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【教えて!】介護現場の不適切ケア事例と改善・防止策

介護現場の不適切ケアとは

介護を必要とする方が、安心して介護施設を利用するためには適切なケアが必要です。しかし、介護現場では時に不適切ケアが行われることもあります。
 
介護現場における不適切ケアとはどのようなケアを指すのでしょうか。また、不適切ケアを改善・防止するためにはどのようなポイントに気をつければよいのでしょうか。
 
この記事では、介護現場の不適切ケアの概要と事例を具体的に解説します。不適応ケアの改善・防止策も紹介しますので、ぜひご覧ください。

不適切ケアとは?

不適切ケアとは、「明確な虐待行為には該当しないが適切ではないケア」のことです。適切ではないケアとは、利用者やその家族を不快にさせたり傷つけたりする言動を指します。

不適切ケアの一例がこちらです。

不適切ケアの一例

 
・「〇〇したらダメです!」と、命令口調で利用者の行動を抑制する
・タメ口や友達言葉でコミュニケーションをとる
・無言で利用者の身体介助にあたる

不適切ケアの問題点は、その行為がエスカレートすると、虐待につながる可能性があることです。

例えば、利用者に命令口調で話しかける行為がエスカレートすると、利用者への暴言や暴力といった心理的虐待・身体的虐待につながるかもしれません。

虐待行為をさせない、虐待行為をしないためには、不適切ケアから改善・予防していくことが大切です。

ここで虐待行為の種類と内容を確認しておきましょう。

虐待の類型 内容
身体的虐待 外傷が生じるおそれのある暴力をくわえること
心理的虐待 暴言や著しく拒絶的な対応など、高齢者に心理的外傷をあたえる言動
介護・世話の放棄や放任 ・衰弱させるような減食
・長時間の放置
・介護者以外の同居人による虐待行為の放置
性的虐待 ・介護者が、わいせつな行為をすること
・被介護者に、わいせつな行為をさせること
経済的虐待 ・財産を不当に処分すること
・不当に財産上の利益を得ること

 
参考:厚生労働省|「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」の改訂について 高齢者虐待防止の基本

不適切ケアを改善・予防するために、まずは不適切ケアに関する知識を身につけましょう。次章では不適切ケアの具体例を紹介します。

介護現場における不適切ケアの具体例

介護施設に入居している高齢者

介護現場ではどのようなケアが不適切ケアに該当するのでしょうか。4つの具体例を紹介します。

言葉による抑制

職員の言葉で、利用者の行動を抑制する行為は不適切ケアにあたります。

ユニット型特別養護老人ホームの事例

 
■入居者Aさん
・女性
・要介護3
・車いすで自走して移動する
・認知症高齢者の日常生活自立度は「Ⅳ」
 
■状況
入居者Aさんは、隣のユニットに自走して移動しようとしています。
 
■介護職員の対応
①車いすからの転落や転倒を防止するために、「危ないからそこにいてください」と声かけ
②Aさんが動かないように「今行くから、ちょっと待ってください」とくり返し声かけ
③Aさんが待っている間に、別の業務に取りかかった
④Aさんが動こうとすると、「Aさん、動かないで!」と大きな声で制止

上記の職員の言動で、不適切ケアにあたる項目がこちらです。

・理由を説明せずに、相手の行動を抑制
・「ちょっと待ってください」と声をかけるが、なかなか対応しない
・威圧的な態度

言葉によって、身体的・精神的に相手の行動を抑制する行為を「スピーチロック」と呼びます。スピーチロックや威圧的な態度は、利用者やその家族を傷つける可能性が高い行為のため、不適切ケアに該当します。

声かけや言葉遣い

声かけや言葉遣いにも不適切ケアは存在します。

従来型特別養護老人ホームの事例

 
■入居者Bさん
・男性
・要介護1
・認知症による着衣失行あり
・温和な性格
 
■状況
Bさんは寝巻に着替えようとしていますが、ズボンを上半身に着用してしまいました。
 
■介護職員の対応
①「ズボンを上に来たら意味ないでしょ」と笑って話しかけた
②ズボンを脱ごうとするBさんに、「ちゃんと着替えてくださいよ」と声をかけた
③うまく脱げないBさんに対して、無言で介助してズボンを脱がせた

上記の職員の言動で、不適切ケアにあたる項目がこちらです。

・タメ口で話しかけた
・無言での更衣介助

Bさんは、うまく着替えられないことに大きな戸惑いを感じています。「どうしてできないんだ」と自信をなくしているかもしれません。ご本人の気持ちや感情に全く配慮しないケアも不適切ケアに該当します。

ほかにも、本人の尊厳を傷つけるような声かけや言葉遣いも不適切ケアとなります。以下の具体例を確認しておきましょう。

その他、不適切ケアの具体例

 
・利用者に幼児言葉を使用する「よくできましたね~」「えらいえらい」など
・利用者や家族の同意なく、名前にちゃん付けする、愛称をつけて呼ぶ
・命令口調で話す
・差別用語を使用する

介助のやり方

介助のやり方次第で不適切ケアに該当します。

デイサービスの事例

 
■利用者Cさん
・女性
・要介護2
・常時車いすを使用
・車いすで自走はしない
 
■状況
昼食終了後、ホールで午後のレクリエーションが開始されようとしている。Cさんはレクリエーションに参加したい。
 
■介護職員の対応
①ホールに移動してもらうため、Cさんの車いすを無言で操作
②レク開始に遅れないように、小走りで車いすを押した
③Cさんの同意を得ずにホールの端に移動させた

上記の職員の言動で、不適切ケアにあたる項目がこちらです。

・本人の同意を得ずに車いすを操作
・車いすを小走りで押した
・ホールの場所を職員主導で決定

レク終了後、Cさんは「職員の声がよく聞こえるように、ホールの前の方に連れて行ってほしかった」と話されていました。利用者の希望をその都度確認して、適切なケアを提供しましょう。

排せつ介助

排せつ介助で不適切ケアが発生する可能性もあります。

特別養護老人ホームの事例

 
■入居者Dさん
・女性
・要介護5
・常時車いすを使用
・職員全介助のもとトイレで排せつされる
・認知症高齢者の日常生活自立度は「Ⅳ」
 
■状況
夜間帯の23時にDさんからナースコールあり。トイレに行きたいとの希望があった。
職員がトイレ誘導するも「排せつなし」の状況が続いた
 
■介護職員の対応
①トイレ誘導後、「トイレに行くっていったでしょ、何で出ないの」
②Dさんがコールを押すと、「出ないから行かないよ」
③Dさんのコールがなってもしばらく対応しなかった

上記の職員の言動で、不適切ケアにあたる項目がこちらです。

・スピーチロック「出ないから行かないよ」
・ナースコールを認識しながら意図的に無視した

排せつ介助においても、利用者を無視したり行動を抑制したりする行為は不適切ケアに該当します。

介護職員が無自覚にしてしまいがちな不適切ケア

高齢者と介護士

介護現場では、介護職員の何気ない一言やよかれと思ってした介助が、利用者や家族に嫌な思いをさせることがあります。

例えば、「トイレに行く?」「あそこに行こうよ」といったタメ口や友達言葉は、無自覚にしてしまいがちですが、要注意のケアです。

タメ口や友達言葉は、利用者によって不快感をおぼえるおそれがあります。また、本人が望んでも、タメ口で話しかけられた本人を家族がみて、ショックを受けるケースも考えられます。

まずは、相手がどのような態度で接してほしいかを考えて自分の言動をチェックしてみましょう。そして、親しみをこめた声かけが必要な際は、職員間で話し合いご家族の同意を得たうえで、ケアとして取り組んでみてください。

介護現場で不適切ケアが起こる原因

不適切ケアはどのような原因で起こるのでしょうか。3つの原因を解説します。

介護職員の理解不足

介護職員の理解不足は不適切ケアの原因となります。

具体的な項目がこちらです。

・利用者の性格や生活歴に対する理解不足
・高齢者の疾病に対する知識不足
・接遇マナーについての知識不足

介護職員にこうした知識や理解がある場合、相手のプライドを傷つけるような言葉や行為を自制できるようになります。

しかし、こうした理解が不十分だと不適切ケアに至ってしまうのです。

職場環境や組織の問題

職場全体で不適切ケアへの認識不足が起きるケースも問題です。

職場全体で認識不足が起こると、「他の職員もやっているから問題ないはず」と不適切ケアを行ってしまうおそれがあります。また、自分のケアに疑問を感じても、周囲に相談しづらい雰囲気が生まれてしまいます。

例えば、ある職員が「この言葉遣いは間違っていないかな?」「もっと適切な対応があるんじゃないかな?」と不安を感じても、同僚や上司に打ち明けられないかもしれません。

このような状況では、不適切ケアの改善や防止が困難になります。

人手不足による業務負担が大きい

介護現場の人手不足は、不適切ケアの温床となりかねません。

人手が足りないことで介護職員への業務負担は増大し、心身にかかるストレスも高まります。その結果、職員は目の前の仕事をこなすことに精いっぱいとなり、自身の言葉遣いや態度に十分な配慮ができなくなります。このような状況が、不適切ケアにつながってしまうのです。

介護現場で不適切ケアを改善・防止するには

介護現場の不適切ケアは、適切な方法によって改善・防止できます。効果的な改善策と防止策をみていきましょう。

介護職員への教育・研修

介護職員に教育や研修に参加してもらうことで、不適切ケアの改善・防止を図れます

例えば、不適切ケアに関する事例検討会を社内で開催して、不適切ケアの概要や具体例を知ってもらう方法は効果的です。「〇〇さんにはどのようなケアが適切なんだろう?」と、参加者に意見交換を促すのもよいでしょう。

また、接遇やマナーに関する研修会を探して、現場の介護リーダーに参加してもらう方法もおすすめです。介護リーダーが、研修で学んだことを介護現場にフィードバックすれば、他の介護職員のよい見本となります。

介護職員への教育や研修を活用して、不適切ケアを改善・防止しましょう。

職場環境の改善

不適切ケアの防止・改善に効果的な対策として、スタッフの人員増による現場の負担軽減が挙げられます。

しかし、介護業界に限らずさまざまな業界で人材不足が問題となっている現在は、すぐにスタッフを採用できるとは限りません。また、教育体制の整備も不可欠です。

そこで、ICTを導入して現場の負担軽減を図る方法が考えられます。介護ソフトやタブレット端末などを導入することで、記録業務を効率化したり情報をスムーズに共有したりして、職員負担を軽減するわけです。

近年は、介護施設でもICTの導入が進められています。厚生労働省が主導している「ICT導入支援事業」を活用した補助金や「IT導入補助金」などの補助制度を活用すれば、導入経費の一部に補助を受けることも可能です。

ICTに関する詳しい内容や導入事例を確認したい方は以下の記事もご覧ください。

介護・福祉現場のICT化 活用事例・導入事例5選

国の施策から考える介護におけるICT活用

介護職員のストレスケア

介護職員のストレスケアも不適切ケアの改善・防止に役立つ施策です。

介護リーダーや管理者は、日々の業務の中で職員の様子に注意して、気になる職員がいないかチェックしてみましょう。

ストレスを抱えている職員の様子には、以下のような変化があらわれます。

・遅刻、早退、欠勤が続く
・笑顔や口数が減る
・ケアレスミスが増える

気になる職員がいたら、面談の機会を設けてみましょう。「何か悩みを抱えていない?」「疲れてるようだけど、体調はどう?」などとやさしくヒアリングすることで、問題解決の糸口をつかめるはずです。

また、可能であれば定期的に職員と面談する機会を設けてみましょう。定期的な面談は、介護職員がストレスを抱え込むことを防ぎ、職場の雰囲気を良好に保つのに役立ちます。

介護職員のストレスケア、ストレスマネジメントについては以下の記事をご覧ください。

介護現場・介護職員のストレスマネジメントの重要性

多職種連携で対策を相談する

多職種連携とは、介護職員や生活相談員、看護職員といった複数の職種の人たちが集まり話し合いの場を持つことです。

各専門職の視点から意見を出しあえるため、異なる視点から意見交換ができます。利用者ごとに、この方にとって適切なケアとは何か?不適切ケアをどのように防止するか?といった議題を進めることで、不適切ケアの改善と防止につなげられます。

不適切ケア防止のためのチェックリストを作る

不適切ケア防止のチェックリストを作る方法も、不適切ケアの防止・改善に有効な方法です。

「利用者を子ども扱いしていませんか?」「利用者に命令口調や威圧的な態度で接していませんか?」といったチェック項目とチェック欄を設けることで、職員が自己チェックできる体制を作りましょう。

利用者の特徴や介護現場の環境にあわせて、独自のチェックリストを作成すると、職員が利用しやすいリストを作成できます。チェックリストを活用して、利用者の不適切ケアの改善・防止に努めてみてください。

参考:東京都福祉保健財団|虐待の芽チェックリスト(入所施設版)

まとめ

介護現場の不適切ケアは、明確な虐待行為には該当しないものの、適切とはいえないケアを指します。

不適切ケアがエスカレートすると、明確な虐待行為につながりかねないため、介護リーダーや管理者は常に注意する必要があります。

不適切ケアが起こる原因は、職員の認識不足や現場の人手不足などさまざまです。まずは自分たちの職場で不適切ケアが起こっていないか確認しましょう。もしも不適切ケアが発見されたら、その原因を確かめて適切に対処することが大切です。

利用者やその家族に喜ばれるケアを提供して、地域から選ばれる介護施設を目指しましょう。

文中でもご紹介しましたが、以下の関連記事も合わせてご覧ください。特にスピーチロックは意図せず発している可能性もあり、施設内で意識を持つことが防止には大切です。

この記事の執筆者
千葉拓未

所有資格:社会福祉士・介護福祉士・初任者研修(ホームヘルパー2級)

専門学校卒業後、「社会福祉士」資格を取得。
以後、高齢者デイサービスや特別養護老人ホームなどの介護施設を渡り歩き、約13年間介護畑に従事する。

生活相談員として5年間の勤務実績あり。
利用者とご家族の両方の課題解決に尽力。

現在は、介護現場で培った経験と知識を生かし、
Webライターとして活躍している。

 

 

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