介護現場におけるさまざまな業務の問題を解決する方法として介護DXが注目されています。介護DXとはデジタル技術やIT技術などを活用し、介護現場における業務のあり方を変えるための取り組みです。
DX化に取り組んだ介護施設では業務改善や職員の負担軽減など一定の効果をあげていますが、あわせてデメリットや課題も浮き彫りになっています。
この記事では、介護DXとはどのようなものなのか導入事例をあわせて解説し、メリット・デメリットもご紹介します。
今後、介護DXを導入し、働きやすい職場にできるよう業務改善に取り組みたい介護施設の施設長や管理者は、ぜひ参考にしてください。
介護施設のDX化とは
介護施設のDX化とは、デジタル技術やIT技術などを活用し、介護施設における業務を改善する取り組みのことです。DXとはデジタル・トランスフォーメーションの略称です。
デジタル技術やIT技術を活用し、業務の効率化・従業員の負担軽減を行い、最終的に顧客満足度を高め利益につなげるという意味を指します。このような取り組みが介護業界にも浸透し、DX化による業務改善を行う介護施設が年々増えています。
具体的には、介護ソフトを導入し、職員間の情報連携や事務作業を効率的に行うことや各種センサー類を活用し、見守り業務の負担を軽減する方法があります。多くの介護施設では業務に関する様々な課題を抱えていることが少なくありません。そのため負担軽減が主な目的となるケースが多いといえます。
人手不足が簡単に解消されるとはいえない介護業界ですから、そのため、今後も介護施設のDX化は注目されるでしょう。
介護施設DX化の目的
介護施設がDX化を行う目的は、利用者に質の高い介護サービスを提供することに尽きるでしょう。総務省の発表によると、2023年の65歳以上の高齢者人口は3,623万人、総人口に占める割合は29.1%と高い水準となっています。
今後も高齢者数は増加すると予想されているため、その分、介護需要も増加すると考えられます。一方で、介護サービスを提供する介護職員は慢性的に不足している状況が続いています。
厚生労働省の調査では、2023年時点では約233万人、2040年には約280万人の介護職員が必要と発表されています。さらに日本国内は労働人口自体が減少傾向であるため、新たに人材を確保することも簡単ではありません。
そのため、介護施設はDX化に取り組み、介護職員が安心して働くことができる職場づくりや質の高い介護サービスを利用者へ提供できることを目的としています。利用者へ質の高い介護サービスを提供する目的を達成するためには、介護DXは効果的な方法と言えるでしょう。
主な介護施設のDX化
介護DXはデジタル技術やIT技術を利用し業務改善を行うための取り組みであると解説しました。しかし、具体的にはどのようなDX化が行われているのか、気になるのではないでしょうか。
本章では、具体的に介護施設のDX化の方法を5つご紹介します。
介護ソフト(ペーパーレス化)
介護現場の事務作業にかかる負担を軽減するには、介護ソフトによる記録物・書類のペーパーレス化が効果的です。介護施設の現場では、さまざまな介護記録やケアプラン作成など多くの事務作業が必要です。
通常の介護業務とあわせて行う必要があるため、多くの時間と手間が発生し、介護職員にとって業務負担となっています。また、介護記録の記入漏れや作成漏れにより、利用者の状態や介護方法に関する重要な情報共有ができず、事故などのトラブルが発生するリスクが高くなるでしょう。
そのため、介護ソフトを導入し、現場内で使用するタブレットやパソコンと連動させることで、効率的に記録を入力できます。さらに、ペーパーレス化により、必要な情報をすぐに取り出し、職員間で共有しやすくなり、紙媒体で保存するよりコストを抑えることもできます。
事務作業や職員間の情報共有を効率的に行いたい場合は、介護ソフトの導入を検討しましょう。
参考:ペーパーレスに向けての取り組み | 特別養護老人ホーム しゃくなげ荘 北海道・鹿追
インカム(情報共有)
職員間の情報共有を効率的に行いたい場合、インカムの活用が効果的です。そもそもインカムとは、イヤホンとマイクが一体化した通信機器で、ハンズフリーで離れた場所にいる職員と連絡することができます。
そのため、連絡する相手を探す・移動するという手間を省くことや、インカムを装着する多数の介護職員へ話しかけることで、効率的な情報共有が実現できます。また、緊急時やヘルプが必要な場合はすぐに全員に呼びかけて迅速な対応につながったケースもあります。
職員間の情報共有を効率的に行いたい場合、インカムの導入はおすすめです。
参考:インカムの活用が叶える「働きやすさ」と「サービスの質」の両立:東京都社会福祉協議会
・介護施設にインカムを導入するメリット・デメリットとは?補助金についても解説
介護施設にインカムを導入することのメリットやデメリット、導入のための補助金についても解説。実際にインカムを使っている施設職員から聞いた感想も紹介しています。
グループウェア(コミュニケーション効率化)
介護施設は介護職員が、24時間365日シフト制で交代しながら利用者の介護にあたっています。そのため、職員間で密なコミュニケーションを行う機会が少なくなり、伝達漏れなどのトラブルが発生し、職員間での情報共有がうまくできないケースもあります。
このような問題を解決する方法として、グループウェアの活用がおすすめです。
グループウェアとは複数人の間で、スムーズにコミュニケーションを図ることができるITツールです。チャットやWebミーティングなどの機能にあわせて、スケジュール・タスク・ファイルを共有することも可能です。
グループウェアを活用すると、交代勤務ですれ違いによる伝達漏れなどのトラブルを解消し、職員間でのコミュニケーションや情報伝達が実現できます。さらに、職員間のスケジュールやタスクを共有できるため、業務の進捗や職員の状況について把握しやすくなります。
介護職員間のコミュニケーションや情報共有を効率的に行いたい場合は、グループウェアの導入を検討しましょう。
参考:グループウェアが支える職員間のコミュニケーション | 福祉介護のICT導入事例
センサー(状況把握)
夜間の巡回業務や目が離せない利用者の安否確認を効率よく行うために、各種センサーの利用が効果的です。
介護現場で活用されるセンサーは、ナースコールと連動しており、利用者の動きにセンサーが反応するとPHSなどの端末に通知される機器です。主に利用者の状態や安否の確認、転倒などの事故・急変が発生した際に迅速に対応できることを目的に利用されています。
介護施設で利用されるセンサーは、以下のとおりです。
・ベッドセンサー
・ピローセンサー
・クリップセンサー
・タッチセンサー
・超音波・赤外線センサー
・ベッドサイドセンサー
・マットセンサー
・車イス・トイレコール
上記のセンサーを利用者の状態・リスクなどを踏まえて適正に利用すると、夜間の巡回業務や安否確認の負担を軽減することができます。また、転倒などの事故や急変が発生した場合も、すぐに駆けつけて対応できるという効果もあります。
利用者の巡回業務や安否確認を効率的に行いたい場合、センサーの利用を検討しましょう。
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シフト自動作成
介護施設のシフト作成の負担を軽減したい場合、シフト自動作成ソフトを利用しましょう。シフト自動作成ソフトとは、介護施設で働く職員のシフト表を自動的に作成することができるソフトウェアです。
介護施設は24時間365日の間、介護職員が時間・曜日ごとに勤務を交代しながら働いているため、職員自身が確認できるようシフト表を作成しています。しかし、介護施設のシフト表は日勤・夜勤などの勤務形態や公休・希望休などの組み合わせを考えなければなりません。
また、労働基準法などの法令を順守し、介護職員処遇改善加算の算定要件や人員配置基準の要件を満たすようにシフト表を作成する必要があります。そのため、シフト表の作成は多くの時間や手間が発生し、ルールの見落としや入力ミスが発生するリスクが高いです。
シフト自動作成ソフトを利用すると、シフト作成の負担を少なくし、さまざまな基準や法令などを順守したシフト表を作成できます。シフト表作成の負担を軽減したい場合、シフト自動作成ソフトの活用は効果的と言えるでしょう。
・介護シフト管理 作成ソフト・アプリ10選!料金やメリットを紹介
シフト作成にかかる負担を減らしたい場合、介護施設のシフト作成に特化したソフトやアプリの導入がおすすめです。勤務形態一覧表などを自動で作成するシフト管理ソフトなども。
介護DXのメリット・解決が期待できる課題
介護施設のDX化には様々な方法や効果があります。
介護DXの導入によって、どのようなメリットがあるのか、どのような課題の解決が期待できるかをご紹介します。
人手不足への対応
介護DXによって、介護業界全体の課題である人手不足を解決できると期待されています。介護業界では少子高齢化に伴う労働人口の低下などが原因で、深刻な人手不足や人材採用に悩まされている介護施設は数多くあります。
人手不足により、介護職員1人にかかる業務負担が増えるため、本来行うべき介護業務にゆとりを持って取り掛かることが難しくなります。さらに、心身の負担により体調を崩し、結果的に離職につながる恐れがあります。
しかし介護DXに取り組むことにより、介護職員の業務負担を軽減し、働きやすい職場づくりができるため、離職率低下や人手不足の解消につながります。また、働きやすい職場として知れ渡ることにより、優秀な人材を新しく採用できる可能性も高くなるでしょう。
そのため、介護DXの導入によって人手不足を解決できると期待されています。
職員の負担軽減
介護DXを導入すると、介護職員の業務負担を軽減できる点もメリットと言えるでしょう。介護施設の現場業務は人の手で行われることがほとんどなので、介護職員は心身ともに負担を感じています。
また、業務を全体的に見ると、手間がかかる業務や無駄と言える業務に時間を割いているケースもあります。それが原因でゆとりを持って利用者の介護が出来ていない場合もあります。
介護DXの一つである介護ロボットを活用すると、身体介助の動作をサポートできるため、介護職員の腰痛や膝痛など心身の負担軽減に役立つでしょう。
そして、介護DXは事務作業などの手間がかかりやすい業務や無駄な作業を、代わりにさまざまなツールが行うことができるため、職員の業務負担の軽減につながります。
そのため、介護職員の負担軽減は介護DXの大きなメリットの1つと言えます。
介護サービスの質向上
デジタル技術やIT技術を応用した介護DXにより、質の高い介護サービスの提供につながる点も大きなメリットです。介護施設のDX化がもたらす最大の効果は、業務効率化・職員の業務負担の軽減です。
介護施設の業務を効率的に行い、職員の業務負担を軽減すると、職員のスキルアップや質の高い介護サービスを提供する時間に充てることができます。
一例として、介護ソフトの導入により、利用者の状態や介護方法などを職員全員が周知できるため、サービスの質の底上げや均一化につながります。そのため、介護DXは介護サービスの質の向上に役立ち、大きなメリットと言えるでしょう。
ペーパーレス化などによる費用削減
ペーパーレス化によるコスト削減も介護DXがもたらすメリットです。介護施設で使われるさまざまな介護記録やケアプランなどの帳票類は、紙ベースで利用することを基本とし、ファイルに挟んで保管しています。
紙ベースでの記録は手書きになるため、記入に多くの時間と手間が発生し、場合によっては同じ内容を転記するという無駄な作業が伴われます。そして、記録や帳票類は法律によって保管期間が決まっているため、紙ベースの記録や帳票類を保管するためのスペースやファイル・印刷代などのコストが発生します。
しかし、介護ソフトの活用により、タブレット端末・パソコンから簡単に入力し、いつでも閲覧が可能となるため職員間で共有しやすくなります。さらに、入力した記録物・帳票類はデータとして保管できるため、保管や印刷にかかるコストを削減できます。
そのため、介護DXによるペーパーレス化によるコスト削減も大きなメリットと言えるでしょう。
LIFE(科学的介護情報システム)へ対応しやすくなる
LIFE(科学的介護情報システム)へ対応しやすくなる点も介護DXのメリットです。
2021年の介護保険報酬改定から、介護施設や事業所がLIFEへさまざまな介護データを提供すると「科学的介護推進体制加算」が算定できるようになりました。しかし、LIFEへ提供するデータを入力する手間が発生し、担当する職員の業務負担が増えています。
LIFE対応の介護ソフトなどを利用することで、LIFEへ提供するデータの入力やデジタルデータへの変換などの手間を少なくできます。さらに、今後LIFEがより実用的なツールとして活用できるようになった場合、より良い介護方法などのフィードバックを受けることも可能となるでしょう。
そのため、介護DXによりLIFEへ対応しやすくなる点は、売り上げの面やLIFEの効果においてメリットと言えるでしょう。
介護DXのデメリット・課題
このように、介護DXには様々なメリットや解決が期待できる課題があります。しかし、介護DXの導入にはデメリットや課題もあります。以下に解説します。
DX化にはコストがかかる
介護現場のDX化にはコストがかかる点はデメリットと言えるでしょう。DX化に必要なツールやサービスを導入する際、ある程度のイニシャルコストがかかります。
また、利用するツールやサービスによって、月額利用料やメンテナンス費用などのランニングコストが発生する場合もあります。
例えば介護ソフトの場合、ソフトウェアの料金とあわせて、パソコンやタブレット端末などの周辺機器の購入が必要です。そのため、厚生労働省や各自治体等で行われている補助金の活用・導入するツールの費用対効果を基に、少しずつDX化に取り組むことをおすすめします。
DX導入を進められる人材がいない
介護現場にDXを導入する場合、推進できる人材が不足していることも課題と言えます。介護業界にはITやデジタル技術に知見がある人材が不足しており、新しいシステムやツールを取り入れたとしても、使いこなせない場合があります。
また、DXを推進するため新たに人材を採用しようとしても、見つかる可能性が低く、採用にかかる時間とコストだけがかかる結果になりかねません。そのため、既存する職員から担当者を選び、DXやITに関する知見を深め、DXを推進できる人材を育てましょう。
さらに、今後の人材採用の基準にIT機器を使いこなせる能力を含めることで、現場で活用されているツールにすぐに馴染むことができるでしょう。
職員が慣れるまで教育に時間が必要
職員が新しいツールの使い方や運用方法に慣れるまで教育が必要である点も介護DXのデメリットです。特にベテランの介護職員になると、これまで慣れ親しんできた方法から変更し、新しいツールを使いこなすまでに時間や手間がかかります。
そのため、慣れない間はストレスを感じ、仕事へのモチベーション低下につながることもあります。そのため、介護DXの必要性や効果について全職員に理解してもらった上で、職員が現場の中で使いやすいツールを選定する必要があります。
さらに、新しいツールの使い方に関する研修を行い、定着できるようにする工夫も必要です。
職員の苦手意識などにより抵抗される
職員の苦手意識によってDX化が抵抗される可能性も考えられるでしょう。介護施設で働く職員の中には、ITツールやデジタル機器への苦手意識から抵抗感を持つ職員や、従来の業務内容に慣れており、DX導入の必要性を感じていない職員もいます。
そのため、「使いこなせない」「慣れるまでに時間や手間がかかる」という意見によって反発が起こり、DX化が進まない原因につながる可能性があります。しかし、介護DXによる業務効率化・負担軽減を進めるには施設で働く職員の協力が必要です。
導入前には必ず職員からの理解を得られるように、介護DXを導入する目的や得られる効果、運用方法について説明が必要です。また、導入後も職員の声を聞きつつ、安心して導入したツールを活用できるようにしっかりサポートできる体制をつくりましょう。
費用対効果が分かりにくい
介護DXを導入し、運用が軌道に乗ると高い効果を得ることができます。しかし、介護DXは費用対効果を把握しづらいデメリットも抱えています。
DX化により新しいツールを導入しても、運用が軌道に乗るまでに時間がかかり、すぐに効果を実感できません。
また、介護の質の向上や利用者の満足度の向上・職員が働きやすくなったという評価は数字で表すことが難しいです。そのため、費用対効果をどの程度得られているのか把握しづらい側面もあります。
導入時に効果が出るまで時間がかかり、費用対効果は数字で表しづらいことを全員が理解した上で、長いスパンをかけて取り組むようにしましょう。
ある程度の費用対効果をイメージしておきたい場合、介護DXを導入した介護施設の事例や各種DX・IT関連ツールなどの実用例に目を通すこともおすすめです。
まとめ
今回は介護DXとはどのような物なのか、メリット・デメリットもあわせて解説しました。介護DXは介護現場におけるさまざまな課題に対して、IT技術やデジタル技術を取り入れることで課題を解決するための方法です。
介護DXを導入することにより、職員の業務負担の軽減や業務の効率化を図ることができるため、働きやすい職場づくりにつながります。さらに、業務効率化によって職員のスキルアップや手厚い介護サービスを提供する時間を確保できるため、施設全体の評価やサービスの質の向上に役立ちます。
DX化を進める場合、必ず職員の理解を得ること・職員が一丸となり取り組むことを前提に、現場の課題を解決できるように進めましょう。
当サイト内には他にも介護業界におけるDXやICTについて、以下の関連記事を掲載しています。
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この記事の執筆者 | Kawashow 所有資格:介護福祉士 介護支援専門員 福祉用具専門相談員 福祉住環境コーディネーター2級 介護職として介護付き有料老人ホーム・病院の現場で7年間勤務。 ケアマネ資格取得後、地域密着型特養のケアマネとして2年間勤務し、現在は居宅介護支援事業所のケアマネとして8年目を迎えます。 本業と並行し、介護・福祉系ライターとしても活動しています。 |
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