PDCAサイクルとは、製品・サービスの質向上や業務の効率化を目的とした管理手法です。
令和3年度の介護報酬改定で新設された「科学的介護推進体制加算」では、PDCAサイクルへの取り組みが算定要件に盛り込まれました。PDCAサイクルは、介護業界でも重要性が高まっている考え方の1つです。
この記事ではPDCAサイクルの重要性について事例を交えて解説します。解説項目は以下のとおりです。
・PDCAサイクルの基本概念
・介護業界におけるPDCAの重要性
・PDCAサイクルの課題と解決策
・PDCAサイクルを効果的に回すポイント
介護現場におけるPDCAサイクルの基礎知識を身につけたい方は、ぜひ本記事をご覧ください。
目次
介護現場でPDCAサイクルが注目される理由
令和3年度の介護報酬改定では、自立支援と重度化防止に向けた取り組みの推進が掲げられました。その中で、介護サービスの質の評価と科学的介護の推進が重要視され、「全ての事業者に、CHASE・VISITへのデータ提出とフィードバックの活用によるPDCAサイクルの推進・ケアの質の向上を推奨」が明文化されました。
科学的介護推進体制加算の算定要件では、LIFEシステムの活用とPDCAサイクルへの取り組みが要件に加えられるなど、PDCAサイクルは介護現場において注目度が高まっています。
参考:厚生労働省|令和3年度介護報酬改定の主な事項について 3.自立支援・重度化防止の取組の推進
PDCAサイクルとは?
PDCAサイクルでは、実際の業務を4つのプロセスに分割して実行します。
Plan(計画)
Do(実行)
Check(評価)
Act(改善)
業務を4つのプロセスに分割して実行することで、業務の質や効率性を高めることを目的としています。
続けてPDCAサイクルの基本概念や介護業界における重要性を確認していきましょう。
PDCAサイクルの基本概念(Plan, Do, Check, Act)
PDCAサイクルでは、
まず計画を立て(Plan)、
次にその計画を実行し(Do)、
実行後に結果を確認(Check)。
最後に改善策を講じる(Act)
という流れをたどります。
「P→D→C→A」という流れを繰り返すため、循環という意味の「サイクル」という単語が語尾につき、PDCAサイクルと呼ばれるわけです。
介護業界におけるPDCAサイクルの重要性
PDCAサイクルは、介護サービスの質の改善や業務効率化に役立ちます。
介護サービスの利用者には、生活歴や価値観など多様な生活背景があり、生活上の課題(ニーズ)もさまざまです。そのような利用者に適切な介護サービスを提供するためには、サービス提供後の評価や改善が欠かせません。
PDCAサイクルを導入することで、PDCAという4つのポイントから介護サービスを評価・改善できるようになるため、適切な介護サービスを提供できるようになります。
PDCAサイクルで改善が行われないとどうなる?
PDCAサイクルは、くり返し継続することでその成果が高まる手法です。そのため、1回のサイクルで目標を達成できなかった場合でも諦める必要はありません。
むしろ、「目標が曖昧ではなかったか」「無理な目標を設定していなかったか?」といった問題点を探し改善していくことが大切です。PDCAサイクルをくり返し行うことで目標を達成しましょう。
PDCAサイクルの課題と解決策
PDCAサイクルにおける4つの課題と解決策について紹介します。課題の内容がこちらです。
・計画の曖昧さ
・役割分担の不明確さ
・評価の不十分さ
・継続的な改善の難しさ
これら課題について、それぞれみていきましょう。
計画の曖昧さ
PDCAのPlan(計画)に関連する項目です。
計画の目標が曖昧な内容だと、PDCAサイクルがうまく機能しません。「いつまでに、何を、どうするのか」を具体的に設定する必要があります。
例えば、「服薬事故防止を徹底する」「利用者に思いやりをもって接する」といった計画は好ましくありません。目標の期限や目標達成に必要な行動が曖昧なためです。
服薬事故防止というテーマであれば、「4月を服薬事故防止の強化月間として、服薬介助や管理における誤薬発生件数を0にする」といった目標が考えられるでしょう。続けて、目標達成のために誤薬防止の対策案を考えていきます。
そしてDo(実行)では、実際に誤薬防止の対策案を実行して実施状況を記録として残していきましょう。
役割分担の不明確さ
PDCA全体に関連する項目です。
PDCAサイクルは、複数人のスタッフが協力して行う必要があります。
しかし、24時間体制で介護サービスを提供する入居施設では、常勤職員は早番、日勤、遅番、夜勤といった複数のシフトに従事しています。結果的に、誰がどのプロセスを担当するのかが不明確になりやすいので注意が必要です。
定期的にミーティングを開催するなどして、以下の項目について役割分担を進めておくことをおすすめします。
・誰が計画を立てるのか
・実行した内容(データ)を誰が残すのか
・誰が評価するのか
・改善策はどのように考えるのか
シフト交代の際は申し送りを忘れずに行って、必要な情報を引き継ぐようにしましょう。
評価の不十分さ
PDCAのCheckに関連する項目です。
PDCAサイクルでは、評価の内容が不十分である場合、適切な改善に結びつかないおそれがあります。
評価が不十分になる原因として、評価に必要なデータが足りていないケースが挙げられます。
先ほどの「服薬介助や管理における誤薬発生件数を0にする」というテーマであれば、誤薬防止の対策案を実行したことに満足して、記録をとらないといったケースが失敗の原因となるでしょう。
PDCAサイクルの評価を適切に行うためには、まず策定した対策案が実行されたか、どのように実行したかを記録として残し、誤薬の発生件数もチェックすることが大切です。
継続的な改善の難しさ
PDCAサイクルの失敗例として、「サイクルの途中でとまってしまった」「1つのサイクルを回したが、次のサイクルに進まなかった」というケースがあります。
PDCAサイクルを回すには一定の期間と労力を必要とするため、継続的な改善が難しいケースもあるのです。
継続的にPDCAサイクルを回していくためにも、担当者の経験や業務量などを見極めて、現場に合った人員配置を行いましょう。
介護現場でPDCAサイクルを効果的に回すためのポイント
介護現場でPDCAサイクルを効果的に回すポイントは、スムーズに情報共有できる仕組みを構築することです。
具体的な対策としては、次のような方法などがあります。
・定期的に職員ミーティングの機会を設ける
・申し送りノートを活用する
・チャット機能のある介護ソフトを導入する
問題発生時にすぐ報告相談ができる体制が構築されていると、PDCAを止めずに回せるようになります。
くり返しになりますが、介護現場では1人の介護職員がさまざまな役割を担っているケースが少なくありません。現場の特徴にあわせた業務体制を敷き、効果的にPDCAサイクルを回していきましょう。
PDCAサイクルの回し方のコツについては、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
まとめ
PDCAサイクルは、業務改善や品質向上に役立つ管理手法です。その意味ややり方を理解すれば介護現場で効果的に活用できます。PDCAサイクルは手法としては古い、と言われることもありますが師パン効果的に活用すれば改善効果を上げることは可能です。
利用者のニーズや介護現場の課題などを確認して、自社の介護施設にあったPDCAサイクルを実施してみてください。
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こちらもぜひご覧ください。
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この記事の執筆者 | 千葉拓未 所有資格:社会福祉士・介護福祉士・初任者研修(ホームヘルパー2級) 専門学校卒業後、「社会福祉士」資格を取得。 以後、高齢者デイサービスや特別養護老人ホームなどの介護施設を渡り歩き、約13年間介護畑に従事する。 生活相談員として5年間の勤務実績あり。 利用者とご家族の両方の課題解決に尽力。 現在は、介護現場で培った経験と知識を生かし、 Webライターとして活躍している。 |
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