介護業界、介護施設が人手不足になっている背景には様々な理由があります。低賃金や重労働などの介護業界の構造的な問題、そして社会的な評価の低さなど多岐にわたります。
介護職は身体的・精神的に非常に負担が大きく、離職率も高いため、求人に対する応募が少ない現状があります。また、高齢化社会の進展に伴い、介護職員の需要が増大している一方で、若年層の労働力は減少傾向にあるため、人手不足は深刻です。
本記事では介護業界を取り巻く社会的な課題の解説や、実際にどのように人材確保を行っていけばよいかなどを解説していきます。ぜひ参考にしてください。
目次
介護業界の人手不足の実態について
2000年に介護保険制度が開始されてから介護業界は急拡大し、需要も供給も広がってきました。介護保険制度が開始された当初は、介護を志す職員は今よりも少なく、働き口も今ほど多くありませんでした。そのため、ひとつの求人に複数人の応募があり、その中から人材を選考することができていました。
しかし、その後は介護施設や事業所が増えて、介護の人手不足が深刻になってきたことで、求職者が求人先を選ぶ時代になってきました。そのため、介護職員の採用に力を入れられない介護施設や待遇のよくない介護施設は、次第に介護人材の採用が難しくなってきているのが実態です。
参考:介護保険サービス利用者の推移
出典:厚生労働省 社保審-介護給付費分科会 第217回(R5.5.24)資料1
介護職員数の推移
厚生労働省の資料によると、介護保険制度が始まった2000年(平成12年)には、約54.9万人だった介護職員の数は、2022年(令和4年)には約4倍の約215.4万人に増加しています。
要介護(要支援)認定者数は、2000年は約244万人、同697万人と約3倍弱増加しています。数字だけ見ると、要介護認定者の数の伸びより、介護職員数の伸びの方が大きく充足しているように見えてしまいますが、実際に介護施設を運営する側から見ると決して充足しているようには感じられません。
介護人材が充足していないと感じられることには様々な理由があると思われますが、例えば次のようなことが想定されます。
・要介護認定を受けている人が全て介護サービスを利用している訳ではないこと
・登録ヘルパーなどで介護職員数としてカウントされているが、必ずしも働いていない人がカウントされていること
・サ高住などのように介護施設とはカウントされない働き場所もあること
上記のようなことから、統計上の数字よりも、実際の介護現場は疲弊しているのが実情ではないでしょうか。
参考:介護職員数の推移
出典:厚生労働省
介護業界の2025年問題
2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となり、高齢者人口が急拡大することで介護サービスの需要が増大し、介護施設や介護職員の不足がより一層深刻化することを介護業界の2025年問題と言います。
厚生労働省の資料によると、2025年度には約272万人の介護職員が必要とされており、令和4年度の介護職員数約215万人から約57万人の介護人材を確保する必要があると推計されています。そのために、国として介護職員の処遇の改善や生産性の向上、外国人労働者の推進など様々な施策が行われています。
参考:第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
出典:厚生労働省
介護業界の2040年問題
介護業界の2040年問題とは、日本の高齢化がさらに進行し、75歳以上の高齢者人口がピークに達する2040年頃に予測される、介護需要の急激な増加とそれに伴う様々な社会課題を指します。
日本の高齢者人口は、2040年まで右肩上がりに増加することが予測されていますが、その後については総人口の減少に伴い、高齢者人口についても緩やかに減少していきます。一方で高齢化率についてはまだ増加を続けており、若い世代が減少するスピードと比較して高齢者数の減少は緩やかなため、高齢化率は伸び続けています。
社会保障などについても、現役世代が負担する費用負担が今まで以上に大きくなっていくことがわかります。
参考:第1章 高齢化の状況(第1節 1)
出典:内閣府 令和2年版 高齢社会白書
介護業界の人手不足の原因とは
介護業界の人手不足の原因は、大きく分けると2つあると考えられます。
・介護業界に関わらず社会全体が人手不足であること
・介護業界特有の原因による人手不足があること
記憶に新しいところでは、令和6年の介護報酬改定で訪問介護の報酬が引き下げられた際、様々な報道で訪問介護の経営の惨状が話題になりました。今まで以上に採用にコストをかけられなかったり、事業所運営していても利益ができにくいなど負のスパイラルに陥っているのが多くの訪問介護事業所の現状ではないでしょうか。実際、小規模な訪問介護事業所を中心として倒産するケースも出てきています。
東京都では令和6年度に、訪問介護員の雇用確保や資格取得のための助成をおこなっています。本来であれば、特定の地域ではなく全国的な取組として行わなくてはいけない状況ではないでしょうか。
少子高齢化
日本では急速な高齢化が進行しており、介護を必要とする高齢者が増加しています。しかし、労働人口の減少により、介護職に就く若年層が不足しており、このギャップが人手不足の主な要因となっています。
少子化の影響で働き手全体が減少し、介護職だけでなく様々な産業で人手不足が深刻化しています。当然ながら、介護業界もその影響を強く受け、以前にも増して厳しい状況に直面しています。
かつては女性の比率が高く、多くの女性が介護職で活躍していましたが、現在では女性の社会進出が進み、他の職種にも多くの求人があるため、介護業界での人材確保が困難になっています。
さらに、全体的な賃金上昇に対して、介護業界では物価に応じて賃金を引き上げることが難しく、人材採用が一層困難を極めています。
介護人材の採用激化(他業界も含めた)
介護人材の採用競争は以前にも増して激化しています。日本の高齢化が進む中で、介護を必要とする高齢者の数が増加している一方、労働人口の減少により介護職に就く人材の不足は顕著です。十数年前は、ひとつの求人に複数の応募がありましたが、最近は複数の求人にやっとひとつの応募があるかどうかの状況が続いています。
多くの介護施設の管理者と話しをしていても、求人に困っていない施設はほとんどありません。最近では、ハローワークなどの無料の求人ではほとんど人が集まりません。昔は新聞の折り込みなども有効でしたが、最近の若い人は新聞を購読する習慣も減っており効果が期待できません。
ネット広告や紹介会社など、コストを掛けないと人が採用できない状況は公的なサービスである介護事業から、他業界にお金が流れることに繋がり社会問題化しています。介護業界は他業界との競争に勝つために労働条件の改善や魅力的な職場環境の提供が急務となっています。
介護の仕事はキツイというネガティブなイメージ
介護業界の人手不足の原因のひとつに、「介護の仕事はキツイ」というネガティブなイメージがあります。介護職は、肉体的にも精神的にも負担が大きい仕事なのは間違いありません。
例えば、高齢者の身体介護は体力が必要ですし、腰痛や体力の消耗につながることがあります。また、夜勤や不規則な勤務時間が多く、生活リズムが乱れやすいこともストレスの一因になります。更に認知症の方など、コミュニケーションに神経を使うため精神的なストレスも大きい仕事です。
こうして見ると介護の仕事のネガティブな面だけが目立ってしまいますが、実際は人に感謝される仕事であったり、売上は介護報酬から入ってくるので安定していたりとメリットもある仕事です。
ネガティブなイメージが先行してしまう業界ではありますが、仕事のやりがいや安定性をアピールするなど、介護業界のイメージを変えていく必要もあります。
他業界と比較して待遇が悪い?
介護業界は他業界と比較して待遇が悪いと言われることが多いです。まず、賃金が低いことが問題視されています。多くの介護職員は、長時間労働や夜勤を含む過酷な労働条件にもかかわらず、他の産業と比べて賃金が低いと感じています。さらに、昇給やキャリアアップの機会が限られており、将来の見通しが不透明であることも問題です。
これは介護施設の収入のほとんどは、介護報酬に依存しているために、努力や工夫で収入をあげることが難しいという構造的な原因が多くあります。光熱費や物価高によりコストが増加しても、それを利用料(価格)に転嫁できないことも介護業界の特徴です。
厚生労働省の統計では、令和4年9月の介護職員の平均賃金は、約31.7万円/月額とされています。これは、賞与や諸手当を含めた平均となっており、事務員や調理員、栄養士などと比較しても決して低い訳ではありません。
介護職員の場合、夜勤があったり交替勤務であったりと、働き方が同一ではないため一概には比較できませんが、賃金面だけを見た場合、必ずしも待遇が低いとは言えないのかもしれません。
なお、厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」によると、平均月収は31.8万円/月額とされており、介護職員だけで見た場合、ほとんど同じ額となっています。もちろん、賃金が高い業種、低い業種はありますが、統計上は必ずしも介護職員が物凄く賃金が低いとは言えないのが実情です。
離職率の高さ
介護労働安定センターが実施した、「令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について 」によると、介護職員の離職率は14.4%とされています。
厚生労働省が発表した、雇用動向調査結果では、全産業の平均離職率は2021年で13.9%、2020年で14.2%、2019年で15.6%とされています。
このように見ると、介護職員の離職率が突出して高いとも言えないのが実情です。最近では、終身雇用で働く労働者は減少しており転職することも特別なことではなくなっています。
ここまで見てきたように、介護職員の待遇や実際については、どうも昔のネガティブなイメージがそのままになっているのかもしれません。介護職員の魅力ややりがいなどが一般化すれば、人材採用や人材定着においても今よりも改善する可能性があるのではないでしょうか。
実際、厚生労働省も介護人材確保のための取り組みとして、介護の仕事の魅力発信などによる普及啓発に向けた取組みを行っています。
介護業界は将来、人手不足の加速が予想される
介護業界では、高齢化社会の進展に伴い、将来の人手不足が深刻化することが予想されています。現在でも多くの施設で人手不足が問題となっていますが、今後さらに高齢者の数が増えることで介護需要が急増する見込みです。この介護人材の需要の伸びに実際の採用数が追いつくと考える人は少ないでしょう。
介護職の労働条件や給与が他の職種と比べて低いことや、介護職を志望する若者が少ないのが現状です。また、外国人労働者の受け入れも進められていますが、それだけでは問題を解決するのは難しいです。
これらの課題に対処するためには、労働環境の改善、新しい技術の導入による業務の効率化、そして介護職の魅力を高めるための社会的な認識の向上が求められています。介護業界の将来を支えるために、多角的なアプローチが必要になるでしょう。
アプローチの一つとして、介護現場のICT化の事例を以下の記事にてまとめていますので、参考にしてみてください。今後は、こうした職場のICT化による業務効率化に取り組まなければ、特に若い介護人材から職場として選ばれなくなる可能性もあり得るでしょう。
介護業界で人材確保のためにできる対策とは
介護業界で人材確保のためにできる対策は様々ありますが、大きくは2つではないでしょうか。
・新しい人材を採用すること
これは、今まで介護職員ではなかった人を採用し、介護職員として活躍してもらうこと、または既に別の場所で働いている人に、自分たちの介護施設で働いてもらうことです。
求人の方法は様々ではありますが、まずは人材確保のために人がいなくてはいけません。
・今いる職員にしっかりと戦力になってもらうこと(長く働いてもらう)
そして、もうひとつはせっかく来てくれた職員をいかにして戦力として活躍してもらうかという視点です。
これらの視点を踏まえて具体的な方法を見ていきましょう。
IT・ICTツールの導入による業務改善
介護業界での人手不足を解消し、業務の効率化を図るために、IT・ICTツールの導入は不可欠です。
介護ロボットや機器の活用により、介護職員の物理的な負担を大幅に軽減することが可能です。例えば、重い物を持ち上げる作業や、移動の介助などの肉体的負荷が軽減されることで、職員の疲労が減少し、より多くの高齢者に質の高いケアを提供できるようになります。
さらに、介護施設のデジタル化を進めることも重要です。ケア記録やシフト管理をデジタル化することで、情報の共有や管理が容易になり、業務の効率が向上します。
紙ベースの管理から解放されることで、職員はより多くの時間を直接的なケアに充てることができます。また、データの分析により、個々の利用者に最適なケアプランを立てることも可能となり、介護サービスの質向上にも寄与します。
これらの技術導入は、介護現場の働き方を根本から変えて持続可能な介護サービス提供の一助となるでしょう。介護業界でのICT機器の導入には、『ICT導入補助金』が活用できる場合があります。
都道府県ごとに募集時期は異なりますので、施設の所属する都道府県のホームページなどで確認するとよいでしょう。当サイトにもICT化に活用できる補助金など、関連記事を掲載していますので参考にしてみてください。合わせて、ICT化の事例も参考にしてみてください。
ユニットケアの導入
介護業界で人材確保を目指す一環として、ユニットケアの導入が有効的です。ユニットケアは、少人数の利用者を決まった職員が継続してケアする方式であり、馴染の職員による家庭的な雰囲気を重視した介護をすることが可能です。
ユニットケア方式のメリットとして、利用者と職員の信頼関係が深まり、ケアの質が向上することが期待されます。職員は利用者一人ひとりの状態をより深く理解できるため、個別のニーズに応じた対応が可能となり、仕事のやりがいを感じやすくなります。
ユニットケアはチームワークを重視するため、職員同士のコミュニケーションが活発になり、働きやすい職場環境がつくられます。そして、職員のストレス軽減や離職率の低下が期待でき、長期的な人材確保に繋がります。さらに、ユニットケアの導入により、職員の専門性やスキルの向上が図られ、介護職の魅力が高まることで、新たな人材の確保にも寄与します。
また、国も以前までの従来型ではなくユニットケアを推進しており、介護報酬の単価もユニットケアの方が高く設定されています。そのためユニットケアを導入することは経営の安定にも寄与します。
外国人人材の採用
最近では外国人人材の介護職員も増加していますが、以前より採用が難しくなっていると言われています。
その原因として、円安などにより相対的に世界の中で日本の賃金が低くなっているから、ということが一つあげられています。そのため以前は、ベトナムやフィリピンの技能実習生が多くいましたが、最近ではそれらの地域から実習生が集まりにくい状況もあるようです。
なお、令和6年の介護報酬改定では、外国人技能実習生がこれまで就労開始後6ヶ月まで人員配置基準に含めることができなかったものを、一定の条件をもとにすぐに人員配置基準に含めることが可能なように変更となりました。また、これまで認められていなかった訪問介護での外国人労働者の勤務について、2025年には解禁するような検討がされているようです。
働き方改革に取り組む
介護業界での人材確保を目指すために、働き方改革の取り組みが大切になります。働き方改革とは、労働環境の改善を通じて、職員の働きやすさを向上させる一連の施策を指します。
まず、労働時間の適正管理が挙げられます。適切なシフト制や休暇制度を導入することで、職員の過重労働を防ぎ、ワークライフバランスの向上を図ります。また、時短勤務や短時間正社員などの柔軟な働き方を推進することも有効かもしれません。それにより、子育て中の職員や介護が必要な家族を持つ職員でも働きやすい環境を提供することも期待できます。
さらに、キャリアアップ支援や研修プログラムの充実により、職員が長期的に成長し続ける機会を創出します。これにより、職員のモチベーションが高まり、離職率の低下が期待されます。
これらの取り組みを通じて、介護業界は魅力的な職場環境を提供し、人材の確保と定着を促進できます。働き方改革は、職員の満足度向上と業界全体の労働環境の改善に繋がる重要な施策です。
ある法人では、週休3日制度を導入したり、公休数を職員が選択できるようにしてそれぞれのライフスタイルに合わせた働き方を選択できる制度を整えていました。様々な法人で、独自の取組をしているのでそのようなことを調べてみて、よいところを取り入れる工夫も必要です。
またシフト作成が介護リーダーや管理者層の負担になっているのであれば、自動でシフト作成をしてくれるソフトの導入なども効果的といえるでしょう。リーダー層が担うことが多いシフト管理ですが、人によっては数日かけてシフトを作成することもあります。
この時間を削減し部下のマネジメントやサポート、直接的な利用者の支援などに使える時間を増やすことができれば、施設運営においてプラスの効果は非常に大きいと言えるでしょう。
資格取得の奨励・支援
介護業界で人材を確保するための対策として、資格取得の奨励と支援は非常に効果的です。まず、介護職員が専門的な知識と技術を習得するための資格取得を推奨することで、サービスの質を向上させることができます。資格を持つことで、職員は自信を持って業務に取り組むことができ、利用者に対しても良質なケアを提供できます。
さらに、資格取得に対する支援制度を充実させることが重要です。例えば、資格取得に必要な費用を補助する制度を設けることで、経済的な負担を軽減し、職員が積極的に資格取得を目指せる環境を整えます。また、勤務時間内に研修や勉強会を開催することで、職員が仕事と勉強を両立しやすくする取り組みも有効でしょう。
また、多くの介護施設では介護福祉士などの資格者に対して、資格手当を支給しています。これは、一定の加算では介護福祉士の割合などが求められることから、資格者がいれば施設にとっても収入の面でプラスになり、それを職員にもしっかりと還元することができるからです。
地域によっては資格取得のための受講料等に対して、助成金を支給する場合があります。施設の所属する自治体で、そのような制度がないか調べてみるとよいでしょう。
参考:令和6年度(2024年度)介護従事者確保総合推進事業費補助金 北海道
参考:葛飾区介護人材キャリアアップ助成金について 葛飾区
介護施設における心理的安全性の向上
介護業界で人材確保を図るためには、心理的安全性の向上が大切になります。心理的安全性とは、職員が安心して自分の意見やアイデアを表明でき、ミスをしても非難されない労働環境を指します。そのような環境を整えることで、職員間の信頼と協力が深まり、チームワークが向上します。
心理的安全性が高まることで、職員はストレスを軽減し、仕事への満足度が向上します。結果として、離職率が低下し、定着率が上がります。さらに、働きやすい環境が評判となれば、新たな人材の確保にも繋がっていきます。心理的安全性の向上は、介護施設全体の生産性と職員の幸福度を高めるための重要な施策です。
介護職員が相談しやすい職場づくり
介護業界で人材確保を進めるためには、介護職員が相談しやすい職場づくりが重要です。職員が仕事上の悩みや不安を気軽に相談できる環境を整えることで、ストレスの軽減と職場満足度の向上が期待されます。
具体的には、定期的な面談やミーティングを行い、職員一人ひとりの声を丁寧に聴く機会を設けるなど職員に寄り添った労働環境を整備することが大切になります。
また、相談窓口の設置やメンタルヘルスケアの専門家を配置することも効果的です。これにより、職員が心理的なサポートを受けやすくなり、安心して働ける環境が整えられます。
納得感のある給与形態
介護業界で人材を確保するためには、働く職員が納得感を持てる給与形態が重要です。給与が他業種に比べて低いと言われることが、介護職への就業を敬遠する一因となっているため、適切な給与水準を設定し、職員の努力と貢献に見合った報酬を提供することが必要です。
具体的には、基本給の引き上げや、資格取得や経験年数に応じた昇給制度の導入が効果的ではないでしょうか。また、業績や評価に基づくボーナス制度や、夜勤や休日出勤に対する手当を充実させることも、職員のモチベーションを高める要素となります。
給与体系の透明性を確保し、職員が自身の給与がどのように決定されているかを理解できるようにすることも大切になります。
介護業界で多い退職理由は人間関係
公益財団法人介護労働安定センターが毎年実施している「介護労働実態調査」によると、介護労働者が仕事を辞める理由として最も多いのが「職場の人間関係に問題があったため」とされています。職場の人間関係は、仕事の満足度やストレスレベルに直結し、特に介護業界のような高ストレスな環境では、その影響が顕著に現れます。
介護現場では、チームワークが重要であり、職員同士の連携が欠かせません。しかし、人間関係が悪化すると、コミュニケーションの不足や誤解が生じやすくなり、業務の効率が低下します。
また、緊張や不和が続くと、精神的なストレスが増大し、職員のモチベーションが低下します。これが続くと、職員のバーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こし、最終的には離職につながるケースが多くなります。
「職場の人間関係に問題があったため」が介護労働者の離職理由として最も多いのは、人間関係が仕事の質や職員の精神的健康に多大な影響を与えるためです。これを改善することは、介護業界全体の労働環境の向上と人材確保に直結する重要な課題といえます。そのためにも管理者は、職場の心理的安全性を高め、職員がやりがいを持っていきいきと働ける環境を作っていかなくてはいけません。
職場の人間関係がよく仲の良い職場は働きやすいものです。しかし仲が良いことと、馴れ合いで働くことは似ているようで全く異なります。
以前、知人が幼馴染と一緒に訪問介護事業所を立ち上げた際に「仕事に友達という人間関係は持ち込まないほうがよい」とアドバイスをしたことがあります。事業を行っていけば、必ず意見や考え方でぶつかることがあります。その際に、友達という関係性により、言いたいことが言えないことや、間違ったことを正せないのは好ましいことではないと感じます。
皆さんの職場の人間関係はどうでしょうか?
まとめ
ここまで介護業界や介護施設で人手不足が深刻な理由、またその解決方法などについて見てきました。収入の問題などは簡単に解決できるものではなく、ひとつの施設で解決することは困難を極めます。
しかし、人間関係や心理的安全性など、少し努力をすることで解決できる問題があることも事実です。さらにはICT化などによる介護業務の効率化なども重要です。人手不足をカバーするためには業務効率化は欠かせません。ICTツールの導入は介護現場や事務作業の「無駄」を浮き上がらせるきっかけともなります。
これから介護業界の人材確保は更に厳しくなることが予測されます。その際に、生き残っていける介護施設や介護事業者は、働きがいがあり職員に選ばれる施設ではないでしょうか。施設ごとに悩みは異なると思いますので、是非も職員とも一緒に人手不足の解決方法を話し合ってみたらどうでしょうか。
この記事の執筆者 | 伊藤 所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士 20年以上、介護・医療系の事務に従事。 デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。 現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。 |