これから介護職として働きたいと考えている人の中には「特別養護老人ホーム(以下特養)で働きたいけれど、仕事が思ったよりもきつかったら続けられるか不安で…」という方もいるかもしれません。
この記事では、特養での勤務経験がある筆者が、特養の仕事がきついと言われている理由や、仕事内容について解説します。その上で、特養で働くことで得られるメリットなどについて、勤務経験談も交えながらお伝えします。
これから特養の介護職として働くことをお考えの方は、参考にしてください。
特別養護老人ホーム(特養)とは
特養とは、介護保険制度の「老人福祉施設」に位置づけられている施設です。基本的には要介護の認定を受けた人の終身入所を前提としている施設です。
対象は原則要介護3以上とされており、要介護1,2の人は原則入所できません。しかし「知的障害や精神障害を伴っている」「家族からの虐待がある」「単身世帯である」といった場合など、条件に当てはまる場合には例外的に入所できることもあります。
特養への入所は、申し込み順ではありません。要介護度や家庭の状況といったご本人を取り巻く状況を総合的に判断し、緊急性を点数化、点数の高い順に入所が決定するといった仕組みになっています。
参照:特別養護老人ホームの「特例入所」に係る国の指針(骨子案)について
ユニット型特養と従来型特養の違い
特養には「ユニット型特養」と「従来型特養」の2つがあります。特養で働くことを考えた場合、ユニット型なのか、従来型なのかは重要なポイントです。
以下で詳しく説明します。
ユニット型の特徴
ユニット型の特徴は、2つあります。
1つ目の特徴は、「全室個室」であることです。後述しますが、従来型の場合、2人から4人部屋であることが多いです。しかし、ユニット型は入所者のプライバシー保護の為、全室個室となっていることが特徴です。
2つ目の特徴は、「少人数で家庭的なケア」を行うことです。ユニット型特養は1ユニットおおむね10人以下とし、共同生活室(リビングスペース)に近接して一体的に設置しています。そのため、少人数の介護職員できめ細やかなケアを行うことができます。
近年では従来型からユニット型に移行している介護施設もありますが、「地域密着型特養」といって、最初からユニット型になっている介護施設もあります。
地域密着型特養は入所者が29人以下と小規模です。従来型に比べて入所者の人数が少ないので、全員の様子・状態を把握しやすくなり、臨機応変に対応しやすいのが特徴です。
参照:全国介護保険担当課長会議資料 新型特別養護老人ホーム(全室個室・ユニット化)
従来型の特養
従来型特養の特徴は「多床室」であることです。1部屋に2人から4人いて、カーテンやパーテーションで仕切られています。そのため、従来型はユニット型に比べて多く入所することができます。
多床室の場合には、入所者の個別ケアが難しいというデメリットがあります。しかし、様々な症例を学ぶことができたり、夜勤は複数人で行う施設が多いため、緊急時に協力しやすかったりするというメリットがあります。
参照:厚生労働省 老人福祉施設
特養の仕事がきついと言われる理由
ユニット型と従来型の特徴についてお伝えしました。どちらの特養で働く場合も、仕事はきついと言われています。その理由として、主に下記5つをあげることができます。
・要介護度の高い入所者が多く、介護職の負担が大きい
・看取りの精神的負担がきつい
・多職種との連携が大変
・入所者との意思疎通が難しい
・夜勤があり生活リズムが崩れる
詳しく解説します。
要介護度の高い入所者が多く、介護職の負担が大きい
特養の仕事がきつい、と言われる理由の1つ目は「要介護度の高い入所者が多く、介護職の負担が大きい」ことです。
特養に入所する条件の1つとして「要介護3以上」があります。要介護3になると、生活の大部分で介助が必要になるので、介護職の負担は他施設と比較してが大きいといえるでしょう。
介護職が負担に感じる具体的な場面の例を挙げると、下記のようなことがあります。
・食事は半介助もしくは全介助で行わなければならない。
・嚥下機能も低下しているので、むせたり喉に詰まらせたりしないよう、注意しながら介助しなければならないので、時間がかかる。
・排泄ケアはほとんどがオムツ交換。40分で8人交換しなければならないなど、限られた時間内で効率的に行わなければならない。
・便失禁などがあると、対応時間が伸びて業務に支障が出ることもある。
看取りの精神的負担がきつい
2つ目の理由としては、「看取りの精神的負担がきつい」ことがあげられます。特養の入所時「施設での看取りを希望したい」という入所者やご家族がいらっしゃいます。その場合、施設内において介護職が看取りを行う可能性があります。
新人職員や経験の浅い職員の中には「看取りは精神的にきつい」と感じることが多いです。理由として「人の死に慣れていない」ことがあげられます。また、「自分が対応しているときに亡くなったら、どうしよう」という不安も大きいといえるでしょう。
筆者自身、夜勤で看取りの入居者がいるユニットが担当だった際「何も起きませんように」と祈りながら業務を行った経験があります。
「自分の勤務の時に入居者が亡くなられたらどうしよう。もしそうなった場合、どうしたら良いんだろう・・・」と、不安を抱える介護職は多いといえます。
多職種との連携が大変
3つ目の理由は「多職種との連携が大変」であることがあげられます。特養では介護職の他に、医師や看護職、ケアマネジャー、生活相談員、栄養士、機能訓練指導員など様々な職種が働いています。
介護職が一番連携を多くとることになるのが「看護職」でしょう。看護職は主に浣腸や褥瘡の処置などの医療的ケアを行います。介護職と看護職など多職種間で円滑にコミュニケーションが取れている場合には良いのですが、中には「看護職の権力(立場)が強くて、介護職が萎縮してしまう」介護施設も存在します。こうした場合、介護職は仕事がきついと感じやすいでしょう。
またケアマネジャー(以下ケアマネ)や生活相談員との連携が上手く取れないケースもあります。具体的には、下記などがあります。
・入所者の事前情報と実際の情報が異なる。
・転倒などで怪我をさせてしまったとき、生活相談員から「何で転ばせたの」と強く叱責された。
現場での業務が多い介護職と、家族や他事業所とのやり取りもあるケアマネジャーと生活相談員では、業務内容が異なります。そのため、価値観を共有することが難しいことがあり、「ケアマネジャーや生活相談員との連携が大変・・・」と感じる介護職は多いといえます。
入所者との意思疎通が難しい
4つ目の理由は、「入所者との意思疎通が難しい」ことです。特養へ入所する方の多くは認知症があり、重度になると意思疎通が難しくなります。
日常のやり取りはもちろん、支援に必要な情報を得るための質問に対しての返事をもらうことも困難な入所者が多く、介護職は入所者の表情から意思を読み取らなければなりません。入所者とのこうした意思疎通、やり取りに対して、新人や経験の浅い介護職の中には「難しい」と感じる人もいるでしょう。
夜勤があり生活リズムが崩れる
5つ目の理由は、「夜勤があり生活リズムが崩れる」ことです。特養での勤務は早番や遅番だけでなく、夜勤もある不規則勤務になります。夜勤は介護施設によって異なりますが、主に8時間夜勤と16時間夜勤の2種類です。
8時間夜勤と16時間夜勤の勤務時間や業務内容などの特徴をまとめると、下記の表のようになります。
8時間夜勤 | 16時間夜勤 | |
勤務時間 | 22時~翌日7時 | 16時~翌日10時 |
業務内容 | 巡視 オムツ交換やトイレ誘導 朝食準備 |
夕食介助 就寝介助 巡視 オムツ交換やトイレ誘導 朝食準備 離床介助 朝食介助 |
休憩時間 | 1時間 | 2時間 |
メリット | 業務量が少ないので、16時間夜勤に比べて負担が少ない | 夜勤明けの翌日が公休 |
デメリット | 夜勤明けが公休扱いになるので、丸1日休みを取りづらい | 拘束時間が長く業務量が多いので、心身ともに負担が多い |
どちらの夜勤にも、メリットやデメリットがあります。筆者は両方の夜勤を経験しましたが、慣れると16時間夜勤の方が楽だと感じました。夜勤明けの翌日は必ず休みだったため予定を立てやすかったり、しっかり休息する時間を確保できた、というのが理由です。
とはいえ、どちらの夜勤で働く場合であっても慣れるまでは大変です。担当する入居者の人数が多い場合、状態によって大変さは増すといえます。また夜勤の業務自体には慣れたとしても、シフト勤務のため生活リズムは崩れます。夜勤がある働き方は、年齢を重ねると体調を崩しがちになり、仕事が大変だと感じる介護職が多くなるのが実際のところです。
特養の介護職の仕事内容
上記では、特養の夜勤についてもご紹介しましたので、その他の時間帯、日勤帯を中心とした仕事内容についてもご紹介します。
7時~ | 起床・洗面・整容 |
8時~ | 朝食、歯磨き・口腔ケア |
9時30分頃~ | 入浴介助(早番者が行うことが多い) |
10時~ | 他利用者に水分提供しつつ、オムツ交換を行う |
12時~ | 昼食、歯磨き・口腔ケア |
13時~ | 入浴介助、オムツ交換 |
14時~ | レクリエーション |
14時30分頃~ | おやつ |
16時~ | 夜勤者への申し送り |
18時~ | 夕食、歯磨き・口腔ケア |
19時~ | 就寝介助 |
21時~ | 就寝 |
介護職は上記のような基本となる業務内容に加えて、委員会の議事録や入居者のアセスメントなど、書類仕事なども行います。
特養の介護職として働くメリット
ここまでの内容から「特養で働くのはきつそう」と感じる方も多くいらっしゃるかもしれません。
しかし、特養の介護職として働くと下記のようなメリットがあります。
・他の介護施設と比べて待遇が良い(給与が高め)
・高度な介護スキルが身に付く
・キャリアアップを目指せる
・入所者に寄り添った介護ができる
・入所者やご家族から直接感謝される
詳しく説明します。
他の介護施設と比べて待遇が良い(給与が高め)
1つ目のメリットとして、「他の介護施設と比べて待遇が良い」ことがあげられます。厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」のP.122にある、第86表 介護職員の平均給与額等(月給の者),サービス種類別,勤務形態別(介護職員処遇改善支援補助金を取得している事業所)を参照すると、介護老人福祉施設(特養)の平均給与額が最も高額となっています。
また、特養での夜勤は、多くの施設では夜勤手当がつくでしょう。夜勤手当の金額は介護施設によって異なりますが、月に5回程度夜勤をすれば、1万円以上給与に上乗せされます。そのため、デイサービスや訪問介護といった他の介護施設に比べると、特養で働く介護職は給与が高めであることが多いです。
高度な介護スキルが身に付く
2つ目は「高度な介護スキルが身に付く」ことです。前述したように、特養の入所者は要介護度の高い入所者が多いです。そのため、オムツ交換や寝たきりの人の入浴介助など、高度な介護スキルを身に付けることができます。
また、軟膏や薬にも詳しくなります。特養の入所者は寝たきりの人が多いので、褥瘡の処置に看護師と一緒に対応することがあります。軟膏や薬を使ううちに、自然と覚えるようになるのです。
キャリアアップを目指せる
3つ目は「キャリアアップを目指せる」ことです。
介護福祉士の国家試験を受験するには、下記の条件があります。
・実務者研修を受講する
・特養などの介護施設で3年以上、勤務経験がある
特養の場合、夜勤があるシフト制のため、比較的平日休みが取りやすいという特徴があります。そのため、デイサービスなどの介護施設に比べて実務者研修を受講しやすく、資格を取得してキャリアアップを目指せる機会を得やすいといえるでしょう。
また夜勤をしている人であれば、夜勤前後や夜勤中に勉強することが可能です。私自身、夜勤前や夜勤のスキマ時間に勉強し、介護福祉士の資格を取得しました。
介護施設側としても、資格を取得することは施設運営上のメリットになります。そのため実務者研修を受講する日を勤務日にしたり、国家試験を受験する日を公休にしてくれたりと、キャリアアップを支援してくれる施設も多いです。
入所者に寄り添った介護ができる
4つ目は「入所者に寄り添った介護ができる」ことです。特養は24時間入所者のケアを行います。そのため日中だけでなく夜の様子も把握することができますので、入所者に寄り添った介護ができるのです。
入所者やご家族から直接感謝される
5つめは「入所者やご家族から直接感謝される」ことです。特にユニット型特養の場合、ほぼ同じ職員が対応するので、入居者と「馴染みの関係」になります。
入居者との信頼関係が構築されると、入居者から「ありがとう」と言葉を頂くことがあります。また面会にきたご家族からも直接感謝されることもあり「介護職として働いて良かった」と実感することができるのです。
まとめ
特別養護老人ホーム(特養)で介護職として働くと、要介護度の高い入居者のケアを限られた時間で効率的に行わなければなりません。そのため、高度な介護スキルを身に付けることができ、スキルアップを目指すことができます。
一方で夜勤を含めた不規則勤務となりますので、慣れない場合には生活リズムがずれて体力的に厳しい、辛いと感じることもあるかもしれません。しかし、給料が高いなどのメリットもあります。
特養で働くことのメリット・デメリットや将来的にどういった介護職となっていきたいか、などのキャリアも含めて職場選びをしていただけたらと思います。
この記事の執筆者 | miruto 保有資格:介護福祉士 社会福祉士 地域密着型特別養護老人ホームに6年、ショートステイに1年勤務しました。 現在は訪問介護の仕事をしながら、介護・福祉系ライターとしても活動中です。 |
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