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【教えて!】高齢者虐待防止法についてわかりやすく解説|高齢者虐待の種類・定義、対策などについて

高齢者虐待防止法をわかりやすく解説

高齢者虐待は深刻な社会問題となっています。高齢者虐待の件数は年々増加しており、令和5年度には過去最多の1万8,223件に達したと報道されました。実際には、通報されていないケースや明るみに出ていない事例を含めると、さらに多くの虐待が発生していると考えられます。
 
高齢者虐待防止法は、高齢者が安心して暮らせる社会を実現するために制定された法律です。この法律では、高齢者に対する虐待の定義や種類を明確にし、虐待を防ぐための措置や通報義務などが定められています。
 
日本の高齢化が進む中、高齢者の尊厳を守ることは社会全体の責務であり、介護や医療の現場でも重要な課題となっています。本記事では、高齢者虐待の種類や具体的な定義、施設や家庭での防止策、通報の義務などについてわかりやすく解説します。
 
高齢者虐待を未然に防ぐために、私たち一人ひとりができることを考えていきましょう。

高齢者虐待防止法とは

高齢者虐待防止法とは、高齢者に対する虐待を防ぎ、高齢者とその家族を保護するための法律です。2005年に制定され、2006年4月から施行されています。

この法律では、高齢者虐待を「養護者によるもの」と「介護サービスを行う者によるもの」の二つに大きく分けて定義しています。養護者とは、家族や親族など、高齢者を介護する立場にある人を指し、介護サービスを行う者には、介護施設等で働く職員などが含まれます。

高齢者虐待防止法は、高齢者虐待の防止だけでなく、虐待を受けた高齢者の保護、そして虐待を行っている人への支援についても定めています。

具体的には、国や地方公共団体が、虐待防止のための施策を推進したり、虐待を受けた高齢者を保護するための支援を行ったりすることが義務付けられています。また、医療・福祉の従事者には、高齢者虐待を発見した場合には、速やかに通報する義務が課せられています。

高齢者虐待防止の推進に関する義務化の背景

放置される高齢者

高齢者虐待防止法が制定された背景には、深刻化する高齢者虐待の問題があります。

厚生労働省が実施した「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」への対応状況に関する令和4年度の調査結果によると、養介護施設従事者等による高齢者虐待と判断された件数は2,795件で、前年より16.9%増加しました。また、相談・通報件数は38,291件にのぼり、前年より5.3%増加し、過去最多を記録しています。

こうした状況を受け、令和6年4月1日からは、すべての介護サービス事業者に「高齢者虐待防止の推進」が義務化されました。

高齢者虐待の実情と事例

高齢者虐待の件数は年々増加していると言われています。

厚生労働省の発表によると、令和5年度の養介護施設従事者等による虐待について、虐待判断件数は以下となっています。

虐待判断件数は、1,123 件(対前年度 267 件(31.2%)増)。※過去最多で3年連続増加。

また、養護者による虐待については以下となっています。

虐待判断件数は、17,100 件(対前年度 431 件(2.6%)増)。※横ばい傾向

出典:【老健局】プレスリリース(高齢者虐待調査結果)

厚生労働省では、高齢者虐待防止法に基づき、養護者及び介護施設従事者等による高齢者虐待の状況をホームページで公表しています。

各都道府県のホームページにも、高齢者虐待の事例が掲載されているものが数多くあり、介護事業所での勉強会や研修において参考になると思いますので、具体的な事例検討の際は検索をしてみるとよいでしょう。

令和6年度に義務化された内容と取組み

令和6年度から義務化された虐待防止の取り組みは、大きく4つに分けられます。

①虐待防止委員会の定期開催
②虐待防止に関する研修の実施(年2回以上)
③虐待防止担当者の選任
④虐待防止に関する指針の整備

具体的な内容について見ていきます。

①虐待防止委員会の定期開催
虐待防止のための委員会を定期的に開催することが義務化されました。この委員会では、虐待の発生を未然に防ぐために、以下の点について話し合います。

・虐待の兆候やリスクの共有
・虐待防止のための対策の検討
・職員の意識啓発

虐待発生時の対応委員会のメンバーは、管理職だけでなく、介護職員や、必要に応じて外部の専門家も参加させ、多角的な視点から問題解決を目指します。

②虐待防止法に関する研修の実施(年2回以上)
介護職員は、年2回以上の虐待防止に関する研修を受けることが義務化されました。研修では、虐待の種類、原因、防止策など、幅広い知識を習得します。

また、ロールプレイングなどを通して、実際の場面での対応方法を学ぶことも重要です。研修記録は、今後の改善に役立てるために、必ず残しておきましょう。

③虐待防止担当者の選任
事業所は、虐待防止に関する取り組みを統括する専任の担当者を選任しなければなりません。担当者の主な役割は以下のとおりです。

・委員会の運営
・指針の整備
・研修の企画・実施
・スタッフへの周知と啓発

④虐待防止に関する指針の整備
事業所は、高齢者虐待防止のための指針を策定し、職員が理解しやすい形で共有する必要があります。また、指針に基づいたルールを徹底し、事業所全体で虐待防止に取り組む体制を整えます。

虐待防止に関する指針は、各自治体のホームページにも記載されているので、それらを参考に、事業所の実態に即した指針を整備するとよいでしょう。
厚生労働省が示している具体的には指針に、以下の項目を盛り込むことが想定されています。

・事業所における虐待の防止に関する基本的考え方
・虐待防止検討委員会その他事業所内の組織に関する事項
・虐待の防止のための職員研修に関する基本方針
・虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針
・虐待等が発生した場合の相談・報告体制に関する事項
・成年後見制度の利用支援に関する事項
・虐待等に係る苦情解決方法に関する事項
・利用者等に対する当該指針の閲覧に関する事項
・その他虐待の防止の推進のために必要な事項

介護施設で高齢者虐待が起こる理由

スピーチロックを受ける高齢者

介護施設で高齢者虐待が発生する背景には、さまざまな要因があります。介護現場では慢性的な人手不足や業務の多忙さが課題となっており、職員が自らのストレスケアやサービス提供の在り方を冷静に見直す余裕がないことが少なくありません。

その結果、適切なケアが行われず、知らず知らずのうちに虐待につながるケースがあります。業務の負担が大きくなることで、職員のストレスが蓄積し、精神的に追い詰められることも一因となります。

また、職員の介護に関する知識や技術が十分でないことも、虐待を引き起こす要因のひとつです。例えば、「この程度なら問題ないだろう」「これ以上は無駄ではないか」「認知症だから何をしてもすぐに忘れてしまう」といった誤った認識のもとで対応してしまうことで、結果的に虐待に発展することがあります。

適切なケアを提供するためには、介護職員一人ひとりが高齢者の尊厳を尊重し、専門的な知識や技術を身につけることが求められます。

さらに、労働環境や働き方の問題も虐待の発生に影響を与えます。過酷な勤務環境や長時間労働が続くことで、介護従事者の理性や奉仕の気持ちが損なわれ、冷静な判断ができなくなる場合があります。

高齢者虐待を防ぐためには、職員の介護知識・技術の向上や、職員の負担を軽減し働きやすい環境を整えることなどが重要です。介護現場全体で虐待を未然に防ぐ意識を持ち、組織として適切なサポート体制を構築することが求められます。

高齢者虐待の種類

高齢者虐待防止法では、高齢者虐待の種類として以下の5つが定義されています。

高齢者虐待の種類

 
・身体的虐待
・介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)
・心理的虐待
・性的虐待
・経済的虐待

ここからは、それぞれの虐待について詳しく見ていきます。

身体的虐待

身体的虐待とは、高齢者の身体に痛みを与えたり、怪我をさせたりする行為、またはそうした危険性のある行為を指します。殴る、蹴る、叩くなどの直接的な暴力だけでなく、身体拘束、過度な薬物投与、不当な医療行為なども含まれます。

利用者の生命や身体を守るために、やむを得ず身体拘束を行う場合があります。しかし、身体拘束は原則として禁止されており、実施には厳格な基準が設けられています。実施する際は、慎重な判断のもとで対応し、必ず記録を残す必要があります。

身体的虐待の具体的な例としては、以下のものが挙げられます。

・直接的な暴力:殴る、蹴る、叩く、つねるなど。
・身体への危害:火傷、打撲、骨折、窒息など。
・不当な拘束:ベッドや車椅子への固定、手足を縛るなど。
・過度な薬物投与:本人の同意なく、鎮静剤などを過剰に投与する。
・不当な医療行為:必要のない手術や検査を行うなど。

身体的虐待は、高齢者の心身に深刻なダメージを与えるだけでなく、死亡に繋がる場合もあります。

身体的虐待は、高齢者虐待の中で最も数が多く半数近くを占めます。死亡者が出ることもあり、要介護度が高くなるほど身体的虐待を受ける割合が高まる傾向があると言われています。

介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)

介護や世話を意図的に怠る、または適切に提供しないことを「ネグレクト」と呼びます。これは高齢者の健康や安全を損なう重大な虐待の一つです。

ネグレクトの具体的な例としては、以下のものが挙げられます。

・食事・水分摂取の制限:必要な食事や水分を与えない、または不適切な食事しか与えない。
・清潔の保持の怠慢:入浴させない、衣服を交換しない、排泄の処理を怠るなど。
・医療の受診拒否:病気や怪我があっても、医療機関に連れて行かない。
・生活環境の悪化:不潔な部屋で生活させたり、暖房や冷房を適切に使用しなかったりすること。
・社会的な孤立:家族や友人との接触を遮断したり、外部との交流を制限したりすること。

これらの行為は、意図的かどうかにかかわらず、高齢者の生活環境や身体・精神の健康を悪化させるため、虐待に該当します。

心理的虐待

心理的虐待とは、高齢者に暴言を吐いたり、無視をしたり、強く拒絶する態度をとることで、精神的な苦痛を与える行為を指します。

心理的虐待の具体的な例としては、以下のものが挙げられます。

・暴言・侮辱:「バカ」「役に立たない」などの言葉で攻撃する。
・無視・拒絶:話しかけても無視したり、存在を認めようとしない。
・脅し:「施設から追い出す」など、不安をあおるような言葉をかける。
・比較:他の利用者と比較し、自尊心を傷つける。
・プライバシーの侵害:本人の了承なしに、日記を読んだり、私物を勝手に処分する。

心理的虐待は、必ずしも直接的な暴力行為を伴うわけではありませんが、その影響は長期にわたって残る可能性があります。精神的な傷は、身体的な傷よりも治癒に時間がかかり、うつ病や不安障害などの精神疾患を引き起こす可能性もあります。

性的虐待

性的虐待とは、高齢者の性的自己決定権を侵害し、性的苦痛を与える行為を指します。性的接触を伴う行為だけでなく、性的羞恥心を与えるような行為も含まれます。

性的虐待の具体的な例としては、以下のものが挙げられます。

・身体への性的接触:キス、抱擁、性器に触れる、性的行為を強要するなど。
・性的言動:性的な冗談や侮辱、わいせつな言葉を浴びせる。
・プライバシーの侵害:着替えの際に立ち会う、排泄の際に覗き見るなど。
・性的対象化:高齢者を性的対象として扱うような言動や態度をとる。

性的虐待は、施設での集団生活において特に起こりやすい側面があります。プライバシーが確保されにくい環境下では、入浴や排泄の介助の際に、不意に身体が露出したり、不適切な接触が行われたりする可能性があります。また、介護者の意識不足や、組織的な問題が背景にある場合もあります。

経済的虐待

経済的虐待とは、高齢者の財産を不正に利用したり、本人の同意なく処分したりすること、または、高齢者から不当に財産上の利益を得る行為を指します。これは、高齢者の生活の安全を脅かし、尊厳を侵害する行為です。

経済的虐待の具体的な例としては、以下のものが挙げられます。

・財産の不正な処分:高齢者の預金を引き出したり、不動産を売却したりする。
・金銭の着服:高齢者の財布からお金を盗む、または、預かったお金を私的に使用する。
・必要な物資の購入拒否:食料品や衣類など、生活に必要な物資を購入しない。
・契約の無効化:高齢者の同意を得ずに、契約を解除したり、新たな契約を結んだりする。

経済的虐待は、高齢者の生活を困窮させ、介護サービスの利用を妨げる可能性があります。例えば、高齢者が自身の費用で介護サービスを利用できなくなり、介護サービスの質が低下したり、サービスが中断されてしまうケースも考えられます。

以前、介護老人保健施設を利用されている方で、利用料金の支払いが滞ることが多いケースがありました。事前の面談では、年金収入で費用を賄えると伺っていましたが、実際には定期的に未納が発生していました。

そこで、ご家族に事情を伺ったところ、ご利用者の年金を孫の学費に充てていたことが判明しました。これは家族内の問題ではありますが、高齢者の生活のために使われるべきお金が別の目的に流用され、それが継続する場合、経済的虐待に該当する可能性があります。

高齢者虐待の発生件数

令和5年度に報告された、高齢者が家族や介護職員から虐待を受けた件数は1万8000件を超え、過去最多となりました。このうち90%以上が家族や親族によるものであることが、厚生労働省の調査で明らかになっています。

家族や親族による虐待の内訳を見ると、最も多いのが身体的虐待(身体拘束を含む)で、次いで心理的虐待、ネグレクト(介護・世話の放棄・放任)の順となっています。

また、虐待の程度が深刻なケースほど、介護保険サービスを利用していない傾向があることも指摘されています。これを受けて厚生労働省は、自治体に対し適切な支援やサービスの提供を促すとともに、虐待防止の体制を整え、事業所への働きかけを強化するよう対策を進めています。

高齢者虐待で多いのは身体的虐待

高齢者虐待の中でも、身体的虐待が最も多く発生しています。

これは、介護者が長期間にわたって介護を行う中で、心身に大きな負担がかかり、ストレスが蓄積されることが主な原因のひとつです。特に、認知症の高齢者に対しては、適切な対応方法がわからず、イライラや焦燥感を感じやすいという状況も、身体的虐待につながる可能性を高めています。

介護現場における人手不足や、介護技術の不足も、身体的虐待を引き起こす要因となります。介護者が一人で多くの利用者を担当せざるを得ない状況や、利用者の状態に合わせた適切なケアを提供できない状況は、介護者だけでなく、利用者にとっても大きな負担となります。

身体的虐待を防ぐためには、介護者の負担軽減が不可欠です。介護サービスの利用や、チームでの連携を強化することで、介護者の負担を軽減し、質の高いケアを提供できる環境を整えることが重要です。また、介護職員向けの研修を充実させ、認知症ケアに関する知識や技術を向上させることも効果的です。

高齢者虐待が発生しやすい介護施設の種類

厚生労働省の調査、令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果によると、介護施設で発生した高齢者虐待の多い施設種別は、以下の通りです。

・特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)(31.3%)
・有料老人ホーム(28.0%)
・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)(13.9%)
・介護老人保健施設(10.2%)

また、虐待を行った職員の約8割は介護職員であることが報告されています。

施設で発生する虐待の主な種類は「身体的虐待」「心理的虐待」「ネグレクト」であり、身体拘束についても多数の報告が上がっています。

虐待が発生する要因としては、職員のストレス、教育・知識の不足、介護技術の未熟さ、さらには虐待を助長しやすい職場の組織風土などが挙げられます。

一方で、虐待に関する通報・相談についての通報者の内訳は以下の通りです。

・当該施設職員(28.7%)
・当該施設管理者等(16.7%)

施設内での虐待防止には、適切な職員教育や職場環境の改善が重要とされています。

高齢者虐待で見られやすいサインとは?

高齢者虐待により気持ちが落ち込んでいる高齢者

高齢者虐待は、被害を受けた本人が直接訴えることが難しい場合が多いため、周囲の気づきが重要です。虐待の兆候を見逃さないよう、それぞれのサインについて確認しましょう。これらのサインに気づくことが、虐待の早期発見と防止につながります。

①身体的虐待
・転倒などの明確な理由がないのに不自然なアザや傷がある。
・「家にいたくない」「叩かれる」などの本人の訴えがある。
・質問された際に家族の顔色を伺うことが多い。
・緊急性が高い場合は、警察や救急へ連絡し速やかに対応することが必要。

少しでも疑わしいと感じたら、一人で抱え込まずに相談機関へすぐに相談しましょう。

②介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)
・髪や髭が伸び放題になっている。
・身体から異臭がする。
・自宅内が極端に不衛生な状態になっている。

③心理的虐待
・理由なく泣いていることが多い。
・投げやりな態度をとるようになった。
・食欲の変化(食欲不振・過食・拒食)が見られる。
・言葉で不安や辛さを表現できなくなることもあるため、関係者が小さな変化を見逃さずに総合的に判断する必要がある。

④性的虐待
・肛門や生殖器に傷や出血が見られる。
・歩行や座る姿勢に違和感がある。
・排泄や入浴介助を突然強く拒否するようになる。
・排泄の失敗に対して服を着せてもらえないなどの懲罰的行為も性的虐待に該当する。

⑤経済的虐待
・必要な通院ができていない。
・介護サービス費用の滞納が続いている。
・衣類が著しく古びているのに、新しいものを買ってもらえない。
・「家族にお金を取られた」など本人からの訴えがある場合は、事実確認が必要。

これらのサインは、必ずしも虐待を意味するわけではありませんが、注意深く観察する必要があります。もし、これらのサインに気づいたら、一人で悩まずに、地域包括支援センターや市町村の福祉担当窓口など、専門機関に相談することが大切です。

高齢者虐待の防止対策

高齢者虐待について勉強会を行う介護職員

高齢者虐待を防止するためには、家族だけで抱え込まないことが大切です。医療や介護のサポート、地域活動の利用を積極的に行い、支援体制を整えましょう。

施設での対応においても、1人のスタッフで抱え込まず、チームで取り組むことが重要です。医療・介護スタッフが協力し、無理をせず、高齢者が安心して過ごせる環境を確保することが求められます。

また、国は2017年度から「介護事業者向け」「市町村向け」「地域住民向け」の3つの柱での対策を見直し、強化しています。

①介護事業者向け
介護施設は閉鎖的な場所であるため、虐待の実態が表面化しにくいという課題があります。このため、地域住民との積極的な交流や地域支援事業を通じた介護相談員の派遣を活用することが推奨されています。これにより、施設が「外部に開かれた施設」として、地域の支援を得やすくなります。

また、法定研修を通じて虐待防止の取り組みを強化し、スタッフ全員の技術や知識を向上させることが求められています。さらに、職員のストレスが虐待の原因となるケースもあることから、ストレスケアを企業として実施することも重要な対策です。

②市町村向け
都道府県では、市町村職員を対象とした法制度に関する研修が実施されています。加えて、WEBサイトや広報活動を通じて、通報窓口の周知を強化しています。市町村や地域包括支援センターが発行する広報誌やリーフレットにも、虐待防止に関する情報を掲載し、地域全体での認識向上を図っています。

③地域住民向け
地域住民にも虐待防止への理解を深めてもらうため、リーフレットや通報窓口の周知が徹底されています。地域住民が高齢者虐待に気づき、適切に介入できるようにするため、「地域住民向けのシンポジウム」などの開催も行われ、積極的に支援が求められています。

職員のストレスケア(ストレス軽減)

介護職員のストレスを軽減するためには、職員自身のストレス状況を把握し、適切なサポートを提供することが重要です。ここでは、具体的なストレス軽減の方法について解説します。

①職員(自分自身)のストレス状況を把握する
日常の行動から職員の変化を感じ取ることが大切です。例えば、以下のような点に注意しましょう。

・遅刻や早退、欠勤が増えている
・ミスが多くなっている
・表情が暗く、元気がない日が増えている
・服装や身だしなみの乱れが目立つ
・業務の効率が低下している

これらの変化を見逃さず、早期に対応することがストレスケアにつながります。

 

②相談しやすい職場環境をつくる
管理者やフロアリーダーは、職員と日常的にコミュニケーションを取り、小さな変化を見逃さないようにすることが重要です。職員が悩みや負担を抱え込まないよう、「いつでも相談できる環境」を整えましょう。

③業務の効率化を図る
業務過多や人手不足による長時間労働は、職員の大きなストレス要因となります。以下の対策を講じることで、負担を軽減できます。

・業務の見直しを定期的に行い、不要な作業を削減する
・記録業務を効率化するために、ICTシステムを導入する
・適切な人員配置を行い、過度な負担が特定の職員に偏らないようにする

④ストレスマネジメント研修を導入する
ストレス対策として、ストレスマネジメント研修を定期的に実施することも効果的です。ストレスに対する理解を深め、適切な対処法を学ぶことで、職員が自らストレスをコントロールしやすくなります。

⑤働きやすい職場環境の整備
・コミュニケーションの活性化のため定期的なミーティングや懇親会を開催し、職員間のコミュニケーションを促進しましょう。
・休暇制度の活用により職員が休暇をしっかりと取得できるよう、制度の周知徹底と活用を促しましょう。
・健康管理への支援のため健康診断や予防接種の実施、健康相談窓口の設置など、職員の健康維持をサポートするとよいでしょう。

施設全体での研修・教育

近年、高齢者虐待の事例は増加傾向にあり、法定研修においても虐待防止研修は必須とされています。不適切なケアを早期に発見し、改善することが虐待防止につながります。そのためには、事業所・施設の職員全員が積極的に学び、実践する姿勢を持つことが重要です。

虐待防止には、単に知識を習得するだけでなく、現場で問題点を発見し、適切に報告・対応できる体制の構築が不可欠です。そのためには、日頃から職員同士が相談しやすい環境を整え、報告しやすい関係性を築くことが求められます。

高齢者虐待が起こってしまうと、施設の継続にも影響があります。事業所としての責任を問われ、求人や利用者の集客にも影響が出るでしょう。施設全体で効果的な虐待防止研修を実施し、職員一人ひとりが問題意識を持ち、具体的な行動に結びつけられるよう取り組みましょう。

職場環境の改善

職場内で虐待が発生する要因にはさまざまな理由が考えられますが、その根本的な解決策として最も重要なのは職場環境の改善です。ここでは、具体的な改善策として2つのポイントを挙げます。

1.職員のストレスケアの充実
職員が職場で悩みを抱え、相談できないまま働き続けると、ストレスが蓄積し、精神的な余裕を失ってしまいます。その結果、感情のコントロールが難しくなり、虐待につながるケースも少なくありません。

職員が気軽に相談できる環境を整えることが、虐待防止の重要な要素となります。管理者やリーダーが積極的に声をかけ、風通しの良い職場づくりを目指しましょう。

2.適切な人員配置と休息の確保
慢性的な人手不足は、身体拘束などの不適切なケアのリスクを高めるだけでなく、職員の心身の負担も増大させます。そのため、適切な人員配置や休憩時間の確保が重要です。公平なシフト作成を心がける必要があるでしょう。

職員が十分な休息を取れる職場環境を整えることで、業務のオンオフを切り替えやすくなり、モチベーションの維持や離職防止にもつながります。また、チーム内で積極的に声を掛け合い、お互いをフォローし合う関係を築くことで、介護の質の向上と虐待防止につなげていきましょう。

もし、高齢者虐待を発見したらどうすれば良い?

高齢者虐待についての通報をする

高齢者虐待を発見した場合、速やかに適切な機関へ通報することが求められます。職場や地域で虐待の疑いがある高齢者を見かけた際は、市区町村の窓口または地域包括支援センターに通報しましょう。

相談を受けた窓口では、以下の流れで対応が行われます。

高齢者虐待 通報後の流れ

 
・情報の収集:虐待の種類、程度、状況など、詳しい情報を収集します。
・事実確認:関係者への聞き取り調査や、現場への訪問などを行い、事実関係を明らかにします。
・安全確保:被害者の安全確保を最優先に考え、必要な措置を講じます。
・支援計画の作成:被害者の状況に合わせて、適切な支援計画を作成します。
・関係機関との連携:警察、医療機関、福祉機関など、関係機関と連携して、問題解決を目指します。

大切なのは、早期の対応です。虐待が深刻化する前に、専門家の手を借りることが重要です。高齢者虐待防止法では、通報者への保護規定が定められています。

つまり、虐待を疑って通報したことで、通報者が不利益を被ることはありません。また、相談内容については厳重に守秘義務が守られることが定められています。安心して通報し、虐待の早期発見・防止に協力しましょう。

まとめ

令和3年度の介護報酬改定により示され、令和6年度からはすべての介護サービス事業所に「高齢者虐待防止の推進」に関する取り組みが義務化されます。

また、同じく令和6年度から介護報酬改定において、利用者への虐待を防ぐための取り組みが不十分な場合に、介護報酬が減算される高齢者虐待防止措置未実施減算が導入されました。

 
日本の高齢者(65歳以上)の人口は、2025年には3,657万人に達し、2042年には3,878万人でピークを迎えると推計されています。人口の約4割が高齢者となる中、要介護者や認知症高齢者の増加が見込まれ、介護を担う側の負担もさらに大きくなると予想されます。

こうした状況の中で、高齢者が安心して最期まで暮らせる社会を実現するためには、切れ目のない支援と関係機関の連携がより一層重要となります。特に、医療・介護福祉従事者は、虐待の早期発見がしやすい立場にあるため、高齢者や養護者が孤立しない環境づくりを心がけることが大切です。

介護の悩みを一人で抱え込まず、地域や関係機関と協力しながらチームで支えていくことが、高齢者の安心につながります。高齢者虐待の発生を1件でも減らし、「虐待ゼロ」を目指す意識を一人ひとりが持ち続けましょう。

この記事の執筆者伊藤

所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士

20年以上、介護・医療系の事務に従事。
デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。
現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。

 
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