高齢社会が進んでいる日本では、2025年に65歳以上の5人に1人が認知症になると言われています。年齢を重ねるほど発症する可能性が高まるため、今後も認知症の方は増え続けると考えられます。
認知症になると、脳の障害により認知機能が低下し、日常生活に支障をきたします。認知症というと「物忘れ」が主な症状のイメージかもしれませんが、その他にも様々な症状がみられます。中には、自分の思いをうまく表現できない方もいます。
認知症の方のニーズを把握して、適切なケアを行うためにはアセスメントが大切です。的確なアセスメントとケアにより、認知症の周辺症状(BPSD)が大きく改善することもあります。
今回は、認知症ケアにおけるアセスメントの重要性と視点のポイントをお伝えします。この記事を読めば、認知症の方へ充実したアセスメントを行うことができ、よりニーズに沿ったケアができるはずです。
目次
介護現場でアセスメントが必要な理由
介護現場での利用者の悩みは、人によって大きく異なります。同じ介護度の方であっても、抱えている疾患も違えば、生活に困難を感じている部分も違います。
介護現場では、すべてのひとに同じケアを行うわけではありません。画一的なサービスを行うことは、適切な支援ができないどころか、その方のできることも奪ってしまい、自立度を下げてしまうことにもなりかねません。
そこで、利用者の生活状況やそれぞれの要望(ニーズ)に応じたケアを行うために必要とされるのが「アセスメント」です。介護現場におけるアセスメントは、利用者の身体機能だけでなく、価値観や考え方も含め、その方全体を捉えます。
つまり、
介護におけるアセスメントとは、利用者の悩みや要望、心身の状態、人生についての思いや周囲の環境について詳しい情報を集め、必要なケアを行うために分析すること
を指します。質の高い介護サービスを提供するには、アセスメントのプロセスが欠かせません。
認知症の方のアセスメントの重要性
認知症の方の中には、自分の気持ちをうまく伝えられない方も多くいます。そのような場合は、普段の生活や行動からその方のニーズを考えたり、ご家族など周囲の方からの情報収集が重要です。
また短期記憶障害により、すぐに同じことを尋ねたり、心配事がつきない方もいます。そのような方にアセスメントをしっかり行いケアを統一することで、安心できる生活を提供することも可能です。
認知症の方の行動にはすべて、原因や思い・考えがあると言われています。どうしてそのようなことをするのか、情報を収集しアセスメントを行うことで、見えなかったニーズが見つかることもあるでしょう。
認知症の症状には、中核症状と二次的に起こる周辺症状(BPSD)があります。周辺症状には以下などがあります。
・感情障害(不安、抑うつなど)
・心理症状(妄想、幻覚など)
・活動的行動(不穏、多動、徘徊など)
・睡眠障害など
これらの周辺症状は周囲の不適切なケアや身体の不調、ストレスや不安などの心理状態が原因となって現れる症状です。個別性のあるケアを行うことで不快な状況が改善されると、症状が改善される可能性があるため、適切なケアを行うためにアセスメントが重要です。
認知症の方のアセスメントの内容
経験を積んでいくとアセスメントの視点が自然に身につきますが、初めは何から確認すればいいのか分からない方も多いのではないでしょうか。
今回は認知症介護研究・研修センター監修の「ひもときシート」を元に、アセスメントの内容をお伝えしていきます。「ひもときシート」では事実と根拠に基づいた的確なケアにつなげていくための「思考の整理」をしていきます。
①認知機能障害・薬の副作用・疾患による影響
高齢者は様々な疾患を抱え、複数の薬を内服していることが多いです。その薬がなんらかの副作用を引き起こしてしまうこともあります。飲んでいる薬や体調の変化を振り返ったり、記録を残しておくことは非常に大切です。
また、認知症の症状はひとによって様々です。その症状により、日常生活で困難が生じている場面がないか確認しましょう。
例)
・ 認知機能の低下により、相手の言っていることが分からなかったり、自分の伝えたいことが伝えられずイライラしていないか
・見当識障害(時間や場所、人が認識できない障害)により、不安があるのではないか
・薬の副作用や薬の管理ができているか
②体調不良や痛みによる影響
痛みや便秘・不眠・空腹などの身体的な不調が、心の健康に影響していないか考えます。認知症の人は、痛みや苦痛が生じていても、それを自覚したり、周囲に訴えることができない場合があります。
その状態を放っておくと、せん妄や暴言などの思わぬ行動や心理症状を引き起こしてしまうことがあります。食事や水分摂取量、睡眠時間や運動量の変化など、毎日の些細な変化もきちんと把握することはとても大切です。
例)
・便秘になっていないか
・日中の過ごし方に無理はないか
・夜間はしっかり眠れているのか、トイレなどで目が覚めないか
③性格や精神的苦痛による影響
本人の性格や精神的な苦痛の影響について考えます。ここで重要なポイントは、本人が示す言葉以外の表情、しぐさ、雰囲気、眼の動きなどの非言語的な情報をくみとり、その背景について考えることです。
認知症になると、本来の性格から変化することもあります。本人の性格等について、家族や親しい人からの情報を整理してみましょう。
例)
・元々の性格が心配性だから、家や家族のことが心配なのではないか
・マイペースな性格なので、周囲から何かを強要されるのが嫌なのではないか
・周囲を見渡しているのは、自分の居場所が分からず落ち着かないのではないか
④音や光など感覚刺激による影響
本人を取り巻く環境を見直します。音・光・味・臭い・寒暖などの感覚的な刺激が、不快な気持ちにさせ、行動・心理症状を引き起こしている可能性があります。過ごしている環境が、落ち着ける空間になっているかどうか見直してみましょう。
例)
・テレビの音や職員の声が大きくて、不快に感じていないか
・聴覚に障害があり、周囲の人が自分の悪口を言っていると思っているのではないか
・部屋が暑すぎてぼんやりしているのではないか
⑤人からのかかわりによる影響
家族や介護者の関わり方による影響もあります。特に、本人と家族の関係は複雑になりやすく、双方が色々な思いを抱えていることがあります。
また、介護者による不適切なケアが、本人のストレスを引き起こす原因になっている場合もあります。
例)
・家族と関わりが少なく、不安を感じていないか
・職員に何度も声をかけられて、不快に感じていないか
・家族との関係性の悪化で、自尊心が低下しているのではないか
⑥物理的環境による影響
本人を取り巻く物理的な環境が、本人が持っている能力を引き出したり、意欲を刺激できているか確認します。適切な部屋の環境や福祉用具により、自分で出来ることが増えるほど、本人の意欲や自信につながります。
例)
・自宅の生活様式と全く違うレイアウトになっていないか
・自分の部屋やトイレの場所が分からずに困っていないか
・車いすは本人の身体に合っているのか
⑦アクティビティ(活動)による影響
介護者が提供しているアクティビティ(活動)が、精神的な負担になっていたり、自尊心を傷つけたりしていないかを確認します。本人は、自分自身の能力を適切に発揮できないと、精神的苦痛(ストレスや葛藤)を抱えてしまうことがあります。
例)
・散歩や買い物など外出がしたいのではないか
・次に何をしたら良いかわからないため、不安を感じているのではないか
・大人数でのレクリエーションが落ち着かないのではないか
⑧生活歴によって培われたものによる影響
本人が大事にしていること、こだわりを継続するケアが行われているかを確認します。生活歴や暮らし方、本人の想いや人間関係などの情報を収集してみましょう。
例)
・これまで長年やってきた仕事の影響で、早寝早起きが身体に合っているのではないか
・家族を支えるために家事を頑張ってきたから、役割がなくなることで不安なのではないか
認知症の方へアセスメントをするときのポイント
認知症の方へのアセスメントは、一般的な高齢者と同様に行っても効果的ではないことがあります。ここからは、認知症の方へ効果的なアセスメントをするためのポイントを4つお伝えします。
確定診断を参考にしながら行う
まず初めに、認知症の確定診断の有無を確認しておきましょう。認知症の原因疾患はいくつかあり、よく見られる症状にはそれぞれ特徴があります。ここでは代表的な4つの認知症を紹介します。
①アルツハイマー型認知症
脳の変性疾患で、大脳皮質連合野や海馬周辺にβアミロイド蛋白が沈着することで発症するとされています。アルツハイマー型認知症の初期症状は、多くの場合は物忘れです。進行はゆっくりで、徘徊、失禁、性格の変化などが現われ、最終的には日常生活全般において介護が必要な状態となります。
②レビー小体型認知症
大脳皮質にレビー小体が出現し、早期から幻視、幻聴、妄想などの精神症状や、パーキンソン症状が現れます。
③前頭側頭型認知症
前頭葉と側頭葉が限局性に萎縮することで起こります。特有の人格障害や同じことを繰り返す行動、自発性の低下などがみられます。記憶障害は進行してから出現しやすいです。
④脳血管性認知症
脳出血や脳梗塞などによる脳細胞の損傷が原因となって起こります。自発性の低下、抑うつ症状、注意障害、感情失禁などの症状がみられ、失語・先行・失認が目立ちます。
確定診断を確認し、その方がどのタイプの認知症なのかを知ることで、アセスメントの際に、どこに焦点を当てればよいか明らかになり、効率よく聞き取りができます。
「気になる症状があるけれど、まだ専門医を受診していない」という場合は、なるべく早く専門医を受診するのがおすすめです。なぜなら、脳腫瘍や水頭症が原因になっている場合など、手術などで治療できるタイプの認知症もあるからです。
話し方に配慮する
認知症の方は短期記憶の障害により、新しいことを覚えるのは苦手ですが、快・不快などの感受性は豊かです。関わりの後に良い感情が残るように、笑顔でうなずきながら話をするなど配慮しましょう。
長い文章は理解が難しいため、聞きたいことは簡潔に話をします。言葉だけで伝わりづらいときは、紙に字を書いたり、ジェスチャーを使うなど、いろいろな方法を試してみましょう。
すぐに返答がなかったり相手が黙っているときは、理解するのに時間がかかっていたり、どう答えようか考えている時間かもしれません。相手のペースに合わせてゆっくり話をしていくとよいでしょう。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを使い分ける
「どう思いますか?」「何がしたいですか?」など、相手が自由に答えられるような質問を、オープンクエスチョンといいます。自由に話せるメリットがある一方で、認知機能が低下した方は返答に困ってしまうこともあります。
そのようなときにはクローズドクエスチョンを活用します。「はい」か「いいえ」で答えられる質問を中心にすると、相手の答えを引き出しやすくなるかもしれません。
長時間にならないようにする
認知症の場合、同じ会話が繰り返されたりして、会話が長くなることもあります。相手の負担も配慮して15分程度を目安に区切り、数回に分けてお話をうかがうのもポイントです。
「また次回、続きを聞かせてくださいね」と約束しておくとよいでしょう。
アセスメントを職員で共有することが大切
質の高いケアを提供するためには職員全員が、利用者に対し同様のケアを行うことが重要です。利用者のニーズに対するアセスメントの過程を、すべての職員で共有することによって、利用者に行うべきケアを正しく理解できることにつながります。
また、介護職だけでなく、看護師やリハビリ専門職、医師や相談員との連携も大切です。日々の記録やアセスメントシートなどを活用し、アセスメントの過程を全職員で共有できるようにするのがよいでしょう。
まとめ
認知症介護において、ニーズを把握して個別性のあるケアをするためには、アセスメントが大変重要です。一般的な高齢者と異なり、認知症高齢者は日常生活で困難を感じることが多くあるでしょう。
自分の気持ちをうまく伝えられなかったり、支援が必要な認知症の方は、正しいアセスメントによって、自身の不安を理解してもらうことで安心して快適に過ごせるようになるはずです。
多職種でしっかり情報を共有して、統一された質の高いケアを行えるように心がけていきましょう。
この記事の執筆者 | 槇野りっか 保有資格: 看護師 急性期病院で看護師として2年勤務、その後特養で介護士として半年、看護師として5年勤務、介護業界で仕事をしてきました。 現在は介護・福祉系ライターとしても活動中。 |
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当サイトでは認知症に関して、以下のような記事を掲載しています。
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