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第20回 介護経営サミット オンラインセミナー告知

【教えて!】認知症ケア技法、ユマニチュードとは?メリットやデメリット

ユマニチュードのメリットやデメリット

認知症の方のケアを行うのは、決して簡単なことではありません。
コミュニケーションを取るのに苦労したり、暴言など認知症ならではの症状に困ったりしている方も多いと思います。
認知症ケアの技法として注目されているのが、「ユマニチュード」です。
当記事では、ユマニチュードの概要や具体的な技法、ユマニチュードのメリットなどについて解説します。
ユマニチュードについて詳しく知りたい方、認知症の方のケアを行っている方はぜひお読みください。

ユマニチュード(Humanitude)とは?

ユマニチュードとは、「人間らしさを取り戻す」という意味のフランス語で、フランスの体育学の専門家、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発した認知症ケアの技法です。

ユマニチュードの特徴は、ケアの対象となる人の「人間らしさ」を尊重し続けるということ。

ケアを通して、

あなたは大切で必要な存在である

というメッセージを伝えることを重視しています。

「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つのアクションを基本とし、人間がもともと持っている能力をできる限り引き出すことを、ケアの基本姿勢としていることも特徴です。

日本では2014年頃から普及啓発が始まっています。

ユマニチュードが目指すこと

高齢者と手をつなぐ介護職員

「人間らしさ」を尊重するユマニチュードが目指すのは、

身体・認知機能の回復や維持、そして最期まで寄り添うこと。

ユマニチュードを特徴的なものとしているのは、単に機能の回復維持に努めるだけではなく、ケアの対象者の尊厳、人間らしさを尊重してケアを行うことです。

進行性の認知症をこれ以上進行させないことを目標の一つとし、回復・機能維持を目指す。

なおかつ患者さんが穏やかな最期を迎えられるように、寄り添い続けることも目標として考え、重視しています。

回復

本人の力を活かしてケアを行うという考え方から、今できていることまでは手伝いません

介護される方が回復を希望する機能に沿ったケアを行います。

患者さんが歩くことを目標としている場合には、できるだけ立ってもらい清拭をするなどします。

「できることを行わない」ということは患者さんにとって「できないこと」に変わっていきます。

これでは余計に介護が必要になってしまいます。

回復を目指すために、できることをしてもらい、さらに可能な限り改善を目指したケアを行うことが大切となります。

機能を保つ

機能を保つためにはできることをする必要があります。

今ある機能を少しでも維持していかなくてはなりません。

少しでも立てるのであれば、立って清拭をするなどします。

少しでも歩けるのであれば、無理ない程度に歩いてもらいます。

ほんの少しの距離であっても自力で歩くことで機能維持に効果があります。

最期まで寄り添う

たとえ、身体・認知機能の回復や維持が困難になった場合でも、本人の尊厳を大切にし、最後までその人らしくあることを目指します

患者さんの気持ちに寄り添い、声かけをして、ケアされる本人の応答を求めながらケアを行います。

強制的なケアにならないように寄り添うことが、ユマニチュードでは大切です。

ユマニチュードの4つの基本

高齢者を介助する介護職員

ユマニチュードは介護を受ける方に寄り添ったケア手法で、ケアをする上でも特に柱となるのは、以下の4つです。

・見る
・話す
・触れる
・立つ

これらを実践することで、より「人間らしさを尊重するケア」ができるでしょう。

どれも介護の現場ではもちろん、ご家庭でも実践できます。

ひとつずつみていきましょう。

見る

介護者が相手に視線を合わせることで、愛情や友情を伝えます。

視線を合わせることで、相手に関心や尊敬を示し、コミュニケーションを円滑にします。

相手の表情や目線から感情や意思を読み取ることができます。

相手を見る際は、主に以下のような点に注意が必要です。

・前から見る
横から相手を見たり、目線だけを相手に向ける形で見たりすると、親しみやすさを感じにくくなってしまいます。
正面から相手と向き合い、しっかりと目を合わせるようにしましょう。

少しずつ視界に入っていくことも大切です。

・同じ目線に立って見る
見下ろすことなく、同じ目線で相手を見ましょう。
ベッドに寝たり椅子に座ったりしている相手に立ったまま話しかけると、見下しているような威圧感やネガティブな印象を与えてしまいます。

・近くから見る
認知症の患者さんは視野が狭くなっていることが多いため、近づいてしっかりと自分の存在を認知してもらうことが重要です。
相手に近づいて見ることで、相手に親密さを届けられるほか、顔も覚えてもらいやすくなるでしょう。

話す

話しかけることで、相手に存在感や関係性を感じさせ、孤立感や不安感を軽減します。

介護者はつい「動かないでください」「すぐ終わりますからね」など命令調で話すことがあります。

話しかける際には、相手の名前や呼び方を使い、明るく穏やかな声で、簡潔で分かりやすい言葉を選びます。

優しさが伝わるように話すことを心がけることがポイントになります。

話しかけても反応が無い場合もあるかもしれませんが、しっかりと反応を見ることも大切です。

患者さんに安心して介護を受けてもらうためには、適切な話し方で意思疎通を取ることが欠かせません。
患者さんと話す際には、以下の点に注意しましょう。

・優しい声で話す
穏やかかつ優しい声で話すことで、相手に安心感を与えられます。

・しっかりと声掛けを行う
無言で介護を行うと冷たい印象を与え、不安にさせてしまうことにもつながりかねません。
また、自分の存在を否定されていると感じさせることもあります。

介護の際には、しっかりと声に出して意思疎通を行うようにしましょう。

「手を持ち上げます」というように、現在行っている動作を解説する形で声掛けをするのがポイントです。

声掛けを行うことで、相手は安心感を持って介護を受けられるでしょう。

触れる

触れることで、相手にやさしい気持ちや安心感を伝えることができます。

相手の反応を見ながら、手のひら全体で、背中に手を添えるなど、優しく包み込むように触れましょう。

・優しく触れる
体を強く掴んだり、つねったりすることがないよう十分に注意しましょう。

指先だけで触れず、手のひらを大きく広げ、広い面積で触ることを意識してください。

相手の腕を持つ場合も、がっしりと掴むと不安にさせてしまうことがあります。

掴むというよりは、常に触れるというイメージで接するようにしましょう。

・驚かせるような場所に突然触れない
体の中でも、口や手、顔といった箇所はとくに敏感なため、突然触ると動揺を与えてしまう可能性があります。

相手の体に触れる際は、腕や背中などから触れることを意識しましょう。

立つ

人間らしさを重視するユマニチュードでは、寝たままにならず「立ち上がる」「歩く」という行動をとることが大切にされています。

立つことは人間らしさの象徴でもあります。

立ち上がる機会を毎日設けることで、高齢の方の立つ能力が維持されることが期待できます。

また、立つことで骨や筋肉が使われるため、病気や筋力の衰えを防ぎやすくなるでしょう。

さらに、立つと血の巡りが良くなったり、肺の容積が増えたりと循環器系や呼吸器系の機能にも良い効果が期待できます。

立つ姿勢を意識的に介護の中に取り入れることで、健康的に過ごしやすくなるだけでなく、人間らしさや人間としての自信を身につけてもらいやすくなります。

ユマニチュードの実践 5つのステップ

高齢女性と介護職員

ユマニチュードを実践する場合、5つのステップで実行します。

1.出会いの準備
2.ケアの準備
3.知覚の連結
4.感情の固定
5.再開の約束

それぞれみていきましょう。

出会いの準備

出会いの準備として、介護者が来訪したことを伝えます。

相手の部屋、相手のプライベートな領域に入る許可を得ることから始めます。

部屋の扉を「ノック」して相手に来訪を知らせます。

具体的には、以下のように行います。

ドアを3回ノック
3秒待つ
ドアを3回ノック
3秒待つ
ドアを1回ノック
入室

最初のノックで反応があれば入室しますが、反応が無い場合には2度目、3度目とノックをして徐々に存在に気付いてもらいます。

ノックをすることで覚醒してもらい、人に会う準備をしてもらいます。

出会いの準備をせずにいきなりケアに入ると、患者さんは驚いたり混乱したり、怒りを感じることも考えられます。

ケアの準備

ユマニチュードでは、ケアに入ることへの同意を重視しています。

いきなり「体を拭きますよ」など一方的にケアを行うのではなく、あいさつ、会話から始めてケアにつながるように声掛けをしていきます。

同意のないまま行うケアは強制的なケアとなってしまいます。

同意が得られないときは、

無理にケアはしない。その時は諦める

という姿勢もユマニチュードの特徴といえます。

知覚の連結

ケアの了解が得られたら、次のステップに移ります。

知覚の連結とは、実際に行うケアの段階です。

ユマニチュードの4つの柱のうち、

「見る」「話す」「触れる」

を2つ以上組み合わせながらケアを進めることがポイントになります。

こうすることで相手と良好な関係を築きながらケアを進めていくことができます。

感情の固定

感情の固定は、ケアを終えた後、介護を受けた人の感情記憶によい記憶を残すステップです。

感情とセットの記憶は残りやすいとされています。

「上手くできましたね」

「がんばりましたね」

「気持ちよかったですね」

「協力ありがとうございます」

など、ポジティブな声掛けをし、次のケアに繋げるようにします。

再開の約束

ステップの最後は、再開の約束をします。

再開の約束をすることで、次回のケアをスムーズに受け入れてもらえるよう準備します。

認知症だから忘れてしまう、と考えず、よい感情記憶が残ることを期待して再開の約束をしましょう。

約束を楽しみに待ってくれることもあるでしょう。

ユマニチュードの効果、メリットとは?

ユマニチュードを行うことで、以下のようなメリットが期待されます。

認知症の方への効果

ユマニチュードは介護を受ける方に寄り添い、相手の気持ちに立って介護を行う手法です。

ユマニチュードに基づいたケアを行うことで、介護が強制的、機械的、冷たいものになったり、相手の意思に反するものになったりすることを防ぎやすくなるでしょう。

また「立つ」ケアを実践することで、身体機能の維持・向上も期待できます。

介護者への効果

ユマニチュードのケアを実践することで、介護者も穏やかにケアが行えます。

信頼関係を築き、安心感のあるケアを行った結果、怒りやすかった認知症の方が元々の性格に戻ったという事例もあります。

認知症の方の性格が元に戻ることで、介護者の方が抱えるストレスも減少し、落ち着いてケアを行いやすくなることが期待できるでしょう。

認知症の方の介護は大きな負担がかかるため、ユマニチュードを上手く実践することができてくると、介護負担が大きく軽減されます。

それにより介護離職を防ぐ効果も期待できます。

ユマニチュードのデメリット

このようにメリットも多いユマニチュードですが、デメリットもあります。

それは、主に以下の3つとなります。

・ユマニチュードのケアを行うには、4つの柱と5つのステップがあり慣れるための時間が必要になる

・これまでのケアと比べてユマニチュードは丁寧に関わることが必要なため、ケアに時間がかかる

・行動を促すため、事故につながるリスクがある

こうしたこともあり、ユマニチュードの導入に積極的な病院や施設ばかりではありません。

導入に際しての大変さ、デメリット、そして最終的に得られるであろうメリット、効果を理解しつつ取り組むことが大切になります。

まとめ ユマニチュードでケアされる側・ケアする側どちらも幸せに

ユマニチュードについて、

「4つの柱」と「5つのステップ」

を中心としてご紹介してきました。

実践には体制を整える必要がある介護施設などもあるでしょうから、簡単ではないかもしれません。

ユマニチュードは「人間らしさを尊重する」認知症ケア技法です。

介護を受ける側、介護をする側とどちらにもプラスの効果が期待されます。

よりユマニチュードについて理解を深めたい場合には、

日本ユマニチュード学会

もご覧になってみてください。

この記事の執筆者
シフトライフ編集部
シフトライフ編集部

主に介護業界で働く方向けに、少しでも日々の業務に役立つ情報を提供したい、と情報発信をしています。

 

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