自立支援促進加算は、利用者の自立支援や重度化を防ぐための取り組みを行った介護施設を評価するために創設されました。
医師の医学的評価を基に、他職種が連携して支援計画の策定・実行・見直しを行うと同時に、LIFEへのデータ提出やフィードバックの活用によって算定することができます。
自立支援促進加算について、以下のポイントについて分かりやすく解説します。
・自立支援促進加算とは
・自立支援促進加算の対象サービス
・自立支援促進加算の算定要件と単位数
・自立支援促進加算算定の流れ
・自立支援促進加算の注意点
これから自立支援促進加算の算定を検討している介護施設の算定業務担当者や管理者の方は最後までご覧いただき、参考にしてみてください。
目次
自立支援促進加算とは
自立支援促進加算とは、介護施設に入所する利用者への自立支援や重度化防止の取り組みを評価するために創設された加算です。以下の目的によって、令和3年度介護報酬改定から導入されました。
・尊厳の自由
・自立支援
・重度化防止の推進
・廃用や寝たきりの防止
医師の医学的評価をもとに、医療・介護などの多職種が連携して支援計画を策定し、自立支援・重度化防止に向けた特別な取り組みを行います。
自立支援促進加算は全ての利用者が対象となるため、算定できれば経営面では大きなメリットです。しかし、定期的な医師の医学的評価・支援計画の見直しや、LIFEへデータ提出を行う必要があり、加算を算定するにはハードルが高いと思われる可能性があります。
とはいえ、自立支援や重度化予防の取り組みから、利用者の生活の質の向上や介護施設の利益につながるため、重要な加算の一つと言えるでしょう。
自立支援促進加算の背景と目的
自立支援促進加算は、主に自立支援・重度化を防止する目的で創設されました。創設された背景の一つには、自立支援・重度化防止の理念と介護報酬の仕組みの間にある、以下のような矛盾が関係しています。
介護保険法では高齢者の自立支援・重度化防止が基本理念として定められています。しかし、介護保険における報酬制度は介護度の高さに比例して報酬単価が高くなる一方、自立支援・重度化防止に対して評価を行う仕組みがありませんでした。
このような矛盾により、令和3年度介護報酬改定における介護給付費分科会内で自立支援・重度化防止の取り組みに対する評価の必要性に関する意見があがりました。
その後、議論を重ね、令和3年度介護報酬改定の際に自立支援促進加算が新たに導入されたことにより、自立支援・重度化防止が注目されるようになりました。
自立支援促進加算の対象サービス
自立支援促進加算が対象となる介護サービスは、以下の介護施設です。
・介護老人福祉施設
・地域密着型介護老人福祉施設
・介護老人保健施設
・介護医療院
在宅サービスや介護付き有料老人ホーム・グループホームなど、他の施設サービスで自立支援・重度化防止の取り組みを行っても、加算の対象となりません。自身の職場が対象となっているか確認が必要です。
自立支援促進加算の算定要件
自立支援促進加算の算定要件は、以下の4つです。
・イ 医師が入所者ごとに、自立支援のために特に必要な医学的評価を入所時に行うとともに、少なくとも六月に 一回、医学的評価の見直しを行い、自立支援に係る支援計画等の策定等に参加していること。
・ロ イの医学的評価の結果、特に自立支援のための対応が必要であるとされた者毎に、医師、看護師、介護職員、 介護支援専門員、その他の職種の者が共同して、自立支援に係る支援計画を策定し、支援計画に従ったケアを 実施していること。
・ハ イの医学的評価に基づき、少なくとも三月に一回、入所者ごとに支援計画を見直していること。
・二 イの医学的評価の結果等を厚生労働省に提出し、当該情報その他自立支援促進の適切かつ有効な実施のため に必要な情報を活用していること。
引用:厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会「LIFE(自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進)」令和5年8月30日
自立支援促進加算は医師による医学的評価を基に、医療・介護の多職種が連携して支援計画を策定し、計画に沿ったケアを行います。
また、3ヶ月に1回は利用者ごとに医学的評価・支援計画を見直した上で自立支援・重度化防止の取り組みを行うという流れを繰り返します。
さらに、医学的評価・支援実績等のデータをLIFEへ提出しつつ、フィードバックを受けながらより効果的な取り組みを行うよう求められています。
既存の介護施設で算定する場合、多職種との連携方法や通常業務の内容変更が必要となるでしょう。
自立支援促進加算の単位数
自立支援促進加算の単位数は、令和6年度介護報酬改定によって以下のように変更されました。
変更前 | 変更後 | |
自立支援促進加算 | 300単位/月 | 280単位/月 (介護老人保健施設は300単位/月) |
参照:令和6年度介護報酬改定における改定事項について(P.103)
このように、令和6年度から単位数が減算となりましたが、全ての利用者が対象となるため、施設の経営面においては大きなメリットになります。
しかし、令和3年度から始まった本加算の算定率は、独立行政法人福祉医療機構が行ったアンケートによると、18.6%と低い水準であることが判明しています。
参照:独立行政法人福祉医療機構が行ったアンケート(P.20)
自立支援促進加算の算定率が低い主な理由は、以下のとおりです。
・かかるコストと手間が加算額に見合わない
・算定要件を満たすことが難しい
自立支援促進加算は報酬単位自体は高いですが、算定要件を満たす難易度やコストに対する費用対効果の問題によって、あえて算定しない介護施設もいると考えられます。
自立支援促進加算算定の流れ
自立支援促進加算の算定要件を満たすためには、計画・実行・評価・改善のPDCAサイクルを繰り返すことが重要です。
本章では、自立支援促進加算を算定するための基本的な流れをPDCAサイクルに沿って解説します。
①医師による医学的評価を行う
自立支援促進加算を算定する第1歩として、医師による医学的評価を行う必要があります。医師による医学的評価を基に、自立支援・重度化防止の支援計画策定につながるからです。
医師による医学的評価は厚生労働省から公表されている「別紙様式7(自立支援促進に関する評価・支援計画書)」内にある「現状の評価と支援計画実施による改善の可能性」というシートに沿って行います。
医学的評価の結果、自立支援・重度化防止の取り組みが必要と判断した場合、以下の4つの中から必要な取り組みを選択します。
・尊厳の保持に資する取り組み
・本人を尊重する個別ケア
・寝たきり防止に資する取り組み
・自立した生活を支える取り組み
医学的評価ができ次第、評価情報などを翌月10日までにLIFEへ提出する必要があるため、提出漏れがないよう注意しましょう。
②多職種が連携し支援計画を策定する
医師の医学的評価を基に、医療・介護などの多職種が連携して支援計画を策定します。
支援計画を策定することで、各専門職が具体的な支援内容と支援後のビジョンを共有し、計画的に支援内容を実行できるからです。
支援計画を策定する際、必ず医師・看護師・リハビリ職・介護職員・ケアマネジャー等の多職種が専門性を活かしつつ、連携して支援計画を策定しなければなりません。
実際に加算を算定している介護施設では、支援計画を策定する際、下記のような工夫に取り組んでいます。
・事前情報の収集に力を入れ、入所前に大まかな支援計画を策定する
・支援計画内の具体的な支援内容・目標を職員が視認できるようにする
・他職種でのアセスメントの強化
上記のように、支援計画を策定すると、各専門職が具体的な支援内容と支援後のビジョンを共有した状態で計画的に支援内容を実行に移すことが可能となります。
③3ヶ月に1回は医学的評価と支援計画を見直す
支援計画で定められた支援内容を実行し、3ヶ月に1回は医学的評価と支援計画を見直すことが必要です。
支援計画の策定後は少なくとも3ヶ月に1回は医学的評価・支援計画の見直しを行うことが算定要件に定められています。
また、見直しの際はLIFEからのフィードバックを活用することも求められており、支援計画の見直しや支援内容の改善に役立てることができるでしょう。
実際に加算を算定している介護施設では、見直しの際、以下のような工夫に取り組んでいます。
・入所後に利用者の状態にズレが生じた場合、早い段階で見直しをかけている
・算定根拠となるケアについて見直しを行っている
このようなPDCAサイクルを繰り返すことで、利用者の特性や個別性に沿った自立支援や重度化防止への取り組みができるようになります。
④LIFEを通じて厚生労働省へデータを提出する
医師の医学的評価や支援実績などのデータは必ずLIFEに提出しなければなりません。データ提出のタイミングは、以下の2つです。
・新規で医学的評価を行った時
・3ヶ月に1回医学的評価・支援内容を見直した時
主に医学的評価や支援実績の内容などをデータ入力し、翌月10日までに提出するよう算定要件で定められています。しかし、LIFEへのデータ入力業務の負担や、令和6年度からのデータ提出頻度の変更により、提出漏れなどのミスが発生する可能性があります。
実際に加算を算定している介護施設では、以下のような工夫に取り組んでいます。
・入力業務の負担軽減のために、日々の記録内容・書式変更などの業務効率化
・スタッフの意識改革や人員の補充
想定されるミスや業務負担を軽減し、確実にデータを提出できるようにしましょう。
自立支援促進加算 算定時に必要なLIFEへのデータ提出について
自立支援促進加算は、医師の医学的評価・支援計画に関するさまざまなデータを提出することが算定要件に定められています。
本章ではLIFEへのデータ提出の頻度と、どのようなデータを提出するべきか解説します。
提出頻度
LIFEへのデータ提出の頻度は、以下のとおりです。
・初回提出の場合:策定した月から翌月10日までに提出
・見直しの場合:3ヶ月に1回の頻度で提出
自立支援促進加算における支援計画を初めて策定した場合、策定した月から翌月10日までの提出が必要です。
また、3ヶ月に1回の医学的評価・支援計画の見直しの時期に合わせてデータの提出が必要となり、こちらも策定した月から翌月10日までの期限となっています。
そのため、データ提出のタイミングを間違えることや提出漏れ等のミスがないように注意しなければなりません。
提出情報の項目
提出するべきデータの項目は、「別紙様式7(自立支援促進に関する評価・支援計画書)」の内容に沿って提出します。
詳しい提出情報の項目は、以下のとおりです。
自立支援のために必要な医学的評価 | ・診断名 ・生活機能低下の原因となっている傷病また特定疾病の経過及び治療内容 ・日常生活自立度 ・基本動作 ・ADL ・機能回復・重度化防止の効果 ・尊厳の保持と自立支援のために必要な支援計画 ・医学的観点からの留意事項 |
支援計画 | ・離床・基本動作に関する支援計画 ・ADL動作についての支援計画 ・日々の過ごし方等についての支援計画 ・訓練の提供等についての計画 |
支援実績 | ・離床・基本動作 ・ADL動作 ・日々の過ごし方等 ・訓練時間 |
支援計画が施設サービス計画書(ケアプラン)等に記載されている場合、LIFEへのデータ提出は必要ありません。
上記の項目を入力し、LIFEに提出する必要があるため、入力ミスがないように注意しましょう。
自立支援促進加算の注意点
自立支援促進加算は利用者の自立支援・重度化防止を目的としており、いくつかの注意点があります。
例えば、離床や立ち上がり等の基本動作や食事・入浴・排泄等のADL、リハビリテーションなどの取り組みを行う際、以下のルールを遵守する必要があります。
基本動作 | 離床・座位保持又は立ち上がりを計画的に支援する |
食事 | ・居室外での食事の際は普通の椅子を用いる ・本人の希望を尊重し、これまでの暮らしを維持する ・食事の時間・嗜好等は画一的ではなく、個人の習慣や希望を尊重 |
排泄 | ・利用者ごとの排泄リズムを考慮し、プライバシーに配慮したトイレを使用する ・多床室ではポータブルトイレ使用を前提とした支援計画は策定しない |
入浴 | ・一般浴槽での入浴を行う (やむを得ない場合等は特殊浴槽での入浴が認められる場合がある) ・入浴回数・ケアの方法は利用者の習慣や希望を尊重する |
日々の過ごし方等 | 利用者・家族と相談し、できるだけ自宅での生活と同様の暮らしを続ける |
リハビリテーション | ・医学的評価に基づき実施する ・利用者・家族の希望を確認し、必要に応じて施設サービス計画書の見直しを行う |
また、医師の医学的評価を基に、利用者の特性に配慮し、画一的な支援計画にならないように支援計画を策定することも必要です。
さらに、自立支援促進加算は自立支援・重度化防止のための特別な取り組みを評価するための加算となっているため、個別のリハビリテーションを実施することのみでは加算の対象になりません。
上記のルールに注意し、加算を確実に算定できるよう自立支援・重度化防止に向けて取り組みましょう。
まとめ
自立支援促進加算について解説しました。自立支援促進加算は介護施設に入所する利用者への自立支援や重度化防止の取り組みを評価するための加算です。
本加算を算定することにより、介護現場において利用者の自立支援や重度化防止を促す効果や施設の経営が潤う、という効果が期待できます。
しかし、算定要件には医師を含めた医療・介護等の多職種が連携し支援計画の作成や定期的な見直し、LIFEへのデータ提出などが必要となるため、時間や手間などのコストがかかります。
また、算定要件を満たすために、業務内容の変更が必要となる可能性があるため、自施設において自立支援促進加算を算定すべきか、各職種としっかり意見交換しながら検討しましょう。
この記事の執筆者 | Kawashow 所有資格:介護福祉士 介護支援専門員 福祉用具専門相談員 福祉住環境コーディネーター2級 介護職として介護付き有料老人ホーム・病院の現場で7年間勤務。 ケアマネ資格取得後、地域密着型特養のケアマネとして2年間勤務し、現在は居宅介護支援事業所のケアマネとして8年目を迎えます。 本業と並行し、介護・福祉系ライターとしても活動しています。 |
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