人口の高齢化や人材不足が進む中で、介護業界でのAI導入に関心が高まっています。
介護業界で働く方の中には介護現場へのAI導入に興味がある方も多いのではないでしょうか。
「介護業界でAIはどのように役立つの?」
「介護ロボットが普及しているという話が気になる」
このように考えている方も多いことでしょう。
しかし、実際にAIを導入している介護事業所は少ないのが現状です。
この記事では、介護業界でAIが進む背景や、実際に活用されているAI機器、AI導入のメリットデメリットについて解説します。
ぜひ参考にしてみてください。
介護業界でAI導入が進む5つの背景
AIは、人工知能(Artificial Intelligence)の略語で、コンピューターやロボットなどに人間の知的能力を持たせる技術です。
機械学習やディープラーニングなどの手法で、大量のデータからパターンを抽出し、自己学習できます。
これにより、人間と同様の判断を行い、問題を解決することが可能になるのです。
なぜ介護業界でAI導入が進みつつあるのでしょうか?
AI導入が進む背景を5つ、ご紹介します。
1.介護職員の人材不足
人口の高齢化に伴い、介護職員の増加が求められています。
2019年度は、約211万人必要でした。
しかし、2025年度には約243万人、2040年度には約280万人と必要な人数はどんどん増えているのです。
その反面、介護職員は慢性的に人員が不足しています。
厚生労働省の資料によると、2019年度は介護職員の人数が約211万人でした。
このままの状況が続くと、2025年度には約32万人、2040年度には約69万人不足することになります。
介護現場の人手不足を解消、軽減するためにAI導入が進んでいるという背景がひとつあります。
参考:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
2.2025年問題
2025年問題とは、団塊の世代と呼ばれる1947〜1949年に生まれた方全員が、2025年に75歳以上になることです。
内閣府が発行した2022年版高齢社会白書によると、2015年に65歳以上となった方の人数は3,379万人でした。
2025年には75歳以上の方が3,677万人に達すると見込まれています。
2025年問題の主な内容としては、以下の3点です。
1.社会保障給付費の増加
社会保障費のうち、2025年の医療費は2018年から比較すると1.2倍の増加が見込まれます。また、介護費も医療費と同様に増加すると見込まれ、その割合は1.4倍とされるのです。
2.認知症高齢者数の増加
認知症高齢者数の増加も大きな問題です。
2002年の時点では、認知症高齢者数が149万人であったのに対し、2025年は323万人になると推計されています。
3.高齢者を支える体制の弱体化
人口の高齢化とは逆に15〜64歳の生産年齢人口は減少しており、2020年は7,509万人であったのが、2025年は7,170万人になると推計されます。
2020年は生産年齢人口2.1人で高齢者1人を支えていたのが、2025年には推計1.9人で支えることになるのです。
3.進む高齢化
65歳以上の人口は、2021年3月末現在3,579万人で、前年度より24万人増加しています。
また、平均寿命も延びている現状です。
2015年の平均寿命は、男性80.75歳・女性86.99歳であり、2021年は男性81.47歳・女性87.57歳でした。
4.介護難民の増加
介護難民とは、介護を必要とするにも関わらず介護を受けられない方のことです。
高齢者が増加している反面、介護の担い手が不足していることが原因と言われています。
特に、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県で問題視されているのが現状です。
5.送迎業務の負担
介護事業所のうち、通所系サービスでは送迎業務も大きな負担となっています。
多くの事業所では介護職員が送迎業務を兼任しているため、疲弊しているのです。
送迎業務のもう1つの負担が、送迎計画を立てることです。
送迎計画は、利用者の身体状況、施設から自宅までの距離、住宅状況、近隣の住宅や道路の状況などさまざまなことを考慮した上で作らなくてはなりません。
そのため、これらを熟知したベテラン職員が作成することになり、負担が大きい状況です。
介護業界のAI活用事例
ここでは、介護ロボットを含めたAI活用事例を5つご紹介します。
ケアプラン作成からコミュニケーション、実際の介護や見守りなど役割はさまざまです。
1.ケアプラン作成支援システムSOIN
SOINでは、AIがサービス利用者のアセスメントや課題分析、支援内容の提案などでケアプラン作成を支援します。
専用端末は不要で、インターネット環境があれば利用可能です。
公式サイト:SOIN
2.介護見守りロボットA.I.Viewlife
A.I.Viewlifeは、赤外線を利用した広角IRセンサーにより介護現場を見える化したものです。
高齢者施設の居室全体を見渡すことができるため、多床室の各ベッドに設置すると、入居者それぞれの状況が分かります。
ベッドからのずり落ちや転倒の予防も可能です。
生体見守りセンサーも搭載されています。生体異常アラートがなった場合、その居室に最優先で駆けつけることができるので重大事故の防止にもつながるのです。
公式サイト:介護見守りロボットA.I.Viewlife
3.コミュニケーションロボットPALRO
PALROは、人と会話ができるコミュニケーションロボットです。
日常のさまざまな話題で会話を楽しめます。
会話をしながら人の顔や名前、生年月日などを覚えていくので、どんどんコミュニケーションを深められるのが特徴です。
運動やゲームもできるので、レクリエーションなどで楽しい時間を持てるでしょう。
公式サイト:コミュニケーションロボットPALRO
4.送迎支援サービスDRIVEBOSS
DRIVEBOSSには、送迎計画の自動作成、安全運転支援といった機能があります。
最初に、通所サービス利用者の住所、送迎時間、身体状況の入力が必要です。
当日の利用者を選択すると、利用者の状況と使用する車両を加味して送迎計画を効率的に立てられます。
また、安全運転支援機能として、危険挙動警告やヒヤリハットマップ作成、運転傾向診断などがあります。これにより、送迎担当者の運転状況が分析可能になり、運転業務を分析できるのです。
公式サイト:DRIVEBOSS送迎支援サービス
5. アイオロス・ロボット
アイオロス・ロボットはAI搭載ロボットで、3Dビジョンにより人の顔や姿勢を検知できます。
腕と手の役割を果たす2本のアームとグリッパーでは、物をつかむ、運ぶ、ドアを開閉するといった動きができる上、自立歩行も可能です。
こういった特徴から、介護施設における巡回や見守り、異常の発見などで介護者の負担軽減につながります。
公式サイト:アイオロス・ロボット
AI搭載型の介護ロボットの現状
ロボットは、以下の3つの要素技術を有する、知能化した機械システムです。
・情報を感知(センサー系)
・判断し(知能・制御系)
・動作する(駆動系)
ロボット技術が応用され、利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つものは、介護ロボットと呼ばれます。
介護ロボットは、介護する方、介護を受けている方それぞれの支援が可能です。
ロボット技術の介護利用における重点分野は、以下の6点です。
・移乗介助
・移動支援
・排泄支援
・見守り・コミュニケーション
・入浴支援
・介護業務支援
参考URL:WAMNET介護ロボット関連情報
介護ロボット導入状況を見ると、一番多く導入されているのが、見守り・コミュニケーションロボット(施設型)で、導入率3.7%でした。
次いで入浴支援ロボットが 1.8%、移乗介助ロボット(装着型)が 1.5%、介護業務支援ロボットが 1.3%と言う状況です。
約8割の事業所で「いずれも導入していない」という結果になりました。
参考URL:令和2年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書
ロボット導入に関して、興味深いアンケート結果をご紹介します。
2016年8月9日(火)〜9月9日(金)に、株式会社ウェルクスが行った調査によると以下のような結果が出ました。
・身体機能補助ロボット賛成66.2%、反対33.8%。
・コミュニケーションロボット賛成62.1%、反対37.9%
・介護は人間がやるべきだと思うそう思う51.4%、別にそう思わない48.6%
・介護従事者の中でもロボット導入に関して、抵抗を覚える人が約3割
介護ロボット導入について一定数の反対意見や抵抗があることが、この調査から見えてくるでしょう。
参考URL:約3割が「反対」、なぜ介護ロボット導入に賛否が分かれるのか。ウェルクスが「介護ロボット」に関する調査を実施
介護業界でAIを導入するメリット
介護業界ではまだAI導入が進んでいない現状ですが、メリットも多くあります。
ここではAI導入のメリットを4つご紹介しますので、参考になさってください。
1.業務効率化
ケアプラン作成や送迎計画などをAIが行うことで、業務が効率化されます。その結果、要介護者と関わる時間が増え、きめ細かい介護が期待できるでしょう。
2.負担軽減
見守りロボットを活用することで、要介護者の見守りを24時間行うことが可能になります。特に介護施設の夜勤時における見守り負担が軽減されるでしょう。
移乗介助や移動支援に介護ロボットを活用することで、身体的負担も軽減されます。
3.介護の質向上
介護ロボットで負担が軽減されることで、介護スタッフに心身の余裕ができます。
介護スタッフが身体的に疲弊しないことで、介護の質向上が期待できるのも大きなメリットです。
4.人手不足の解消
介護スタッフの心身の負担が軽減されることで、離職率低下→人手不足解消という流れが期待できます。
介護業界でAIを導入するデメリット・問題点
AI導入の際に大きなデメリットとして挙げられるのが、以下の2点です。
・導入のための予算や維持費用など金銭的な負担が大きい
・操作が難しいため、職員の教育が必要
介護ロボットにおける課題・問題として、最も多かった意見は「導入コストが高い」でした。
その他には、投資に見合う効果がない、誤作動への不安、技術的に使いこなせるか不安という意見が出されています。
ICT機器における課題・問題として最も多かった意見も、同じく「導入コストが高い」でした。
その他の意見は、技術的に使いこなせるか心配、どのような介護ロボットやICT機器があるのかが分からない、投資に見合う効果がないなどです。
参考URL:令和2年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書
まとめ
この記事では、介護業界におけるAI導入について解説しました。
業務効率化や介護者の負担軽減というメリットも大きいAI導入ですが、コスト面でのデメリットもあるため、実際に導入している事業所は少ない状況にあります。
介護ロボット導入に否定的な声や、介護は人の手で行うものという考えも多くあるため、今後急速に導入が進むかどうかは不透明です。
しかし、将来的に今以上に介護職が不足し高齢者が増えるという未来が見えている以上、AI導入も含めて、業務効率化を進めていくことは重要です。
事業所のニーズにあったAI機器を導入できれば介護スタッフの業務負担の軽減、ご利用者やそのご家族へもメリットがもたらされるはずです。
AI導入について検討されている方は、勤務先のどの部門にどのような形でAIを取り入れるかイメージすることから始められてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者 | 古賀優美子 保有資格: 看護師 保健師 福祉住環境コーディネーター2級 薬機法管理者 保健師として約15年勤務。母子保健・高齢者福祉・特定健康診査・特定保健指導・介護保険などの業務を経験。 地域包括支援センター業務やケアマネージャー業務の経験もあり。 高齢者デイサービス介護員としても6年の勤務経験あり。 現在は知識と経験を生かして専業ライターとして活動中。 |
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