「介護DXってよくわからない」「具体的に何をすればよいのか」と悩まれている方が多くいらっしゃいます。介護DXとは、デジタル機器を活用することで介護業務全体の変革を行い、より質の高いサービス・価値を創り出すことです。
この記事では、介護DXの概要やメリット、課題について解説します。また、導入におけるポイントについても紹介します。介護DXがよくわからない、導入を任されたけれど何をすればよいかわからない、という方はぜひご一読ください。
介護DXとは
介護DXとは、デジタル機器を活用することで介護業務自体を変革し、質の高い介護サービスを提供することで、安心・安全という価値を創り出すことです。
介護DXの理解を深めるために、以下の点について解説します。
・そもそもDXとは何か?
・DXとICTの違いとは?
・介護DXの概要
まずは言葉の意味や定義を理解し、ひとつずつ取り組んでいきましょう。
DXとは
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略称です。総務省が発行している情報通信白書では、以下のように定義づけられています。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
この定義の中で重要なキーワードとは、
・劇的な変化
・変革
・価値を創出
という点です。
つまり、デジタル機器の導入自体が目的なのではなく、それらを利用することで変化に対応し新たな価値やサービスを生み出すことで、DXが達成されるとしています。
DXとICT・IoTの違いとは
DXを進めていくうえで、ICTやIoTといった言葉も出てきます。ICTやIoTの正式名称や意味は、下表のとおりです。
用語 | 正式名称 | 意味・定義 |
ICT | Information and Communication Technology (インフォメーション アンド コミュニケーション テクノロジー) |
・情報通信技術 ・AIによるチャットボットやオンライン会議ツールといったコミュニケーションツール |
IoT | Internet of Things (インターネット オブ シングス) |
・インターネットに接続されているモノ ・パソコン・タブレット・スマートフォンなど ・インターネットに接続可能なテレビやスマートスピーカーも指す |
出典:総務省 令和元年版 情報通信白書 第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
従来の情報化/ICT利活用では、あくまでその産業内の業務効率化や価値向上するもの、いわゆる便利な補助ツールとしてICTを導入する考え方でした。
一方、DXはその産業のビジネスモデル自体を変える取り組みを指しているのです。
介護DXとは
DXやICT、IoTの言葉の違いを踏まえ、介護DXとはどういう取り組みを指すのでしょうか。
介護DXとは、介護現場にICTやIoT機器を導入することで、介護業務自体の変革を行い、ご利用者の安心や安全という価値を創り出すことです。
先述したDXの定義における「劇的な変化」とは、高齢者の増加に比例した課題やニーズが劇的に増えてきたことを指します。
2025年問題や2040年問題に代表される高齢者の増加に対し、これまで行ってきた介護業務やサービス提供方法では対応しきれなくなっているのです。
つまり、ICTを利活用した介護業界自体の変革が求められているといえるでしょう。
介護業界におけるICTの動向や2040年問題については、以下の関連記事をご参照ください。
介護DXが求められている理由
高齢者の増加やニーズ・課題の多様化といったさまざまな変化に対応しなければならない介護業界。その中で、介護DXが求められている理由は以下の2つです。
1.職員の確保が急務である点
2.LIFEや生産性向上推進体制加算への対応が求められている点
それぞれの理由について解説します。
職員の確保
1つ目は、介護職員の確保が必要という点です。
2022年(令和3年)に厚生労働省が発表した介護保険事業計画では、2025年(令和7年)度では約32万人、さらに2040年(令和22年)度には約69万人の介護職員が不足すると推測されています。
出典:厚生労働省 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
介護DXを推進することで、入職する職員に対する働きやすさをアピールするだけでなく、現場職員の離職防止の効果も期待できます。
介護の仕事をやめた主な理由は、人間関係や理念・運営のあり方への不満がきっかけとなっています。
出典:厚生労働省 介護労働の現状 P.13
コミュニケーションツールや業務効率化のためのICT機器の導入により、人間関係を円滑にし業務負担を軽くできるのです。
介護DXの推進で、業務が必ずラクになるというわけではありません。しかし、人間関係が良くなり業務負担が軽減されることで、集中してご利用者へのケアなどの業務に取り組むことができ、結果としてそこにいる利用者の安心・安全へとつながります。
介護DXは、職員が働きやすい環境=離職させない環境をつくるのに役立つでしょう。
制度への対応
2つ目は、LIFE(科学的介護推進体制加算)や生産性向上推進体制加算への対応が求められている点です。
LIFEとは、ご利用者のADLや栄養・口腔状態などのデータを提出することで得られる加算です。ご利用者の各種情報を収集・データ化し、サービスの質を向上させることを目的としています。
生産性向上推進体制加算とは、介護ロボットやICT機器を活用し、取組や成果を示すデータを提出することで得られる加算です。2024年(令和6年)度の介護報酬改定にて新設されました。
生産性向上推進体制加算で対象となる主な機器とは、以下の通りです。
・センサーマットや赤外線センサー
・インカムなどの迅速な連絡ができる機器
・ソフトやスマートフォンを使用した介護記録システム
これらの機器を導入だけするのではなく、ご利用者のQOL変化や職員の残業や心理的負担が軽減されたかのデータ提出が必要です。つまり、こうしたデータ活用や機器運用に関する加算ができたことは、国をあげて介護DXを推進している動きが加速しているといえます。
LIFEや生産性向上推進体制加算について詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご参照ください。
介護施設DX化のメリット
介護施設のDX化は、大きく分けて3つのメリットがあります。
1.業務を効率化できる
2.人手不足を解消できる
3.介護サービスの質を向上させる
それぞれのメリットについて解説します。
業務効率化
1つ目のメリットは、業務効率化ができる点です。さまざまなICT機器を導入・活用することで、以下のような効果が期待できます。
機器 | 効果 |
コミュニケーションツール | ・情報を共有しやすい ・移動負担の軽減 |
介護記録ソフト | ・書類作成の効率化 ・書類作成時間の軽減 ・管理の簡素化 |
見守りセンサー | ・巡視回数の軽減 ・急変時の発見しやすさ |
介護職員は、日々の業務でさまざまな負担を抱えています。減らせる負担を見極め、電子機器が職員の負担を補うことで、人の手が必要なケアを重点的に行える環境を作ることができるのです。
人手不足の解消
2つ目は、人手不足を解消できるという点です。介護ロボットや見守りセンサーの導入・活用することで、見守り回数や精神的負担を減らす効果が期待できます。
見守りシステムによる業務効率化は、介護職員が余裕をもって業務に取り組むことができるのです。また、経営者側としても、見守り業務を行うための人員を必要以上に配置する必要性がなくなるため、人件費削減につながります。
介護DXの推進により、人手不足を改善する効果が期待できるでしょう。
介護サービスの質向上
3つ目は、介護サービスの質が向上する点です。特に問題なのは、中堅やベテラン職員が日々の介護業務に忙殺され、精神的負担が増えてしまう点です。
中堅・ベテラン職員は、直接的な介護ケアだけでなく、チーム内のバランス調整やケア自体の見直しなど頭脳労働も必要です。
しかし、人手不足により、本来誰でも行える業務を中堅・ベテラン職員が担ってしまうと頭脳労働に割く時間が少なくなってしまいます。結果として、サービスの質が向上せず、最悪低下してしまうことも。
介護DX化により、デスクワークや事務作業を効率的に行うことで、職員がご利用者とかかわる時間を増やせます。つまり、ご利用者へのサービスの質向上・満足度をあげる効果が見込めるのです。
介護施設におけるDXの課題
人手不足の解消や業務の効率化により、事業所全体のサービスの質向上が期待される介護DX。しかし、介護施設におけるDXには、以下のような課題があります。
・DX化を進められる人材がいない
・費用・教育コストがある
・費用対効果がわかりづらい
・経営層が保守的で進まない
これらの課題について解説します。
DX化を進められる人材がいない
1つ目は、DX化を進められる人材がなかなか見つからない点です。介護職員自体が不足している中で、介護記録システムやロボット・センサーの知見がある職員はさらに少ないのが現状です。
先述した通り、介護DXは機器の導入だけでは達成されません。導入後の活用方法や管理、他機器との連携といった知識のある人材が見つからず、導入自体ためらうこともあります。
費用・教育コストが発生する
2つ目は、費用・教育コストが発生する点です。さまざまな機器を導入するコストや、それらを運用・管理していくコストがかかります。
さらに、導入・運用しようとしても、実際に使用するのは現場職員です。ただでさえ忙しい現場職員に対し、新しい機器の導入や使用方法を学ぶ時間を確保する必要があります。
費用対効果が把握しにくい
3つ目は、費用対効果が把握しにくいという点です。新しい機器導入や慣れない操作で、すぐにご利用者や職員の満足度につながるとは限りません。
現場としては、「今までのやり方のほうがよかった」「こんな機械操作、覚える方が大変で意味がない」などといったネガティブな意見が多くでてきます。
また、導入・管理する側としても、実際の収益や満足度がどの程度反映されたのかわかりづらいことが課題です。
経営層が保守的
4つ目は、経営層が保守的でなかなか話が進まないという点です。実際、介護業界におけるDX化は、他の産業・業界と比べまだ遅れているのが現状です。
出典:総務省 デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負 報告書
まだまだ介護業界における実例が少ない中で、新しい取り組みを避けることもあります。
まずは、経営層の方々にも介護現場の現状や介護DX化のメリットを伝え、少しずつ段階を踏んで取り組むことを理解してもらわなければなりません。
介護DX導入に成功するためのポイント
介護DXは、今後の介護業界において重要な取り組みである一方、あらゆるコストを考えるとなかなか失敗できません。
介護DX導入・運用を成功させるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
1.介護施設の課題を明確にする
2.予算を確保する
3.ITリテラシーのある人材を確保する
4.介護DXの目的を職員にも共有する
5.導入のための研修をしっかり行う
6.経営層もDX化にコミットする
それぞれのポイントについて解説します。
介護施設の課題を明確にする
まずは、介護施設全体の課題や問題点を明確にしましょう。ICT機器やソフト導入を行う前に、課題や問題点を抽出する必要があります。
・その課題はツールを使って課題解決可能か?
・他の課題との優先順位は?
・どれほどの期間を有するか?
・課題が解決すると、どういう目的が達成されるか?
とにかく最新機種を導入すればよい、というわけではありません。現場の課題やニーズ、緊急性を確認し、状況にあったツールを選びましょう。
また、介護DX化の目標を短期的・長期的にわけておくことも重要です。小さな目標を1つずつ達成することで、「介護DX化、なんとかできそう」と現場職員に思ってもらえます。
予算を確保する
施設での課題や現場のニーズを抽出し優先順位をつけた後、予算の計画・確保を行います。介護DXでは、以下の費用が発生します。
・機器の購入代金
・システム導入費
・システム管理・維持費
・点検・保守などの利用料
課題やニーズの解決できるシステムを選んだら、導入・運用のコストを確認しておきましょう。それぞれ導入時、月額・年額いくらかかるのかを調べるうえで、専門家のアドバイスを受けたり、補助金を活用したりすることが有効です。
インカムの導入における補助金活用については、以下の関連記事をご参照ください。
ITリテラシーのある人材を確保する
介護DXを導入・運用するにあたり、ITリテラシーのある人材を確保しておきましょう。ただし、1人で介護DXのすべてを任せるのではなく、システムや機器ごとに別々で担当者をつけておく必要があります。
介護DXの推進を行ううえで、課題やニーズは1つだけではなく、さまざまなソフトやシステムと連携して進んでいきます。
その場合、ITリテラシーのある職員の役割は、介護DX全体の見通しや連携状況を俯瞰して確認・調整することが重要です。
介護DXの目的を職員にも共有する(自分ごと化)
介護DXを進めていくためには、現場職員への目的の共有は不可欠です。実際使用する現場職員が現状困っていることや意見を抽出し、改善する手順や順番を伝えておきましょう。
何を、いつまでに、どういった方法で改善していくのかがわかると、職員もDX推進の必要を感じ協力しやすくなります。
また、導入・運用にあたっても、「このシステムを導入すると、記録時間が〇時間削減できる」といった具体的な数字を提示し説明することが必要です。
導入のための研修をしっかり行う
介護DXの導入前・導入後には必ず研修を行い、使用方法やルールを学ぶ機会を作りましょう。ここで重要なのは、OJTとOFF-JTの使い分けです。
・OJT(On the Job Training):現場で業務をしながら学ぶ
・OFF-JT(OFF the Job Training):座学で知識を学ぶ
導入前の研修は、OFF-JTで職員全体へ目的や使用方法、ルールを共有します。
一方、導入後現場で使用方法がわからないことがある場合は、DX担当や上司からのOJTで対応し、現場職員がすぐに解決できるよう対応します。
システムやソフト導入・運用におけるマニュアルを整備するとともに、それをどのようにして伝えると効果的なのかを考えておく必要があります。
経営層もDX化にコミットする
介護DX化における実際の運用は現場職員ですが、経営層もDX化に取り組む(コミットする)ことも重要です。
経営層も状況を把握できるようにし、さらにはDX化の目的や必要性、方向性を示すことで、現場職員のDX化に対する重要性を再認識できます。
導入や運用における予算面や、実際どのような効果があり売り上げに貢献できたのかについて、経営層の視点で確認してもらうことで、より施設にあったDXを進めやすくなるでしょう。
まとめ
この記事では、介護DXの概要や推進する理由、メリット、課題、ポイントについて解説しました。介護DXでは、ICT機器やシステムなどを導入するだけでなく利活用することが求められています。
また、介護DXの一番の目的は、ご利用者やそのご家族、働く職員の安心・安全という価値を創り出すことです。今後、高齢者の増加・人手不足などから、介護業界のDX化はさらに進んでいくでしょう。
この記事をご覧いただき、ぜひ施設運営の一助になれば幸いです。
他にも介護業界におけるDXやICTについて、以下の関連記事を掲載しています。
ぜひ合わせてご覧ください。
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この記事の執筆者 | しょーそん 保有資格:介護福祉士 認知症実践者研修 修了 認知症管理者研修 修了 認知症実践リーダー研修 修了 グループホームに11年勤務し、リーダーや管理者を経験。 現場業務をしながら職員教育・請求業務、現場の記録システム管理などを行う。 現在は介護事務の仕事をしながら介護・福祉系ライターとしても活動中。 |