「もっとリーダーシップを発揮して現場をまとめたい」
「自分が、どんなタイプのリーダーか知りたい」
介護現場で働いている管理者やリーダー職で、そう思っている方は多いのではないでしょうか?リーダーシップは生まれつきの性格や個性から発揮されることもありますが、昔からいくつもの方法論が研究されてきました。
例えば介護の現場で働くリーダーの方の中にも、「自分にはリーダーシップがない」と悩んでいる方いるのではと思いますが、リーダーシップの方法論を学ぶことで「リーダーとしてどこを目指し、何をすれば良いか」が見えてきます。そして実践と振り返りを繰り返すことで、リーダーシップを身に付けることができます。
本記事では、介護現場でチームをマネジメントする立場の方にとっても有益な「PM理論」について解説します。
目次
PM理論は介護現場でも活かせるリーダーシップ
介護現場には「訪問系」と「施設系」のサービスがありますが、どちらにしても1人で仕事をすることはありません。
会社・チームなので、そこにはリーダー職がいてマネジメントが生まれます。マネジメントが生まれればそこには人間関係が生まれ、そこからリーダーの葛藤や悩みが出てきます。
「職員の気持ちが分からない」
「チームをどこに導いたら良いか分からない」
「そもそもリーダーとしての自分がどんなタイプか分からない」
こうした悩みを解決するには、まず自分自身がどんなリーダーかを客観的に見ることから始めるのが有効です。
「じゃあ、どうやって客観視すれば良いの?」
こうした場合に役立つのが「PM理論」です。PM理論について、以下にて解説します。
PM理論とは
PM理論とは、リーダーに求められる能力や行動に着目した理論です。
P機能(Performance=パフォーマンス):目標を達成する機能
M機能(Maintenance=メンテナンス):集団を維持する機能
上の2つの機能を軸に見ていくことで「自分が今どんなリーダーであり、どこを目指せば良いか」が分かりやすくなります。
チームが連携し、介護現場で質の良いサービスを提供するためには、リーダーとしてPとMどちらの機能も向上させていく必要があります。
PM理論を構成する機能である「P機能」と「M機能」について、1つずつ詳しくみていきましょう。
P機能
P機能(目標を達成する機能)は、おもにチームが立てた目標を達成する・職場などで起きた問題を解決するときに、どのくらいの能力があるかという指標です。
・目標を設定する
・目標達成のために計画を立てる
・立てた計画をもとに職員に指示を出し、進行具合をたしかめる
・ルール違反がおこれば指導、修正する
上記のような場面で、自分がどんなリーダーシップを持てるか。
P機能は「会社の業績や現場の生産性につながるもの」なので、チームがどこを目指し、そこに向かうために職員が何をすれば良いのかを示します。
そして、進行が遅かったり職場のルールが守られていない場合にはリーダーが対応します。P機能が弱い場合、そのチームは業績が上がらず、生産性が低く、問題解決能力が低い傾向にあります。
介護現場では、以下のような場面でP機能が試されます。
・ケアカンファレンスで、ケアの目標や内容を示すとき
・ケアについて職員の役割分担を決め、きちんと遂行できているかを確認するとき
・事業所やチームの理念を決め、自分たちのケアがそれにもとづいているかをたしかめるとき
・現場のルールを破った職員に対して注意し、軌道修正するとき など
P機能が優れていれば、チームに目標を設定し、計画を立て、達成することができます。
M機能
M機能(集団を維持する機能)は、チームを円滑に運営できるように職員のモチベーションを上げたり対立を解決する能力の指標です。
・職員のチームワークを強くしたい
・職員同士のトラブル発生時
・チーム全体の士気が下がっている
上記のような場面で、リーダーとしてどんな振る舞いが出来るかが問われます。
M機能は「職員とリーダー、職員同士の人間関係を良好に保ち、チームの雰囲気をつくる」働きがあります。M機能が弱い場合、チームの雰囲気が悪い、職員の連携が取れていない、団結力に乏しい傾向があります。
介護現場では、たとえば以下のような場面でM機能が試されます。
・カンファレンスなどの会議で、意見が出やすい雰囲気や環境をつくる
・職員同士の仲が悪い、対立しているときの対応、対策をする
・職員が悩みを抱えているときなどのフォロー体制づくり など
M機能が優れていれば、連携のとれた雰囲気の良いチームづくりと維持ができます。
PM理論におけるリーダーシップの4分類
自分がリーダーとしてどこに強み・弱みがあるかを分かりやすく見るために、PM理論では4つのタイプがあります。自分を客観視して、どこを修正・改善していくかの参考となります。
PM型
PM型はリーダーとして理想的な「目標達成能力が高く、集団を維持する機能も高い」状態です。
仕事の計画立案、職員への共有、進捗の管理などをしながら職員のモチベーションを上げたり、悩みや対立の解決ができる人です。
PM型リーダーと一緒に働く職員は、質と満足度の高い仕事を長期的にする傾向にあります。
Pm型
Pm型は「目標達成能力は高いが、集団を維持する能力は低い」状態です。
仕事の計画を綿密に立てたり、目標達成できるように職員を指導することに長けている反面、職員にこまやかな気配りをする・チームワークを高めるアクションは不足しています。
短期集中で目標達成する場合には向いていますが、長期的には職員のモチベーションを下げたり、トップダウン型チームをつくる傾向にあります。
pM型
pM型は「目標達成能力は低いが、集団を維持する能力は高い」状態です。
職員同士のチームワークを高める・なるべく全体のバランスをとろうとすることに長けている反面、物事を決断し職員を導いていったり、成果を上げるための施策を考えたり共有することは苦手です。
「仲良しクラブ」となってしまう可能性があるので、pM型リーダーは「目標設定・進行管理」が出来る人に協力してもらうのが良いかもしれません。
pm型
pm型は「目標達成能力も集団を維持する能力も低い」状態です。
仕事の目標達成をする意欲や能力が低く、職員をまとめていく能力に乏しいため、pm型リーダーと一緒に働く職員は「自分たちが何を目指して働いているか分からない」「チームの雰囲気が悪く、辞めたい」などの不満を持っている可能性があります。
上記4つの分類のなかで、自分がどこに属しているかを客観的に見ることで「リーダーとして、どこを強化すれば良いか」が分かりやすくなります。
足りないところを見つけ、少しずつ取り組んでいくことで「P機能・M機能」を高めていくことは出来ます。
PM理論のP機能を高める方法
「P機能」を高めることで、介護現場の業務効率を上げたり、チームの目標達成に向けての取り組みが強化できます。
P機能を高めるには、主に以下の3つの方法があります。
ゴールをはっきりさせる
最初に、自分たちのチーム(部署など)がどこに向かうのかを職員に示します。「目標」は、たとえば以下のようなものです。
・会社の理念、与えられた目標やノルマを達成する
・転倒やオムツゼロを目指す
・職員同士がうまく連動して動く仕組みをつくる
・地域に知られる介護事業所になるため、PR活動をする など
なるべく具体的にわかりやすくゴールを職員に伝えましょう。ここで大切なのは「期限を決めること」「現実的であること」です。
期限を決めてゴールを設定すると、職員自身がどこまで頑張れば良いかわかります。また「それは人員的に無理だろう・・」など現実的でない目標を立てることは、職員のモチベーションを下げてしまいます。
現場に合った、またはそれより少し上の「頑張れば届く」くらいの目標を設定しましょう。
ゴールまでのルートを明らかにする
ゴールが決まったら、どうしたらそれが達成されるのかの「ルートと方法」を示します。現場の職員の気持ちとしては「目標はわかったけど、実際には何をしたら良いの?」という疑問が浮かぶと思いますので、それを解消することが必要です。
「いつまでに、これを達成しよう」という目標を伝え、職員それぞれの「役割と責任」「それぞれがどう連動するか」を一緒に考えていくことで、ゴール・現在地・自分たちがやるべきこと、が理解できます。
こうして現実的にゴールまでのルートを明らかにしていくことで、職員は動きやすくなります。
目標を達成するための行動を徹底させる
管理者・リーダーは進捗管理をしていきながら、つねにゴールに向かった行動を徹底させましょう。ただ、毎日のように目標達成の進捗について確認するかどうかは現場によります。
職員それぞれが行動すべきことを自覚していて、たとえ失敗しながらでもゴールに向かっているのであれば問題ありません。
しかし、「どう考えても目標とは別の動きをしている」「決めたルールを破っている」職員がいたとき、ミーティングや個別面談などで修正する必要があります。
「チームには目標があり、職員それぞれの役割と責任があり、行動があってはじめてゴールに向かえる」という自覚を全員が持っている状況をつくります。
PM理論のM機能を高める方法
「M機能」を高めることで、チーム全体の士気が上がる、職員が意識高く仕事できる、離職を防ぐなどの効果が期待できます。
チームには「上司と部下」「職員同士」という図式があるので、その両面からM機能を高める方法をみていきます。
職員を尊重していることを表現する
管理者・リーダーは「自分は職員を尊重している」と心で思っているかもしれませんが、それが職員に伝わっていないとチームに矛盾がおこります。
職員が「どんな思いで働き、どんな価値観で、どんなキャリアを積んでいきたいのか」などに配慮しながら関われるリーダーには、人がついてきます。
逆に、職員に無関心なリーダーのもとでは、意欲的な職員は生まれにくいでしょうし、反発さえ生んでしまうかもしれません。
日々の会話、月に1度の個別面談などのコミュニケーションを通じて、ヒアリングだけでなく「自分はあなたのここを見ている、評価している」ということを言葉で伝えましょう。
職員同士が交流しやくする
職員が孤立せず、連携・協力できる仕組みをつくるとM機能は向上します。たとえば、以下のような方法を取ることで、活発な交流につながりやすくなります。
・ミーティングなどで意見が言いやすいよう、公平に意見を促す。批判発言はしないという
ルールを決める
・仕事に不安がある職員に対しては「メンター制度」として、現場の先輩などがつき、具体的な業務の仕方を伝えたり悩みの相談にのる
・相性の悪い職員同士については部署や役割を変えることも検討する
・何かの業務を一緒にすることで一体感が生み出せるよう「小さなチーム」をつくる
業務時間外の交流や飲み会などは、あくまでオプション的なものです。そういった席が苦手な職員にとっては逆にプレッシャーになりかねません。
「業務時間内に、仕組みとして職員同士が交流できるにはどうするか」を考えていきましょう。
心理的安全性を高めるような配慮をする
職員にとって「リーダーがいつも守ってくれている」と感じることは、心理的に安心できます。仕事で悩みがあるとき、トラブルがあったときなどにリーダーが正面から取り組む姿は頼りがいがあり、それを見て職員は「チーム感」を強めます。
また、職員への対応や評価については「公平」であることが前提です。
「あの人はひいきされている」「同じことをしていても、自分だけ評価が低い」などネガティブな気持ちが生まれると、チームはまとまりません。
職員が安心して働けるよう、リーダーは全体に目と心を配りましょう。
・介護現場における心理的安全性とは?介護施設に求められる職場環境とは?
介護現場における職場環境や心理的安全性の重要性に焦点を当て、その向上を促進する方法について事例を上げて解説。
介護現場におけるPM理論の活用場面
リーダーシップを4つに分類するPM理論では「自分がどんなタイプか」をみることができますが、会社全体においても活用することができます。上手く活用することで、介護現場でのリーダーシップ向上に大きな効果をもたらすことも可能です。
次のリーダーを育てる
PM理論を活用し、新しいリーダーを育てることで、チームのレベルを底上げできます。特に今いる職員のなかから次のリーダーを選びたい場合、PM理論のなかで特にどの能力が高い・低いかをあてはめると「どこを伸ばせばどんなリーダーになるか」がわかりやすくなります。
リーダー候補がいる場合には、目標達成に向けどういったスキルを身につけることが必要か、などを理解しやすくなります。
会社として望まれるリーダー像を提示できる
介護現場のリーダー像は、能力や性格によって様々です。そのため、就任したリーダーによってガラリと変わってしまうと、現場に混乱が起こる場合があります。
「会社として望ましいリーダー像」として、たとえば「PM型リーダー(目標達成も集団の維持も上手)」を目指す場合、P機能とM機能の内容を示すことで、新リーダー自身もやるべきことが見えてきます。これによってリーダーシップの質が向上することが期待できます。
会社全体のバランスがとれる
リーダーが1人だけでなく複数いる場合、それぞれの能力にバランスがとれていることが理想的です。たとえば介護施設でフロアごとに介護主任がいる場合、施設長や他の介護主任同士がアドバイスするときの指標としてPM理論が利用できます。
PM理論を活用することで、会社全体のリーダーシップのバランスを取ることができます。また、全体的な人事評価をするときなどにも「このリーダーはこのタイプかな」とカテゴライズできます。
組織内のリーダーをPM理論の4つのタイプ(PM型、Pm型、pM型、pm型)にマッピングすると、視覚的にも把握しやすくなり、課題に応じた(不足しているリーダーシップ領域)対策を考えやすくなるでしょう。
介護現場でもPM型リーダーシップは求められている
理想的なリーダーの姿といわれる「PM型リーダー」は介護現場に求められる人材です。
介護の仕事はシンプルに数値化できるものではないですが、職場の理念やルールを守る、現場としての目標を明確にし、職員に質の高い介護サービスを実現させることができる「P機能」は必要です。
また、仕事ができるだけのリーダーだと周りが引いてしまい、チームとして成り立たなくなる可能性があります。そのため、チーム全体の雰囲気を良くしたり、モチベーションを上げていく「M機能」の視点と能力をあわせ持つことができるとチームは強くなります。
PM型リーダーがいるとしても、その人が永遠に勤めることはできません。「次のリーダー」を育てることも考え、その教育ツールとしてもPM理論は役立ちます。
まとめ
介護現場でチームをマネジメントする立場の方にとっても有益な「PM理論」について解説しました。
最後にまとめると、
・PM理論とは「P(パフォーマンス)=目標達成機能」と「M(メンテナンス)=
集団を維持する機能」を軸にした、リーダーシップ論のことです。
・PM理論には、以下4つの分類があります。
PM型=目標達成能力も、チームを維持向上させる能力も高い。理想的なリーダー像。
Pm型=目標達成能力は高いが、チームワークやモチベーション維持向上の面で弱い。
pM型=目標達成能力は低いが、チームをまとめることに長けている。
pm型=目標達成能力もチームを統率する能力も低い。
・P機能を高めるには「チームのゴールを明らかにして、そこに至るルートを職員に伝え、
達成に向けての行動を徹底する」ことです。
・M機能を高めるには「職員の仕事や人生に対する想い・キャリアのイメージなどを把握
し、職員同士が交流できる環境をつくり、リーダーがいることで心理的な安全性がもてる
ような取り組みをすることです。
・介護現場でPM理論を活用することは、次のリーダーを育てたり、会社全体の複数のリー
ダーのバランスをとるうえでも有効です。
いきなりすべての機能を上げていくのはハードルが高いかもしれません。自分がリーダーとしてどの位置にいるのか、どのような能力をつければ成長できるのかをPM理論をもとに考えてみると、個人やチームの目標を客観的につくることができます。
また、介護現場におけるPM理論の活用は、次世代のリーダー育成、理想のリーダー像の提示、組織全体のバランスの向上に大きな効果をもたらします。これにより、質の高い介護サービスの提供と組織の持続的な成長が実現されるでしょう。
ぜひ、PM理論を取り入れてみてください。
PM理論と一緒に語られることも多い、SL理論についても以下の記事で解説しています。
・【SL理論とは】PM理論との違い、介護福祉の現場でも活用できるリーダーシップ
合わせてご覧になってみてください。
この記事の執筆者 | otoupapa 保有資格: 介護支援専門員、介護福祉士、介護予防運動指導員 等 訪問介護、デイサービス、有料老人ホーム、小規模多機能型居宅介護を経て今は居宅ケアマネジャーとして勤務。 介護職歴は約22年で、祖父母の在宅介護や福祉系のNPO法人運営を経験しました。 現在は介護・福祉系その他のライターをしながら、介護のお仕事と子育てを両立しています。 |
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