介護施設で働く方にとって、利用者の退所や入院時に必要な「情報提供」は、現場の大切な業務のひとつです。
介護施設から入所者が医療機関や居宅へ退去する場合、医療機関や在宅サービス事業者などに対して、医療や介護サービスが切れ目なく提供されるよう、関係機関への適切な情報共有が求められます。
そうした情報連携の重要性を評価する仕組みが「退所時情報提供加算」です。
この記事では「退所時情報提供加算」について、対象施設、算定要件、必要様式、取得メリットなど解説します。
目次
退所時情報提供加算とは
退所時情報提供加算とは、介護施設の入所者が医療機関や居宅へ退所する際に、適切な情報提供を行った場合に算定できる加算です。
目的は、入所者が施設を退所後も、継続的かつ安全に医療・介護サービスを受けられるようにすることにあります。
2024年度の介護報酬改定で対象施設や算定要件が拡充され、より多くのケースで算定可能となりました。
この加算は、厚生労働省が掲げる「地域包括ケアシステム」の推進を背景に導入されました。介護施設と退所後の支援者との間で必要な情報を共有することにより、医療的なケアの継続、服薬管理の徹底、再入院・再入所の防止といった効果が期待されています。
また、2024年度の介護報酬改定でも、情報提供の質や実施状況が重視されるようになり、適切な対応が施設に求められています。
加算の取得は、単なる収益の確保という観点だけでなく、利用者のQOL(生活の質)向上にもつながる重要な取り組みです。
退所時情報提供加算の対象施設
退所時情報提供加算は次の施設で加算の算定が可能です。
対象施設一覧(厚生労働省通知に基づく)
・介護老人保健施設
・介護医療院
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
・特定施設入居者生活介護
・地域密着型特定施設入居者生活介護
・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
通所系サービスや訪問系サービスはこの加算の対象外となるため注意が必要です。
退所時情報提供加算の単位数
2024年度改定では以下のような単位数とされています。
対象サービス・施設名 | 区分 | 単位数 (1回あたり) |
介護老人保健施設・介護医療院 | 退所時情報提供加算(Ⅰ) | 500単位 | 介護老人保健施設・介護医療院 | 退所時情報提供加算(Ⅱ) | 250単位 | 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | 退所時情報提供加算 | 250単位 | 特定施設、認知症対応型共同生活介護(グループホーム) | 退居時情報提供加算 | 250単位 |
退所時情報提供加算(Ⅰ):居宅へ退所する場合
退所時情報提供加算(Ⅱ):医療機関へ退所する場合
退所時情報提供加算の算定要件等
退所時情報提供加算を算定するには以下の要件を満たす必要があります。
【介護老人保健施設、介護医療院】<退所時情報提供加算(Ⅰ)>
居宅へ退所する入所者について、退所後の主治の医師に対して入所者を紹介する場合、入所者の同意を得て、当該入所者の診療情報 心身の状況、生活歴等を示す情報を提供した場合に、入所者1人につき1回に限り算定する。
【介護老人保健施設、介護医療院】<退所時情報提供加算(Ⅱ)>
【特定施設入居者生活介護★、地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護★ 、介護老人福祉施設、地域密着型介護 老人福祉施設入所者生活介護】<退所時情報提供加算、退居時情報提供加算 >
医療機関へ退所する入所者等について、退所後の医療機関に対して入所者等を紹介する際、入所者等の同意を得て、当該入所者等の 心身の状況、生活歴等を示す情報を提供した場合に、入所者等1人につき1回に限り算定する。
退所時情報提供加算の様式
情報提供には、厚生労働省が定める「別紙様式13(退所時情報提供書)」を使用します。様式は下記ページからダウンロード可能です。
主な様式の内容
退所時に提供すべき情報には以下のような項目が含まれます。
・利用者の基本情報(氏名、生年月日、要介護度など)
・退所時の身体状況やバイタルサイン
・診断名・既往歴
・服薬情報(薬剤名、用量、服用方法)
・人生の最終段階における医療・ケアに関する情報
・退所前の状況(身体・生活機能、介護/医療の状況など)
・かかりつけ医について
など。
退所時情報提供加算を取得するメリット
退所時情報提供加算は、介護報酬の加算という経済的な面だけでなく、利用者や家族、施設職員にとっても多くのメリットがあります。
以下では、加算取得によって得られる主なメリットを解説します。
1. 利用者の安心・安全な在宅復帰を支援できる
退所後も、かかりつけ医や居宅ケアマネジャーなどが必要な医療・介護情報を把握できていれば、スムーズな支援が可能となり、利用者本人の安心感にもつながります。
情報の引き継ぎにより、医療的ケアや服薬管理のミスを防ぐ効果も期待できます。
2. 家族への信頼感と満足度の向上
ご家族も退所後の生活に対して不安を抱くことも多いでしょう。介護施設が丁寧な情報提供を行うことで、情報の引き継ぎがスムーズにでき、適切な支援が受けられることで安心を得やすくなります。
それにより、施設全体への信頼度や満足度が向上し、結果として、施設の評判にも良い影響を与えることが期待できます。
3. 地域の医療・介護機関との連携強化
退所時の情報提供は、施設と地域の医療・介護機関とのスムーズな連携を生み、今後の連携体制の土台にもなります。継続的な関係構築にも寄与し、他機関からの信頼も得られやすくなるでしょう。
「地域包括ケアシステム」の推進という視点からも、地域の医療機関等との連携は今後も重要になると考えられます。
4. 加算取得による施設収益の安定
1件あたり500単位が加算されるため、制度に沿って適切に算定すれば、一定の収益確保につながります。
特に短期入所や定期的な退所が発生する施設では、加算の有無が収益面にも影響を与えるケースも多くなることが考えられます。
退所時情報提供加算についてのQ&A(厚生労働省資料より)
【(地域密着型)介護老人福祉施設、 (地域密着型)特定施設、認知症対応型共同生活介護】
○ 退所時情報提供加算、退居時情報提供加算について
問2 退所時情報提供加算及び退居時情報提供加算について、医療機関の入院にあたり、退所または退居の手続きを行わない場合においても算定可能か。(答)算定可能。
入所者が医療機関へ入院する際に、退所手続きを行わない場合でも、必要な情報を提供することで、退所時情報提供加算を算定することができます。
【(地域密着型)介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、(地域密着型)特定施設、認知症対応型共同生活介護】
○退所時情報提供加算、退居時情報提供加算について問 18 同一医療機関に入退院を繰り返す場合においても、算定可能か。
(答)同一月に再入院する場合は算定できず、翌月に入院する場合においても前回入院時から利用者の状況が変わらず、提供する内容が同一の場合は算定できない。
算定要件等に加えて、これらのQ&Aも参考にされるとよいでしょう。
まとめ
退所時情報提供加算は、利用者の退所や入院時に必要な情報提供を評価する加算です。2024年度改定で対象施設や運用が拡充され、現場での取得メリットも大きくなりました。
加算の取りこぼしを防ぐため、算定要件や様式、最新のQ&Aをしっかり押さえて現場で活用しましょう。
この記事の執筆者![]() | シフトライフ編集部 主に介護業界で働く方向けに、少しでも日々の業務に役立つ情報を提供したい、と情報発信をしています。 |
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