通所介護(デイサービス)で認知症の利用者に質の高いケアを提供する際に算定できるのが「認知症加算」です。
2024年度の介護報酬改定では、認知症利用者の割合要件が20%から15%に緩和される一方、定期的な会議開催が新たに要件として追加されました。
この記事では、通所介護の認知症加算の算定に必要な要件や単位数、2024年の介護報酬改定による変更点、他加算との併用可否などについて、わかりやすくポイントを整理しました。ぜひ参考にしてみてください。
目次
通所介護の認知症加算とは
通所介護における認知症加算とは、認知症に関する研修を修了した職員を配置し、認知症の症状の進行の緩和に繋がるケアを提供することを評価する加算制度です。
この加算は、認知症高齢者の増加に伴い、より専門的で質の高い認知症ケアを提供する事業所を支援することを目的として設けられました。
単に認知症の利用者を受け入れるだけでなく、専門的な知識と技術を持った職員による計画的なケアの実施が求められます。
2024年介護報酬改定での変更点
2024年度の介護報酬改定では、認知症加算の算定要件に重要な変更が行われました。主な変更点は以下の通りです。
・認知症利用者割合要件の緩和
最も大きな変更点は、認知症利用者の割合要件が20%から15%に緩和されたことです。この変更により、これまで算定が困難だった中小規模の事業所でも、認知症加算の取得がしやすくなりました。
・事例検討会議開催要件の新設
新たに月1回以上の事例検討会議の開催が義務付けられました。この会議では、認知症ケアに関する事例検討や技術指導を行い、職員のスキル向上と統一したケア方針の確立を図ります。
この改定は、認知症高齢者の急速な増加と、認知症ケアの専門性向上の必要性を踏まえたものといえます。
より多くの介護事業所が認知症加算を取得できるよう要件を緩和する一方で、ケアの質を確保するために研修・教育面での要件を強化したのが特徴といえるでしょう。
通所介護の認知症加算の算定要件
認知症加算を算定するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
人員基準、看護・介護職員の配置要件
通所介護の人員基準に規定されている配置に加えて、看護職員または介護職員を常勤換算方法で2名以上確保することが必要です。
常勤換算とは何か
常勤換算方法とは、1ヶ月(4週間)を基本とし、従業員の勤務時間をすべて足した時間が、常勤の従業員が勤務したとして「何人」になるかを計算したものです。
具体的には、
常勤換算人数 = 常勤職員数 +(非常勤職員の働いた時間合計 ÷ 常勤職員の所定勤務時間)
という数式により算出され、小数点第2位以下は切り捨てます。
計算例:
・常勤職員の勤務時間:週40時間(月160時間)
・A職員:月80時間勤務 → 0.5人
・B職員:月120時間勤務 → 0.75→0.7人
・C職員:月160時間勤務 → 1.0人
・合計:2.2人(常勤換算で2名以上の要件を満たす)
サービス提供時間前後の延長加算を算定する際に配置する看護職員・介護職員の勤務時間は、この計算に含めないことに注意が必要です。
認知症利用者の割合(15%以上)
前年度または届出日の属する月の前3ヵ月間の利用者の総数のうち、日常生活に支障をきたすおそれのある症状や行動が認められることから介護を必要とする認知症の利用者が占める割合が15%以上であることが必要です。
算出方法と期間のポイント
対象となる認知症利用者のうち、日常生活自立度のランクⅢ、Ⅳ、Mに該当する利用者が対象となります。
具体的には以下のような状態です。
・ランクⅢ:日中を中心として日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする
・ランクⅣ:日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする
・ランクM:著しい精神症状や周辺症状あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする
計算期間と方法:
・前年度(3月を除く)または届出日の属する月の前3ヵ月の1月あたりの実績の平均で判定
・利用実人員数または利用延人員数のいずれかで算定可能
・要支援者は計算対象外
計算例 3ヵ月間の利用実績:
・1月:利用者9人(うち認知症利用者4人)
・2月:利用者9人(うち認知症利用者4人)
・3月:利用者9人(うち認知症利用者4人)
計算:認知症利用者12人 ÷ 総利用者27人 = 44.4% ≧ 15%(要件を満たす)
研修修了スタッフの配置
サービス提供時間帯を通じて、認知症介護に係る専門的な研修等を修了した職員を1名以上、専ら通所介護の提供にあたる形で配置することが必要です。
対象となる研修一覧
以下の研修・教育課程・認定のいずれかを修了した職員が対象となります。
・認知症介護指導者養成研修
・認知症介護実践リーダー研修
・認知症介護実践者研修
・日本看護協会認定看護師教育課程「認知症看護」の研修
・日本看護協会が認定している看護系大学院の「老人看護」及び「精神看護」の専門看護師教育課程
・日本精神科看護協会が認定している「精神科認定看護師」
また、職員配置に関して、以下の注意点があります。
・他の加算の要件の職員として配置する場合、兼務は認められません
・認知症加算の算定対象者の利用がない日については、研修修了者の配置は不要です
・1日の中で研修修了者が変わっても、サービス提供時間帯を通じて配置されていれば要件を満たします
定期的な会議・事例検討の実施
2024年の介護報酬改定で新設された要件として、事業所の従業者に対する認知症ケアに関する事例の検討や技術的指導に係る会議を定期的に開催することが必要になりました。
この会議では、以下のような内容を扱うことが想定されています。
・認知症利用者の個別事例に関する検討
・認知症ケア技術の向上に関する指導
・職員間での認知症ケアに関する情報共有
・認知症ケアプログラムの見直しや改善
また、会議の内容や参加者、開催日時等の記録を適切に保存しておくことが重要です。
通所介護の認知症加算の単位数
通所介護における認知症加算の単位数は60単位/日です(2024年改定で変更なし)。
この加算は、日常生活自立度のランクⅢ、Ⅳ、Mに該当する認知症利用者に対してのみ算定できます。
つまり、事業所で認知症加算を取得していても、対象とならない利用者には算定されません。
他の加算との併用や注意点
認知症加算は他の加算との関係において、併算定の可否が定められています。
中重度者ケア体制加算との併算定は可能
認知症加算と中重度者ケア体制加算の同時算定は可能です。
ただし、それぞれの加算で求められる人員配置要件は独立しており、兼務することはできません。
具体的には、
・中重度者ケア体制加算:看護職員を専従で配置
・認知症加算:認知症介護研修修了者を専従で配置
両加算を併算定する場合は、これらの職員をそれぞれ別々に配置する必要があります。
中重度者ケア体制加算について詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
若年性認知症加算との併算定は不可
認知症加算と若年性認知症利用者受入加算は、同一利用者に対して併算定することはできません。
そのため、若年性認知症の利用者がいる場合は、どちらの加算を選択するかを事業所全体の収益と利用者構成を考慮して判断する必要があります。
通所介護の認知症加算のQ&A
問27 認知症加算及び中重度者ケア体制加算の利用者割合の計算方法は、届出日の属する月の前3月の1月当たりの実績の平均が要件を満たせば、例えば、4月 15 日以前に届出がなされた場合には、5月から加算の算定が可能か。
(答)
前3月の実績により届出を行う場合においては可能である。なお、届出を行った月以降においても、直近3月間の利用者割合については、毎月継続的に所定の割合を維持しなければならない。
引用:厚生労働省 平成 27 年度介護報酬改定に関する Q&A (平成 27 年4月1日)
問33 認知症加算について、認知症介護実践者研修等の修了者の配置が求められているが、当該研修修了者は、介護職員以外の職種(管理者、生活相談員、看護職員等)でもよいのか。
(答)
介護職員以外の職種の者でも認められるが、その場合、通所介護を行う時間帯を通じて指定通所介護事業所に従事している必要がある。なお、他の加算の要件の職員として配置する場合、兼務は認められない。
引用:厚生労働省 平成 27 年度介護報酬改定に関する Q&A (平成 27 年4月1日)
まとめ
認知症加算は、通所介護事業所における認知症ケアの質向上と専門性を評価する重要な制度です。
2024年度の介護報酬改定により、認知症利用者割合要件の緩和(20%→15%)や事例検討会議の義務化など、より多くの事業所で算定しやすくなる一方で、継続的な要件遵守がより重要になりました。
算定にあたっては、人員配置、研修修了者の確保、定期的な会議開催、適切な記録管理など、多岐にわたる要件を満たし続ける必要があります。
また、他の加算制度との関係性を理解し、事業所の状況に応じた最適な加算の組み合わせを選択することが、収益向上と質の高いケア提供の両立につながります。
認知症ケアは今後ますます重要性が高まる分野です。算定率の低さから難しさはあると思いますが、認知症加算の適切な活用を通じて、利用者により良いケアを提供し、事業所の持続可能な運営を実現していきましょう。
この記事の執筆者![]() | シフトライフ編集部 主に介護業界で働く方向けに、少しでも日々の業務に役立つ情報を提供したい、と情報発信をしています。 |
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