注意点もあります。まず、職員が興味を持てない仕事で動機づけしてしまうと、モチベーションは下がってしまうので逆効果になってしまいます。
また、職員が好きでおこなっている仕事に報酬や評価を与えてしまうことでモチベーションが下がることもあります。これは「アンダーマイニング効果」といいます。
・アンダーマイニング効果とは?仕事の質・モチベーション低下を避けるには
アンダーマイニング効果について解説。職員のモチベーションを下げてしまうため避ける必要があります。
たとえば、レクリエーションが好きな職員に対して「あなたをレクリエーションリーダーにします。お給料を上げます」という場合、義務化された仕事に対して、今までのように興味がもてなくなってしまうようなケースです。
内発的動機づけをするときは、職員と丁寧にコミュニケーションをとりながら、その人が何に価値を感じるかを把握し、ゴール設定を促しましょう。
まとめ
「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」について解説しました。以下、本記事のポイントをまとめます。
・外発的動機づけとは
外発的動機づけとは「報酬、評価、懲罰」など外的要因によって、仕事に対するモチベーションを上げることです。意欲の下がっている職員に対して、短期間で分かりやすく効果を上げることができる一方、報酬などに職員が慣れてしまうと効果は長続きせず、コストがかかるなどデメリットもあります。
・内発的動機づけとは
内発的動機づけとは職員が抱く「仕事への興味、関心」などに対して動機づけをすることです。創造性や質の高い仕事を職員自身が考えて行動できるようになる、わりあい長期的な効果が見込めます。
一方、マニュアル化がしづらく、職員がどこに興味、関心をもっているかを見極めて動機づけをしないと逆にモチベーションを下げてしまうおそれがあります。
・外発的動機づけから内発的動機づけに移行するには
理想的な流れは「外発的動機づけから始まり、内発的動機づけにつなげていく」ことです。まずは職員が「なぜモチベーションを下げているのか(課題)」を面談などで見つけ、外発的動機づけをします。
それから、スモールステップで目標が達成されるたびに「特に過程を褒める」「適切なフィードバックをする」ことで、職員自身の成長を促しましょう。
こうした内発的動機づけが、職員が自分で目標設定や行動ができるようになることにつながります。
介護現場の職員さんがモチベーションを上げるのを助けたい、と思っている管理者、リーダーの方々は、ぜひこのテクニックを使ってみてください。
この記事の執筆者 | otoupapa 保有資格: 介護支援専門員、介護福祉士、介護予防運動指導員 等 訪問介護、デイサービス、有料老人ホーム、小規模多機能型居宅介護を経て今は居宅ケアマネジャーとして勤務。 介護職歴は約22年で、祖父母の在宅介護や福祉系のNPO法人運営を経験しました。 現在は介護・福祉系その他のライターをしながら、介護のお仕事と子育てを両立しています。 |
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