本記事では、介護施設へインカム導入を成功させるためのポイントについてまとめています。介護現場の業務効率化、ケアの質向上のために様々なICTツールがありますが、その中の一つとしてインカム導入を検討している介護事業者も多いのではないでしょうか。
介護加算の中にはICTツールの導入が条件となるものもあり、インカム導入が要件に該当するケースもあります。そうしたこともインカム導入のきっかけとなっているかもしれません。
ところで、公衆PHSサービスが2023年3月をもって全て終了しました。病院や介護施設などで使える「機内PHS」は当面運用可能であるものの、いずれ使えなくなる可能性があります。
介護施設の管理者や施設長の中には「これを機会にインカムを導入したい」と考えている人もいるでしょう。その際、「インカムってどういうのがあるんだろう?」「どんなメリットがあるのだろう?」と疑問に感じる方も多いのではと思います。
この記事では、介護施設へインカムを導入するメリットや効果、どんなインカムがあるかなどについて、具体例を交えてお伝えしていきます。インカム導入を検討されている場合には、参考にしてみてください。
目次
介護施設へインカム導入するメリット、効果
介護施設へインカムを導入するメリットや効果は、主に2つあります。
介護職員間の情報共有がスムーズになる
1つめは「介護職員間の情報共有がスムーズになる」ことです。従来の介護施設では、介護職員間の連絡方法は「PHS」か「職員に直接声をかける」のみでした。
しかし上記の場合、以下のようなことがよく生じていました。
・PHSの台数に限りがある施設の場合、連絡が取れない場合がある
・複数階ある介護施設の場合、職員を探すのに時間がかかることがある
インカムを導入することで、それまで「1対1」だった職員間の情報共有が「1対複数」になります。そのため、職員間の情報共有がスムーズになるのです。
業務の効率化に繋がる
2つめは「業務の効率化に繋がる」ことです。後述しますが、移乗や入浴介助などで職員へ連絡を取る必要があるとき、自分自身の手が塞がっていたり、連絡を取りたい職員が見つからなかったり、PHSが繋がらないなど、連絡がスムーズに行えないと時間のロスになってしまいます。
インカムはハンズフリーですから、お互い手が塞がっていても連絡が可能です。そのため、上記の問題を解決することができ、業務の効率化が期待できるのです。
インカム導入のメリットやデメリットについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。実際の導入事例も踏まえ、解説をしています。
介護施設へのインカム導入成功のポイント
上記にて、介護施設へインカムを導入するメリットについてお伝えしました。しかし、理由は様々ですが、介護職員の中にはインカムを導入することに抵抗がある人もいるでしょう。
そうした状況を乗り越えてインカム導入を成功させるには、以下のようなポイントを押さえて導入を進めていく必要があります。
・介護施設の課題を明確にする
・インカム導入の目的、成果を職員に共有する
・インカム導入の費用を把握し予算を立てる
・必要な機能を充たすインカムを比較・検討する
それぞれ解説します。
介護施設の課題を明確にする
1つめは「介護施設の課題を明確にする」ことです。介護施設における現状の課題を明らかにし、把握することで「本当にインカムが必要か」を判断することができるからです。
後述しますが、インカムを導入するには費用がかかります。費用をかけてインカムを導入したとしても、課題解決や業務改善に繋げることができなければ、マイナスの投資になってしまいます。その上、インカムが使われない・・・といったことにもなれば目も当てられません。
まずは介護施設の課題を明らかにしていきましょう。その上で、インカムを導入した場合に課題解決ができるのかどうか、業務改善においてどのような効果が得られるかを検討しましょう。
課題の例として、下記があります。こうした課題については、インカム導入により解決を目指すことができそうです。
・入浴介助の際、次に入浴予定の入居者の誘導がスムーズに行えない。
・2人介助の際、近くに職員がおらず探し回ったりPHSで連絡が取れるまで待っている。
・夜間入居者の急変時、応援を呼ぼうとしたら他入居者のコールが入りPHSが使えない。
上記の課題を最も多く見つけることができるのは、現場で働く介護職員です。介護職を中心として、施設の課題を明確にしていきましょう。
インカム導入の目的、成果を職員に共有する
2つめは「インカム導入の目的、成果を職員に共有する」ことです。介護施設の課題を明確にした後、「インカムを導入した場合、どのような成果が期待できるか」を介護職員と一緒に考えましょう。
成果の例としては、下記があります。
・入浴介助の際、看護師へ褥瘡などの処置依頼や、フロア職員へ次の入浴介助者の準備依頼をスムーズに連絡できる。その結果、時間のロスが減る。
・夜間急変時、現場で急変者の対応をしつつ、インカムで他職員へ応援要請を行うことができる。
成果を共有するときに心掛けることは「インカムを導入することで、介護職員にメリットがあるということを伝える」ことです。管理職や経営者のみが成果を期待しても、現場の介護職員にとってメリットがなければ、効果が発揮できなくなります。
現場の介護職員に「インカムを導入したら、仕事がやりやすくなるかも」と思ってもらえるよう、インカムを導入するメリットを伝えましょう。そこで効果的なのが、課題の明確化から職員に関わってもらうことです。自分たちで課題を明らかにし、期待できる効果を整理することで、現場にインカムを導入するメリットが腹落ちしやすくなります。
インカム導入の費用を把握し予算を立てる
3つめは「インカム導入の費用を把握し予算を立てる」ことです。インカムを導入する時のコストですが、端末代や通信設備費、通信料や修理費などがかかります。
端末代としては、本体平均価格が1台1万円から3万円程になります。加えて職員の人数分揃えるとなると、費用がかさみます。年度予算などの関係もあり、計画的に予算組みが必要な施設も多いのではないでしょうか。
インカムなどを施設に導入する際は、厚生労働省の「介護テクノロジー導入支援事業」を活用する方法もあります。この事業は介護ロボットやICT等のテクノロジーを活用して、職員の業務負担軽減を目的としている事業です。
課題を抽出し、取り組みの計画を立て、効果を確認できるまで報告するなどの条件がありますが、一定の要件を満たすことで必要台数分の4分の3を補助するという制度です。上記の事業を利用できるか、要件をまず確認しましょう。
以下の関連記事でもインカム導入に活用できる補助金を説明していますので、参考にしてみてください。
必要な機能を充たすインカムを比較・検討する
4つめは「必要な機能を充たすインカムを比較・検討する」ことです。
インカムにも、様々な種類があります。自分達の介護施設に必要な機能を充たすインカムはどれか、様々なメーカーを比較して検討しましょう。
介護施設向けインカムのタイプについて
介護施設向けインカムのタイプは、下記の2つがあります。導入にあたり、タイプもしっかり検討することが必要です。
・スマートフォン連携型タイプ
・トランシーバータイプ
次にそれぞれ説明します。
スマートフォン連携型タイプ
1つめは「スマートフォン連携型タイプ」です。メリットとして「映像を見ながら情報共有できる」ことが挙げられます。
特に急変時対応などの際に役立ちます。現場にいる職員が口頭で状況報告しようとしても、パニックになってしまい上手く説明できない場合があります。その際、スマホのビデオカメラ機能を使えば、急変者の状況をすぐ確認することができます。
また、他職員が指示を出す際も、ビデオカメラを使ってより的確に指示を出せるというのもメリットでしょう。
デメリットとして「全職員に対応できない」ことがあります。介護職員によっては、スマートフォンを使っていない、もしくは使い慣れていない人もいます。
またスマートフォン連携型によっては、アプリをインストールしなければいけない場合もあります。持っている機種によっては対応していないこともあるでしょう。スマートフォン連携型を選ぶときは、職員のスマートフォンの使用状況などを確認しましょう。
また、場合によっては施設で必要数のスマートフォンを導入することも考える必要があります。その場合はさらにコスト増となりますから、費用対効果をしっかりと検討することが必要となるでしょう。
トランシーバータイプ
2つめは「トランシーバータイプ」です。トランシーバータイプのメリットとしては「誰でも操作ができる」ことです。ボタンを押すだけで相手に音声を送れるので、スマートフォンを使い慣れていない職員でも使うことができます。
またネット回線を使っていない機種が多いので、災害時などでも活用できます。
デメリットとして「通信範囲に制限がある」「機種によっては総務省に登録が必要なものがある」ことが挙げられます。
介護施設へのインカム導入は業務改善につながる
介護現場ではこれからますます、業務の効率化・無駄の削減などが求められます。その背景にはもちろん、介護人材の不足があります。
既に介護施設によっては慢性的に人手不足の中、ギリギリの人員で業務を回しているかもしれません。そのためICTツールの導入など業務改善策を進めていくことは急務ともいえます。
今回解説したインカムもICTツールの一つとなりますが、施設にインカムを導入することで業務にかかる時間の節約につながります。節約した時間で利用者のケアにより多くの時間を使えるようになる、といった効果などが期待できます。
また、現場の介護業務は情報共有が乏しいことで、様々なロスがあります。インカムを導入することで、複数の職員と1度に情報共有することができます。それによって情報の抜けや漏れを少なくし、効率的に業務を行うことができるようにもなるでしょう。
まとめ
従来、介護施設の職員間の情報共有は、直接会って話すかPHSで1対1のやり取りをする方法が主でした。
しかしインカムを導入することで、職員を探したりする時間のロスを減らせるという時間の節約効果だけでなく、職員の心身的負担が軽減する効果も見込めるでしょう。こうした日々の介護業務の小さなストレスが積み重なって、職場への不満につながっていくのです。
労働環境を改善し、職員に働きやすい職場と思ってもらえることで、離職率が下がることも期待されます。またこれからは、ICTツールを導入し労働環境を整えている職場でなければ、介護人材に働く場として選ばれにくくもなってくるでしょう。
業務効率が悪く職員の負担が大きく、新たな介護人材もなかなか採用できない・・・といったネガティブループに陥ることは避けなくてはなりません。そのためにも、介護施設のICT化はできるところから進めていく必要があるでしょう。
介護施設のICT化については以下の記事も参考にしてみてください。
インカム導入に当たり、費用面がネックとなる場合には、厚生労働省の「介護テクノロジー導入支援事業」を活用することも検討してみてください。
忘れてはいけないのは、インカム導入の目的はあくまでも「現場の介護職員の業務改善に繋がる」ことを心がけることです。経営者側が良いと思って導入しても、現場の職員側が活用できなければ、効果を発揮できないことが多いです。
現場の介護職員と十分に話し合いを行い、導入するメリットを理解してもらうことが、インカム導入を成功させる大きなポイントとなります。
この記事の執筆者 | miruto 保有資格:介護福祉士 社会福祉士 地域密着型特別養護老人ホームに6年、ショートステイに1年勤務しました。 現在は訪問介護の仕事をしながら、介護・福祉系ライターとしても活動中です。 |
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