「介護職の離職率は高い」というイメージが浸透している傾向がありますが、介護の離職率は全産業と比べても決して高くはありません。介護職の離職率が高いイメージは、介護の現場は常に人手不足の状況が続いていることが原因ではないでしょうか。
本記事では、介護職の離職率の推移をまず紹介し、介護職の離職理由、そして介護職の離職率を下げるための対策について考えていきたいと思います。
離職率の高さに悩む介護施設の管理職、採用担当の方など、ぜひ参考にしてみてください。
目次
介護職の離職率の推移
介護職の離職率の推移は増加のイメージがあるかもしれませんが、しかし近年の状況としては離職率は増加しておらず、緩やかに低下傾向にあります。まず初めに介護職と全産業の離職率を比較し、離職率の推移を見ていきたいと思います。
他業界と比較して決して高くない介護職の離職率
介護職は離職率が高いイメージがありますが、厚生労働省「令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について P5」によると、介護職員の離職率は2019年の16.0%から徐々に低下しており、2023年には13.6%となっています。
全産業で見ると、令和5年 雇用動向調査結果の概要によれば、離職率は15.4%です。
全産業の離職率と比較して介護職の離職率は低いといえることが分かります。
介護施設により介護職の離職状況には差があるのが現状
前述したように介護職の離職率は、緩やかに低下しています。しかし、介護施設・事業所ごとにみると離職率10%未満の介護施設・事業所が約40%を占めていますが、離職率30%以上の介護施設・事業所も約20%あり、離職率は2極化していることがわかります。
また、介護施設・事業所の規模別に見ると、
従業員9人以下の介護施設・事業所 | 22.0% |
従業員数10〜19人以下の介護施設・事業所 | 18.8% |
従業員数20〜49人以下の介護事業所 | 17.0% |
従業員数50人〜99人の介護施設施・事業所 | 15.2% |
100人以上の介護施設・事業所 | 14.7% |
といったように、小規模の事業所で離職率が高くなっています。理由として考えられるのは、利用者に対して職員数が少なく、介護業務の負担が大きいことが理由として考えられます。
参考:離職率・採用率の状況
介護職の離職理由
介護職の離職率は2極化していることを先ほど示しました。それではどのような理由で離職しているのか、具体的な介護職の退職理由を厚生労働省「介護人材の処遇改善等」(介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)より見ていきます。
1.職場の人間関係に問題があった 27.5%
2.介護施設や事業所の理念や運営の方針に不満があった 22.8%
3.他に良い仕事・職場があった 19.0%
4.収入が少なかったため 18.6%
5.自分の将来の見込みが立たなかったから 15.0%
上記5つの理由が、上位を占めています。
参考:介護人材の処遇改善等 (介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)
次にそれぞれの退職理由を詳しく説明していきます。
人間関係に問題がある
どの仕事にも人間関係の悩みはあるものだと思いますが、介護現場では様々な経験、考え方を持つ人たちが働いています。まして介護職はチームで業務を行っています。そのため人間関係に支障が出ると、仕事のやりにくさだけではなく、精神的負担も大きくなってしまいやすいのです。
また、人間関係には職員だけでなく、利用者との関係も含まれます。職員に対して暴言や暴力を行う方もおられます。それでも、介護職はどうにか対応しなければなりません。
ストレスを受け続けると、心身ともに疲弊し退職を選ぶ介護職も少なくありません。そのため職員のストレスケアにも気を配ることも、役職者の重要な業務と言えるでしょう。
介護職員のストレスマネジメントについては下記の記事をご参考にしていただけたらと思います。
介護施設・事業所の理念などへの不満
介護施設や事業所では理念を掲げています。就業時は特に気にならなかったことも、勤めていくうちに気になってくることもあります。
経営側と職員側とでは意見が合わないこともあり、利用者の介護と経営方針の板挟みになって苦しみ、退職を選ぶ職員もいます。
他に良い仕事・職場があった
全国にはたくさんの介護施設や事業所があり、それぞれの理念や特化した取り組みが行われています。どの介護施設や事業所が合うのかは人それぞれです。
自分にあった施設を選択することで力が発揮でき、スキルアップができるのであれば前向きな退職理由といえます。
給与・収入が少なかった
介護職の給与は、夜勤の有無によって変わってきますが、一般的に比較して平均年収は低いと言われています。介護職の仕事は、精神的にも肉体的にも負担が大きい仕事です。
また、人手不足でも仕事の内容は変わることはありません。すると、残業が増加し勤務時間が長くなり、心身ともに疲弊してしまいます。そんな毎日を振り返ると、労働に対しての対価が合わないと思ってしまいます。
そして給与や収入に対しての不満が、離職の要因となってしまいます。
将来の見込みが立たなかった
給与・キャリアアップなどの不安から、介護の仕事を続けることに悩み退職する人もいると考えられます。給与面や教育制度は施設によって大きく違います。
給与・キャリアアップなどの不安を抱える介護職員は、もっと自分の目的にあった施設への転職を考えるでしょう。特にスキルの高い職員ほど、より良い環境を求めて転職する傾向があります。
こうしたことが、介護職の転職率に大きく影響していると考えられます。
介護職の離職対策、離職率を下げるためにできること
介護職の離職率は低下しているのに、人手不足だと感じる介護職員は多いのではないでしょうか。また欠員が出たので募集をしても、なかなか人が集まらない・・・、と感じている介護事業所も少なくはないでしょう。
そうなると、離職率を低下させることが重要になってきます。それでは、具体的に介護職の離職対策を考えていきましょう。
業務改善による負担軽減
介護職の業務内容は、直接的な介護から間接的な業務と多岐にわたります。忙しく動き回り心身ともに疲弊していきます。
ICTツールの導入などにより日々の業務負担が軽減されれば、様々な効果が期待できます。利用者に対してのケアをする時間が増え、やりがいを感じる瞬間も増えるでしょう。
また負担軽減により残業時間などが削減されることで、職員の心身状態も維持しやすくなり、結果として日々の介護の質の向上にも繋がることも期待できます。
希望休や有給休暇を取得しやすくする
介護職はシフト制の勤務となっており、1日の必要な勤務人数も決まっているため、休みたい時に休めないこともあったり、希望休の数が決まっているところも多いと思います。
人手不足でなかなか有給休暇をとれなかったり、残業が多いなどの状況の介護施設・事業所は多いのではないでしょうか。
職場の人員状況を見直したりシフト改善を行うなどで、希望休や有給休暇を取得しやすくすることができれば、仕事とプライベートどちらも充実しやすくなり、職員の満足度の向上が見込めます。
労働条件を改善する
働く上で労働条件が改善されると、職員の満足度は向上します。日勤専従・夜勤専従など、介護職員の望む働き方に寄り添った、労働環境をつくることが有効です。
もちろん、各職員の希望に沿った労働条件を実現するためには人員計画も見直す必要があるかもしれません。しかし、長期的に施設経営を考えた場合には、離職率低下につながる労働環境を実現することは重要だと言えるでしょう。
コミュニケーションの円滑化
コミュニケーションの円滑化は、チームで動いている介護職にとってとても重要なことです。コミュニケーションがうまくいかないことで、人間関係のストレスが増強され退職を考える介護職は少なくありません。
日常の申し送りやミーティング、定期的な面談などを実施しコミュニケーションの円滑化を図りましょう。人間関係のストレスが解消されるだけでなく、業務がスムーズに行える環境になることも期待できます。
教育環境を充実させる
介護の現場は、常に人手不足と言われています。配属後、十分な教育もなく、日々の業務を行うことも珍しくはありません。そうした状況下にあると、正しく知識や技術を身につけられているのか不安に思うこともあります。
教育環境を整えることは、介護職のスキルアップにつながります。特に経験の浅い介護職員の将来の不安(介護技術が身に付かない不安など)も払拭する事ができ、離職防止としては有効と言えます。
人事評価制度の見直し(給与・昇進等)
自分の働きを正しく評価されていないと感じることは、退職のきっかけとなるでしょう。そのために、職員を公平に評価する「人事考課制度」の導入や見直しは、離職防止の対策として有効でしょう。
誰もが公平に評価されているとわかる制度があれば、職員のモチベーションも上がり、将来の不安も払拭されるのではないでしょうか。
国の介護人材確保対策について
将来的には介護人材の不足は拡大すると予想されており、介護人材の確保については、国も対策を立てて人手不足の解消を目指しています。例えば次のような対策です。
・介護職員の処遇改善
・多様な人材の確保・育成
・離職防止・定着促進・生産性向上
・介護職の魅力向上
・外国人材の受け入れ環境の整備
このように、国も介護現場の人材確保に本格的に乗り出しています。しかし、介護施設・事業所ごとに取り組まれる離職対策の方が、職員の満足度の向上に結びつきやすく、対策としても即効性があります。そのため、各介護施設・事業所がそれぞれに離職対策を実施することが重要です。
今後の介護人材不足に備え離職率低下は重要課題
離職率が上がる大きな理由に、人手不足があると考えられます。そのために、今いる職員がここで働き続けたいと思える(離職率の低い)環境づくりが重要なことはおわかり頂けたと思います。
そこで重要となるのが、介護現場で無駄と思われる業務をいかに削減し、業務効率を向上させるかと言えるでしょう。そのために国も推奨しているのが、介護現場のDX化、ICT化です。
次に、具体的な対策例として、ICTツールの活用について考えていきたいと思います。
ICTツール活用で得られるメリット
ICTツールの活用とは、例えば、今まで紙で管理していた情報をデジタル化し、業務負担の軽減を図るといったことです。もちろんメリットばかりではなく、ICT導入にあたり設備や備品の購入にコストがかかってしまう、といったデメリットもあります。
しかし介護現場のICT化は、介護をする側だけでなく、介護をされる側にも大きなメリットがあります。より良い介護施設を実現するためには、大切な投資だと言えるでしょう。
ICTツール活用で得られるメリットとしては、次のようなことが挙げられます。
業務効率化
介護の現場では日常生活のお手伝いの合間に、記録や書類作成などの間接業務を行っています。その中には、一つの出来事をカルテや申し送りノートなどに記入するなど、二度手間な業務も少なくありません。間接業務が介護職員の負担となり時間外労働へとつながっててしまうのです。
ICTツールの活用により、二度手間となっていた作業が必要なくなり、間接業務の負担が軽減されます。また、情報共有や記録の確認も容易にできるようになり、多職種との連携もスムーズに行えるようになります。
ペーパーレス化ができるので、記録用紙等の保管スペースやコストの削減が期待できます。また、見守りシステムの導入により、ご利用者の安否確認のサポートができるため、職員の精神的な負担の軽減が図れます。
時間の創出
間接業務の負担が減少することで、新たな時間を確保できます。空いた時間でご利用者との時間を増やせることで、介護ケアの質の向上にも繋がります。
また、時間にゆとりが生まれることで、介護職員の心のゆとりにもつながります。さらに職員の研修等を行う余裕もでき、個々の職員のスキルアップを図ることもできます。
従業員満足度の向上
介護の仕事を目指した理由は様々だと思いますが、利用者とコミュニケーションを図りながら、必要な介助を行いたいと思っている方も少なくないと思います。しかし現実は、直接介護の部分と間接業務に追われ、ゆっくりお話する時間もありません。
ICTツールの活用で、介護業務の中で機械ができることは機械にしてもらうことで、職員にゆとりが生まれます。ご利用者と余裕を持って関われる時間が増えることで、介護の質も上がり、職員も仕事のやりがいを感じやすくなることが考えられます。
まとめ
高齢社会に突入し介護の需要はますます高まっています。しかし、介護職の処遇や労働環境は多くの問題を抱えています。このまま改善を怠ると、需要と供給のバランスが保てなくなり、今以上に介護職員一人あたりの業務が増加し、職員の満足度は低下し、離職率が高くなるという負の状況に陥ります。
そのため、積極的に介護職の処遇や業務の改善を行うことが大切です。ICTツールの活用などにより、介護職がご利用者の介護やコミュニケーションにより専念することができると、職員の満足度の向上が見込めます。
職員の満足度が上がれば、退職率の低下につながるでしょう。介護職員の離職対策の中でICTツールを活用することは、このような問題にかなり力を発揮できることが期待できます。
介護処遇や労働環境の改善に取り組む際には、ICTツールの活用も視野に入れてみて下さい。施設として職員が離職する要因を探り、常に改善の意識をもって介護職員の離職防止に努めていくことは、これからの介護施設経営により重要なことといえます。
当サイト内には、他にも介護現場の業務改善、ICT化などに関連した記事を掲載しています。こちらもぜひご覧ください。
・介護・福祉現場のICT化 活用事例・導入事例5選
ICTとは何か・介護業界における実際の活用事例や導入事例、メリット・デメリット、ICT導入支援事業などを紹介。
・介護現場のICTとは?種類と活用例を紹介!
介護現場の業務効率化・生産性向上につながるICT化の種類、活用事例を紹介しています。
・介護DX化とは?導入事例やメリット・デメリットも解説
介護DXとはどのようなものなのか導入事例をあわせて解説し、メリット・デメリットも解説。
この記事の執筆者 | yoko 所有資格:介護福祉士 介護支援専門員 介護職として、デイケア、訪問入浴、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、訪問介護、定期巡回随時対応訪問介護、ホームホスピスで計25年勤務。 25年の経験の中で、介護主任として介護職員の指導・育成・管理業務を経験し、さらに介護部長、管理者として施設運営も経験し、地域密着型特別養護老人ホームの開設にも携わる。 現在は介護老人保健施設で、一般介護職として勤務。今後は主任ケアマネを取得するために、特別養護老人ホームで、介護支援専門員としての勤務予定。 長い現場経験を活かし、介護特化のライターとしても活動中。 |