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認知症の方に言ってはいけない言葉とは?接し方・コミュニケーションのポイントを解説

認知症の方に言ってはいけない言葉とは

「認知症の方に対して言ってはいけない言葉って何?」
「認知症を抱える方にどういった接し方がいいのかな?」

 
認知症ケアにおいて、介護者の適切な支援がとても重要です。とくに、認知症の方へのコミュニケーションでは、声かけひとつでご本人が安心したり尊厳を傷つけられてしまうこともあります。
 
この記事では、認知症の方に言ってはいけない言葉について、具体的な事例とともに解説します。
 
また、認知症の方との接し方やコミュニケーションのポイントについても紹介していますので、認知症ケアに悩むご家族や介護職員の方々はぜひご覧ください。

認知症の方に言ってはいけない言葉

認知症の方とのコミュニケーションの取り方

認知症を抱える方とコミュニケーションをとるときに、言ってはいけない言葉が主に5つあります。

認知症の方に言ってはいけない言葉

 
1.否定する言葉
2.強制する言葉
3.焦らせる・急がせる言葉
4.尊厳を傷つける言葉
5.間違いを正す言葉

それぞれ具体的な事例とあわせて解説します。

否定する言葉

認知症を抱える方の行動や会話を否定する声かけは控えましょう。たとえば、以下のような事例があります。

【否定する言葉 事例】

・(行動・会話に対して)それは違う!
・なんで覚えてないの?
・本当にダメなひとだね。 など

認知症の方にとって、否定された内容は覚えていないかもしれませんが、「否定された」というマイナスの感情は残ります。否定的な感情は、不安や自己肯定感の低下を招き、結果として認知症状の悪化を引き起こす可能性が高くなるのです。

「認知症だからわからない」「どうせ忘れる」と思って感情的に相手を否定するのではなく、安心できる声かけやサポートがとても大切です。

強制する言葉

認知症における行動・心理症状には、周囲から理解しがたい行動や言葉がみられます。理由や目的がわからず立ち上がったり歩き回ったりしているときに、相手を制止・強制する言葉を投げかけないようにしましょう。

【強制する言葉 事例】

・(入浴を拒否する方に)さっさと入って!
・(なかなか立ち上がらない時に)いいから立って!
・ちょっと待ってて! など

認知症を抱える方のなかには、転倒リスクがあるのにもかかわらずなかなか座っていられない方や、入浴を強く拒否する方がよくいらっしゃいます。「こういう理由でイヤだ」「これがしたい」と、ご本人の中でなんらかの理由があるかもしれません。

しかし、ご本人の気持ちや思いを無視して行動を強制・制止させる言葉は、介護者への不信感につながります。

とくに、「ちょっと待って!」「立たないで!」という言葉がけは身体的・精神的拘束(スピーチロック)になります。スピーチロックは、介護者が言葉でご本人を拘束し、自尊心や自主性を低下させる可能性があるのです。

スピーチロックについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせて参考にしてください。

焦らせる・急がせる言葉

認知症の症状のなかには、上手く衣類を着脱できなかったり食事がうまくできなかったりすることもみられます。その時に、ご本人のペースを無視して焦らせる・急かせる言葉はかけないようにしましょう。

【焦らせる・急がせる言葉 事例】

・他の人も待ってるのだから、早くきて!
・もっと早く食べてよ!
・(トイレに行くもなかなか出ないときに)まだ出ないの? など

こうした焦らせる・急がせる言葉によって、ご本人がペースを乱してしまい、できることをさらに減らします。とくに、排泄時に焦らせる言葉を投げかけてしまうと、トイレに対してさらに不安を感じてしまうこともあるのです。

介護現場において、早くケア業務を終わらせたいがために職員がご本人の日常動作全てを先回りしてしまうこともあります。そうすると、介護職員がご本人の生活をコントロールしてしまい、より介助量が増えるという悪循環に陥ってしまいます。

ご本人のペースを尊重し、必要に応じたタイミングで声かけ・ケアすることが重要です。

尊厳を傷つける言葉

認知症を抱えた方に対して「どうせ何を言っても覚えてないだろう、わからないだろう」と、目の前でご本人のプライバシーに関する話題や愚痴などを言ってはいけません

【尊厳を傷つける言葉 事例】

・(他の方がいる前で)「なんで便失禁したの?!」
・「認知症でなにもわからないくせに…」
・「ごはん食べさせてあげる」 など

とくに、認知症を抱えた方からすると、さまざまなことができなくなった・わからなくなった状況のなかで、こうした言葉をかけられると、さらに自尊心を深く傷つけられます。

さらに、「~してあげる」といった声かけは、ご本人と介護者の間に上下関係が生まれる可能性があるのです。『なんでもしてあげる=わからないから何もさせない』は、ご本人の意志や思いを無視したケアといえるでしょう。

間違いを正す言葉

認知症を抱えた方のなかには、言動を間違っていると認識できない方もいらっしゃいます。その場合、無理に間違いを正す言葉がけは避けるようにしましょう。

【間違いを正す言葉 事例】

・(別のところに行こうとされ)「そっちじゃない!」
・「そんなことしないで!」 など

ご本人は「これがしたい」「これが正しい」と思い行動しているところに、「違う!」「そうじゃない!」と頭ごなしに言われると、怒りや恥ずかしさを感じてしまいます。

介護者は、「ご本人はなぜこの行動をしたのか?何かを伝えたかったのか?」と、ご本人をよく観察し寄り添うことが必要です。

認知症の方に怒ったり否定したりするとダメな理由

認知症の方に言ってはいけない言葉

認知症の方に対して、介護者が怒ったり否定したりすることは適切ではありません。その理由は、主に以下の3つです。

認知症の方に怒ったり否定してはいけない理由

 
1.ご本人の尊厳・自立心を守るため
2.言われた内容は忘れても、負の感情は残るため
3.否定や怒りの言葉で認知症における周辺症状が悪化してしまうため

認知症は単なる物忘れと違い、話の内容や行動などをすぐに忘れてしまいます。しかし、その出来事で感じたことや思いは残るという「感情残像の法則」があるのです。

つまり、「認知症でわからないだろう」と否定や怒りをぶつけたとき、その時の感情はご本人にマイナスな感情として残り続けます。また否定されたり怒られたりすると、ご本人のなかでできること・やりたいことをより狭めてしまいます。

ご本人が「こうしたい、伝えたい」と思っていても、否定された・怒られた感情が残っていると、萎縮してしまったり何もできなくなったりしてしまうのです。

ご本人が望む行動が制限されると、さらに認知症の症状が悪化します。否定や怒りによるストレスや何もできない(させてもらえない)ことでの脳への刺激不足により、一気に認知症が進んでしまう可能性も考えられます。

認知症ケアにおいて重要なことは、その人を中心としたケアを行うパーソン・センタード・ケアの視点です。パーソン・センタード・ケアは、『認知症』になった人を見るのではなく、認知症になった『その人』を中心としたケアをすることが求められます。

認知症を予防する、もしくは認知症の進行を少しでもおさえるためには、ご本人より周りにいるあなたたちのサポートが不可欠です。周りの方々が認知症への理解を深めるのはもちろん、ご本人の役割やこだわりを知り携わるようにしましょう。

パーソン・センタード・ケアについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてチェックしてください。

 
参考:公益社団法人 認知症の人と家族の会 No.11–物忘れしても感情は鋭敏-説得よりも同情

認知症の方へどんな言葉をかけると良い?

認知症の利用者に声を掛ける介護士

認知症の方へ言葉をかけるときは、以下3つを意識しましょう。

認知症の方へ言葉をかけるときのポイント

 
1.気持ちに寄り添う
2.肯定する
3.感謝する

それぞれについて解説します。

気持ちに寄り添った言葉

認知症の方がした行動や会話それ自体に注目するのではなく、行動の意図や思いに注目してみましょう。

たとえば、「財布を盗まれた」と言われたご本人に対して、以下のような言葉がけをします。

【気持ちに寄り添った言葉 事例】

・「それは大変!大丈夫ですか?」
・「いっしょに探しましょう!」など

事実と異なっている可能性もあるかもしれませんが、即座に否定すると困った気持ちを無視してしまいかねません。ご本人の困った感情に寄り添い、一緒に・協力して行動することが大切です。

介護者が一方的にしゃべったり、ご本人の話をさえぎったりするのではなく、ご本人のペースに合わせて共感する姿勢をもちましょう。

肯定する言葉

認知症の方へ声かけする際、否定ではなくポジティブに肯定する言葉を使うようにしましょう。

【肯定する言葉 事例】

・「その通りですね!」
・「頑張っている姿、いつも素敵ですよ!」など

たとえば、なかなか運動をしたがらない方に「運動しないと寝たきりになりますよ」というと、ネガティブに感じるかもしれません。この場合、「いっしょにがんばってご家族と旅行に行きましょう!」と肯定的に伝えたほうが印象はよくなります。

肯定する言葉を聞き、ご本人自身の肯定感を高めるとともに、介護者に対しても「理解してくれている」と感じてもらう効果も期待できるでしょう。

感謝の言葉

ご本人の役割や些細なこと、また介護者と協力して役割を行った後、感謝の言葉を伝えましょう

【感謝の言葉 事例】

・「いつも〇〇してくれてありがとうございます!」
・「〇〇さんがしてくれたおかげで、みんな助かってますよ!」など

ご本人が感謝の言葉をかけられると、「役に立てた」「ここに居場所がある」という自信につながります。このような側面から、どんなにゆっくりであってもご本人ができることを把握し役割を明確にすることは大切です。

ご本人が「人の役に立ちたい」「ここにいていいんだ」と、生きる力となるのです。

認知症の人との接し方・コミュニケーションのポイント

介護職員と高齢者

認知症の方への言葉がけは、気持ちに寄り添いながら肯定し、感謝の言葉を伝えていくことが重要です。

さらに、認知症の方との接し方やコミュニケーションには、主に5つのポイントがあります。

認知症の方とのコミュニケーションのポイント

 
1.ご本人のペースに合わせる
2.わかりやすく伝える
3.目線を合わせる
4.明るく話しかける
5.言葉以外のコミュニケーションも活用する

認知症の方がより安心して生活できるよう、それぞれのポイントをおさえて関わっていきましょう。

また、認知症の方との接し方や症状に応じたコミュニケーション方法については、以下の記事でも解説しています。より深くコミュニケーション方法を知りたい方は、ぜひご覧ください。

本人のペースに合わせる

まずは、ご本人のペースを理解し合わせていくことが必要です。認知症の方はなかなか周りのペースと合わせて生活しづらい状況があります。また、介護者が焦って物事の選択や行動を急かしてしまうと、ご本人に苛立ちが伝わることも。

介護者がご本人のペースを知りゆっくり話し行動すると、ご本人も安心して生活動作を行えます。あくまで、介護者はご本人の生活を支える「黒子」としての役割に徹しましょう。

分かりやすく伝える

認知症の方に物事を伝えるときは、相手のペースに合わせてゆっくり分かりやすく伝えるようにしましょう。矢継ぎ早に多くのことを話すと、ご本人は混乱しやすくなります。

介護者も「なんで伝えたのにわかってくれないの!?」と、さらなる悪循環を招くこともあるのです。

たとえば、「トイレ」という言葉で伝わらない方がいる場合、以下のような言い換えで伝えてみましょう。

・お手洗い
・便所
・厠(かわや) など

また、言葉による伝え方だけでなく、『トイレはこちら』などといった文字やイラストのほうが伝わりやすくなります。

認知症を抱える方にとって「どうすればわかりやすく伝わるかな?」「安心して生活できるようになるかな?」と考えることは、認知症ケアにおけるやりがいのひとつといえるでしょう。

目線を合わせる

認知症の方と会話するときには、ご本人の目線と合わせるようにしましょう。目線を合わせて目を見て話すことで、ご本人に関心や尊敬を示すことができコミュニケーションを円滑にします。

逆に、車いすを使用されている方やベッドに寝ている方に対して、介護者が立ったまま会話すると、ご本人からすると威圧感を感じかねません。

また、真正面に立って物事を伝えることも有効ですし、ソファや椅子に一緒に座り、同じ景色を見ながら会話することも大切です。この場合、何かを伝えるというよりも、同じ目線で同じ景色を見て何を感じているかを知ることができます。

目線を合わせること、同じ景色を見て一緒に感じることは、認知症ケアにとって重要な要素のひとつです。

明るく話しかける

認知症の方へ話しかけるとき、笑顔で明るく話かけるようにしましょう。笑顔で明るく話しかけることで、「嬉しい」「楽しい」とポジティブな感情が残ります。

お互い笑顔でコミュニケーションがとれると、安心できる関係の構築につながるのです。

認知症介護における笑顔で明るく話しかける効果について、詳しく知りたい方は以下の記事もチェックしてください。

言葉以外のコミュニケーションも活用する

認知症の方とコミュニケーションをとるとき、言葉のみでは伝わりづらいこともあります。また、うまく見えない・聞こえないなど高齢者の悩みも併せて感じているかもしれません。

この場合、言葉だけではなく以下のような非言語コミュニケーションも活用してみましょう。

・握手する
・身振り手振り、ジェスチャー
・文字やイラスト など

たとえば、嬉しいときに一緒に手を挙げて「バンザイ!」と、言語とジェスチャーを組み合わせることで、より効果的に伝えられます。これら「見る」「話す」「触れる」「立つ」というユマニチュードの視点は、認知症ケアにおいてその人の尊厳や人間らしさを尊重するケア方法です。

ユマニチュードの目的や基本的な視点をより深く知りたい方は、以下の記事もぜひご覧ください。

相手を尊重した言葉遣い・コミュニケーションが大切

認知症の方とコミュニケーションをとるときには、相手を尊重した言葉遣いを心がけましょう。

「相手を尊重する」とは、相手をまずは「知る」「知りたい」と思うことからはじまります。その人の生活や希望、生きるペースを知るからこそ、相手を尊重したケアが行えるのです。

たとえば、「お寿司が好き」という方がいらっしゃったとします。この中でご本人の好みやこだわりを深く知ることが必要です。

お寿司が好き ネタ・味 ・マグロ(赤身)が好きなのか?
・アジやサンマなどの光物が好きなのか? など
場所 ・立ち食い寿司が好き?
・回転寿司が好き? など
人との思い出 ・自分で稼いだお金で食べた寿司が格別だった
・家族で楽しく食べた思い出が好きだった
・お世話になった大将がいるから好きだった など

 

この考え方は、日常生活をケアする介護だからこそ重要な視点だといえます。入浴ひとつにしても、どこからどういう順番で洗いたいか、先に浴槽に浸かりたいか、といったことを知るだけでも、その人のこだわりを知る=相手を尊重したケアの一歩となるのです。

相手を尊重した言葉遣い・コミュニケーションを通して、今目の前にいる認知症を抱えた方々を知り、お互い安心できる関係を構築できるでしょう。

まとめ

認知症ケアは、ご本人の身体的・精神的状況だけでなく、周りの介護者の言葉がけひとつでよくも悪くもなりえます。言葉ひとつで相手の行動を強制したり抑制したり、尊厳を傷つけてしまうこともあるのです。

介護者は、認知症の方に対して言ってはいけない言葉を理解し、接し方・コミュニケーション方法のポイントを把握することで、よりよい関係を築けるでしょう。

この記事が、認知症の方へのコミュニケーションに悩んでいる方が少しでも安心できるケアができる一助になれば幸いです。

また、シフトライフでは認知症ケアに役立つ記事を多数掲載しています。認知症ケアをもっと勉強したい方や悩んでいる方は、以下の関連記事をぜひご覧ください。

 

この記事の執筆者しょーそん

保有資格:介護福祉士 認知症実践者研修 修了 認知症管理者研修 修了 認知症実践リーダー研修 修了

グループホームに11年勤務し、リーダーや管理者を経験。
現場業務をしながら職員教育・請求業務、現場の記録システム管理などを行う。

現在は介護事務の仕事をしながら介護・福祉系ライターとしても活動中。

 

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