令和3年度介護報酬改定で新設された口腔・栄養スクリーニング加算は、口腔機能と栄養状態を定期的に評価する加算です。
お口の健康は、栄養状態や全身の健康にも大きく影響し、定期的に口腔機能と栄養状態を確認することで、健康管理やフレイル予防に役立つとされています。
この記事では、口腔・栄養スクリーニング加算の概要や算定要件、単位数や注意点について分かりやすく解説しますので、介護業界で請求や加算に関わる業務を持つ方は、ぜひ参考にしてください。
目次
口腔・栄養スクリーニング加算とは
口腔・栄養スクリーニング加算は、口腔機能低下の早期発見と適切な管理等を行い、口腔機能低下の重症化等の予防、維持、回復等につなげることを目的として、2021年度(令和3年度)の介護報酬改定で新設された加算です。
これまで栄養状態を確認する栄養スクリーニング加算がありましたが、口腔機能と栄養状態を一体的に評価、向上の重要性が重視され2021年3月に廃止されました。
口腔・栄養スクリーニング加算は、サービス利用開始時とサービス利用中6カ月毎に介護職員等が口腔状態と栄養状態を確認し、情報をケアマネジャーへ情報共有することで算定できます。
口腔・栄養スクリーニング加算の背景と目的
加齢や障がい等に伴い、口腔機能が低下し食事を摂ることが難しい高齢者も少なくありません。
虫歯や歯周病などの口腔内の疾患や、歯の噛み合わせの悪化など、口腔機能の低下によって栄養不足になると、体力や免疫力の低下を引き起こし、身体機能の低下のリスクを高めます。
口腔機能が低下する前の状態をオーラルフレイルといいますが、衰えてきた段階で気づき、適切に対処することで食べる機能や心身の機能の低下を予防することが可能です。
例えば、以下のような気づきがあります。
・活舌が悪くなってきた
・食べこぼしが増えた
・むせ込むようになった
・噛みにくい食べ物が増えた
・口腔内が乾燥していることが多い
これらは見逃しやすい気づきであるため、普段のケアを通じて介護職員等がチェックすることで口腔機能の低下のリスクを知り、予防と改善につなげることができます。
口腔の健康状態は全身の健康に影響するため、口腔機能と栄養状態を切り離して考えるのではなく、一体的な取り組みが必要であることから口腔・栄養スクリーニング加算が設けられました。
また、口腔機能は、呼吸をしたり食べたりといった機能だけでなく、人とのコミュニケーションや意欲の向上などの役割を持ちます。自立した生活や社会参加において欠かすことができない役割を担っているため、高齢者の口腔機能を定期的に評価し重症化を防止すること、QOL(生活の質)を高めることも目的です。
参照:いわき市役所 口腔機能
口腔・栄養スクリーニング加算の対象サービス
口腔・栄養スクリーニング加算は、通所・居宅サービスの以下のサービスが対象です。(介護予防サービスも含みます)
・通所介護
・地域密着型通所介護
・療養通所介護
・認知症対応型通所介護
・通所リハビリテーション
・小規模多機能型居宅介護
・看護小規模多機能型居宅介護
・特定施設入居者生活介護
・地域密着型特定施設入居者生活介護
・認知症対応型共同生活介護
参照:厚生労働省 口腔・栄養(自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進)
口腔・栄養スクリーニング加算を算定するメリット
口腔・栄養スクリーニング加算を算定する主なメリットは、定期的に口腔機能と栄養状態を評価することで、利用者の状態を把握できることです。
口腔機能低下や低栄養などを早期発見することで適切な対応がとれるため、重症化を予防しADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の向上にもつながります。
また算定のための取り組みの過程で、介護職員が口腔機能や栄養状態への知識を深め、利用者の状況を知ろうとする意識を持つことができるでしょう。介護職員一人ひとりの知識や意識が高まることで、施設全体で質の高いサービスの提供が可能になります。
口腔・栄養スクリーニング加算の算定要件
以下の要件を満たしている場合、口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ)が算定されます。
・口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)
介護サービス事業所の職員が利用開始時及び利用中6カ月毎に利用者の口腔の健康状態や栄養状態について確認を行い、担当ケアマネジャーに情報を提供していること。
※栄養アセスメント加算・栄養改善加算及び口腔機能向上加算の併算定はできません。
・口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ)
利用者が、栄養改善加算や口腔機能向上加算を算定している場合に、口腔の健康状態と栄養状態のいずれかの確認を行い、担当ケアマネジャーに情報を提供していること
※栄養アセスメント加算、栄養改善加算又は口腔機能向上加算を算定しており加算(Ⅰ)を算定できない場合にのみ算定できます。
口腔・栄養スクリーニング加算は、利用者や家族のニーズを踏まえサービス担当者会議等での検討が必要です。
例えば、利用者が複数の通所介護サービスを利用している場合等、どの事業所で口腔・栄養スクリーニングをするか担当のケアマネジャーが決定し、原則として当該事業所がスクリーニングします。
参照:厚生労働省 口腔・栄養(自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進)
参照:リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理及び口腔管理の実施に関する基本的な考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示についてP45~P46
口腔・栄養スクリーニング加算の単位数
口腔・栄養スクリーニング加算の単位数は以下のとおりです。通所サービス、居宅サービスによって該当する加算内容・単位が異なります。
通所サービス
・通所介護
・通所リハビリテーション
・地域密着型通所介護
・認知症対応型通所介護
・介護予防通所リハビリテーション
・介護予防認知症対応型通所介護
・口腔・栄養スクリーニング加算(I)(20単位/回)
・口腔・栄養スクリーニング加算(II)(5単位/回)
※口腔・栄養スクリーニング加算(II)は、栄養アセスメント加算、栄養改善加算又は口腔機能向上加算を算定しており加算(Ⅰ)を算定できない場合にのみ算定されます。
居宅サービス
・看護小規模多機能型居宅介護
・小規模多機能型居宅介護
・認知症対応型共同生活介護
・特定施設入所者生活介護
・地域密着型特定施設入所者生活介護
・介護予防小規模多機能型居宅介護
・介護予防認知症共同生活介護
・介護予防特定施設入所者生活介護
・口腔・栄養スクリーニング加算(20単位/回)
上記の介護サービスは、栄養アセスメント加算、栄養改善加算、口腔機能向上加算の対象に該当しないため、口腔・栄養スクリーニング加算(II)はありません。
参照:厚生労働省 口腔・栄養(自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進)
スクリーニング項目
ここでは、厚生労働省の様式6を参考にスクリーニング項目について詳しくみていきましょう。
口腔スクリーニング
口腔スクリーニングは、口腔機能の低下のリスクについて以下3つの項目を評価します。
硬いものを避け、柔らかいものばかり食べる
歯を失うと、肉や野菜などの固い食べ物や噛みにくい食べ物を摂る量が減り、柔らかい麺類やパン等の食べ物を摂る量が増えるとされています。
入れ歯を使っている
合わない入れ歯を使っている場合、食べ物を噛むのが難しくなったり、うまく言葉を発することができない可能性があり、歯が少なく、入れ歯も使っていない人は、口腔機能だけでなく認知症や身体機能低下のリスクも高まります。
むせやすい
飲み込む力が弱くなることでむせこみがみられたり、飲み込みづらくなるため、食事が困難になります。
誤嚥性肺炎にかかるリスクも高まるため、口の中を清潔に保つことが大切です。
特記事項(歯科医師等への連携の必要性)
「片方の歯で噛んでいる」「歯茎に痛みがある」など、歯科医師との連携が必要な内容を記入し、適切な治療やサービスへつなげます。
栄養スクリーニング
栄養スクリーニングは、以下の低栄養状態のリスクについて評価します。
・身長(cm)
・体重(kg)
・BMI(kg/ m2)18.5未満
・直近1~6か月間における3%以上の体重減少
・直近6か月間における2~3kg以上の体重減少
・血清アルブミン値(g/dl) 3.5g/dl未満
・食事摂取量 75%以下
・特記事項(医師、管理栄養士等への連携の必要性等)
低栄養状態のリスク分類については、下記の表を参考に評価します。
低栄養状態のリスク分類について
リスク分類 | 低リスク | 中リスク | 高リスク |
BMI | 18.5~29.9 | 18.5未満 | |
体重減少率 | 変化なし (減少3%未満) |
1か月に3~5%未満 3か月に3~7.5%未満 6か月に3~10%未満 |
1か月に5%以上 3か月に7.5%以上 6か月に10%以上 |
血清アルブミン値 | 3.6g/dl以上 | 3.0~3.5g/dl | 3.0g/dl未満 |
食事摂取量 | 76~100% | 75%以下 | |
栄養補給法 | 経腸栄養法 静脈栄養法 |
||
褥瘡 | 褥瘡 |
※BMI=体重(kg)÷身長(m) ÷身長(m)
身長147cm、体重38kgの利用者の場合、38(kg)÷1.47(m)÷1.47(m)=17.6になります。
引用:厚生労働省 別紙様式6(口腔・栄養スクリーニング様式)
口腔・栄養スクリーニング様式
口腔・栄養スクリーニング加算の算定には、厚生労働省が定めた以下の様式が必要です。様式に沿って客観的なスクリーニングを行います。
参照:厚生労働省 別紙様式6(口腔・栄養スクリーニング様式)
口腔・栄養スクリーニング加算 算定の流れ
ここでは、厚生労働省の介護報酬改定の資料に基づいて、口腔・栄養スクリーニング加算・算定の流れについて説明します。
1.口腔・栄養スクリーニング加算の提案・決定
口腔・栄養スクリーニング加算を算定する場合は、サービス担当者会議等で利用者と家族のニーズを確認し、提案・決定し、ケアプランに位置づけます。
2.口腔・栄養スクリーニングの実施
利用者のサービス利用開始時又は事業所における口腔・栄養スクリーニング加算の算定開始時に、事業所の介護職員により別紙様式6を用いてスクリーニングを行います。
参照:厚生労働省 別紙様式6(口腔・栄養スクリーニング様式)
3.スクリーニング結果の情報提供
スクリーニング実施後は、担当ケアマネジャーに別紙様式6を用いた文書等での情報提供が必要です。
口腔機能や栄養状態が低下しているおそれがある利用者については、かかりつけ医や歯科医の受診状況を利用者や家族に確認し、必要に応じて受診を促します。
そして、担当ケアマネジャーに口腔機能向上サービス又は栄養改善サービスの提供を検討するよう依頼しましょう。
4.再スクリーニングの実施
事業所の介護職員は、再スクリーニングを6か月毎に実施し、前回実施した際の結果と併せて担当ケアマネジャーに情報提供等を行います。
スクリーニングを継続的に行い、利用者の口腔機能や栄養状態の維持・向上に努めることが大切です。
口腔・栄養スクリーニング加算の注意点
口腔機能と栄養状態は密接にかかわっているため、口腔・栄養スクリーニングは、一体的な実施を目指します。継続的なスクリーニングによって、利用者の状態に応じた適切な医療や口腔機能向上サービス、栄養改善サービス等の提供に繋げることができるでしょう。
スムーズなスクリーニングの実施に向けて必要なことは、事業所内で口腔・栄養スクリーニングの手順を定め、効率的に進めていくことです。そして、スクリーニングの実施体制を評価し、より効果的な実施に向けて見直していきましょう。
まとめ
口腔・栄養スクリーニング加算の概要や算定要件、単位数や注意点について解説しました。
高齢や障がい、疾患などによって口腔機能や栄養状態が低下すると、ADL(日常生活動作)だけではなく、QOL(生活の質)低下のリスクも高まります。健康な生活を維持するためには、利用者の口腔機能と栄養状態を適切に評価し、より良いケアを提供することが大切です。
定期的にスクリーニングを実施することで、利用者のQOL(生活の質)の維持・向上につながるでしょう。
口腔・栄養スクリーニング加算の算定には、継続したスクリーニングやケアマネジャーへの情報提供が必要です。請求や加算に関わる業務を持つ方は、算定要件をしっかり確認して実施していきましょう。
この記事の執筆者 | 吉田あい 保有資格:社会福祉士・介護福祉士・メンタル心理カウンセラー・介護支援専門員 現場、相談現場など経験は10年超。 介護現場(特別養護老人ホーム・デイサービス・グループホーム・居宅介護支援事業所)、相談現場を経験。 現在はグループホームのケアマネジャーとして勤務。 |
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