通所介護施設の稼働率は、売上に直結する重要な項目です。現在より稼働率をアップできると、経営の安定化を実現できるでしょう。
しかし、通所介護施設は全国に2万4,000施設以上※運営されており、同業者間の利用者獲得競争も激しさを増していると考えられます。そのため、「工夫しても稼働率が思うようにあがらない」「この施策でよいのか迷っている」とお悩みを抱える経営者や管理職の方も多いのではないでしょうか。
※参考:厚生労働省|令和4年介護サービス施設・事業所調査の概況 1 施設・事業所の状況
そこで今回は、通所介護施設(デイサービス・デイケア)の稼働率を高めて売上をアップする方法と稼働率以外にできる売上をアップする方法を具体的に解説します。
稼働率を高めると通所介護施設の売上アップにつながる
稼働率がアップすると介護報酬の金額は増加するため、介護施設の売上アップにつながるわけです。
稼働率の計算方法と損益分岐点について
通所介護施設の稼働率とは、利用定員のうち実際に利用された割合を指します。利用定員とは、事業所において同時に利用できる利用者数の上限のことです。
まずは、1ヶ月の稼働率の計算式をみてみましょう。
1ヶ月の延べ利用者数÷(1日の利用定員×1ヶ月の営業日数)
以下の例をもとに、実際の稼働率を計算してみます。
・利用定員:20名
・1ヶ月の営業日数:24日
・1ヶ月の延べ利用者数:360名
上記の通所介護施設の場合、360名÷(20名×24日)=75%となり、稼働率は75%となります。
延べ利用者を計算する際は、利用回数をもとに計算しましょう。1週間を例にとりあげると以下の計算式になります。
月曜日の利用者数+火曜日の利用者数+水曜日の利用者数+木曜日の利用者数+金曜日の利用者数
月曜日から金曜日まで営業している施設を例に挙げてみましょう。
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 |
A利用者
B利用者 C利用者 |
D利用者 | B利用者
C利用者 E利用者 |
A利用者
D利用者 |
B利用者
C利用者 |
3人 | 1人 | 3人 | 2人 | 2人 |
上記の場合の登録利用者数は5人です。しかし、延べ利用者数は3+1+3+2+2となり合計11人となります。同じ利用者であっても、別の日に利用した場合は1とカウントする点にご注意ください。
稼働率の計算式に戻りましょう。続いて、1日の稼働率の計算式がこちらです。
1日の利用者数÷利用定員
仮に1日の利用定員が20名で、利用者数が15名だった場合は、
15÷20=75%となります。
ここで売上を考える際の指標である損益分岐点に注目してみましょう。
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど釣り合って、利益が0円になるポイントのこと。売上が損益分岐点を上回れば利益がでる。一方、売上が損益分岐点を下回れば数字はマイナスとなるため損失となる。
したがって、通所介護施設の運営では、損益分岐点より売上が上回るように配慮しなくてはいけません。なお、損益分岐点の費用は、変動費と固定費に分けられます。
変動費
売上高の増減によって変動する費用 |
固定費
売上高の増減に関係なく発生する費用 |
介護用品費、食事材料費、トイレットペーパーなどの消耗品費 | 人件費、地代や家賃、水道光熱費、広告費など |
こうした費用を節約できると、効率的に売上アップを実現できるでしょう。
通所介護施設の稼働率(利用率)の推移
独立行政法人福祉医療機構が公表している資料をもとに、通所介護施設の稼働率(利用率)の推移をみてみましょう。2019年度、2020年度、2021年度の稼働率の推移がこちらです。
2020年度 | 2021年度 | 2022年度 |
68.6% | 70.0% | 68.0% |
参考:独立行政法人 福祉医療機構|2022年度(令和4年度)決算 老人デイサービス(通所介護・認知症対応型通所介護)の経営分析参考指標の概要について
参考:独立行政法人 福祉医療機構|2021 年度(令和 3 年度)通所介護の経営状況について
2021年度、赤字施設の割合は46.5%
続けて、2021年度の赤字施設の割合をみてみましょう。
福祉医療機構が公表している「2021年度(令和3年度)通所介護の経営状況について」によると、調査対象施設のうち赤字事業所の割合は46.5%です。なお、2020年度の赤字事業所の割合は41.9%でした。
事業規模区分別にみた赤字事業所の割合は以下の通りです。
地域密着型:44.3%
通常規模:48.5%
大規模型(Ⅰ):37.2%
大規模型(Ⅱ):34.3%
参考:独立行政法人 福祉医療機構|2021 年度(令和 3 年度)通所介護の経営状況について
通所介護施設の稼働率をアップする方法
・地域の居宅介護支援事業所へ営業する
・利用者満足度と家族満足度の向上を目指す
・欠席者対策を万全にする
・独自性をつくりアピールする
・SNSやブログで定期的に情報発信する
自社の施設規模や人員などと照らし合わせながら、ご覧ください。
地域の居宅介護支援事業所へ営業する
地域の居宅介護支援事業所へ営業する方法は、稼働率をアップするために効果的な施策です。
居宅介護支援事業所のケアマネジャーに営業を行い、自社の存在を知ってもらうことで、利用者に自社を紹介してもらえる確率が高まります。
ケアマネジャーが担当している利用者に自社を紹介してもらえれば、見学・体験といった提案が可能になるため、契約数の増加を期待できるのです。
営業の具体的な効果はこちらです。
・自社の名前を覚えてもらえる
・自社の施設形態や空き状況を伝えられる
・自社の特徴をアピールできる
・ケアマネジャーの名刺を入手できる
営業の際に以下の情報を伝えると、ケアマネジャーや利用者が具体的に検討できるでしょう。
・利用定員
・利用曜日の空き
・送迎範囲
・独自性(自社ならではの強みやウリ)
アポをとらずに飛び込みで営業する場合、タイミングによっては迷惑がられることがあります。ケアマネジャーは業務多忙なことも多いため、売り込みを意識しすぎるとマイナスの印象もたれてしまうかもしれません。
そこで、簡潔に自社の情報を伝える営業ツールとして、写真やイラストを載せたパンフレットや広報誌を手渡す方法がおすすめです。
利用者満足度と家族満足度の向上を目指す
利用者満足度が高まると、増回や振替利用の提案が通りやすくなります。いずれかの提案が通れば稼働率をアップできるでしょう。
提案を通すための大切なポイントが、利用者に「通いたい」と思ってもらえるかどうかです。そのため、利用者のニーズを満たすような介護サービスを日々提供することは前提条件になるといえます。
また、家族満足度が高い場合は、家族の友人や知人、家族の親戚などに自社を紹介してもらえる可能性が高まるでしょう。
「父が通っている〇〇というデイサービスはいいよ」などと好評価してもらえれば、新規相談の増加が期待できます。
欠席者対策を万全にする
利用者の欠席は、稼働率の低下につながります。稼働率アップと同時に欠席者対策を万全にしましょう。
欠席が続いている利用者に対して、欠席の理由を尋ねてみてください。仮に、「通院日が重なってしまうから」「苦手な利用者がいる」といった理由で欠席が続いている場合は、利用曜日の変更を提案することで、稼働率の低下を防げます。
また、独居の方で送り出しの支援がない場合は、当日の朝にお迎えの連絡を入れて準備を促してみましょう。
連絡することで、「準備が間に合わなくて欠席」「起きたばかりで、いきたくない」といった欠席を防げるはずです。送迎スタッフの負担軽減にもつながるでしょう。
施設側の都合を押し付けたりすると、不信感につながるおそれがあります。利用者を最優先に考えて、角が立たないような提案を心がけましょう。
独自性をつくりアピールする
独自性をつくり、外部にアピールする方法も稼働率アップに効果的な施策です。独自性は、同業他社との差別化につながるため、自社の知名度を高められます。さらに、地域の居宅介護支援事業所や地域包括支援センターへアピールすることで、新規相談の増加も期待できるのです。
通所介護施設の独自性とは
独自性は、自社ならではの特徴や強みともいえます。
例えば「個別機能訓練加算を取得、機能訓練士も配属している」という特徴を打ちだせば、「デイサービスで運動したい」と考える利用者やその家族に効果的にアピールできます。
また、「少人数でアットホームなデイサービス」は、「人の多い所は苦手」という利用者やその家族のニーズに応えられるでしょう。
独自性は、どの通所介護施設も必ず生み出せるものです。スタッフの人数や職種などをもとに、同業他社にはない特徴や強みがないか、ぜひ検討してみてください。
SNSやブログで定期的に情報発信する
稼働率をアップするためには、やはり対面でのコミュニケーションが効果的です。対面のコミュニケーションには、以下のようなメリットがあります。
・顔や名前を相手に伝えられる
・雑談などで人柄を伝えられる
・会話のキャッチボールができる
・リアルタイムで自社の空き状況などを伝えられる
しかし、介護現場の人手不足や営業要員が足りない場合、営業先まで足を運ぶことがむずかしいかもしれません。
そのようなときは、SNSやブログで定期的に情報発信する方法をおすすめします。X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSに自社のアカウントを作成して、自社の情報を定期的に発信するのです。
例えば、自社の施設名や住所を記載した公式アカウントを作成して、自社の特徴や空き状況、送迎範囲などを発信すれば、デイサービスを探しているご家族の目にとまる可能性があります。
また、「排泄介助のコツ」「認知症ケアのポイント」といった介護に役立つ豆知識を、定期的に発信する方法も考えられます。即効性は期待できませんが、自社の活動をみてくれた方やケアマネジャーから将来的に相談をもらえるかもしれません。
稼働率以外に効果的な通所介護施設の売上アップ方法
・介護加算の取得
・提供時間の変更と人員体制の見直し
・介護現場の効率改善
それぞれの具体的なやり方や基礎知識をみていきましょう。
介護加算の取得
介護加算とは、基本の介護報酬に追加して算定できる加算のことです。介護加算を算定することで、算定しない場合よりも収入をプラスにできます。通所介護施設で算定できる主な加算について、以下の表でチェックしてみましょう。
加算の名称 | 単位数 |
個別機能訓練加算 | 個別機能訓練加算(Ⅰ)イ:56単位/日
個別機能訓練加算(Ⅰ)ロ:85単位/日 個別機能訓練加算(Ⅱ):20単位/月 |
ADL維持等加算 | ADL維持等加算(Ⅰ):30単位
ADL維持等加算(Ⅱ):60単位 |
口腔機能向上加算 | 口腔機能向上加算(Ⅰ):150単位/回
口腔機能向上加算(Ⅱ):160単位/回 |
中重度ケア体制加算 | 45単位/日 |
サービス提供体制強化加算 | サービス提供体制強化加算(Ⅰ):22単位/回
サービス提供体制強化加算(Ⅱ):18単位/回 サービス提供体制強化加算(Ⅲ):6単位/回 |
認知症加算 | 60単位/回 |
若年性認知症利用者受入加算 | 60単位/回 |
科学的介護推進体制加算 | 40単位/月 |
口腔・栄養スクリーニング加算 | 口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ):20単位/回
口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ):5単位/回 |
栄養改善加算 | 200単位/回 |
生活機能向上連携加算 | 生活機能向上連携加算(Ⅰ):100単位/月
生活機能向上連携加算(Ⅱ):200単位/月 |
参考:WAM NET|介護給費単位数等サービスコード表 Ⅰ-資料2②
加算を算定するためには、一定の要件を満たしている必要があります。まずは加算の種類や要件を確認して、自社が算定できるかどうか確かめましょう。不明な点があれば、厚生労働省のホームページを参考にするほか、自治体の窓口へ問い合わせる方法がおすすめです。
提供時間の変更と人員体制の見直し
サービス提供時間の変更によって、1回利用ごとの基本報酬(単価)を高められます。
要介護2の利用者を例に、通常規模型の通所介護費を例に挙げてみましょう。
・5時間以上6時間未満利用した場合:670単位
・6時間以上7時間未満利用した場合、686単位
参考:WAM NET|介護給費単位数等サービスコード表 Ⅰ-資料2②
上記の場合、1利用あたり16単位のアップとなります。1ヶ月に10回利用する利用者であれば、16×10=160となり1ヶ月あたり160単位のアップとなるわけです。
サービス提供時間を変更するためには、現場ではたらくスタッフの協力が欠かせません。そのため、提供時間の変更を検討する際は、人員体制の見直しも行いましょう。
効率だけを重視してしまうと、従業員の負担増や利用者・家族の満足度低下につながるおそれがあります。介護主任やリーダーといった現場を熟知したスタッフと相談のうえで、効率改善に向けた見直しを進めてみてください。
介護現場の効率改善
介護現場の効率改善には、ICT(Information and Comumunication Technology)情報通信技術の導入が効果的です。介護業界におけるICTとは、介護施設の業務を支援するソフトウェア全般を指します。ICTの例がこちらです。
・介護ソフト
・シフト作成ツール
・チャットツール
・見守り支援システムなど
例えば、介護ソフトを導入した場合、以下のメリットが考えられます。
・記録業務の時間短縮
・利用者情報のスムーズな共有
現場の効率改善によって空いた時間を利用者のケアに投下すれば、利用者満足度の向上につなげられるでしょう。
また、煩雑になりがちな介護スタッフのシフト作成に有効なのがシフト作成ツールです。介護施設のシフト作成では、法令や人員配置基準を守りながら、個々の介護スタッフをバランスよく配置することが求められるため、頭を悩ませているシフト作成者も多いのではないでしょうか。
そこでシフト作成ツールを導入すると、時間や労力を削減しながらシフトを作成できるようになります。
株式会社サインキューブが提供しているシンクロシフトは、こうしたシフト作成にかかるさまざまな課題を解決するために開発された自動シフト作成ツールです。
・勤務形態一覧表の自動作成機能
・希望休をスマホで集計可能
・クラウド管理
シンクロシフトは、シフト作成者の負担を軽減しながら実務的なシフト作成をサポートします。気になる方はぜひこちらから詳細をご覧ください。
まとめ
通所介護施設の運営において、稼働率の向上が経営の安定化につながることは間違いありません。まずは自社の稼働率がどのくらいなのかを把握して、できることから始めることが大切です。
普段から、地域の居宅介護支援事業所や地域包括支援センターなどと信頼関係を築いておき、何かあったときに相談できることも稼働率を高めていく近道となるでしょう。そのうえで、加算の取得や費用の削減といった稼働率以外の対策にも力を注いでみてください。
信頼関係を構築できれば、定期的に相談や連絡をもらえるようになるはず。地道な活動を続けていくことこそ、地域から必要とされる介護施設を目指すために必要な活動なのです。
この記事の執筆者 | 千葉拓未 所有資格:社会福祉士・介護福祉士・初任者研修(ホームヘルパー2級) 専門学校卒業後、「社会福祉士」資格を取得。 以後、高齢者デイサービスや特別養護老人ホームなどの介護施設を渡り歩き、約13年間介護畑に従事する。 生活相談員として5年間の勤務実績あり。 利用者とご家族の両方の課題解決に尽力。 現在は、介護現場で培った経験と知識を生かし、 Webライターとして活躍している。 |
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