施設で働くみなさんは、日々の仕事の中で看取り介護の重要性、大変さについて感じていることでしょう。
終末期の利用者とその家族に寄り添うことは、心身ともに大変な仕事ですが、その分大きなやりがいも感じられます。
本記事では、看取り介護の定義からその流れ、そして具体的な支援のポイントについて詳しく解説していきます。
看取り介護において最も大切なことは何かを改めて考え、今後の支援に役立てていただければ幸いです。
目次
看取り介護とは
看取り介護とは、終末期の利用者に対して、その方らしい最期を迎えるための支援のことを指します。病気や老化が進み、もはや治療が難しい状況でのケアです。
看取り介護には、身体的なサポート、精神的な支え、家族へのサポートも含まれます。
看取り介護の定義
看取り介護の定義は、「終末期にある利用者が最期の時を迎えるまでの介護」を指します。
具体的には、老化や病状が進行し治療が難しい段階で、その人らしく安らかな最期を迎えるための支援です。胃ろうによる経管栄養や、加療目的の点滴、積極的な医療行為は看取り介護では原則は行いません。
医師の指示に従って痛みを和らげる方法をとり、静かに自分らしい最期を迎えることを支援します。
緩和ケアやターミナルケアとの違い
看取り介護、緩和ケア、ターミナルケア、この3つの言葉はよく聞きますが、実際にはどう違うのでしょうか?緩和ケア、ターミナルケアについて解説します。
緩和ケア
緩和ケアは、緩和ケア病棟と一般病棟が併設されている病院もあるように患者さんの肉体や精神への苦痛を緩和させつつ、治療や生活支援を進めていくものです。
緩和ケアは病気の治療をしながら延命治療を続けている方も受ける為、死の間際に行うとは限りません。
ターミナルケア
ターミナルケア(終末医療)と看取り介護の大きな違いは、医療行為をどの程度行うか?という点です。ターミナルケアは終末医療と言われるように、終末期における治療や看護を行います。
看取り介護の場合は、積極的な医療行為は行わず、痛みの緩和や不快感を取り除くなど、最低限の服薬や点滴、生活のケアが中心となります。
看取り介護で最も尊重すべき大切なこと
看取り介護を行う際に最も尊重すべきは「本人の意思」です。終末期を迎える利用者にとって、自分の意思が尊重されることは非常に大切です。
例えば、どのような医療やケアを受けたいか、どこで最期の時を迎えたいかといった希望は、利用者の尊厳を守るためにも最大限に考慮されるべきです。
スタッフは、日々のコミュニケーションを通じて利用者の気持ちや希望を理解し、その意向に沿ったケアを提供することが求められます。
看取り介護の5つのポイント
看取り介護を行う上で重要な5つのポイントは、
1.身体的ケア
2.精神的ケア
3.家族へのサポート
4.居室環境
5.ニーズの尊重
です。
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.身体的ケア
まず、痛みの管理が基本です。適切な医療を受けるとともに、痛みを和らげるための処置や薬の調整が必要です。医療職のスタッフとの連携が欠かせません。
さらに、清潔を保つための介助や、体位の変換が含まれます。また、食事や水分の摂取も重要です。
食欲や飲水量に変化があれば、それに応じた支援を行い、栄養状態を維持するよう努め、スタッフ間で、これらのデータ管理、記録の共有をしましょう。
身体的なケアを通じて、利用者がより穏やかな最期を迎えられるようサポートすることが、看取り介護の重要な役割です。ちょっとした仕草や表情から苦痛や要望を汲み取り、声かけやスキンシップを図りましょう。
2.精神的ケア
精神的な看取りケアは、終末期の利用者が心穏やかに過ごせるようにするための大切な要素です。利用者の不安や恐怖を軽減するため、安心感を与えることが求められます。
日常的な対話や、穏やかな声かけを通じて、孤独感を和らげ、精神的な安定をサポートします。また、利用者がこれまでの人生で大切にしてきた価値観や希望を尊重することも重要です。
この時期に、「お酒が飲みたい。」「アイスクリームが食べたい。」「タバコを1本吸いたい。」と希望する利用者も居ます。
深刻な禁忌のケースを除いて、医師や看護師と連携を取り、相談しながらご本人の要望を尊重できるか考えてもよいかもしれません。
終末期の利用者にとって、スタッフの温かい対応や理解は大きな心の支えになります。利用者が最期の時を穏やかに迎えられるよう、心のケアも大切にしたいものです。
3.家族へのサポート
家族のケア・サポートは、看取り介護において欠かせない重要な要素です。
終末期にある利用者の家族もまた、大きなストレスや不安を抱えていることが多いです。そのため、家族への支援を充実させることが、全体的なケアの質を高めるポイントとなります。
まず、家族に対しては、病状やケアの進行状況について正確で分かりやすい情報を提供することが大切です。さらに、面会や最後の時間をできるだけ快適に過ごせるように配慮し、家族の気持ちに寄り添うことが、看取り介護を支える大切な要素です。
4.居室環境
看取り介護は居室環境の整備も大切です。利用者や家族が最期の時を穏やかに過ごせるように、間接照明で落ち着いた空間を作ることや、家族がくつろげるソファーの設置が有効です。
家族が同じ部屋で仮眠する事が出来るように簡易ベッドを用意することも良いでしょう。ご自宅で長い間、布団で就寝されていた利用者には、ベッドではなく布団を使用していただくことも良いかもしれません。
筆者自身の施設の勤務経験で「最後に布団で眠れることが幸せだ。」とおっしゃった利用者も多くおられました。
室内の間仕切りに、障子や襖を使用することも自宅のような温かい雰囲気を演出することに役立ちます。介護用品を見えなくする配慮も必要です。
思い出のアルバム、本人が大切にしていたものを身近に置くことも、心の安定に寄与します。音楽を流すこともよいでしょう。好きな音楽を小さなボリュームで流すことで、よりリラックスした雰囲気を提供できます。
5.ニーズの尊重(ペットとの触れ合い)
看取り介護の、精神的なサポートにおいては、利用者の希望や個々のニーズに応じた柔軟な対応が求められます。ある施設では長年一緒に暮らした愛犬に看取り介護を支えるメンバーに入ってもらいました。
利用者と愛犬は長い間、1人と1匹で在宅で暮らしていました。利用者にとっては愛犬はたった1人の家族です。
最後に愛犬と会えたことは、その利用者に大きな安心感と喜びを与えました。
このようなケアの工夫が、利用者の最期の時間をより穏やかにする助けとなります。もちろん、施設内の他の利用者へのアレルギーの配慮や衛生面など、乗り越えなくてはならない課題は多くあります。
しかし、心のケアとして、こうしたサポート方法を取り入れることが、看取り介護の質を高めます。日頃から利用者の生活歴や宗教や花、音楽など大切にしているものを把握しておくことが大切です。
看取り介護の流れ
それでは次は、看取り介護の流れについてみていきましょう。
看取り介護の流れとは、終末期にある利用者が穏やかに過ごせるようにするための段階的なプロセスです。確認していきましょう。
適応期
適応期は、終末期のケアの最初の段階であり、利用者の病状が進行している中で、どのようにケアを進めるかを考える重要な時期です。
この段階では、病状の変化に対応するために、利用者の現在の状態や必要なケアを詳しく把握することが求められます。
医療チームやケアスタッフは、症状の管理とともに、利用者の希望や優先事項を確認し、カンファレンスにて「看取りケア計画作成」を立て、「看取りの同意書」を家族から得ます。
利用者や家族とコミュニケーションを取りながら、適切なサポートを整えることが重要です。さらに、快適な環境を整えるために、必要な設備や支援体制を整える準備も進めます。
施設・職員間で「看取りケア計画作成」を周知することが大切です。適応期は、利用者の最期に向けた準備を始める大切な時期であり、ここでの対応がその後のケアの質を大きく左右します。
スタッフとしては、心温まるサポートと情報提供を通じて、利用者と家族に安心感を与えることが大切です。
安定期
安定期は、終末期ケアの中で病状が一時的に落ち着く時期です。この段階では、これまでの治療やケアの結果を見ながら、今後の対応を見極めることが重要です。
利用者の状態が安定している間に、どのようなケアが最も適切かを見定め、必要なサポートを整えることが求められます。
この時期には、利用者や家族と十分にコミュニケーションを取りながら、ケアプランを具体化します。身体的なケアはもちろんですが、精神的な支えも重要です。
利用者の希望や優先事項を反映させることで、今後のケアがより充実したものになります。
また、安定期は家族にとっても大切な時期です。
ケアの方針や今後の見通しについてしっかりと説明し、家族が安心して過ごせるようサポートすることも大切です。この段階での準備と対応が、後の不安定期に向けた大きな土台となります。
不安定期
不安定期は、終末期における利用者の状態が変化しやすい時期です。この段階では、病状が急激に変化することが多く、適切な対応が必要です。症状の管理やケアプランの調整が重要になります。
この時期のケアでは、利用者の状態を細かく観察し、必要に応じてケア内容や医療処置を柔軟に見直すことが求められます。痛みや不快感の軽減に加え、利用者の精神的な安定を保つための支援も大切です。スタッフとしては、迅速で的確な対応が必要です。
また、家族へのサポートも重要です。不安定期には、家族も多くのストレスを感じることがあります。定期的な情報提供や、感情面での支援を通じて、家族が安心できるようにサポートを行います。
この時期をうまく乗り越えることで、利用者の最期の時間をより穏やかに迎えるための準備が整います。
終末期
終末期は、利用者が最期の時を迎える準備を進める重要な段階です。この時期には、病状が進行し、ケアの焦点が快適な最期を迎えるためのサポートに移ります。
身体的なケアでは、痛みや不快感の緩和が最優先となり、利用者が可能な限り安らかに過ごせるよう努めます。また、精神的なサポートも欠かせません。
利用者の不安を和らげるために、穏やかな対話や、好きなことを一緒に楽しむ時間を提供することが大切です。最期の時を尊厳を持って迎えられるよう、心温まるケアが求められます。
家族へのサポートも重要です。終末期には、家族も深い感情的な負担を抱えることが多いため、情報提供や感情面での支援をしっかりと行い、家族が安心して最期を迎えられるよう支援します。
終末期のケアは、利用者とその家族が穏やかに最期の時を迎えるための大切な時間です。
看取り期
看取り期は、利用者が最期の時を迎える大切な段階です。この時期には、身体的なケアだけでなく、心のケアも特に重要です。
利用者ができるだけ穏やかに最期を迎えられるよう、痛みや不快感の緩和に努めることが基本です。快適な環境作りや、必要に応じた医療的なサポートも行います。
また、心のケアも重要です。利用者と穏やかな時間を過ごし、最後の瞬間まで尊厳を持って対応することが求められます。家族も深い感情的な負担を抱えるため、情緒的な支えや情報の提供を通じて安心感を与えることが大切です。
看取り期のケアでは、利用者と家族の気持ちに寄り添いながら、心温まる対応を心がけることが、穏やかで尊厳のある最期を迎えるための鍵となります。
この時期のサポートが、全体の看取り介護の質を高める要素となります。
看取り介護で気を付けるべきこと
看取り介護において利用者が穏やかに最期を迎えられるよう、いくつかの重要なポイントをまとめました。
確認していきましょう。
・身体的ケア:痛みのコントロール・清潔の保持
・定期的な状態の確認・情報共有・記録・迅速な対応
・医師・看護師、各専門職との連携
・精神的なサポート:安心感を与えること
・家族のサポート:安心して見送れるように配慮すること
・利用者の尊厳を保ちニーズを尊重すること
・居室環境を整えること
以上のポイントが、全体のケアの質を高める要となります。
まとめ
看取り介護では、利用者の尊厳を保ちながら、身体的・精神的なケアを総括的に行うことが重要です。適応期から看取り期まで、各段階での適切な対応が、利用者と家族にとって安心できる最期を作り上げます。
環境や家族の事情で自宅で看取ることが出来なくても、住み慣れた自宅のように施設の環境を整備し、スタッフや家族で力を合わせ、その方らしい形で看取り介護を行うことは可能です。
利用者の希望を尊重し、柔軟に対応することで、心地よい最期を迎えられるよう支援することが求められます。
この記事の執筆者 | みずほ 保有資格:社会福祉士 介護支援専門員 介護福祉士 特別養護養護老人ホームに介護福祉士、相談員として10年、社会福祉協議会にて介護保険認定調査員として5年勤務、介護業界で仕事をしてきました。 現在は介護・福祉系ライターとしても活動中。 |
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