介護事業所を経営していく中で、IT機器やICT機器導入を検討している経営者も多いことでしょう。導入に際し、補助金の活用を考えているが、IT導入補助金とICT導入補助金の違いがよく分からない…といったことで情報収集されている方も多いのではと思います。
この記事では、主に以下の点について解説します。
・IT導入補助金について
・ICT導入補助金について
・両者の違い
・どちらがおすすめか
IT導入補助金とICT導入補助金、どちらが自分の事業所向けなのかを知り、補助金導入の手続きを進めていきましょう。
IT導入補助金とは
IT導入補助金とは、介護事業所を含む中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際に受けられる補助金で、労働生産性の向上を目的としています。
事業所単独では補助金申請ができず、IT導入支援事業所の支援が必要です。
IT補助金の種類
IT補助金の種類は以下の4つです。
1.通常枠
2.インボイス枠
3.セキュリティ対策推進枠
4.複数社連携IT導入枠
通常枠はA類型とB類型に分かれており、インボイス枠はインボイス対応類型、電子取引類型に分かれています。介護事業所に関連するものは、通常枠及びインボイス枠(インボイス対応類型)となるでしょう。
1.通常枠
通常枠は、自社の課題に合ったITツールを導入するための補助金で、A類型とB類型があります。ただし、全てのITツールに通用するものではなく、以下に示した7つの業務プロセスに該当するITツールに導入が条件です。
1.顧客対応・販売支援
2.決済・債権債務・資金回収管理
3.供給・在庫・物流
4.会計・財務・経営
5.総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情報システム
6.その他のシステム
7.汎用・分析・自動化ツール
A類型は、上記7つのうち1プロセス以上のツールを導入した場合に該当するもので、補助金額は、5万円以上150万円未満です。
B類型は、上記7つのうち4プロセス以上のツールを導入した場合が対象になり、補助金額は150万円以上450万円未満になります。
A類型、B類型ともに補助率は1/2分の1以内です。
2.インボイス枠
インボイス枠は、以下の2つに分かれます。
・インボイス対応類型
・電子取引類型
2023年度までは「デジタル化基盤導入枠」でしたが、2024年度からインボイス枠と改められました。ここでは、介護施設との関連が深いとされる、インボイス対応類型についてのみ説明します。
インボイス対応類型は、インボイス制度に対応したソフトウェア及びハードウェアを導入する場合に用いられます。
ソフトウェアとしてあげられるのは、主に以下のとおりです。
・会計ソフト
・受発注ソフト
・決済ソフト
ハードウェアとしてあげられるのは、主に以下のとおりです。
・パソコン
・タブレット
・レジ
・券売機
介護事業所に関係するハードウェアは、パソコンやタブレットになるでしょう。ただし、ハードウェア単独での導入は対象外なので、ソフトウェアとあわせて導入してください。
ソフトウェアの補助額と補助率を以下に示しました。
中小企業 | 小規模事業所 | |
補助額50万円以下 | 補助率3/4以内 | 補助率4/5以内 |
補助額50万円超350万円以下 | 補助率2/3以内 | 補助率2/3以内 |
ハードウェアの補助額と補助率は以下のとおりです。
補助額 | 補助率 | |
パソコンやタブレット | 10万円以下 | 補助率1/2以内 |
レジや券売機 | 20万円以下 | 補助率1/2以内 |
3.セキュリティ対策推進枠
セキュリティ対策推進枠は、サイバー攻撃により事業が困難になることを防ぐためにITツールを導入するための支援です。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が広報している、「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているサービスが対象になります。
参照:サイバーセキュリティお助け隊サービス ユーザー向けサイト | IPA
4.複数社連携IT導入枠
複数社連携IT導入枠は、文字どおり、複数の中小企業や小規模事業所が連携してITツールを導入して、生産性を高める取り組みに対する補助制度です。
商工会議所、商工会といった商工団体が対象になります。
IT導入補助金の補助対象例
IT導入補助金の対象になるものとしては、以下のようなものがあります。
・業務効率化生産性向上に役立つITツール(会計ツール・勤怠労務管理ツールなど)
・クラウド利用料
・導入コンサル
・保守サポート
なお、パソコンやタブレットといったハードウェア単独の導入は、補助対象外です。
補助金交付までの10ステップ
IT導入補助金の交付までの10ステップを以下に示しました。
1.公募要領確認
2.gBizIDプライム及びSECURITY ACTIONの実施
3.みらデジ経営チェックの実施
4.IT導入支援事業所及びITツールの選定
5.補助金の交付申請
6.交付決定
7.ITツールの導入
8.事業実績報告
9.補助金交付
10.事業実施効果報告
詳しくは、新規申請・手続きフロー(中小企業・小規模事業者等のみなさまの手続き)をご覧ください。
ICT導入補助金とは
ICT導入補助金とは、厚生労働省による「介護テクノロジー導入支援事業」の一部です。
ここでは、介護テクノロジー導入支援事業全体について説明したのち、「ICT導入支援事業=IT導入補助金」として説明します。
介護テクノロジー導入支援事業について
介護テクノロジー導入支援事業の目的は、主に以下のとおりです。
・業務改善や効率化
・介護職員の業務負担軽減
・介護サービスの充実
・介護現場の生産性向上
「業務効率化によって生まれた時間をサービス利用者のケアにあてて、介護サービスを充実させる」と覚えておくとよいでしょう。
介護テクノロジー導入支援事業で補助対象になるものを、以下に示しました。
・介護ロボット
・ICT機器
・介護現場の生産性向上に係る環境づくり
ICT機器導入の補助的役割を果たすのが、ICT導入支援事業になります。
ICT導入支援事業
ICT導入支援事業は、厚生労働省が管轄のうえで各都道府県が実施しており、2019年(令和元年度)に始まりました。2021年(令和3年)度には、全都道府県で実施されています。
支援対象となるICT機器の例を以下に示しました。
・介護ソフト
・タブレット端末
・スマートフォン
・インカム
ほかにも、Wi-Fi機器の購入設置やICT機器の運用に関する諸経費(クラウド利用料、サポート費など)も支援対象です。
補助額
ICT導入支援事業における補助額を、以下に示しました。
・1~10人:100万円
・11~20人:160万円
・21~30人:200万円
・30人以上:260万円
介護事業所の従業員数によって変わることが特徴です。
補助率
一定の条件を満たした場合に対象経費の3/4が補助され、条件に満たない場合は1/2が補助されます。
参照:令和6年度概算要求の概要(老健局)の参考資料|介護テクノロジー導入支援事業(仮称)
補助の必須要件
ICT導入支援事業による補助を受けるためには、以下の要件を満たすことが必須です。
・導入計画書の作成
・2年間の導入経過報告
・SECURITY ACTIONの実施(一つ星か二つ星の宣言)
・他事業支所からの照会に対応すること
・LIFE(※)による情報収集・フィードバックに協力すること
(※)LIFEとは、2021年度(令和3年度)から運用を開始した科学的介護情報システムです。
・科学的介護推進体制加算(LIFE加算)とは?算定要件や対象介護サービスを解説
科学的介護情報システム(LIFE)について、その概要や仕組みについて解説しています。今後重要となると考えられるLIFE加算について押さえておきましょう。
補助金交付までの6ステップ
ICT導入支援事業による補助を受けるためには、以下に示した6つのステップがあります。
1.事業所を管轄している都道府県に補助要件を確認
2.購入機器が補助要件に当てはまるか企業に確認
3.補助金の交付申請
4.交付決定
5.実績報告書提出
6.補助金交付
補助金の交付申請先は、事業所を管轄する都道府県です。
IT導入補助金・ICT導入補助金の違いについて
ここでは、IT導入補助金とICT導入補助金の違いを簡単に説明します。
1.管轄の違い
IT導入補助金:経済産業省の管轄
ICT導入補助金:厚生労働省の管轄
2.対象事業者の違い
IT導入補助金:介護事業者以外の事業所も対象
ICT導入補助金:介護事業所が対象
3.補助金額の違い
IT導入補助金:導入する機器の種類ごとに異なる
ICT導入補助金:事業所規模や都道府県により補助金額が異なる
4.補助率の違い
IT導入補助金:補助金の種類ごとに補助率が異なる
ICT導入補助金:対象経費の3/4(一定の条件を満たした場合)もしくは1/2
5.補助対象範囲の違い
IT導入補助金:種類ごとに異なるが、ハードウェア(パソコンやタブレットなど)単体は補助対象外
ICT導入補助金:ハードウェア単体も補助対象になる
IT導入補助金・ICT導入補助金、どちらの活用がおすすめ?
大前提として、両者は併用できません。
今後導入する場合は、ハードウェア購入単独も補助対象になるICT導入補助金がおすすめと考えられます。
しかし、最終判断は事業所にゆだねられるので、経営している事業所の実態にあう方を選びましょう。
まとめ
この記事では、以下について説明しました。
・IT導入補助金について
・ICT導入補助金(ICT導入支援事業)について
・両者の違い
・介護事業所におすすめなのはどちらか
それぞれに違いがあり、「どちらがおすすめか」は導入したい機器や介護事業所の実態によって異なります。
今後、IT機器やICT機器は介護現場での必要性が高まり、積極的な活用が求められます。
事業所の実態にあった補助制度を選んで、各種機器を導入していきましょう。
この記事の執筆者 | 古賀優美子 保有資格: 看護師 保健師 福祉住環境コーディネーター2級 薬機法管理者 保健師として約15年勤務。母子保健・高齢者福祉・特定健康診査・特定保健指導・介護保険などの業務を経験。 地域包括支援センター業務やケアマネージャー業務の経験もあり。 高齢者デイサービス介護員としても6年の勤務経験あり。 現在は知識と経験を生かして専業ライターとして活動中。 |
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当サイトでは介護施設のICT化、ICTツール導入に関して、以下のような記事を掲載しています。
合わせてご覧ください。
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